元大魔王と元聖女の待合室
よろしくお願いします。
「だから、なんでだっ!」
元大魔王ことアズモデウスの叫び声が、ボロい四畳半待合室に響く。
元聖女こと私、イリスはあらあらと口元を押さえた。
「アズモーさん、叫ぶとぺちゃっと潰れそうですわ、此の部屋」
「アズモーさん呼ぶなっ‼︎何故貴様はその様に落ち着いているのか!ええい、茶をすするな!」
ちゃぶ台の上に置かれた湯呑みを両手で包みズズッとすすると怒られた。そうは言ってもやる事など無し。私は一緒に置かれたお茶請けの煎餅をバリリと齧った。
「ボリボリ、同室なのは仕方ありませんわ。バリっ、なにせ私達は同日、同刻、更に同じ場所で死んだのですから。部屋割りは時間毎って説明されたではありませんか。もぐもぐ」
「食しながら話すでなぁーーい!」
そう、私達は同じ日同じ時に同じ場所で戦って死んだ。
“御世に大魔王が現れた時、世界は混沌に包まれるだろう。だが、その混沌を神が遣わせし聖女が払うであろう”
先の教皇様が今際の際にそう告げた。
そして3年後、本当に大魔王が魔族国に現れたのだ。
隣のソルディーナ国としてはたまったもんじゃない。急遽聖女を探し出し、選ばれたのが当時9歳だった私。
ソルディーナ国の公爵令嬢として産まれた私には前世の記憶があった。お陰で神童と呼ばれ、更には類稀なる神聖魔法の才能があった。
あれよあれよと担ぎ出され、鍛えられた挙句に、14歳の年、騎士と共に魔族国へと討伐に旅立った。
1年かけて大魔王の元へ向かい、全ての魔力を出し切り、大魔王が死んだのを確認して力尽きた。
享年15歳。
「本当、私の人生って…はぁ〜ばりぼりばりぼり」
よくよく考えれば、別に大魔王が混沌を起こすとは言ってないし、大魔王を倒せば混沌が晴れるとも言ってないし。
「それっぽいこと言っとけば最期格好いいと思ったんですかね、あの教皇。ねぇ、アズモーさん」
「アズモーさん呼ぶな。絡むな。巻き込むな。俺完全に人族のとばっちりだし」
1年間お風呂は最低限。食事も不味く、デザート無し。
「そうですわねぇ。帰ったらケーキバイキング行くって決めてたのに。ここは煎餅バイキングだし。ばりんごりん。また生まれ変わったら絶対ケーキバイキング行くわ!それからアズモーさんに会えたら一生かけて償うわね!巻き込んだお、わ、び♪」
「本当ヤメロ!もう貴様とは同じ時を生きたくない!」
「照れないで下さい。きっとお役にたちますから」
「誰が照れてるかーー!」
ここは転生を待つ者の待合室。
ありがとうございました。