表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈍白のサクラメント -白の異彩と鈍色さくら-  作者: チェリヰ
第一夜 出来損ないチェリーブロッサム
3/48

#3 鏡映しイデアル


 夜の帳が下りる。


 瞼を閉じて真っ暗な視界の中、だんだんと肉体の感覚が消失していくのがわかる。

 現実と非現実が混ざり合い、浮遊感へと意識が包まれる。

 それに抗わず、ただゆっくりと水底へと沈んでいく。

 沈んで、沈んで、沈んで、そして底へと足の付く感覚。

 それを引鉄に、一気に身体の感覚が戻ってくる。

 いや、その表現は正確じゃない。なぜなら、感覚の戻ったその身体は現実で眠りについた私の身体とは別物なのだから。

 瞼を開く。そこに映るのは、真っ白な本棚の立ち並ぶ白い空間。これが、私の『夢』だ。


「あ、あー。うん、問題無し」


 手のひらを握ったり開いたり、手首足首を軽く捻ったりしながら問題無く身体が動くことの確認。

 夢の中におけるこの体は、リアルの肉体をそのまま反映しているわけじゃない。

 ベースとなるのは想像上の自分。こうありたいと願う自分。こうあるべきだと信じる自分。こうあるのが一番しっくりと来る自分。

 リアルとは遠くかけ離れた姿になることだってあり得る。子供が大人になったり、性別が逆になったり。

 知ってる中で一番極端な例だと、もはや人の形を捨てて二足歩行のウサギになってる人もいる。いや、あの人のリアル知らないからマジで遺伝子改造とかされたウサギが悪夢祓いやってるのかもしれないけども。

 私の場合はそういうのに比べたらかなりリアルに近いほうだけど、それでも身長とか腕の長さとかは多少変わってくるから、体を動かす感覚もリアルとちょっと違う。


「ミラー。アクティベート」


 手をかざして、目の前に大きな姿見を出現させる。

 私自身の夢を操作してるだけだから本来なら言葉に出す必要も、手をかざす必要すら無いんだけど、やっぱり何も無いと味気ないし、こっちの方がしっくりくる。


 鏡に映るのは今の『私』の姿。

 足りない身長と胸をちょっと盛って、目も少しだけ大きく。黒髪とも茶髪ともつかないどっち付かずの地毛は、思い切って桜色(ピンク)に。ついでに言うこと聞かない癖っ毛はストレートに変換して、リアルじゃ伸ばすと果てしなく暴れ狂うからできないセミロングに。

 どう? かわいいでしょ? 精一杯盛ってもありのままのちーちゃんに敵わない? あれはもう別格だからしゃーない。


「……んー、ちょっとだけ寝癖付いてるかな。まぁ許容範囲か」


 鏡で身だしなみをチェック。と言っても別にかわいさをチェックしてるわけじゃ無い。

 確かめてるのは正常さ。思い描いた自分の姿をしてるわけだから、精神状態が安定してないとこっちでの姿に影響が出たりする。今回は学校でちょっと寝ちゃってたのが割と強く残ってたみたいだ。

 ペタリと撫で付けて、髪を整える。これでよし、と。


 体調の確認は終了。結果は問題無し。


防衛機制(カウンターシステム)・起動」


 こっちは意味のある音声認識。

 言葉をキーに、足下に光の輪が生まれる。

 光の輪は緩やかに回転をしながら私の体を包み込むように上へ上へと昇っていく。それに合わせるように、外付けの装備が形成されていく。

 スカートのベルト通しにかけたカラビナに、手のひら大のプレートが三枚。元々着ていた服の上から更に羽織るように、背中に紋様(ロゴ)の入った白いコート。そして、耳に小型のインカム。


「一番隊所属、悪夢祓い・サクラ(、、、)。準備できました」


 虚空に向かってそう呼びかける。まぁ実際はコートの襟元あたりで音を拾ってるわけだけど。

 名乗るのが本名じゃないのはそれがルールだから。いわく、「凄い美少女が明らかに男の子な名前名乗ったりしたら色々察しちゃうでしょ」とのこと。


『こちら本部、八凪。聞こえてるよ』


 インカムから返ってきたお姉さんボイスの主はオペレーターの八凪(やなぎ)幽姫(ゆうき)。中の人が誰なのかはあえて言うまい。


「お疲れ、ゆっきー。加勢しなきゃマズい所ある?」


『今のところは大丈夫かな。二箇所戦闘中だけど、どっちも戦況は安定してる。サクラちゃんはそのまま待機……ごめん前言撤回。新しい夢魔反応が見つかった。すぐに繋ぐから、ちょっとだけ待ってて』


 数秒の間、カタカタという音が響く。

 すぐに音は止み、目の前の姿見を上書きするように大きな門が現れた。


『オッケー、これで繋がったはず。いつも通り、向かってもらうのはサクラちゃんと隊長の二人。大丈夫だよね?』


「大丈夫だよ」


 答えながら、門に手をかける。


『ご武運を。……がんばってね』


 その言葉を聞きながら、門を思いっきり押し開けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ