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25話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は限定をよみたい

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。


他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。


あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。

〈天声〉の魔法。

それは聖女のみが使えると言われる魔法であり、自身の声を広く多くの人に伝えることが出来る魔法である。


今まででこの魔法が使われたのは、聖女の代替わりの時と、何度か起きた大きな災害の予言の時であった。

その声に人々は幾度となく救われ、聖女という存在はこの大陸ではまさしく救世主として崇められてきた。

その聖女の声で伝えられたのが


『ヨミ様こそ! 女神さまです! 分け隔てない愛を下さる真の女神さまです!』


大陸中が揺れた。


聖女が女神と認めた。


その話は大陸中に伝わり、ブクムントと教会で揉めに揉めたが、教会の信仰する人の神とは別に言霊(スペルスピリ)の神であるというブクムント王族の主張と聖女の口添えによってなんとか落ち着くことが出来た。


そして、大陸中に、

「ブクムントには言霊(スペルスピリ)の女神がいらっしゃる」

と、再び聖女の〈天声〉によって伝えられる。


その聖女は今、正座をしていた。


「えーと……何故私は座らせられているんでしょうか?」


目の前には真っ黒な光のない瞳で見つめ続ける噂の言霊(スペルスピリ)の女神こと、ヨミが仁王立ちしていた。

そこは【ライタ=ニ=ナロウ】の最奥にある言霊(スペルスピリ)の為の施設【ライト=ヲ=ヨモウ】の裏庭。

遠くでは発掘者(スコッパー)達が壁や地面を削りながら古代の魔導書や言霊(スペルスピリ)を黙々と探している。

そして、こちらを見ることはない。というより、見ようとしない。

その位の圧をヨミが放っていた。


「私、言霊(スペルスピリ)の女神。今、目の前にいるの」

「はい、素敵です!」

「そんな言葉が聞きたいわけじゃないのよ!」


ニコニコしながら後光を放つイストとハイライトを失った黒い瞳で睨むヨミ。

その傍らで魔族でありながらヨミ付きの侍女であるエシルが苦笑いを見せている。


「どうするのよ……私はおばあちゃんになるまでひっそりと言霊(スペルスピリ)をよみながら過ごしていたかったのに……」

「その時は私も一緒に男のぶつかり合いを語りたいです!」

「聖女がそんなこと出来るわけないでしょう」

「やはり、そういう属性の物語はお嫌いなのですね」

「いや、だから、そういうのに偏見はないって、というか、散々この前語り合ったでしょう」

「楽しかったです!」


ヨミは段々このイストという聖女が分かってきた。

真っ直ぐ普通の道を外れているのだ。

驚くほど純粋で驚くほど特殊な恋愛に真っ直ぐ嵌っているのだ。

歪みなど一切ない。

だからこそ、聖女に選ばれたのかもしれない。


教会でもお付きの者に、何も躊躇わず自身の言霊(スペルスピリ)を紹介してすぐに止められたらしい。

その時、イストの言霊(スペルスピリ)は神に捧げるべき崇高なものであり、只人に見せるべきではないと言われ、信じていた。

ただ、自分自身だけ留めておくことがどうしても耐えきれなくなったイストはこっそりと名を変え、言霊(スペルスピリ)を放していたりした。

ヨミが聖女や女神と呼ばれるのを聞いてもしかしたらこの人なら分かってくれるのではと訪れたのだそうだ。


ただただ純粋な愛にみちあふれた聖女。それがイストなのだ。


「うわああああ!」


と、その時発掘者(スコッパー)達から悲鳴が上がる。

見ると、ひとつの言霊(スペルスピリ)が暴れているようだ。


「あれは……粗悪言霊(イビルスピリ)!?」


黒ずんだ赤の粗悪言霊(イビルスピリ)発掘者(スコッパー)達の周りを飛び回り、時にぶつかり彼らに怪我を負わせている。

酔っ払ったように正気を失い暴れまわる黒ずんだ言霊(スペルスピリ)に手を付けられずにいる。

戸惑い、怯え、怒りの表情を浮かべる人々の中で、イストは表情を変えずに進んでいく。


「イスト!?」


遠慮のなくなった呼び捨てで叫ぶヨミの方を振り返りイストは微笑む。

そして、金色に輝く魔導書を開き、言霊(スペルスピリ)を呼び出す。


言霊(スペルスピリ)『聖女の書』恩恵を我に〈浄化(ピュリファイ)〉」


イストの指先から放たれた光の筋が黒ずんだ言霊(スペルスピリ)の真ん中を貫く。

すると、粗悪言霊(スペルスピリ)は綺麗な赤い光を放ち消えていく。

イストは静かに祈りを捧げる。


「イスト、あの言霊(スペルスピリ)は……?」

「世界に漂う魔力となり、いずれまた言霊(スペルスピリ)として生まれ変わることでしょう。言霊(スペルスピリ)を正しき道に誘うそれがこの聖女の書なのです」


イストは自身の魔導書とは別の金色の魔導書を掲げる。


「そうそれ! 何、その見たことない魔導書と言霊(スペルスピリ)は! よみたいよみたい!」


近寄ろうとするヨミをイストは手で制す。


「いえ、こればかりはヨミ様でもよむことが出来ません。……この言霊(スペルスピリ)は代々聖女にのみ受け継がれていくものなのです」


限定言霊(カギルスピリ)

勇者や聖女と言った選ばれた存在のみが使うことの出来る言霊(スペルスピリ)が世界にはいくつか存在する。


「それにこれは、面白い物語ではありませんよ。遥か昔に起きた災厄の悲劇を二度と起こすまいとその恐怖をただ伝える為だけのものなのです」

「災厄、ですか?」

「ええ……詳しくは分かりませんが、多くの人々の未来を奪った恐ろしい出来事があったそうです。そして、その悲劇を二度と起こさないようこの言霊(スペルスピリ)が作られたのだそうです」

「でも、詳しく分からないんですよね?」

「ええ……『世界が闇を覆い、人々の心も黒く染まる。そして、未来は閉ざされた。その時が再び訪れぬよう人々の光であれ』という、なんとも抽象的なものです。なので、聖女も代々手探りで人々の光となるにはと悩みながら日々おつとめを行っています」


イストは困ったように微笑む。


「なるほどねえ……」


ヨミはよめないと聞き残念そうに呟きながら、その限定言霊(カギルスピリ)に顔を近づける。

その瞬間、


「あれ?」


大きな光が溢れ出し、広がっていった。


お読みくださりありがとうございます。


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。


そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!

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