14話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は完結せずに消えた言霊をよみたい
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
「どうしてこうなった」
ハインリヒは、額に手を当ててぼやいた。目の前には、
「ああー! そこにそんな伏線があったのね! 凄いわラファ!」
「ヨミよ、そうほめるな。しかし、私もこれに気付いた時には震えたものだ」
濡羽色の髪をした女ヨミと白髪褐色肌紅目の女ラファはひとつの言霊を前に楽しそうにはしゃいでいた。
魔族との戦いは、スクリムの活躍で簡単に終結を迎えた。
言霊強奪を目的とした部隊をほぼ一人で全滅させてしまったのだ。
彼がいなかったならば、このような簡単な勝利にはならなかったであろうし、もしかしたら、言霊を奪いつくされていたかもしれない。
(そういう意味でもヨミには感謝せねばな)
『姉狂い』と呼ばれるスクリムは、姉を追って王国騎士団副団長の座を捨ててまで隣国ブクムントにやってきた。
それ故、姉であるヨミのお陰とも言えなくはない。
しかし、何より戦闘後の彼女自身の活躍は大きかった。
追い詰められたラファは、スクリム達が治療士であるシジェラへ意識が向いた一瞬の隙を突いて、魔導書から言霊を呼び出す。
戦闘経験豊富なスクリム、ハインリヒは言霊の正体が分からない以上まず距離を置いて警戒せざるを得ない。しかし、
「冒頭『エロスは激走した』……。あれ多分、戦闘特化の言霊じゃありません。逃亡用です」
すかさず、ラファの出した言霊に刻まれている物語を読み取り、ヨミは伝える。
その指示に対し瞬時に対応したのは、スクリムだった。
素早く短剣を抜くと、自身の手の甲を切り裂き、すぐさま言霊『月が綺麗なので聖女は裏返る』を呼び出し、
「〈うらがえる〉」
スクリム独自の魔法を唱える。掌を返すと、スクリムの手の甲にあった傷がラファに移る。
その痛みに思わずラファは魔導書を落とす。
「ちい! 本当に厄介な魔法だ……しかも、余力を残しておったか食えぬ男だ」
慌てて落とした魔導書を拾おうとするラファだが今度は全身にしびれが走る。
「な、何故……」
「罠魔法〈竜の眼〉」
気付けば足元に魔法陣が広がっている。
ハインリヒがスクリムから遅れて魔導書から言霊を呼び出し、魔法を行使していたのだ。
その魔法によりラファの全身が痺れ動けなくなってしまう。
「ちい! ブクムントの第一王子は聞きしに勝る厭らしい手を使うな」
「「その通り」」
「おい」
ラファが毒を吐くと、ヨミ・スクリム姉弟は強く同意し、それにジト目を向けるハインリヒ。
しかし、これにより完全に勝敗は決した。
「はあ……しかし、まさか、あれだけの情報で言霊を特定するとは、流石言霊馬鹿」
「おい、周りに一般人いないからって口悪いな、腹黒王子」
「お前もな、言霊馬―鹿」
ヨミとハインリヒがにらみ合う。
そこに、スクリムが慌てたように割って入る。
「ね、義姉さん! いち早く義姉さんの言葉に反応したのは僕だからね! 義姉さんの言葉なら、一文字目を聞くだけである程度予測できてるからね!」
「お、おう」
何かに対して対抗意識を燃やすスクリムは己の義姉への愛を見せつけ、義姉に引かれた。
「おいおいおい! それで、俺はまず誰を治癒すればいいんだよ!?」
痺れを切らした赤髪吊り目治療師シジェラが問いかける。
「ああ、まずはこの魔族の女からでしょ。一番怪我してるし」
「おい! ヨミ、そいつは魔族だぞ!」
「知らない。どうするかはこの腹黒に任せるけど、目の前で見殺しなんて私には出来ないし、魔族か只人かで判断するなんて下らないでしょ」
「貴様……」
淡々と話すヨミ。そして、その様子を見て呆然とするラファに目線を移すと……
「そ・れ・に。一年前突如更新が止まって消えていた【滑稽】の言霊『逃賊エロス』をこの女がもっていたんだから、じーっくり話を聞きたいわ」
輝きを失った真っ黒な瞳でヨミはラファをじっとりと見つめていた。
「ひいいいいいいいいい! そ、その! 奪ったことは申し訳ない! しかし! その! この言霊はとても重宝して! それに! この言霊はそれにふさわしい素晴らしい物語が刻まれていて私のお気に入りなのだ! 名作を引用しつつも、上品さと下品さをいい感じに行ったり来たりするあの感じが私は好きでって違う! そういうことをいいたいわけでなく……!」
「あなたね……分かってるじゃない!」
「へ?」
ゆっくり近づいたヨミは、怯えるラファの手を取り今度は目を輝かせた。
「そうなのよ! 恐らく作者は敢えて名作からの引用によって与えた下品な雰囲気をスパイスにして上品な情景描写、からの、下らない人々のやりとりとよみ手の心を振り回しに行っていると思うの!」
「おお! そうそう! その通りだ! そして、基本馬鹿馬鹿しい展開なんだが、そのどれもがちゃんと情景描写の中に伏線が貼られていて、逃げ方に説得力が増しているんだ!」
「私はアレが好きなのよ! 三話目で落ちた落とし穴で七話目で追いかけてくる騎士を落とすヤツ」
「分かる! 私はな! 十二話目で落ちていた下着を、十九話目で追う王子が拾ったのが実は悪役令嬢の下着だったからというのが推測できるところが」
「うっそ! そんな描写あった?」
「二話目の中にあっただろ? 火の曜日彼女は赤の下着を履くと……」
「そこからの!? かき手天才かよ」
急にラファが使おうとした言霊で盛り上がる女性二人に呆然とする男たち。そして、女性二人の話はその後も盛り上がり続け、傍らで小言を言いながらシジェラが治療し、そして、その流れ弾でハインリヒがシジェラに小言を受けて今に至る。
その間、スクリムは楽しそうに話す義姉をにこにこと見つめているだけだった。
「じゃあ、アレはどうだ! 三十二話の」
「それは、あんたが奪ったせいでよめなかったのよ……!」
「す、すまん! そうだな……その件については本当に申し訳ない」
「全く……大体、なんで奪うのよ。魔族にはそんなに良い【光を紡ぐ者】がいないの?」
「ライタ?」
「魔導書に言葉を刻み言霊を生み出す者のことだ。ね? 義姉さん」
すかさずスクリムが補足する。
「ああ……そういう者はいないな。というか、我々は言霊を作り出すこと自体が難しいんだ。我々は、半分言霊らしくてな」
「「「……え?」」」
【滑稽】の言霊
『逃賊エロス』
☆5つ。
【ロウファ】作。
狙った獲物は逃がさない。自称大盗賊エロス。恐ろしいほどの『はやさ』を武器にした彼は、どんな健脚の男にも捕まえることが出来ず、どんな美しい女にも一瞬で走りながら服を脱いで迫る。今日もまたエロスは有名な詩をかっこつけて口ずさみながら、獲物を探す。という話。
下らない話ばかりなのに、情景描写が妙に丁寧でそれはそれで笑ってしまうし、細かく描かれた風景に伏線がちりばめられていて、いい意味で変態な言霊。Byヨミ
お読みくださりありがとうございます。
今週中に完結させたい気持ちなのですが、気持ちなのです……!
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
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そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!





