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ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第四章 四人での旅
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67.幻影


翌日、再びペルーンに向かって馬を進める。


このまま行くと、今日中にはペルーンに入れそうだ。だが、昼に休憩のために食事処に入ったとき、気になる噂が耳に入った。


ーーこの周辺で、盗賊集団が出没していると。


店の者に、その盗賊集団について知っているか聞いてみたところ、2ヶ月くらい前からそういう話を聞くようになったとのことだ。


黒いものによってヴァシリーサの国が陥ちてからのことだ。

ひょっとして、黒いものと関係があるのか?

サーシャたちが、巻き込まれていないだろうか?


なんでも、旅の者をボディガードだといって同行して、人目につかないところで襲うという卑劣な集団だそうだ、旅人が通る道に術罠をしかけて旅人を捕らえることもするらしい。


旅人から身ぐるみはいだり、慰みものにしたり、場合によっては殺したり、

殺されない場合は、奪い取った後で人身売買組織に売り飛ばしたり。


重罪ばかりやりたい放題の集団だが、被害者が殺されるか自我を破壊されてでしかでないので、容疑者の面が割れないのだ。


サーシャは黒いものを感じて黒いものの方へ行こうとするところがあるから、

もしその集団と黒いものが関係していたら、サーシャが危険だ。


とはいってもその集団の足跡も追いようがない、現時点でイーゴリとヴィクトルにできることは何もなかった。


不安を胸に、また出立する。


ーーサーシャたちが正にその集団を仕留めていた頃のことだった。


俺らを間違って襲えばいいのにな、とヴィクトルが言う。

そうしてくれたらどんなに楽か。


だがどう見ても屈強な男と身のこなしのよい男のコンビなど、ターゲットにする盗賊などいないだろう。

剣や魔法が使えるものどもならば尚更、一番襲いたくない相手である。

念のために用心しながら進んではみるが。


そして何事もなくペルーンの手前まで来た。

ここは、周辺領土を取りまとめる王がいる王都であった。

身分を明かして、サーシャたちがこの国に入っている情報がないかどうか問い合わせてみるか?という話になり、

王の宮殿へと足を運んだ。


王は世界会議に出発する準備をしていたところで、ヴィクトルとイーゴリを丁重に迎えた。

急な来訪を詫び、早速サーシャの情報がないか問い合わせる。


すると、サーシャの情報は特になかったが、例の盗賊集団の一部が捕まったという一報が、北部の領主の所から届いているとのことだった。

取り急ぎの知らせだったようで、詳しい内容はまだ届いていないようだ。


王が泊まる部屋を準備してくれたので、詳細が入り次第教えてくれるように頼んでおいた。

それと、その領地にサーシャたちの痕跡がないかも併せて問い合わせてもらった、

通信に時間を多少要するから、返事はおそらく翌朝になるだろう。


サーシャの痕跡があれば、とひたすら願いながら、

王のもてなしを受けて食事を取る。

この辺りでは、黒いものの直接の被害は出ていないようだ、黒いものの噂と、ヴァシリーサの国が陥ちたことは知られていたが。

実物を見ていないから半信半疑だったようだが、イヴァンの国も陥落寸前だったというヴィクトルの話で、王も脅威を認識していた。


* * *


世界でも指折りの剣士であるイーゴリが来訪しているということで、剣の指南を望む声が出た。

王の頼みに、イーゴリは応じた、泊めてもらうのだし、むしろサーシャの心配から気が紛れてよかったのだ。


王宮の護衛と剣を交える、

さすが皆実力のある者ばかりだった。

だがそれでも、5人を一度に相手にしてまったく体勢は崩れない、護衛の者たちはただただ、剣を限りなく極めたイーゴリに感嘆するばかりだった。


続いて、一人ひとりに直接指南もする。

弱点を指摘して、強化する方法を教えたり、

不意をついて、あらゆる場合に備えられるように教えたり。

女性の護衛も2人だけいた、

いつもやるように、手加減などなくまったく同じように対峙する。

さすがは本物の護衛、力では多少男性に劣るものの、身軽さを利用したり技術でカバーしたり、イーゴリに怯むことなく指南を受ける。

ヴァシリーサの女性軍人を彷彿とさせる、頼もしい剣の遣い手だった。


…………

…………


王宮が寝静まったころ、イーゴリは何となく、裏庭に出て、再び剣を振っていた。


剣舞奏の型を、次々構えていく。


落ち着かない心を落ち着けるために。


だが、剣を振るほどにーー


何かが満たされない。


無心になれるはずが、なぜ?



普段なら、集中できない自分に喝を入れるところだが、

今はなんとなくーーなぜ、集中できていないのか?と自分自身を見つめてみている。


何が、満たされていないのか?



何度か、型を構えたとき。


目の前に幻影が見えた気がした。



サーシャの姿。


自分と対になって、型を構えている。


自分が動くと、呼応するように、サーシャの幻影が動く。


ーー夢の中にでも、いるのだろうか?


サーシャの幻影が、実になめらかに動き、自分の動きと見事に調和している。


ーー姫さま。


声には出さないが、心にそう思った。


サーシャの幻影が、微笑んだように見え、


イーゴリが次の型を構えた瞬間、消えた。



イーゴリは構えをとき、その場に立ちすくんだ、


ーー姫さまの幻を見ていたのか。


ヴィクトルの問いが、何故だか頭の中を巡っている、


ーーもし、王族とか、身分がなければ、サーシャのこと、どうする?



もし。


もし身分が関係なければーー


姫さまと共に、いつまでも、型を紡いでいたい、先ほどの幻影のように。



姫さまが心配なのではなく。


心配は心配だが、それよりも、


どこか満たされないのは、姫さまがおられないからだ。



……俺は、姫さまに会いたかったのか。


姫さまには自分がいなければ、と思っていたがーーヴィクトルに言われたようにーー、


自分の方が、姫さまがいなければ、満たされないとは。



だが、首を振った。


ーー親心のようなものだ。

姫さまが大切なのは当然のことだ。


だがいずれ、ふさわしい男へと引き継ぐのだ、

そう、いつまでも一緒になどと考えてはならぬーー



イーゴリは剣を下ろすと、鞘に納め、部屋へと戻っていった。



それはちょうど、サーシャが剣舞奏の練習を終えて、尋問に向かおうとしたときのことであった。


* * *


翌日、例の北方の領主から通信が届いた。


サーシャとナターリヤが盗賊集団の一部を始末し、一部は捕らえて、領主のところを訪問したという詳細だった。


二人が無事だという知らせに、イーゴリの顔が一瞬にして穏やかになる。

感情を出さないイーゴリにしては珍しいことだと、ヴィクトルはその変化を観察していた。


「だから言っただろ?あいつは何とかできる奴だって」

「ごもっともでございました」

「ま、俺も一安心したのは否定しないがな」

「ですが、ペルーンまではもう少々道のりがございます。ナターシャに多少なりとも疲労が溜まっておりましょう、早めに再会するに越したことはございません」

「ほんっとに心配性だなお前」


サーシャとナターリヤは、本日出立予定のようだ。

魔法通信の発信時間を逆算すると、もう発っている頃だろう。


地図で道のりを確認する。

ペルーンとの国境は、広い河川になっている。

ペルーンに入国するには、この国からは一箇所しかない橋を渡る必要があり、ここでなら間違いなく出会えるだろう。


「急いで橋の手前まで向かいましょう。

飛ばせば昼過ぎには着けましょう」

「そう急くなよ、そんなにサーシャに会いたいか?」

「当然ではありませんか、この目で姫さまのご無事を確認せぬことには、消息が分かったにしても安心してはおれませぬ」

「分かった分かった。

俺もそろそろあいつらに再会したい。お前と二人だと堅苦しくてしょうがねぇ、サーシャはよく平気でいたもんだ」


ヴィクトルの軽口に、イーゴリは表情を変えることなく無言でいた。


サーシャが恋しくて会いたいのかと言外に聞いたつもりだったのだが、イーゴリには通じていなかったらしい。

例の術は、恋心に作用することまではないが、下心の類は失われてしまうため、好きになっても手に入れたいという欲求がない、といったことが起こると聞いている。

イーゴリももしかしたらそういう状態かもしれない。

ただ、生真面目すぎるため、サーシャへの恋心など絶対認めないだろうが。


サーシャとの信頼関係は強固であり、互いに命を掛け合っているのも、イヴァンの国で黒いものに一緒に飛び込んだことからよく分かるが、それでもすんなり男と女という方向にはいくまい。

何かきっかけでもない限り、先はまだ長いだろう。


ーーナターシャに愚痴りてぇなーー


二日間だが、気軽に軽口を叩き合えるナターリヤがいなくて、何か物足りないものを感じていたのだ。

その意味でも、ヴィクトル自身も心配とは別に、早くサーシャとナターリヤに再会したい思いが募っていた。


では近くペルーンで、と王と挨拶し合い、ヴィクトルとイーゴリは宮殿を発つ。


後ろにつくイーゴリに煽られるような気配を感じながら、ヴィクトルは一路ペルーンへと馬を走らせた。


イーゴリ、サーシャに会いたいあまり煽り運転中。

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