17話 ★星《ポイント》を与えることに興味がない王子は配慮をかいた
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
「なに? 今、何と言った?」
グラトは、目の前にいる大臣の言った言葉が理解できなかった。
「前回の報告から三百人ほどこの国を出たと思われます」
前回の報告時には、百人の【光を紡ぐ者】がこの国を出ていった。
その三倍である。
「す、す、全てライタなのか?!」
「いえ、約半数ですね」
「そうか、それはよかった……わけないだろう!」
余りにも動転していたのか普段見せないノリツッコミだったが、それを大臣は無視し話を続ける。
「恐らく……いえ、全員ブクムントに向かったと思われます」
(何故だ!? 何故!? あの女に、あの星を送るだけの女にそんな価値があるわけないだろう!)
結果としてグラトの考えは間違っていたことは明らかであったが、それでも、いや、だからこそ、グラトは意地だけで認めようとしなかった。
加えて、最近の出来事でグラトの判断能力は格段に鈍っていた。
まず、オマージェが、負けた。
自身の言霊が誰かの模倣であると言われ、そこから数多くの人間と言葉でやりあっていたオマージェだったが、とうとう限界を迎えた。
ある日の事、いつもの怒りに満ちた表情が、全くの無表情に変わっていた。
グラトが声を掛けても無視し、部屋に入ったまま、出てこなくなった。
出てきても、食事など必要のある時だけで、笑顔も見せず、声すらも聞かなくなった。
その無表情さが逆に恐ろしく、グラトはいつそれが爆発するのかと彼女と一緒の時が最も気が休まることがなかった。
そして、王制に反対する勢力が現れた。
最近の王都は目に見えて荒れてきた。
三賢人のうち、事故災害の予見が出来るクエス、内政の要であったアティファがいなくなったことで様々な面で影響が出てき始めた。
また、食事情の悪化が一番激しく、それが様々な事件を起こす一番の要因となっていた。
そして、そんな状況下で王制に反対する集団が現れるのは当然の結果と言える。
更に、城下では、一番の原因はグラトであるという噂が流れ始め、グラトが城を出ればかなりの確率で罵声を浴びたり、物を投げつけられる。そして、先日はとうとう襲撃に会い、外に出られなくなってしまった。
「ああ、早く外に出たい……。全く、王都の警備はどうなっているんだ……」
「その警備の要であった騎士団副団長スクリム殿や、警備隊の優秀な面々がいなくなってしまったのですよ」
大臣はグラトの言葉に少しばかり苛立ちを込めて答える。
それが流石にグラトにも伝わったようで、グラトもまた苛立ち交じりに大臣に問いかける。
「そもそも! 何故こんなに人材が他国へ流れるのだ!?」
「だから、ヨミ殿がいなくなったからでしょう」
「それ以外の理由はないのか!」
「あるにはありますが……」
「ほらあるのではないか! さっさと教えろ!」
グラトがせかすと大臣は歯切れ悪そうに答える。
「グラト様が勝手に行った言霊の大量生産大量消費が原因ではないでしょうか」
「……はあ!? 何故そうなる! そんなわけないだろう!」
「……はあ~、良いですか、よくお聞きください」
大臣は今までで一番深いため息をしてから話し始める。
目の前で溜息を、しかも、恐らく自分に対して吐いてきた不敬な大臣をグラトは斬り捨ててしまいたかったが、なんとかこらえ話を促す。
「グラト様の考えでは、言霊の数は国力に直結する為、去っていった【光を紡ぐ者】達の分も生み出す必要がある。そして、恩恵が多ければ多いほど国力も上がる。ここまでは私も同意します」
「そうだろう」
「そして、まずグラト様の方針に従い、ただひたすらに言霊の大量生産を行わせた結果、言霊の数は飛躍的に増え」
「そうだろう! そうだろう!」
「大量の【光を紡ぐ者】がこの国を出ていきました」
「何故だーーーーーー!?」
グラトが心から分からないと叫ぶと、大臣は先程よりも深いため息を吐いた。
「はあーーーーーーーーーーーーーー」
「おい、さっきからそのためい」
「良いですか、グラト様。何故ライタたちが去ったのか。それは星が貰えなかったからです」
「は? ただ、それだけのことで?」
「……グラト様、以前書かれていた【恋愛】の言霊は続きをかかれないのですか」
「う」
グラトは以前今までかいたことのない【恋愛】の言霊を作り出した。しかし、その後途中で辞めてしまい、今はほぼ野良言霊状態であった。
「あれは……もういい」
「何故です?」
「馬鹿どもがあの言霊の価値を理解していないからだ! 批判ばっかり送ってきて星のひとつもよこさない! かく気も失せたわ!」
「そういうことです」
「は?」
「良いですか? 星は理解の証です。ないということは理解されないということ、勿論見つけられていない場合もありますが。では、理解されない場所にいたいと思うでしょうか?」
「それは、努力すれば、自然と貰えるはずで……」
「グラト様の命により、星を送ることよりも言霊の大量生産・大量消費を優先させました。貰えるはずの星さえも奪われたのです」
「あ……」
「ヨミ殿が行っていた星を送るという行為には、意味があったのです。グラト様、ご理解ください」
星は理解の証。
その言葉は、分からず屋と城内で囁かれ始めたグラトでさえも納得させる言葉であった。
しかし、それでも、
(ヨミに価値があったということだけは認めない!)
「ならば……星をくれてやればいいだろう……!」
「グラト様?」
「そんなに星が欲しいならくれてやれ! 城内の者、そして、城下の者達に伝えろ! とにかく星を送れ! 駄作でもなんでもいい! 最大の五つ星を送れ! そうすれば、ライタ共は納得するのだろう!」
「しかし」
「うるさいうるさいうるさい! さっさと行け!」
「……かしこまりました」
大臣は、小さく溜息を吐き、部屋を後にしようとする。
が、扉に手をかけたところで止まり振り返りざまにグラトに話しかける。
「ところで、アティファ様の手紙は読まれましたか?」
「……何故そんなことを聞く?」
「王が、読んでみたいと。アティファ様であれば、何か苦言交じりでもヒントになるようなことを書いてくれているのではないか、と仰られまして」
グラトは焦った。何故ならば、そのどこにあるか覚えていないからだ。
前回の報告時に渡された国を出た【博雅の賢者】アティファからの手紙。
グラトはその手紙をどこか適当に投げてしまっていたのだ。
(だ、大体! お前が「きっと苦言です!」とか言うから読みづらくなってしまったのだろうが!)
苦言であれ何であれ、賢者からの手紙である以上意味があるのだろうと考える王とは違い、ただ苦言の可能性があるというだけで読むことを拒否したグラトは、やはり短絡的に、その時の原因を心の中で大臣のせいにした。
しかし、自分が不利であることは間違いないので、心の中で戦略的撤退と呟きながら、大臣への叱責を飲み込んだ。
「あ、あれか。あれは本当に大したことは書いていなかった。ほとんど悪口だった。その、この国に対する。あんなもの父上が読む価値もない!」
いつになく大声で吠えるグラトを大臣はじいっと見つめていたが、やがて諦めたように首を振り、
「かしこまりました。王にはそうお伝えしましょう」
そう言って、大臣は去ろうとする。
ほっと胸を撫でおろしたグラトだったが、次の言葉で固まってしまう。
「そうでした、もう一つだけ。グラト様、王位、失いましたので」
「は?」
「次期王には第二王子であるハング様になります。王をしっかり支えられるよう鍛錬を怠るなと王の言葉です。それでは」
「待っ……!」
グラトの言葉を遮るように……いや、明確に遮って大臣は扉を閉めた。
「ふ、ふ、ふっざけるなあああああ!」
グラトは机にあった書類の山を荒々しく倒し暴れまわる。
紙の山を崩し、水瓶を割り、手当たり次第に壊した。
「ああああああああああああああああああああ!」
その時、一つの便せんが落ち、その上に足を置いたグラトは転げてひっくり返す。
「ぎょぼ!」
潰れた蛙のような声を上げてグラトは背中を打ったまま仰向けで動かなくなった。
そして、グラトは何度も何度も床を拳で打ち付けた。
ヨミへの見当違いの憎しみを込めて。
そして、これから自分の人生に奇跡が起き逆転した暁には必ず復讐してやると。
もし、その時、踏んだ手紙を奇跡的に発見し、読んでいれば奇跡は起きなかったのかもしれない。
国が亡ぶという絶望の奇跡が……起きなかったかもしれない。
お読みくださりありがとうございます。
昨日、言霊の名前のせいかアクセスが爆発的に増え、星は増えませんでした……もっと頑張らねばです汗
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
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