16話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢はやはり王子の腹が読めない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
スコップを掲げて鼻息荒くする小さい賢者アティファを唖然とした顔でヨミは見つめる。
「えと……アティファ?」
「そうじゃ! アティファじゃ! お主の愛するアティファじゃよ!」
「だから、義姉さんはお前を愛してないんだって」
「黙れ、小僧」
「あのー、アティファはなんでここに?」
がーんという音が聞こえそうなほど大きく顎を落としたアティファが涙目でヨミを見つめる。そして、ハインリヒが溜息を吐きながら答える。
「前に一度お前の部屋に来ただろう。まあ、何か危険な気配がしてすぐに引っ込めたが」
「え? そうなの?」
「お前は、言霊をよむのに夢中だったみたいだからな」
ハインリヒがジト目でヨミを見ると、ヨミは近づいてきて裾を引っ張り続ける涙目エルフのこともあってか、苦笑いで誤魔化そうとする。
「あ、あははは……ごめんね、アティファ」
「やれやれ、三賢人を邪険に扱う人なんて、あなたくらいですよ……興奮してきますね」
緑髪のクエスが頬を染めながら呟く。
それを全員無視して話を続ける。
「で、働かざる者食うべからず、というわけでこの賢人様にも仕事を任せたわけだが、一向に帰ってこない。ようやく帰ってきたのが約束の二週間後というわけだ」
「まあ、誤差じゃろ」
「これだからエルフの時間感覚は……」
エルフは只人に比べて寿命がはるかに長いため、時間感覚がかなり異なる。
その上、学者・研究者気質なアティファは特にその辺が雑であった。
「で、結局何の仕事だったの?」
「それについては移動しながら話をしようかのう。ハインリヒも早く知りたいじゃろうし」
「そうだな……どちらにせよ、良いタイミングだったかもしれない。アティファ、この魔族の女と、いや、数百の魔族が降伏した」
「ふむ……丁度良い、かもな」
ハインリヒとアティファの簡潔な会話に、クエス以外はきょとんとしている。
しかし、それに構うことなく、ハインリヒ達は移動し始める。
「ちょ、ちょっとどこに行くのよ!?」
「古代遺跡だ」
その古代遺跡は、ヨミたちが元居た国、そして、魔族の国、ブクムントに挟まれるような場所にあった。
ホンブルクから西に馬を走らせながら、ヨミたちは会話を続ける。
「しかし、先生とお会いできるとは思っていませんでした」
「なはは! 儂もお主と会えてうれしいぞ」
「ねえ、なんでラファはアティファのことを先生って呼んでいるの?」
「先生は先生だ。さっき言ったろう。あの魔本を生み出し我々に下さったからだ」
『よるのおうじとたいようのひめ』
アティファが作り出し、誰でも恩恵を得られるように魔本化した【童話】言霊である。
「あの魔本がなければ、我々も先代たちと同じ戦闘狂として、人間と殺し合いを続けていただろうな」
「え?」
「あの魔本には、只人と魔族が仲良くする未来が描かれていた。それこそが、私たち新世代の魔族が望む形だったのだ。それを教えてくれたのが先生なんだ」
「成程な……教訓的な物語だったというわけか」
熱く語るラファとは対照的にハインリヒが冷静に答える。
「まあ、そうじゃな。勿論願いを込めてという意味合いもあるが、幼少期の性格形成に少しでも役立てばと思ってのう」
「どういうこと?」
ヨミが首を傾げ、黒髪を揺らす。
「物語に道徳的、教訓的なメッセージを入れて、自然と良い人間になれるよう導いたってことだ。まあ、文化による思想の誘導は、良くも悪くも為政者にとって一つの効果的な手段とはいえる」
「そこまで深く考えてはおらんよ。ただ、仲良くすればよいと思っただけのことじゃ」
「我々にとって先生は救いでした。魔本の恩恵によって、只人への意識も変わり、また、己の中の衝動をある程度コントロール出来るようになったのですから」
「はあ~、色々あるのねえ。あれ? スクリムとクエスは?」
相変わらず周りへの興味が薄いヨミがキョロキョロと周りを見回す。
ちなみに、ヨミは一人で馬に乗っているがこれもまた言霊の恩恵である。
「アイツらには、降伏した魔族を連れてきてもらっている。あと、お前の国から流れてきた奴らもな」
「どういうこと?」
「まず、先に話しておく。お前らのいた国からまた人が流れてきた」
「はあ」
「三百人だ」
「さんびゃっ……!」
百人だけでも異常事態だと思ったのに三百人、ということは、全部で四百……
「どうやらあの馬鹿王子がやらかしているみたいでな……まあ、後は、お前の真価を理解し始めた奴もいるってことだろうが……とにかく、いきなりこの数をなんとかする人手をこちらから出すのは正直苦しいのでな。お前らになんとかさせることにした」
「は?」
ヨミが隣にいたハインリヒに目を向けると、ハインリヒは心底嬉しそうにいやらしく笑っている。
「自分のケツは自分で拭け。お前らに街を作らせる。必要な資材などがあれば言え。まあ、大体はクエスがもう申請しているが……ああ、勿論これは貸すだけだ。必ず返せ」
「いやいやちょっと! そんな、いいの?」
「説明が面倒だから省くが、かまわん。責任は俺がとる。好きにやれ」
「けど、そんな簡単に街なんて……」
「お前のいた国の元三賢人がついているんだ。それに、やってきた奴らの多くは【光を紡ぐ者】だ。恩恵の力を使えば、なんとかなるだろう。労働力も手に入ったしな」
「成程……その街で我々魔族の身体能力が生かされるというわけか」
ハインリヒの目線に気付いたラファが力強く腕を掲げる。
「でも……」
「お前好みの言霊だらけの街にしていいぞ」
「やるわ」
スクリム以上の掌返しを見せたヨミが真剣な眼差しで頷く。
「で、その街はどこに?」
「今向かっている古代遺跡を中心に作ってもらおうと考えている」
「古代遺跡を中心に?」
「お前たちにやってほしいことは、いくつかある。まずは、街をうまく作れ。これは、クエスの頭とスクリムやラファたちの腕力があればある程度なんとかなるだろう。次に、古代遺跡の調査だ」
「儂の出番じゃな」
にやりとアティファが笑う。
「アティファ?」
「この前まで儂はその古代遺跡の調査をハインリヒに頼まれていたんじゃよ。『塗りつぶされた歴史を知りたい』とな」
『塗りつぶされた歴史』
この大陸には数百年前以前の歴史からぷつりと途切れ、何も情報がない。
大災害による文明の壊滅と言われているが、それさえも知る術がなかった。
「そして、その古代遺跡を調べた結果、僅かばかりじゃが歴史を紐解くことが出来た。その古代遺跡は数百年前の歴史を知っていた。儂がスコップ使って発掘した言霊に刻まれていた。言葉が古く、また、状態も良くはなかったがのう」
「その遺跡での発掘。これをアティファ中心に行ってもらう。そして、ヨミ。次がお前の仕事だ。さっきの繰り返しになるが『言霊』の街を作れ」
「つくる……え?」
反射で答えたあとに、ヨミは首を傾げる。
ヨミにやる気を出させる餌として、言霊の街と言っていたと思っていたがどうやら違うらしい。
「言霊の街? なんで……?」
「元三賢人と話し合って、決めた。過去、今、そして、これからを結ぶために必要になってくる。その街が」
いつになく真剣な目で前を見るハインリヒにヨミはただただ言霊に対してと同じように、一言一文字も逃さないようにしっかりと見つめた。
「あとでアティファにちゃんと聞いてくれた方がいいだろうが……。かつて、この大陸には巨大な都市が存在した。人々は高位の言霊を生み出すために切磋琢磨し、また、その恩恵を預かる者も十二分にその力を発揮し、どこよりも豊かで優れた輝く都市だったそうだ」
馬たちが足を止める。
目的の場所に着いたようだ。
ヨミは、森に囲まれた、巨大な塔を囲む建築物たちを見下ろした。
沢山の人々が集まり、掘り進めている。
ぐるりと掘られた大きな穴の中に存在する街は古き言霊の恩恵か数百年の歴史を感じるほどには崩れていなかった。
数人がアティファに気付き手を振っている。
「その都市の名は【ライタ=ニ=ナロウ】。古代語で【星降る光の街】。中心に立つ建築物は【ライト=ヲ=ヨモウ】。古代語で【導く星の塔】、だそうだ」
「【ライタ=ニ=ナロウ】」
ハインリヒはその真剣な目をヨミに向け、言葉を続ける。
「ヨミ=フェアリテイル、ブクムント第一王子ハインリヒ=ファンタジアが命じる。ここに、言霊の街【ライタ=ニ=ナロウ】を築き世界を変えてみせろ!」
【童話】の言霊
『うまの娘』
☆3つ。
【ムゲサイ】作
馬と只人の間に生まれた娘の物語。人馬一体となり、誰よりも早く駆け抜けた英雄の女の話。
記憶にないのだけれど、どこかで見たことがあるような気がするので一旦星を三つだけ贈る。Byヨミ
お読みくださりありがとうございます。
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