閑話1 クエス=ティオンは眼鏡をかけない
番外編です。
抽象的な物語です。
読まなくても本編に支障はありません。
少年は天才と呼ばれた。
少年は自分より年を取った大人たちから褒められ続けた。
少年は頭が良かった。
姿、顔まで見れば大体の人となりが分かった。
会話すれば嘘か真実かが大体分かった。
少年は絶望した。
この世界は詰まらない。
少年は眼鏡をかけた。
よく見えるようになる眼鏡では無い。
よく見えなくなる眼鏡をかけた。
こうすれば、知らなくて済む。
世界が詰まらないことを。
そして、少年は外を見ることをやめ、内に自分の求める世界を作ることにした。
言霊に自分の理想の世界を作りだした。
その世界を人に見せてみた。
その世界は少年より年を取った大人たちから褒められ続けた。
少年は嬉しくなって眼鏡を外した。
一体どういう人がわかってくれたのか知りたかった。
大人たちはいつか見た大人たちだった。
少年は頭が良かった。
少年は絶望した。
表情、会話から理解したつもりになっているだけだと気付いた。
ちゃんと見ていないと気付いた。
子どもたちは素通りする。
子供達には分からないだろうから仕方ない。少年はそう考えた。
一人の少女が言霊をじっと見ていた。
黒髪の美しい少女だった。
少女は言霊に一つだけ星を贈った。
少年はその少女が美しいにも関わらず、自分に星を一つしかよこさなかったことに酷く腹が立ち、真っ赤な顔で話しかけた。
「お前、分かってもいないのに、星を一つしかつけないのか」
少女は首を傾けて答える。
「分かっていないから星を一つつけたのよ。分かればもっと楽しそうだから星を一つつけたのよ。あなたが書いたの?」
分かっていない事を分かっているのだ。
少女はちゃんと見たのだ。少年の世界を。
少年は必死になってその女の子に説明をした。
その世界の成り立ちを、色を、匂いを、物語を。
少しずつ自分の世界に色が、声が、心が生まれていくのを感じた。
その女の子は目を輝かせて聞いていた。そして、一通り聞き終えると、こう言った。
「それをちゃんと見せてくれたら私もこの世界が分かったのに」
男の子は絶望した。
ちゃんと見ていないのは自分もだ。
こうして理解しようとしてくれている人がいることや、
理解してもらえる努力をせずに他人には分からないと決め付けたこと
そして、自分の都合のいい世界をつくろうとしていた。
嫌な都合から目をそらして。
彼女は見ていた。
ちゃんと見ていた。
だから、つけたのだ。
つけてくれたのだ。
星を一つ。
光り輝く星を。
まだ灰色な世界をその星の小さな光が照らした。
人々の表情が見える、街の様子が、色が、匂いが、思いが見えた。
ちゃんと見なければならない。
見て欲しいのならば。
青年は眼鏡を外した。緑の瞳にはまだ知らぬ世界がうつっていた。
黒髪の女性は再び青年の世界を見ていた。
その黒い瞳で真っ直ぐに。
そこには嘘はなかった。
彼女が星をくれれば青年は溢れる力を感じ、星をくれない時は痛みを感じた。
痛みがあった。
痛みがあるのはちゃんと見ているからだ、感じているからだ、向き合っているからだ。
青年は笑った。
生きている。
この世界は、素晴らしい。
まだまだ見えてないものばかりだ。
青年はもう眼鏡で緑の瞳を隠さない。
痛みも汚れも臭さも何もかも、ちゃんと向き合うと決めたのだ。
幸せで美しく清らかな世界を作る為に。
彼女を自分の作った素晴らしい世界に連れていくために。
細かくちゃんと書くパターンも考えたのですが、せっかくなので、やったことない書き方で閑話をお届けしました。
混乱させたらすみません……。





