七話 隠し部屋に隠しボスはつきもの
そこにいたのは、五メートル程の巨人。
赤黒い肌に、巨大な牙。加えて鋭い爪。
何ともひねりのない魔物の姿。だが、そこから感じられる雰囲気は、尋常ではなかった。
「こ、こいつは……!?」
『おいおい。こりゃどういうこった。何で、【グレンデル】がこんなところにいるんだよ……!!』
「ぐ、グレンデル……?」
『【ダンジョン】の魔物の中でも最上級の魔物だ。ってか、少年。ここって何階層なんだ?』
「い、一階層ですけど……」
『はぁ!? おいおい冗談だろ。何で【グレンデル】が一階層なんかにいるんだよ。アレは普通、八十階層にいるもんだろ!!』
「八十階層って……」
信じられないと言わんばかりの十護。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
『逃げろ、少年。アレはレベルが90を超えてても厄介な相手だ。何が何でも走り続けろ、止まるんじゃねぇぞ!!』
「は、はい……っ!!」
言われ、即座に走り出そうとする。
しかし―――次の瞬間、グレンデルの拳が、十護の体にたたきつけられた。
「がっ……」
『少年っ!!』
まるでサッカーボールのように吹き飛ばされ、何度もバウンドしながら、地面を転がる。
(な、にが……全く、見えなかった……)
あまりにも早すぎる攻撃。咄嗟のところで防御の姿勢をとったためか、何とか即死は免れたが、しかしたった一撃で十護の体はボロボロである。
『っ!? 少年、早く起きろ、次の攻撃がくるぞっ!!』
言われるものの、しかし体が言うことを聞いてくれない。
逃げなければいけない。立たなければいけない。動かなければいけない。
それを理解しているのに、何もできずにいた。
(ここ、で……死ぬのか……)
冒険者が【ダンジョン】で死ぬのは日常だ。特に珍しくもない。それこそ、今まで『スキルゼロ』と呼ばれ、史上最低値のステータスを叩き出した者なら、死ぬ確率は高い。いいや、むしろ今まで生き残っていたことの方が奇跡なのかもしれない。
ゆえに、ここで死ぬは当たり前のこと。
ゆえに、ここで終わるのは自然なこと。
それがお前の運命なのだから。
そんな言葉を誰かに言われているかのような、この状況下で。
(―――――――い、やだ)
十護は心の中で呟く。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
こんな場所で死にたくない。
こんなところで終わりたくない。
自分はまだ何もしていない。何も、何も、何も……。
人間、いつか必ず死ぬときがくる。終わる時は絶対にやってくるのだ。それこそ、【ダンジョン】云々関係なく、当然のようにその時は来てしまう。
だが、しかし。
それでも、それでも、今、この場でこんなところで、それを迎えるのは御免被る。
そんな十護の心の声を知らないグレンデルは、大きくその拳を振りかざす。
『ちぃ!! 少年、早く逃げ、のわっ!?』
咄嗟に五代は十護の方へと駆け寄っていこうとするも、勢い余ってその場でこけてしまう。そうして、その体が十護に触れた瞬間。
――――――条件を満たしました。スキル『憑依・依代』を解放します。
刹那、そんな声が聞こえたと同時に、グレンデルの拳が、十護めがけて放たれる。
そして、次の瞬間。
「―――おいおい。こりゃまた、どういうこった?」
そんな、まるで別人にでもなったかのような口調で、十護はグレンデルの巨大な拳を片手で止めていたのだった。
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