19話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は古代語がよめない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
言霊をよんで、適した人に振っていく仕事が一息つき、ヨミはもうひとつの仕事に向かう。
新たな街【ライタ=ニ=ナロウ】の隣には、古代都市のほうの【ライタ=ニ=ナロウ】がある。
【博雅の賢者】アティファの下、古代遺跡での発掘作業が行われている。
「どう? アティファ進んでる?」
「おー! 我が愛しのヨミではないか! まあ、それなりにじゃな」
恥ずかしげもなく放たれた台詞に少し赤くなるヨミを見てアティファが満足そうに笑う。
「それ、やめてくれない?」
「何故じゃ! 思っていることを口にしているだけではないか!」
百歳を超えているはずだが、エルフ故に、見た目ほぼ只人の少女が涙目で訴えかけてくるのは、ヨミには堪え、それ以上何も言えなくなる。
「……で、今はどんな感じ?」
「うむ、粗方建築物の保護作業は終わったのでな。発掘者総出で、古代言霊の発掘作業に入り始めた」
さっきまでの涙目が嘘だったかのように快活な笑顔を見せながら、アティファはスコップを掲げる。
古代言霊の発掘。
それには様々な目的があった。
まず、ハインリヒやクエスの、『古代言霊の活用』である。
ここに存在する遺跡も含め、非常に高度な文明が存在していると想像され、その一部分でも使用することが出来れば国にとってとてつもない利益となる。
そして、アティファの『塗りつぶされた歴史の解明』。
この大陸で、不思議なくらい抹消されている歴史について、古代言霊の解読が出来れば、何か分かることがあるかもしれない。
それはアティファを含む歴史研究家にとっての悲願とも言えた。
最後に、ヨミの『古代言霊をよんでみたい』。
ただの願望である。
しかし、それが他の二つの目的の為の手段であり、肝であった。
読むためには意味が分からなければならない。
だが、古代語の解読が必要であり、その古代語の資料そのものがほとんど存在していないのである。
そこで活躍するのが魔族、特に、ラファであった。
「ラファよ、この『ニト』というのはどういう意味じゃ?」
「魔族はそれを『闇』という意味で使いますね」
魔族の言語は、只人の文化との交流が薄かったため、独自のもので、それが非常に古代語に近かった。
なので、魔族語でも使われる単語を仮の意味として用いて解読を試みていく。
若干の違いがあれど、闇雲に調べていくよりもはるかに効率的であった。
この日の解読の中心は、【ライタ=ニ=ナロウ】の中心部に存在した巨大建築物【ライト=ヲ=ヨモウ】に関する資料であった。
「【ライト=ヲ=ヨモウ】ねー。都市の中心部に存在する巨大建築物っていうくらいだから重要施設なんだろうけど」
「うむ、魔族語からの推察になるが、【ライト=ヲ=ヨモウ】はリイダが多く出入りし働いていたようだ」
「リイダが?」
リイダは、ヨミ達の言葉で言うところの【闇から見る者】という意味で、【光を紡ぐ者】と違い言霊の才能がなく、ある意味蔑称のように使われる言葉だ。
「巨大な施設で、奴隷のように使われていたってことかしら?」
自身も【闇から見る者】、リイダであるが故に、顔を歪めながらも問いかける。
その問いかけに、アティファは一度空に息を吐き、振り返って答える。
「違うんじゃよ。……まず、リイダの解釈が違う」
「え? どういうこと?」
「ラファよ、魔族の言葉で『リイダ』はどういう意味じゃ?」
「はい、先生。魔族は『リイダ』を『長』という意味で使います。魔族のリイダはラファであるという風に」
どういうこと?
ヨミは真っ黒な瞳が浮かぶ目を見開いて深く思考する。
只人の言葉でリイダは『闇から見る者』
魔族の言葉でリイダは『長』
古代語は魔族語に近い。
だから、
「意味が、歪められている?」
「ヨミよ、わしはな。この世界のリイダに対する扱いに疑問があったのじゃ。わしは、以前から言っているように、お主のようなリイダは世界を明るくさせる存在だと考えており、崇拝する存在じゃと思うておる」
「崇拝はやめて。本気で」
ヨミが即座に手を広げ、止める。
が、アティファは構わず話を続ける。
「リイダを不要なもの、弱いもの、そう歪めた歴史が存在するようじゃ。その歴史を正すことがわしの使命じゃと今、はっきりと伝えられた気がする」
そこには無邪気に笑う少女の顔はなく、長い歴史に寄り添い続けたエルフの賢者がいた。
「この言霊によると……かなりぼろぼろでほとんどよめていないが、【ライト=ヲ=ヨモウ】は言霊の重要機関だったようじゃ。どのようなことをしていて、どんな技術があったのか分かればいいんじゃが。流石に何百年も地の中に眠っていた魔導書から呼び出した言霊ではな……」
弱い光でふわふわと浮かんでは沈むを繰り返すよわよわしい言霊にヨミは近づいていく。
「でも、この子は私たちに新しい物語を見せてくれたのよね。新しい未来の可能性を遠いとい過去から……素敵な話ね」
ヨミは美しい濡羽色の髪に勝るとも劣らない美しい黒い瞳を言霊に向け、見つめた。
ヨミにはよめない。けれど、その言霊に刻まれた思いは見えた気がした。
情熱と夢と希望を持って、【ライト=ヲ=ヨモウ】という施設について語ったのであろう。
ヨミは手をかざすと、素敵な物語を教えてくれた言霊に星を贈った。
その瞬間、
「うわああああああああ!」
今までよわよわしい光を放っていた言霊が遠くで作業をしていた発掘者たちを驚かせるほどの光を放つ。
そして、その光は文字を形作っていく。
「な、なんじゃ!?」
「先生、これは、あの言霊が!?」
そうして、光が古代遺跡を包む込むほどに輝いたあと、小さいながらもはっきり輝く言霊に変化していた。
そのそばでは、ヨミが茫然と立ち尽くしていた。
「ヨミ! 愛しのヨミよ! 無事か!」
「えーと、うん」
「なんだ、調子が悪いのか!? あの赤髪を呼んでくるか!?」
「ああ、ラファ大丈夫。ただ、」
「「ただ?」」
「わたし……古代の言霊もよめるようになったみたい……」
「「は?」」
「や、」
「「や?」」
「やっ……たーーーーーー!!! これでもっと言霊がよめる!」
「「いや、そんなこと言ってる場合か」」
二人のツッコミはヨミには届かず、濡羽色の髪が掘り起こされた地面に着くのも構わず、目を輝かせた女は古代語を浮かべる言霊を夢中になってよみはじめた。
『【ライト=ヲ=ヨモウ】について』
古代遺跡【ライタ=ニ=ナロウ】の中心に存在する巨大施設【ライト=ヲ=ヨモウ】に関する言霊。古代語によって刻まれており、解読は困難を極めていた。
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