21話 ★星《ポイント》を与えることに興味がない王子はあぐらをかいた
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
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「なに? 今、何と言った?」
グラトは、目の前にいる大臣の使いが言った言葉が理解できなかった。
「もう何もするな、と王様は言っておられます」
冷たい目を向けながら大臣の使いはグラトに淡々と告げる。
「何故だ!?」
「……はあーーーーーー」
大臣の使い、おそらく学園を卒業したばかりであろう随分と若いその男は深いため息を王族の前であるにも関わらず思い切りついた。
「いいですか? グラトさん、あなた最近何をしました?」
溜息と言い、様でなくさんを付けることといい、いちいち鼻にかかったが、あまりにも目が怖いのでそこには触れずグラトは思い出す。
といっても、グラトの最近の生活はほとんど変化がない。
食事や風呂以外では、オマージェの様子を見に行くくらいか。
オマージェは相変わらずふさぎ込んでいた。
最近では、出来るだけ人に会いたくないとグラトさえ避け始めた。
それでも、この城から出ようとはしないのだから、その神経のずぶとさにグラトは尊敬すらし始めていた。
あとは……
「使用人や兵たちに、星を送るよう指示を出していたくらいか」
「それですよ」
「は?」
「その星を送るという指示がよくなかったんです」
グラトには理解できなかった。
以前、グラトは言霊の星を送る行為を禁止し大量生産大量消費に集中することを指示し、それによって星を貰えないライタ達が出ていったと聞いていた。
だから、今度はとにかく星を個人の最大である五つ、とにかく見かけたら送るよう指示した。
(失敗の原因に対する対策としては最善の策だろうが。全く物を知らない若造が)
グラトは同じ年であろう若者に対し、毒づいたが、あまりにも目が怖かったので心の中で、だった。
「どうせ『俺は最善の策をとった』とか思っていらっしゃるんでしょうが」
ぎくりとグラトは表情を引きつらせる。
「最悪の策でしたね」
「は、はあ!? 何故だ!」
「今、現在城下では大量の粗悪言霊が蔓延っています」
粗悪言霊は、通常の色のついた光る言霊よりも黒ずんだ見た目をしている。
そして、通常を恩恵を与え人々の役に立つ言霊だが、粗悪言霊は、恩恵を与えるどころか、人々に攻撃をしたり、真逆の害を与えたりする迷惑な存在であった。
「な、何故だ!?」
「……めんど。あー、つまり、グラトさんがなんでもいいから星をあげろと言いました。人々が仕方なくなんでもあげはじめました。いいものもわるいものも関係なく。そしたら、もうなんでもありじゃんってなりました。みんながんばって物語を考えて刻むのをやめました。適当に刻めば星一杯貰えるんですから。適当なので、まずその言霊がちゃんと動きません。黒ずみます。で、あまりに適当でよんだリイダが怒って罵声を浴びせかけます。黒ずみます。でも、星は送られるから力は増していきます。イビります。イマココです」
つまり、言霊は物語を刻み生まれる精霊の幼体である。
その言霊を適当に生み、育てた為に良くない言霊が生まれる。
そして、それに怒った人々が、罵声など憎しみの声をぶつけることでより悪の心を育てる。
さらに、星だけは送られるので、輝きは増し、力は増える。
そして、その黒ずんだ言霊が城下で暴れまわっている。
「そんなことがあるのか!?」
「いや、あるんですって。実際見てみたらいいじゃないっすか」
「出来る訳ないだろう! 私は反王制派から命を狙われているんだぞ!」
「まあ、これだけのことしたら反王制でなくてもねらうでしょうけどね、はは」
「笑うなー!」
「あ、ちなみに、心無い星って黒く輝くっぽいすね。今回大量に見られたんで、新発見、正式名称『黒星』ということで学者連中は騒いでいました。おめでとうございます」
「めでたくなどない!」
「ま、とにかく、これ以上何もしない方がいいですよ。っていうか、沙汰を下すまで何もするなって王様が仰っているので、もうほんと何もしないでください」
うずくまるグラトを見下す大臣の使い。
グラトは考えていた。
どうすればいい。
このままだと処刑を待つのみではないだろうか。
何故こうなった。
自分はあの女を真似て星を送れと命じただけなのに。
あの女?
「あの女……ヨミ=フェアリテイルはどうしてるか知らないか」
「へ?」
「私は、あの女のやることを真似ただけだ! あの女は隣国ブクムントで同じように、国を混乱に陥れているのではないか? 原因は、あのおんっ……!」
その言葉を待たずに、若者はグラトの腹に蹴りを入れる。
「もういい。その口を開くな。不快だ。最後の仕事だと言うから引き受けたが、最悪の仕事だったな」
「しゃ、さいごの、し、ぎょと……?」
ひゅーひゅーと細い呼吸をなんとかしながらグラトが自分を蹴り飛ばした男に涙目を向ける。
「俺、もうやめるんです。その隣国ブクムントへ行きます。隣国ブクムントでヨミさまは今、『言霊の神』なんて呼ばれて、国の言霊研究に多大な成果を残しているそうですよ」
「びゃ、びゃか、な……」
「馬鹿はお前だ。学園時代から見ていたが、本当に成長しないな。ヨミは、リイダでありながら、素晴らしい人物だったのだ。いや、リイダという存在を見直すべきかもしれないな」
「り、りぃいだなど! 下等な奴ら! 【闇から見る者】だぞ! そんな奴らになんの価値がある! リイダなど不要! ライタこそが上に立つべきものなのだ!」
「あ、あんたのそのライタ至上主義は、異常だよ。落ち着いて、考えな。あの人の価値を」
急に叫びだすグラトに驚いた男は慌てて部屋を去っていく。
そして、興奮冷めやらぬグラトは目を見開き、這いずり回る。
そして、少しずつ冷静になった頭で考える。
(ヨミを、連れ戻せば、それで解決ではないか?)
【闇から見る者】に、また、ヨミに対して思う所がないわけではないが、今は緊急事態だ。
まず、自分の立場の危うさをなんとかすべき。
ヨミは、なにをどう騙したのか。
言霊の神と呼ばれている。
ならば、この国の粗悪言霊もその神がなんとかすべきだろう。
そんな手前勝手な考えを浮かべていた。
「ならば、誰かにブクムントにヨミを呼びに行かせるべきか。そうだ、あの『勇者』に行かせるとしよう。アイツならば、平和の為と言えば、迷わず動くだろう。それと、一応、失敗した時の為に……力づくも考えておこう」
グラトは厭らしく笑うと、自分の部屋を後にし、信用おけるもののところで歩き始める。
今、グラトの手駒は多くはない。それに、下手に動いていると咎められることさえある。
そのことを苦々しく思いながら、グラトは歩いていく。
すると、偶然にもオマージェに出会う。
オマージェは相変わらず青い顔をしているが、どこか満たされたような表情を浮かべている。
「オマージェ」
「……!! あ、グラト様」
まだ様をちゃんとつけてくれる存在はグラトの承認欲求を満たした。
嬉しそうに笑いながらグラトはオマージェに話しかける。
「どうした? 何をしていたのだ?」
「いえ……何も……」
歯切れ悪い言葉に、先ほど調子を取り戻した分グラトは苛とし、そして、小さな黒い疑念を浮かべる。
(本当に何をしていた? まさか、他の男と?)
しかし、オマージェが出てきた廊下の先にあるのは開かずの間と呼ばれる王家でも、王しか入ることが許されない部屋だ。オマージェでは入ることすら……
(まさか……父上と!?)
王が、今、自分のすべてを奪い始めていることに気付き、グラトはそんな想像を浮かべる。
「オマージェ、とにかく部屋に戻れ。お前もあまり城の者には良い印象を持たれていない」
「え……はい。そうですね……」
ひとまず、地位を取り戻すことが先だ。
グラトは冷たい無表情に戻り、オマージェに指図する。
そして、ヨミというカードを手に入れる為、再び動き始める。
去っていったグラトを見つめながら、オマージェは別の事を考えていた。
「集めなきゃ……もっと、もっと、粗悪言霊を……あの子が欲しがっているんだもの……」
虚ろな目でオマージェは振り返る。
そこには開かずの間。
王しか入ることが出来ない部屋があるだけだった。
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