六話 自分を有名人だと言う人はかなり怪しいよね
「ご、五代和馬って……あの【神風】、五代和馬さんですかっ!?」
言いながら、十護はその顔を見ながら、確かに、と納得していた。
五代和馬。
冒険者の中で、その名前を知らない者は存在しないとされる程、伝説的な男だ。
この【ダンジョン】が出現して、三十年。その歴史の中でも、最も多くの階層の主である【ボス】を踏破したとされている。
本来、階層の【ボス】はトップ冒険者が束になっても勝てるかどうかわからない怪物たちだ。
しかし、彼はその並外れた力によって、多くの【ボス】を単独で踏破したとされている。
そして何より。
彼は冒険者の上限であるとされていたレベル100を超えた数少ない存在、レベル101―――『ハンドレッドワン』に最初に到達した人物でもある。
『お、何だ何だ。お前、俺のこと知ってんのか』
「【ハンドレッドワン】……『神風』の五代和馬を知らない人はいないですよ」
まるで流れ星の如く、トップスピードで成長し、瞬く間にレベル100を超えた男。彼が赴く戦場は、どんな窮地であろうとも、逆転の風を吹かせる。まさに、勝利を呼ぶ風を吹かせる男とまで言われていたのだ。
「でも、どうしてこんなところに……死んだって噂は確かに聞いてましたけど」
『あー、うん。まぁ、その点については、俺も結構あやふやな感じなんだよ。自分が死んだってことはちゃんと覚えてるんだけどな。自分が何でこんなところで幽霊やってるのかは、全く分からん』
腕を組み、首を傾げるその様子から、どうやら本当に自分がなぜここにいるのか、分かっていない様子であった。
(本物……なのかな……)
疑問を抱く十護。当然だ。自分を元最強冒険者だと言われて、はいそうですかと簡単に信じるほど、馬鹿ではない。しかも、相手は首無し。英雄であり、伝説の冒険者でもある五代和馬の顔は十護も知っているが、顔がないのであれば、確かめようがない。
『で、だ。さらに訳が分からない状況が今起こってるんだが……どうやら俺は、お前に取りついているらしい』
「取り憑いている……らしい?」
『何で疑問形なのかは、俺が故意に取りついたわけじゃないから……というか、人に取り憑く方法とか、分からないし。でも、何故か俺は今、お前に「取り憑いている」って理解しちまってるんだ。んで、質問なんだが、何か心当たりはないか?』
「心当たりっていっても……あっ」
言われ、十護は先ほどの更新のことを思い出しながら、ステータス画面を開く。
そこには今まで書かれていなかった文字が追加されていた。
「た、多分、このスキルのせいかと……」
『【憑依・霊視】……? 初めてみるスキルだが……成程。これのせいで俺はお前にとりついちまってるってことか?』
「は、はい。でも、僕もこのスキルをちゃんと使ったことがなくて……っというか、さっきまで解放条件すら分からない状態だったので……」
そう。今日という日まで、十護はこれのせいで、散々な目にあってきた。スキルが解放されないことで、『ゼロスキル』と揶揄され、馬鹿にされ続けてきたのだ。
それがこうもあっさりと解放されたことに、少々戸惑いを隠せずにいた。
『解放条件が、【ダンジョン】内での幽体との接触……成程。それで、俺が初めてお前に接触した幽体ってことか。だから、今までこのスキルが解放されなかった、と』
「そ、そうです」
『今のところ、分からないことが多々あるが、少年。名前は?』
「佐倉十護です」
『そうか。では、十護少年。とりあえず、頼みがあるんだが……俺を連れて、ここから出てくれないか? 』
「???」
言っている言葉の意味がよく分からず、十護は思わず首を傾げてしまう。
『実はな。俺がこの状態で目覚めたのはつい最近なんだが、どうやらあの刀に憑りついていたらしくてな。おかげでここから出ることはできなかったんだ。だが、今俺はお前に憑りついている状態に変化した。つまりは』
「僕がここを出れば、貴方も一緒にここを出られるってことですか?」
『そういうことだ。流石にずっとこの状態っていうのはごめんだからな。な? 頼むよ~』
「あ、はい。別にいいですけど……」
『そうか。そりゃ助か―――避けろ、少年っ』
へ……? と呆けたような声を出したのもつかの間。
唐突に、ドン、という衝撃音と共に、十護の真後ろに『何か』が落ちてきた。
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