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ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第四章 四人での旅
65/201

65.蜘蛛の巣 4

今回久しぶりに下書きを大幅に書き換えていて時間かかりました。。


ナターリヤと共に牢に向かい、寝ていた3人を牢番に起こしてもらった。

3人とも当然ながら嫌そうな顔をしている。


「さて……貴様らの処遇を任されたので、どうしたものか考えているのだが」


サーシャは、勿体ぶったように言った。


「貴様らの罪状は粗方見せてもらった。

強盗幇助(ほうじょ)、強姦幇助、人身売買幇助、殺人幇助……

見事に重罪ばかりじゃねーか……

まぁ、直接関わってないといえばそうなのだが、同罪だな、私のことを抜きにしても処刑だな」


「ちょっと、私たちはやってない!」

女が文句を言う。


「黙れ」


サーシャは一瞥して言った、女は言葉を飲み込んだ。


「この集団にいたということはやった者どものことを容認してたんだろ、

現に一緒にいたわけだからな。いずれ手を下す側に回ったろうし。

というかどうせおこぼれに預かってんだろ?同罪じゃねーか」


囚人は口籠っている。


「処刑するのは容易いが……

私は人殺しは好きじゃないんだ。

貴様らが更生してくれればと思っているんだよ?」


囚人たちの目が、密かに輝く。

ああ、助かってまた悪さをするな、とナターリヤは感じた、

サーシャは……何を思ってそんなことを言っているのだろうか。


「だが、きっと自由になるより牢の中のほうが安全だろうな」


「どういうことよ」


「あの黒いもの」


サーシャが言うと、囚人たちは嫌な顔をした。

リーダーを始め中心メンバーから出てきた謎の物体だ。


「あれが貴様らのリーダーのいう、力ってやつだが。

見た通り、あれは人が操れるものじゃない。

身に引き受けたら最後、いずれ奴のように取り込まれる。


そしてあの黒いものは、欲望に満ちた人間が好物らしい、貴様らのような。

自由の身になったとしても、黒いものに付け狙われるだろうな」


囚人たちの表情が、段々と色を失っていく。


「貴様らも見たように、私はあの黒いものを制御する力を持っているわけだ。

黒いものはこの手の内にある」


ん?とナターリヤは思う、

サーシャは黒いものを取り込んで浄化はするが、黒いものを出したり操ったりすることはないはずだ。


「すまないが、彼らをここへ一列に並べてくれますか」


サーシャは牢番にそんなことを頼み、囚人たちを後ろ手にして並ばせた。


「さて。

私は先を急ぐので貴様らのことはここの領主へ一任しなければならないが、貴様らを捕らえた責任もある、ここの領主に迷惑をかけることのないようにしなければならないな。


大丈夫、何も()()痛めつけようなんてことはしないよ。


ただ、目印をつけておこうと思ってね、黒いものが、貴様らをいつでも見つけられるように。


この目印のついた人間には、どこにいようと、邪な欲望を滲ませたときには、黒いものがやってきて取り憑く。

そうならないためにも、ぜひ心を入れ替えて、悪いことは考えず今後の人生を送ってほしいものだね」


サーシャは静かに言うが、ナターリヤは、背筋に冷たいものを感じた。

サーシャの言葉には、ときどき、不気味な迫力を感じる。

敵に回すとヤバい、という感覚だ。


サーシャは笑みを浮かべながら、囚人の方へ手を伸ばす、

その表情は暗がりのせいもあり、美しい悪魔のようにも思える。


「やっ……やめろっ、やめろぉぉ!」

「いやぁぁっ、助けてぇ!」


囚人たちがパニックを起こし、暴れ出した。夜で牢番の数も少なく、男を一人で押さえていた牢番が振り飛ばされてしまった。


「逃すか」


ナターリヤがすかさず、走り出した男囚を魔法で捕らえ、地面に磔にする。

女囚二人にも念のために魔法を飛ばし、牢の格子に縛り付けておいた。


サーシャは、男囚の顔の前に膝をつく。


「大丈夫。()()()()()()()()()何も心配することはないだろう?」


そう微笑みながら、男の喉元に手を当てた。


「さ、これで楽になる。……良い夢を」


喚いて抵抗していた男が、急に静かになった。

ナターリヤには、何をやったかわかっている。


頚部のある点に力を加え、気絶させただけだ。

ヴァシリーサの軍人なら誰でも知る体術の一つ。


そして勿体ぶったように、爪の先でその急所に目印となる傷をつける。


その()()を待つ女囚たちは半狂乱になり泣き喚いていたが、サーシャの手で二人とも意識を失い、牢は再び静かになった。



囚人たちを牢の中に戻すと、サーシャは表情を明るいものに変えて言った。


「どうも、お騒がせしました。

みなさんは怖がらないでいいですよ、あれはただのハッタリですから。

そんな力ないのでご安心を」


牢番たちが、一様にホッとした表情になった。


「ハッタリかよサーシャ……私も騙されたぜ」

「黒いものに関しては私以外、誰もどうできるか知らないからね。

じゃ、戻って寝ますか」


サーシャはナターリヤを引き連れて、牢を出た。


…………

…………


「奴らの処遇、どうなるだろうな」

「強制労働か流罪じゃね」


サーシャはあっさりと言う。


「処刑の手前か。

でもそれ以前に、奴らはこれから生きること自体が恐怖になるかもしれないな。

サーシャ、結構ハードなことやるな?意外だった、そんなの城でやったことなかったろ」

「引いたか?」

「いいや、そんなわけない。素直にすごいと思ってさ。

 締めるべきところは締める、やっぱり上に立つ資質があるんだな」

「そうみたい」

「人ごとみたいだな……」

「お母さまから受け継げてたみたいで、よかった。

城が陥ちるという出来事も、そういう意味に限ってはよかったのかもな。

……お母さまに守られての王位継承じゃ、こうはいかなかったかもしれない。

辛いことに変わりはないけど……その辛ささえ私にとって、必要なことだったと、今はそう思える」

「お陰で私もより強くなれた気がしてる」

「そうだと思うよ。

頼りにしてる、近衛隊長」


サーシャはナターリヤの肩を抱いて、叩いた。


だがナターリヤにはーー


頼られているというより、

サーシャに護られているような気がした。


イーゴリやヴィクトルと離れて僅か2日間なのだが、

どこか、変に緊張しているのに薄々気づいていた。


やはり自分が最後の砦だという意識のせいだろう。


自分が全て判断し、決断しなければならないと思っていた、しかも正しく。

その最終判断は、今まで、無意識にイーゴリに頼っていたのだ。

イーゴリがいれば、何も心配することはなかったのだ。


死ぬのは怖くない。

一人でも怖くない。


だがサーシャを無事にイーゴリの元へ護っていかなければならないというのは、

死ぬことよりも一人で戦うよりも、妙にプレッシャーがかかるのだ。


サーシャはそれを知ってか知らずか、

ナターリヤに先んじて指示を出してくれる。

先手を打って剣舞奏を発動してくれたのも、大きかった。


それだけで、随分負担は減っている。


自分はサーシャの手足でさえあればいい。


本当は、イーゴリのように、状況判断までできればベストなのだが。

まだ、経験不足だと認めざるをえなかった。


ーーつまりまだ経験を積む余地があるということだ。


真に、サーシャを護れるように。


* * *


翌朝、サーシャは領主に、ほかの罪人の流刑に例の3人を加えるように頼んだ。


専用の牢に移されるために引き立てられる3人は、完全に憔悴していて、領主を始め見る者たちが驚いていた。


あれでは拘束を解いたとしても、逃げる気力はないだろう。


パウキ(クモたち)と名乗った彼らは今や完全に、クモの糸に絡み取られた哀れな獲物であった。


「恐れ入りました。

さすがは神の末裔とされる王女様、そのお力のほど、しかと目に焼き付けましてございます。

あの者どもはこちらで責任を持って刑に処しますゆえ、どうか、お許しくださいませ」


「やはり私を試されてましたか。


……アナスタシアの娘が、舐められたもんだな。

まぁ、危害を加えられなかっただけよしとするか」


サーシャの瞳が、鋭く領主を捉える。


「危害だなどと、滅相もございません。

正直に申し上げますと、噂通りの王女様でいらっしゃいましたら、このままお見送りするつもりでおりました。

ですが考えを改め、王女様のしもべとさせていただきたく存じます」

「この地はこの地の王がいるだろ」

「王とはあくまで各領土の取りまとめでございます。

領土内の取り決めは自治独立、各々領土が他国と同盟関係を結ぼうと自由なのです。

私どもは、貴女様に忠誠を誓いとうございます」

「ヴァシリーサの国からは離れているのに、なぜそうなる。勢力争いの後ろ盾になどならんぞ、めんどくさい。

ていうか今国ないし」

「そういう意図ではございません。

ただただ貴女様のお力に心酔しただけでございます」

「さっき噂通りと言ったな?

イヴァンの国の兄は優秀で、ヴァシリーサの王女は無力だとかそういう話か?」

「失礼ながら、左様でございます。

ですがそれは間違いだと確信いたしました、復興の折には是非とも力にならせてくださいませ」


やはり出涸らし王女の名は広まっていたようだ。

ギャップを利用できていいと開き直ってはいるが、自虐で言うのはともかく、他人に言われると面白くないのもまた事実だった。


「この地に、城が陥ちるそのときまでヴァシリーサに仕えてくれた使用人がいる。

彼女らに免じて、今回の貴殿の無礼は不問にしよう。


だが、二度目はないぞ」


「肝に銘じてございます」


「我が国が復興するまで、うちの使用人が穏やかに暮らせるよう計らうこと。

丁重に扱えということではない。彼女らが日々を何事もなく暮らせるようにこの地を治めよということだ。

復興の折、彼女らが再び我が国に仕えに来てくれることを楽しみにしている」


つまり、ミーナやエーリャが無事にヴァシリーサに仕えに戻ってこなければ、それ相応の対応をするということだ。

領民の誰がヴァシリーサに仕えていたかは、調べれば分かるだろうが、今この場では言わない。

彼女らがヴァシリーサに戻るまでーー何年先になるのかも分からないーー、彼女らの生活が犯罪はおろか一般的な事故にも遭ったりしないよう、領主は常に注意を払わなくてはならなくなったのだ。


‘出涸らし王女’を試したつもりの領主だが、とんだ意趣返しをされてしまったわけだ。

仮にも神の末裔を試すなど、相手を間違えるにもほどがあると、今更ながら領主は気づいたようだ。


だがこれでこの地に対しては優位に振る舞える。

ヴァシリーサの国からは離れているし、協力関係を築いて得なのかどうかはよくわからないから、イーゴリに後で聞いてみることにする。



復興を成した折には遣いを寄越そうと告げて、サーシャたちはこの地を後にした。


サーシャ、ダークモード。


下書きで適当なこと書くと後でほんと、大変になります^^;

でも書き直しのおかげで自己満足度は高め。


いつも作者の自己満に付き合ってくださりありがとうございます。笑


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