LOST DREAMER ～30代童貞は性を知らないので、淫魔の誘惑に対抗できると国に判断されました。今から東京を襲う淫魔を殺しに行きます～

淫魔 <サキュバス> Ⅱ

　「1000年前に起きた30代童貞の奇跡。日本史でいうと平安とかの時代ねぇ」

　「そして、戦いの最期に淫魔(サキュバス)は。『備えよ。1000年の時を超えて。』という言葉を残して人間社会から姿を消したんだよ。この話についてはヒルデスハイム聖典っていうキリスト教の書物の中でも特に正確性の高いものでね。デタラメとは考えにくいんだ。」

　「・・・？それだけの情報であんたはこのプロジェクトを作ったのか？」

　「話は最後まで聞いてほしいな！☆☆☆　最初はどの歴史学者も淫魔襲来の歴史には半信半疑の態度だったんだけど、欧州や中東、そしてシルクロードを渡って中国や日本にまで様々な聖典や書物に淫魔の襲来がめちゃくちゃ鮮明に描かれているから、どの歴史家も次第にこう思うようになってきたんだ！　『これ事実なんじゃね？』ってね！！！

　それで一応の念の意味を込めて、2006年に淫魔の調査機関が国連に設置されたんだ。もし淫魔が本当に人間社会に現れたら怖いからね！当時は国連もお金あったし☆」

　教授が語るには2006年に国際淫魔情報機関 "ISIA" が秘密裏に設立された とのことである。秘密裏　というのも特に機密的なものではなく、存在するかも分からない淫魔を調査するために多額の国連予算を割くとなれば反発どころか世間に呆れられてしまう とのことが理由らしい。どおりで俺たちはそんな楽しそうな組織を知らないわけだ。

　「そんな流れで気楽に国連の予算をムシャムシャ食べながらISIAは活動していたんだけど・・・　あーごめん、こっからは国家機密ね。ボクとの約束だよ☆　話していい？下田くん？？？」

　「仰せのままに」

　警視庁総監、下田の顔が少し強張る。いや、これは覚悟の顔なのか・・・？

　「1000年前、丁度淫魔襲来前のドイツ南部にオーロラが発生したっていう記述が当時の様々な文献で見られるんだ。オーロラだよ？あの北極圏とかでしか見れないオーロラがドイツ南部で観測されたんだよ？？？絶対これおかしいよね？？？

　という訳で彼女ら(サキュバス)が出現する際にはオーロラの出現、もしくは大規模な磁場の乱れが予兆として現れるんじゃないか？っていう仮説の下でISIAは調査を進めたんだ。」

　オーロラが北極とか南極でしか見られない自然現象であることはもちろん俺でも知っている内容だ。だからドイツ南部でそれが見られることのヤバさは分かる。

　「しかし、オーロラと淫魔の連動性は確実じゃないんだろ？その連動性を丸呑みするのもどうなんだ？」

　「あー、それがほとんど確実になっちゃったんだよね。なんてったってISIAたち淫魔から直接聞いたし☆」

　「・・・は？ちょっと待て！淫魔は既に人間社会に現れているのか？」

　「んま、簡単に言うと2014年にドイツ・ハンブルクで小規模だけどオーロラが観測されたんだよね。その街に存在する巨大歓楽街レーパーバーンに不審な女がいたとの連絡があって現地の警察が捕まえたんだけど、どうにも不可解な点が多かったって話があってね☆

　人間に見られる生物学的な反射とかが見られない、との知らせを受けて急遽ISIAが彼女を調査したんだよ。そこでとある事実が判明した。」

　「・・・とある事実？」

　「んー？簡単に言うとね・・・　彼女が　淫魔(サキュバス) であることが判明しちゃった☆」

　唐突に判明する淫魔が既に人間社会に出現しているという情報。しかも7年前だ。おいおい、さっきの淫魔が人間社会に現れることに対する危機感への煽りは何だったんだ？普通にヤバい状況じゃねぇか。

　「安心してよ真田クン。彼女はただの調査部隊さ。人間社会への侵攻拠点をどこにしようかなーっていうただの調査部隊。その後、本来観測されないような場所でオーロラは発生していないし、淫魔や不審生命体の目撃情報もないから安心して☆

　それで特殊な方法を使って彼女(サキュバス)を尋問したんだけど・・・ま、その結果次の振興拠点の目途がついたんだよ。特殊な方法ってのは後々説明するから今は割愛するとして、下田くん、ア(・)レ(・)に繋げれる？」

　「はいはい、ちょっと待っててね。戸田教授」

　下田は少し面倒臭そうにタブレット端末を起動した。さきほど少し見えた彼の覚悟は教授のテンションもありどこかへ行ってしまったようだ。

　彼はビデオ通話アプリを起動している。どうやら誰かと話すようだ。

　「よし、起動した。もしもし？警視庁の下田だ。山崎くん聞こえている？いま最後の一人に状況を説明しててね。あれ見せてあげて？オーロラの話まではしたから。」

　「はいはい下田さんりょーかいです。真田君こんにちは！聞こえている？気象庁の山崎ですー」

　「初めまして。真田です。」

　タブレット端末に映る作業着姿の職員。彼が山崎という人物らしい、しかし気象庁と言ったような・・・"気象庁"？この状況ってもしかして・・・

　「オーロラの話まで聞いているのなら、もう直接これ見せた方が早いね。後ろに映っている映像見れる？一応これメディアとかに流すと大騒ぎになるから内密にね。」

　状況は察知したが映像を確認した。予想通り、映るものは関東地方の地図と東京23区上空に覆いかぶさる青緑の光。そして画面右上に表示されている3日後の日付・・・

　気象庁の職員が言うのだから間違いない。現れるんだ。3日後、この東京にオーロラが。そしてこの教授の話す内容が正しければ、やつら(サキュバス)も。

「だから世界中から厳選した君たちのような　30代童貞(ロスト・ドリーマー)をここに集結させたんだよ！すべては1000年前の奇跡を再現して淫魔の侵略を防ぎ切り、東京を、日本を、いや世界を守護するためにね☆」

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ときたま入る歴史は参考程度に。