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24話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢はうすい本もよめる

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。


他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。


あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります

専属侍女エシルは、イストの発言を噛みしめていた。


『殿方同士の恋愛とかもアリだと思いますか!?』


(もしかしたら、何かの隠語かもしれない。それか、何か信仰の強さを試されている? いや、この国の経典にそんな描写は……でも、だとすれば、この聖女様は……)


少しでもヒントを得ようと慎重に言葉を選ぶ。


「聖女様、失礼ながら質問させていただいてもよろしいでしょうか」

「勿論」

「あの、それは……どういう意味で聞かれたのでしょうか」

「意味、ですか……? あ、あの、それは、そのう、ほら、言霊(スペルスピリ)でもそういうものってありませんか!? ああいうのはこの街ではどう受け止められているのかと」


(ぼやかしてる!? どういう意味!? 上級貴族のやりとり怖いよー!)


エシルが苦悩する中で、ヨミが口を開く。


「ああ、別にいいんじゃないですか」

「ちょまーーー!!」


エシルの叫びが響き渡る。

聖女の前での絶叫。

そんなことをすればお付きの聖騎士が飛び込んできそうなものだが、今は聖女の張った聖域の中声は外に響かない。


「な、なに? エシル?」

「あの! ヨミ様!」


焦りの余り口が回らないエシルよりも先に、聖女イストがしゃべりだす。


「本当に、そう、お考えですか?」


ゆらりと聖女が立ち上がる。

金色の魔力がより一層漏れているようだ。


「え? 言霊(スペルスピリ)とかの話ですよね? 私は、物語としてちゃんと成立していればそれもまた一つの愛ではないかと」

「ですよねー!!!!」


とてつもない後光を放ちながら、そして、目を輝かせながらイストはヨミの手をとった。

書類仕事の最近多かったヨミの疲れがとれた。


「ああ、よかった! やはりここが聖域だったんだわ!」

「あ、あのー、すみません。お二人の会話が上級者過ぎてどういう話か……?」


エシルが恐る恐る尋ねると、イストは輝く目を向け迫ってくる。


「私、聞きましたの! ここはどんな言霊(スペルスピリ)でも受け入れてくれる言霊(スペルスピリ)の楽園だって! ならば、きっとそういうのも認めてくれるんじゃないかって! 私、そういうのがほんと大好物で!」


別に上級者でもなんでもない会話だった。

エシルは何とも言えない虚脱感に襲われた。


「ちょっと、待って……」


エシルに迫っていたイストがエシルの向こうにある先ほどまで話に上がっていた言霊(スペルスピリ)に気付く。

すると、


「ほんぎゃあああああああああああ!」


イストが慌てて言霊(スペルスピリ)を抱きかかえる。


「え? 何何?」

「……もしかして、それ……」


イストは真っ白な肌を真っ赤にして小さく頷きながら答える。


「私の……刻んだ言霊(スペルスピリ)、です……」




幻想(ファンタジ)】の言霊(スペルスピリ)

『白騎士と黒騎士は赤い薔薇を』

紅き薔薇姫、イブを巡って戦い続ける白騎士と黒騎士。

正しき白騎士アレスは婚約者イブを守る為、美しき黒騎士メアはイブの持つ魔力を狙って、繰り返される激闘。そして、時に、イブの為に共闘する二人。

しかし、いつしか、イブは女性のような顔をしたメアが実は男であったことに気付き、惹かれ始める。絡み合う三角関係の中、世界もまた複雑に絡み合い戦が始まる。



「なるほど……これ、やっぱり、イブとメアっていうより、アレスとメアをくっつけようとしてたのか」


ヨミが興味深そうに言霊(スペルスピリ)を見つめながら呟く。


「はい……一応、表立ってはアレイブとイブメアなんですけど、メアアレが裏テーマで……」

「でも、えがきはしないんだ」

「はい! それは胸の内というか、裏の物語として楽しむものなので!」


時折急に輝くイストの目に目を細めながらヨミが顔を引きつらせる。


「失礼ですが、このイブというのはもしかして、イスト様ご自身がモデルですか」

「あー! あー! もうすみません! そうなんです! 目の前でイチャコラして欲しくてですね! 思わず……」

「おおー! なるほど、流石エシルだね!」

「はい! 流石エシルさんです!」

「いや、イスト様とは初対面なんですが……というか、私は呼び捨てでも」

「いえ! こんなすぐ欲しい解釈に辿り着ける天才を呼び捨てになんて……本当は、様を付けたいんですが、そのまま距離とられそうなので、我慢してのこの呼び方です!」

「そ、そうですか……」


聖女とは。


そんな言葉を飲み込みながらエシルはただ笑顔を浮かべ続けた。


「あああー! やはり、私の求める分け隔てない愛のある聖域はここだったのですね! 神託ありがとうございます! 神様!」


何を神託してるんですか神様。


エシルはその言葉を飲み込んだ。そして、伝えておかねばならないことがあった。


「イスト様。確かに、この街は分け隔てなく言霊(スペルスピリ)を同等に扱いますが、だからといって、そういった考え方や、その言霊(スペルスピリ)が広く受け入れられるかは別の話ですよ」


意を決してそう告げると、イストは微笑みながら答えた。


「勿論分かっています。けれど、それ以前に私はこの言霊(スペルスピリ)そのものが禁忌に触れているのではないかと不安だったのです。だから、ただ、刻み続け、誰にも呼び出せぬようにしていたんですが、きっとヨミ様によんでいただけたのは、神のお導きなのでしょう。誰かに否定こそされても、思ってはいけないことではないと」


イストは、自分がおかしいのではないかと悩み続けていた。

こんなことを考える自分は異常なのではないかと。

それでも、自分の心を言霊(スペルスピリ)に刻み続けた。

誰にも伝えるつもりはなかったが、誰かに聞いてほしい気持ちはあった。


イストとエシルが会話を続けている中で、ヨミはイストの言霊(スペルスピリ)に手をかざした。


「ヨミ様、何を……?」


イストの言葉にヨミは微笑むと、星を贈り始める。


ひとつ


「私はね、エシル。星は、数だけじゃないと思うんだ」


ふたつ


「義弟がね、言うのよ。『みんなに分かってもらえなくていい。誰か一人でもわかってくれたら、戦い続けることができる』って」


みっつ


「だからね、私は、少しでも分かるところがあれば、伝えてあげたいのよ。『分かるよ』って『あなたのことを分かる人間がいるんだよ』って」


よっつ


「それだけで人に戦う力が沸いてくるのなら、私は星を贈りたいのよ。まあ、それで私も分かってもらえた気持ちになれるからなんだけどね」


いつつ


言霊(スペルスピリ)の輝きが少しだけ大きくなる。



この人は世界が良くなればなんて大きなことを考えているわけじゃなかった。

ただ、たった一人の人間が分かってもらえたらいいと。


エシルは、震えた。


そういえば、魔族の中でも長老のような存在である老婆が言っていた。

人と人の間が、人間なのだ。と。


ヨミにとって星こそが人間なのかもしれない。


「す」


イストも震えていた。


「素晴らしいです! ヨミ様こそ! 女神様です! 分け隔てない愛を下さる真の女神さまです!」


あふれ出る光で聖域が崩れ、そして、その声は国を飛び越え大陸全土に響き渡ったようだった。


「あ……」

「えーと、あれ、イスト? 今のは?」

「あ、あのー、私、興奮しすぎまして、伝達の魔法で、その、大陸中に、今の声が伝わってしまいました」

「え?」

「え」

「え?」

「えへ☆」

「……ほんぎゃあああああああああああ!」


ヨミの叫び声が、大陸中ではないが館中に響き渡った。


お読みくださりありがとうございます。




少しでも楽しんでいただければ何よりです。


今日の連続投稿で、大分、完結に近づきました…来週以内に。



また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。


そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!

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