12話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は戦況とかよめない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
前線では激しい戦闘が繰り返されていた。
魔族は彼らの身体能力を活かし、乱戦に持ち込んだり、はたまた巨大な投擲武器を操り大きな岩を飛ばしてきた。
一方、ブクムント軍も高い練度を誇る言霊を用いた集団戦術で、数で劣る魔族を少しずつ撃破し防衛ラインを維持していた。
「で、本命はどこだ?」
ハインリヒは前線となった街【ホンブルク】の中心にある広場でつぶやいた。
その呟きに応えるようにクエスの呼び出した【推理】の言霊『机上のムロン』が灰色に輝く。
「恐らく、西側でしょう」
「理由を聞く時間も勿体ないか、第五部隊を西門に動かせ! あと、言霊は絶対に傍から離すな!」
ヨミは、常に戦況が動き続ける戦場では流石に言霊も読めず、じっとするだけだった。
そのヨミに気付いてか、ハインリヒがヨミのもとに近づく。
「すまんな、構ってやれず」
「いえ、早く言霊がよみたいのでがんばってください」
ハインリヒがヨミの言葉に笑う。
「けど、敵は南から来てるんじゃ? なんで西に」
「奴らの狙いは言霊だ。こっちを滅ぼす事じゃない。だから、奴らは言霊強奪の役割を持った部隊がいるはず。それを叩かねばこっちの勝ちにはならない」
一瞬、右側に黒い炎を立ち上った気がしたがハインリヒは見なかったことにした。
「何故……魔族は、言霊を?」
「さてな。生み出すより奪う方が早いとでも思ったんじゃないか。魔族らしい考え方だ」
確かに、ハインリヒにも腑に落ちない点はあった。
言霊を生み出すより奪う方が早い。
そう考える短絡的な知性の持ち主のようにはどうにも思えないのだ。
けれど、そもそも肌も瞳の色も違う生物だ。考えるだけ無駄なのかもしれない。
そう結論付けてハインリヒはヨミから離れようとする。
「そういえば、ウチの義弟は?」
「それがな、いないらしいんだ。直前の情報ではこっちに向かっていると聞いたんだが」
「そうですか……では、見かけたら教えてください」
「ああ、恐らくアレの手綱を握れるのはお前だけだ。頼むぞ」
そう言うと、ハインリヒはクエスたちの元へ戻っていく。
「……」
ヨミはうろうろと歩きながら考えていた。
義弟の性格を。
義弟は、ヨミが八歳の時に、母親に連れてこられた。
何もかもに怯える少年だった。
二つ下だと言われたが、それよりもずっと幼く見えた。
義弟は一人でいることが多かった。
ヨミは言霊を読むことが好きだったので、一人が好きだったのだが、義弟は一人でいること自体は好きそうではなかった。
母親は何も言わなかった。
母親が何も言わないということは特別何かをする必要はないということだ。
ヨミはそう考えていた。
なので、ヨミは言霊をよみ続けた。
母親に教えられて最近よみ始めたが言霊はヨミにとって、別世界へ連れて行ってくれるチケットのようで夢中になった。
ある日のこと、義弟が言霊をよんでいるところを見かけた。
母親曰く、ヨミが夢中になっているのを遠くから見て気になったらしい。
話しかければ逃げてしまう義弟だが、ヨミはいつか仲良くなれるかもしれないと思っていた。
ある日の事、ボロボロの義弟が帰ってきた。
事情を聞くと、珍しく話をしてくれた。
「ぼくのよんでる、すきな、スペルスピリがきもちわるいって……変だって……怒ったら、なぐられた、まけた……まけたんだ、うわああああああああ」
熱のこもった言葉だった。
ヨミは、義弟の言葉を飲み込んで応えた。
義弟の顔を両手で挟み泣き止ませ、その美しい灰色の瞳を見つめて、
「見せて、その言霊」
「え?」
義弟は戸惑った。また否定されるのではと。
「その言霊は恥ずかしい言霊なの?」
「は、恥ずかしくなんかない!」
義弟は強い言葉で否定した。
「見せて」
姉の強いまなざしに、義弟はこくりと頷き、言霊を呼び出す。
紫の、【恐怖】の言霊だ。
ヨミはじっとその言霊を見つめ、そして、その真っ黒な瞳をせわしなく走らせた。そして、瞳を閉じ天に向かって一息吐くと、星を贈った。
ひとつ、ふたつ……。
ふたつの星。
義弟は、項垂れた。
姉もなのか……。
義弟はじわりと目に涙が浮かぶのを感じ慌てて上を向いた。
灰色の泣き出しそうな空が目にうつった。
「私の好みじゃないのと、話が難しかった。でも、主人公がひとりでがんばってかっこよかったのと、女の人がそれをすごくわかってあげてやさしかったから、その二人分で星二つね」
義弟は顔を上げて姉の顔を見た。姉は真っ直ぐな目で、真っ黒な美しい瞳でこちらを見ていた。馬鹿になんてしてなかった。
認めてくれたのだ。ちゃんと。
わるいところも、いいところも、ちゃんとみてくれたのだ。
「スクリムは、星一つね」
「え?」
急に名前を呼ばれ義弟は目をしろくろさせた。
「馬鹿にされたからって喧嘩したら駄目よ、怪我したら私もお母さんも心配する。それに、その言霊がすきな人は乱暴者って思われるかもしれないでしょ。あと、すぐに話してくれなかったからヤダ。あと、」
ヨミは母親に自分が言われた言葉を交えながら、義弟に伝えた。
家族であることを。
「お姉ちゃんである私に、言霊を紹介しないからダメ」
姉は笑っていた。紹介しろ、と。話しかけなさい、と。
「でも、自分の好きなものをちゃんと好きって言えたから、一個はあげるわ」
その日は夕方から大雨だった。灰色の空からこれでもかというほど降り注いで、二人は手をつなぎながら家に戻った。
つぎの日から、姉弟は一つの部屋でそれぞれ言霊を読みながら過ごすようになった。
そして、その後、義弟は【光を紡ぐ者】の才能に目覚めた。
それはライタの中でも異能と言えるもので、普通の能力ではなかったが、騎士団では力さえあればという主義だった為、異例の若さでの騎士団入り、そして、圧倒的な速さで副団長にまで駆け上がった。
「姉さんを守りたいから」
そう言って弟は騎士団に入り、そして、様々な手段を使って、騎士団員でありながら学園に通うというこれまた前代未聞の離れ業を成功させた。しかも、姉と同じ学年での飛び級だった。学園でも彼は一人だった。特に、義弟は特別な言霊を使うことや、現役騎士団員であることから、人から避けられていた。けれど、彼はいつも微笑んでいた。
「誰にも迷惑かけることがないし、それに、」
彼は無口だった。けれど、確かなことがある。彼はだれよりも優しくなった。
人知れず、彼は誰かを助けていた。
もっと褒められてもいいのに、とヨミは言ったことがある。
けれど、そう言うと決まって彼はこう返した。
「姉さんだって、人知れず誰かを救ってるじゃないか」と。
ヨミには心当たりがなかった。
自分なんて、ただ言霊を一日中読み続け、星を贈ることしかしていない。
「うん、そうだね。……けど、そのおかげというか、せいというか、あの腹黒王子とか天才気取りとか赤髪とかが姉さんの周りをぶんぶんぶんぶんと……」
後半何言ってるのかヨミには聞き取れなかったが、何か深い恨みがあることは見て取れた。
聞こえないように話しているのももまた、きっと彼の優しさなのだろう。
彼は人知れず戦う。
ヨミは、駆け出していた。
自分ひとり死んでもまあ別に大丈夫だろう。
それに秘密兵器もあるのでなんとかなると思って、彼女は街を飛び出していた。
東門から街を出て、南に下っていく。
遠く南門の方で争いの声が聞こえる。
それよりももっと南。
森の中。
そこに沢山の紫の光が見える。
言霊達だ。
「これ以上やったら死ぬよ、あんた。さっさとその言霊を渡しな!」
紅い瞳の魔族の女が叫んでいる。その周りには数十人の魔族が一人の男を囲んでいる。
灰色髪の長身の男がボロボロで立っている。
一人で耐え続けていたのだろう。
地面や木々も魔法か投擲兵器かで破壊され尽くしている。
ヨミが何か言おうとすると
「姉さんの匂いが、する」
灰色髪の男はそう呟くが、なんのことか分からない魔族が怒って飛び出してくる。
「わけのわからないことを!」
「待て!」
紅い瞳の女の制止を振り切り、青肌の魔族が飛び込む。が、灰色髪の男の大盾で殴られ吹き飛ぶ。吹き飛んだ先の魔族も数人巻き添えを喰らってのびている。
男は寸分の違いなくヨミの方へ振り返ると、いつもの微笑みを浮かべていた。
「姉さん、久しぶり」
スクリム=フェアリテイル。元王国騎士団副団長。
【不死身】のスクリムと呼ばれる、誰かの為に一人で戦うことが出来る優しい義弟がそこにいた。
「一か月と四日と、二時間ぶり」
「お、おう」
義弟の言葉にヨミは苦笑した。
【恐怖】の言霊
『ひともじ』
☆2つ。後に、☆4つ。
ある屋敷に閉じ込められた数人の男女は、その屋敷を出る為の暗号を見つけ出さなければならなくなる。暗号はひともじらしい。間違える度に誰かが死ぬ。ヒントは屋敷の中に。
しかし、屋敷には彼らを狙う者がいて。という話。
子供の頃読んだときは主人公とヒロインのかっこよさしか目に入らなかったが、成長して読むと周りとのすれ違いによって膨らんでいく二人のそれぞれの狂気の方が怖かったことに気付いた。
BYヨミ
お読みくださりありがとうございます。
私は本当にホラーが読めないんですが、怖いものが多いからあらすじだけは書けます汗
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
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そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!





