二話 ダンジョンでは誰でも冒険できるとは限らない
それは一週間程前までに遡る。
いつものように、【ダンジョン】から帰ってきた後、出入り口で手続きを済ませようとしていた時、いくつかの視線が、十護の元に集まっていた。
そして、それはどう見ても好意的なものではなかった。
「みろよ、あれ。『無能』だぜ」
「あれが噂の、初っ端からスキルを一つも持ってないっていう、あの?」
「ああ。【精霊】と契約して冒険者になれば、誰だってスキルは一つ確実に貰えるっていうのに、あいつの場合、それすら貰えなかったんだと」
「しかもあいつ、冒険者の適性検査で、史上最低値を叩き出したって話だぜ?」
「うっそまじ? スキルも持ってなくて、適性も最低って、それもう完全に冒険者になるなって言われてるようなもんじゃん」
まるで本人に聞こえるかのような声音。いや、実際、彼らは十護に聞こえるように言っているのだろう。そうやって、彼をおちょくることで、遊んでいる、というわけだ。
「でも、よくそんなんで冒険者になれたよな。冒険者って、適性検査の結果を【精霊】が見て、自分のギルドに入れるか判断するもんだろ? 適性検査の最低値を出した奴を受け入れた【精霊】がいるなんてな」
「それがさ。どうやらあいつ、【バンシー・ギルド】に入ったらしいぜ?」
「うっわ。マジ? 【バンシー・ギルド】って、あの不吉を司る【精霊】バンシーがギルド長してるってところだろ? 不吉だって言われて、ギルドメンバー一人もいないんじゃなかったか?」
「ああ。大方、【バンシー・ギルド】なら入れると思ったんだろうぜ? んで、【バンシー・ギルド】の方もギルドメンバーは誰でも欲しかったから、あんな野郎でも受け入れたってことだろう。ま、何にしても、落ちこぼれのところには落ちこぼれが集まるってことなんだろうよ」
「違ぇねぇ」
言いながら、ゲラゲラを笑う男たち。
先の男たちからの話から分かるように、十護の扱いは、冒険者として半人前どころか、それ以前の落ちこぼれである。
どうしてこんな扱いをされているかというと、それは彼らも言っていたように、十護がスキルを一つも持っていないから。
いや、正確には、スキルを持っているが、未だ使える状態にはなっていないから、というべきか。
加えて言うのなら、彼のステータスは適性検査の結果通り、最低な代物となっている。
ゆえに、男たちに反論しようにも、事実なため、何も言い返すことができないのだ。
「あ、それよりよ、聞いたか? 例の『舞姫』の噂」
「ああ。この前、とうとうレベル100になったんだってな。これで今、レベル100は八人かー。にしても、早かったな。確か、最速期間でレベル100に到達したんだってな」
「全くすげぇよな。しかも、『舞姫』ってすっごい美人なんだろ? 強くて美人だなんて、いいよなー。このままいけば、もしかすればレベル101……四人目の【ハンドレッドワン】になれるんじゃないか?」
「はははっ。流石にそれはどうだろうな。でも、そうなれば、あの最初の【ハンドレッドワン】、『神風』の記録すら更新するかもな」」
【ハンドレッドワン】。
それは、上限と言われていた、レベル100を超えた、まさに最強無敵の領域。そこにたどり着いたものは、今までたった三人しかいない。
レベル100でも冒険者としては化け物や超人レベルの話ではない。最早兵器といってもいいほどの実力を持っている。それすら超えた、レベル101は人類にとっては想像をはるかに超える代物だと言われている。
(凄いなぁ……でもまぁ、僕には関係のない話だけど)
レベル100だとか、それを超えた【ハンドレッドワン】だとか、そんなものは自分には関係ない。
『スキルゼロ』と最低値のステータス。それを見せつけられたのだから、遥か上の届かない夢など、追うことなど無意味なのだから。
そう……少なくとも、この時まではそう思っていた。
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