23話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は聖女の思惑がよめない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
言霊を司る施設【ライト=ヲ=ヨモウ】によって、【ライタ=ニ=ナロウ】は更に発展の速度を速めていく。
そのことは国内外に広まっていき、視察団や国を相手取る商人たちが訪れるほどであった。
「……というわけで、貴女の代わりに私が判断してかまいませんかね?」
緑髪をさらりとかきあげながらクエスがヨミに尋ねる。
「うん、まかせるー」
ヨミは、クエスの方を向くことなく、目を言霊に向け続け答える。
それを見たヨミ付の侍女は慌てて、
「ヨミ様、いくらあなたが領主代理でも、実務はクエス様がやってくれているんですよ! そんな失礼な態度……」
「いえ、いいんです……、ふ、ふふ……私は、それで、やる気が出ます」
少し頬を赤く染めうっとりした表情でクエスは笑い、去っていく。
その様を見て、溜息を吐く侍女。
彼女は、最近ヨミ付の侍女に選ばれ気合が入っていた。
雪のように以上に白い肌である彼女は魔族だった。
魔族であるが故に虐げられていた彼女であったが、この街、【ライタ=ニ=ナロウ】においては関係なく扱われた。
彼女は、言霊の中でも【混沌】の言霊の扱いを得意としており、歩く腐死体や継ぎ接ぎ人間といったゾンビ系の魔物を召喚し戦うタイプだったのであまり周りに好意的に迎えられないだろうと考えていたが、街の人々は全く気にせず、むしろ、常に人手不足故に大歓迎され、驚いた。
その上、言霊に対する理解力の高さを買われ、ヨミとラファ主催の言霊研究会に誘われ、更には、そこでのてきぱきとした行動力がまた買われ、ヨミ付きの侍女となったのだ。
ヨミはこの街の領主代理であり、普通であれば忌み嫌われる魔族が専属侍女になれるはずがない。しかし、ヨミはそんなことは気にせず彼女を勧誘した。
その後、ヨミの魔族を超える言霊狂いっぷりとそれ以外の興味のなさに驚き、そして、生活面でのサポートに多少の溜息が加わる。
「ねえねえ、エシル! この言霊よんだ!?」
「ああ、よみましたよヨミ様。非常に興味深い内容でした」
「ね! まさか、あの騎士がおとこだったなんて……確かに、いくつか気になる描写はあったけど……その辺気付いてた?」
「ええ、勿論」
「流石ね。どのあたりどのあたり?」
しかし、彼女、エシルにとってはかけがえのない生活だった。
それに、ヨミは生活がダメダメだったとしても、こと言霊に対する行動は真摯であり、常にこの街を良い方向に動かしていることもある。
それに、
「じゃあ、星五つ~」
ヨミは、真摯に向き合い星をいくつかあげるのを悩み贈っている。
何が素晴らしかったか、何が良くなかったか、成長の可能性や期待の度合いは……ヨミは色んなことを考えながら、星を贈る。
こんなにひとつひとつの言霊に向き合う思いやり溢れた人間が存在するだろうか。
そして、その思いはきっと届いているのだろう。
この街の言霊の質は大陸一と呼ばれ、神域にも顔を覗かせる言霊が増えてきている。
それは全てヨミの力なのだと思うと誇らしくなった。
「ん? 何わらってんの?」
ヨミがエシルに問いかける。
「いえ、ヨミ様のお陰で、ヨミ様が星を真剣に贈ってくださるからこそ、この街の言霊も神域常連も現れるようになって誇らしい気持ちなのです」
「あー、そっか」
ヨミは、そんなエシルの言葉に歯切れ悪く答える。
「嬉しくないのですか?」
「いや、勿論嬉しいよ。でもね、私は神域に入って欲しいから、星を贈ってるわけではないのよ」
「え?」
【光を紡ぐ者】にとって憧れであり、目標である神域。しかし、それをヨミはあまり重要視していない。
神域に入ることは、多くの者に認められた証であるし、入ったことで、書霊となり、魔本化され、多くの人に知られ、財を成すことだって出来るかもしれない偉業であるにも関わらず、だ。
「じゃあ、ヨミ様は何のために星を?」
「うーん、言葉にすると難しいんだけど」
と、ヨミが言いかけた時、強く扉がノックされる。
「どうしました!?」
「あ、も、申し訳ありません! 来客が」
エシルが声をあげると、扉の向こうの使用人は少し驚き自分を取り戻したのか、慌てながらもしっかりと大声で伝えようとする。
「来客? 今日の予定の方は、今、クエス様が応対を」
「そ、それが……聖女様がいらっしゃいました!」
「「聖女様!?」」
ヨミとエシルの声が重なる。
聖女。
それはこの大陸で一人だけに付けられる称号であり、それは神託によって選ばれた特別な存在である。
聖女は、定期的に各国を回り、祈りを捧げているが、それは各国の首都、中心となるところであり、こんな国境近くの街にわざわざ訪れるなどという事態はあり得ない。
「ど、どういうことでしょうか?」
「わ、わかんない」
聖女は、教会によって大切に大切に扱われており、いつも厳重な警備に囲まれながら移動をしているのをヨミも見たことがある。
そして、無礼を働こうとしたものが思い出すのも恐ろしいほどの目にあったことも……。
「ま、まさか……」
「なに? エシル?」
「ヨミ様が女神様と呼ばれていることに何か問題があったのでは……」
「ぶ!」
そもそも、今、この街ライタ=ニ=ナロウで信仰されているヒナ神は古代の神であり、現在大陸で主として信仰されている神は別にいる。
その上、ヨミはそのヒナ神に似ていて女神と呼ばれているということが問題なのではとエシルは考えた。
「……あの! 他に聖女様は何か言ってなかった!? 目的は!?」
「分かりません! ただ、女神と呼ばれるヨミ様に会わせてほしいと仰っていまして……」
(ああ~、絶対怒ってるでしょ! これ! 勝手に女神とか名乗りだすから! っていうか、女神って言い始めたの私じゃないんですけど~!)
ヨミは心の中で全力ジタバタをしてみたが、心の中なので当然何もなく、
「エシルゥウ! お断り出来ないかなぁあ?」
「出来なくはないですが、もし、理由なく断ったと知られれば、後々大変なことになるかもしれません……」
「はあああ、だよねぇえ……分かった、会おうじゃないの。……エシル、一応『逃賊エロス』の準備だけしといて」
「いや、逃げる気満々じゃないですか」
そして、女神(仮)ヨミと、聖女が対面することになった。
カチコチに固まるヨミとエシルの前で聖女はニコニコと笑っていた。
柔らかな金色の髪、大きな金色の瞳、白い肌、全てが見る者を惹きつける正しく天使のような存在だとヨミは思った。
「えー、ハジメマシテ、聖女様、ワタクシ、リョウシュダイリのヨミでござんす」
「ヨミ様……」
エシルはヨミの後ろで頭を抱えたが、聖女はそんなことも気にせずニコニコ笑っていた。
「はじめまして、ヨミ様。私、聖女としてお役目を果たさせていただいておりますイストと申します」
イストは、神々しい笑顔を浮かべ、挨拶を述べ、ヨミは少しだけのけぞった。
(誰だよ、私を女神とか言ったの。このオーラを見てから言いなさいよ!)
噂によると、イストの魔法は、誰にも破ることの出来ない結界を貼ることが出来たり、国中の人間に声を届けることが出来たりと正に神の所業と言われていた。
その膨大な金色の魔力は、うっすらと身体から溢れ、後光のように差していた。
「ど、どうも……あの、それで、本日は一体……?」
「ヨミ様。聞くところによると、ヨミ様はこの街で女神と呼ばれているそうですね」
(ほらー! やっぱりそのことじゃないかー!!!!)
こっそり開いた魔導書から逃走用言霊を呼び出そうとするヨミの肩に手を置き、エシルが制す。
(まだ早い! まだ早いですから!)
「うう……あ、の、そうですね。なんか街の人々がよんでくれて……あの、すみま……!」
「時に、ヨミ様は」
ヨミの謝罪の言葉よりも早く聖女、イストが口を開く。
そして、気付けば、イストの近くには真っ白の魔導書があり、言霊が浮かんでいる。
(いつの間に!? っていうか、この空間)
「失礼ながら、〈聖域展開〉をさせていただきました。こにでこの空間は世界から切り離され、誰も入ってこれませんし、誰も中の声を聞くことも出来ません」
(こ・ろ・さ・れ・る。ころされるー! もー! エシルの馬鹿―!)
心の中で悪態を吐きながらも表情はなんとか笑顔を保ち、逃げ出す方法を探す。
そして、エシルも又
(ヨミ様だけでも逃がさねば、いざとなれば死霊共を呼び出して、聖女を倒す……!)
静かに決意を固め、その機会をうかがっていた。
「ヨミ様。ヨミ様は、彼女のような魔族も受け入れる心の広さも含め、女神と言われているそうですが」
この問答に何の意味があるのか分からない。
けれど、間違えれば、即処刑の可能性もある以上、ヨミは一言一句聞き逃すまいと耳を傾ける。
「その受け入れる心はどれくらいの広さなのでしょうか……?」
「と、言いますと……?」
「ですから、その……と、」
「と?」
「との」
「との?」
「殿方同士の恋愛とかもアリだと思いますか!? 良いと思いませんか!?」
「「は?」」
エシルとヨミは大声で聞き返した。
しかし、聖域によりその声は誰にも届かなかった。
【混沌】の言霊
『歩く死体と走る己』
腐り豆、作
☆4つ
主人公が目を覚ますと街は歩く死体だらけになっていた。逃げ惑う主人公は、徐々にこの街がとある思惑によって動かされていることに気付いていく。という話。
歩く死体の描写が精密過ぎて凄いし怖い。結局生きてる人間の方が怖いんだなと思うし、死んだからこそ見える世界もあるんだろうなと深く考えさせられた。Byヨミ
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