表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第四章 四人での旅
63/203

63.蜘蛛の巣 2


サーシャの剣舞奏で、相手は一気に怯んだ。

この一種しか使えないんだけどな、とサーシャは内心思っている。

だが剣を使う者には、剣舞奏というだけで脅威になるということが証明された。


実戦はナターリヤがなんとかしてくれるだろう。

しかしそのナターリヤも、サーシャの剣舞奏に驚いている。


「サ、サーシャ、剣舞奏ってマジ?」

「実はこれ一種」

「いや、種類より、できたって時点で格が違うことになるんだけど」

「何年も前にイーゴリに教えてもらってたやつ。

この前できるようになったんだ」

「サーシャ……貴女ヤバいよ。

はは、笑いが止まんねぇ。テンション上がってきた、こいつらやっつけようぜ」

「まぁ落ち着け、ナターシャ。

あの男を捕らえられるか」

「任せろ」


ナターリヤはリーダーの男に向けて、光の魔法を飛ばす。

この前、イーゴリとの手合わせの時にも使った、

光の線が何本も相手を囲ってしまう魔法だ。

ナターリヤが光の線を引っ張ると、縄を締め上げるように、光の線が締まり、男は光の内に捕らえられる。


「おい、てめえら、助けろ、何してる!

相手は女2人だ」

「あんたがあの女はヤバいって言ったんだろ!捕まったら終わりだ」


捕らえられたリーダーを尻目に、ほかのメンバーが立ち去ろうとする。


だが、サーシャは逃すつもりはなかった。


こんな卑劣な集団を逃してはならない、そう決めていた。


サーシャは再び剣を構える、

成功すれば一網打尽にできるーー今、イーゴリに教わっている途中の型。


イーゴリの注意を一つ一つ、細かく思い出し。

体と剣のあるべき位置に、集中する。 


「て、てめえら、あの型を阻止しろ!じゃないとてめえらの方へ術が飛んでくるんだぞ!」

リーダーが叫ぶと、自分だけは狙われたくないとばかりに、サーシャに向かって男たちが戻ってきた。


「行かせねーよ」

ナターリヤがその前に立ち塞がり、イーゴリとも対等近く打ち合える剣技を遺憾なく発揮する。


片手で魔法の糸を持ったまま、片手で剣を握って男たちの剣をいなし、男たちをじりじりと後退させる。


男たちの顔色は、戦局と同じように悪い。


「ナターシャ。こっちへ」

サーシャの声で、ナターリヤは魔法で男たちの足止めをすると、サーシャの側へ戻り、ミーナとエーリャを両腕に抱える。

サーシャが次の型を構えーー


男たちに向かって衝撃波が広がる。


男たちも少し先まで逃げている女たちも、衝撃波に跳ね飛ばされた。


半径10メートルくらいは、同等の威力が保てるようだ、


その先も、弱まるが衝撃波は広がっていく。

半径20メートルの内に家があったら、多分地震が起こっただろう。


「サーシャ、一種類じゃないじゃん。なに、そのヤバいの」

「教わり中だったんだけど、発動できたな。新しい型は2つしか追加してないからか」


ナターリヤがサーシャの横顔を見ると、サーシャは、笑みを抑えきれないでいるようだ。


無理もない、主力になったのは、黒いもののこと以外ではおそらく初めてだ。

サーシャが、守られるだけが不本意で、皆を守って戦う力がほしいと渇望していたのを、ナターリヤは知っている。


「ナターシャ。奴らを全員縛れるか?」

「ちょっと気力がいるが、まぁいい、やるしかないな」

「この術、私が持っとけたりしないの?」

「術者じゃなきゃ無理だ」

「この魔法と、旋律はどっちが楽?」

「旋律かな」

「好都合だ。じゃあ旋律で、あの男をひとまず縛ってくれ」


なぜ旋律を使うのだろう?と疑問に思いながら、ナターリヤは指定された男ーー衝撃波をくらって倒れているーーに飛ばした。


旋律が男に巻きつく。


と。


男がわめき出した。

苦しんでいるのか。


旋律がひとりでに、男の全身を締め上げ、そしてーー


黒いものが噴出した。


「きゃああ!あれは!」

ミーナとエーリャが悲鳴を上げた、

それもそのはず、城を堕とした黒いものだ、怖くて当然だ。


「ミーナ。エーリャ。大丈夫だ」

サーシャは穏やかに言う、それだけで、ミーナとエーリャは怯えながらも、少し落ち着いたようだ。


サーシャは、ナターリヤが捕らえているリーダーを振り返って、見下ろす。


「あれが貴様らの正体、いや、貴様らはあれを受け入れたんだな?

貴様らは西から移動してるというわけか」


「ひ、ひいいい、お、お助けを、何も知りません」

リーダーは完全にサーシャに怯えている。


「あの黒いものから誘いがあったか?

願いを叶えてやる、力をやる、と。どこであの黒いものに会った?」


「わ、わからない、ああ」

「正直に答えたら自由にしてやってもいいが?」

「な、何も知らない」

「では処刑してやる」

「な、な!処刑だと、てめえ何様だ!」


「確か神の末裔たる正統な王族に危害を加えた者は、処刑が可能だったはずだ、そうだな、ナターシャ?」

「そういえばそんな世界規範があったな、知ってる」

「そういうわけで、女神ヴァシリーサの末裔たる私にはその権限がある。

覚悟せよ」


サーシャは、剣を抜いてリーダーに迫りーー


「ま、待て、喋る、喋るから助けてくれ!

この力をくれたのは、救世主ーー」


言いかけた彼の頭部から、黒いものが噴き出した。


「うわ!危ねぇ、出てきやがった」

ナターリヤが魔法を消して、旋律を紡いで黒いものに巻きつける。

リーダーの男は完全に黒いものに飲み込まれ、黒いものと化していた。


「ナターシャ。もうちょっと仕事を頼みたい、黒いものを細切れにしてくれ。一気に取り込む危険は冒せない」

「旋律ならまだ余裕だ」


ナターリヤは、旋律を剣に纏わせ、黒いものを細切れにした。

小さくなった黒いものを、サーシャが少しずつ取り込んでいく。


とりあえず全員に旋律を巻きつけてみたところ、3人ーー男1人に女2人ーーは、黒いものが取り付いていなかった。残った彼らを尋問しようと思ったのだが。


このままでは日が暮れ野宿になってしまう、拘束できる物もない。

ナターリヤの魔法で拘束すると、魔力をじわじわ使うようになってしまう。

拘束できたにしても、犯罪者と一晩過ごすのは避けたい。


ミーナの故郷は、徒歩であと1時間ほどだということなので、

そこまで連行することにした。

あと1時間くらいなら、ナターリヤも大丈夫そうだ。


黒いものを残していくわけにもいかないから、限界に当たらないか注意しながら取り込んでいく。

時間をかけてようやく取り込み終え、気力を振り絞って馬に乗り、ミーナの案内で林を抜けた。


* * *


ミーナの故郷は、農村と小さな町からなる、辺境の貴族の領地だった。

この辺りの貴族が属する先は、ペルーンの隣の国だ。


領主による統治で、一通りの行政機関は揃っている。


だがまず、領地に入る関所で止められた、

無理もない、魔法で縛った男女3人を連れていたからだ。


ナターリヤがパスポートを提示する。

ナターリヤとサーシャのパスポートは、イヴァンの国で発行してもらったものだ。


アレクサンドル国王直々に発行してもらったパスポートには、しっかりサーシャの身元が掲載されている、関所の兵士たちは、ヴァシリーサの王女を目のあたりにして驚くばかりだった。


というのも、アレクサンドル国王にしか使えない魔法印が押してあるから、偽造は不可能なのである、

ここにいるのは正真正銘、ヴァシリーサの王女なのだ。


ミーナとエーリャは、マカールの領地で発行できたらしい。


関所は通過できたところで、ナターリヤはこの3人の身柄を引き渡せないか交渉した。

すると、パウキという集団はこの2ヶ月くらい、この周辺を荒らしていた盗賊のような位置づけで、周辺数カ国共通で手配されていたそうだ。


領主にサーシャの来訪を知らせていいか聞かれたので、領主に会おうとサーシャは言った。

黒いものーーコシチェイが取り付いていた連中の仲間だ、コシチェイへの手掛かりがないか、自ら尋問に加わりたかった。


先にミーナの家に行って、挨拶をしてくることにする。

容疑者たちを引き渡し、ナターリヤは魔法を解いてひと息ついた。


* * *


家までの道中、サーシャたちはそれぞれの道のりの話をした。


ミーナたちは、マカールの領地で親切に受け入れてもらったそうだ。そこで少しの間働かせてもらい、旅費が工面できたところで一度実家に身を落ち着けることにしたという。

領地のうち、湖側の低い土地には黒いものが流れてきたそうだが、高台もあるため領主の屋敷も含む大部分は無事だったそうだ。

城の地下の脱出紋からはいろいろなところに飛ばされているようだ。

推測に過ぎないが、城が危機の時、城から離れたところに脱出するための術なのかもしれない。


…………

…………


ミーナの家では、突然の王女来訪に、慌てふためいていた。

王女を迎えるのにふさわしいカップも茶葉もないと奥の方で騒いでいるのが、サーシャたちにまで聞こえてしまう、普通のでいいからとミーナに伝言してもらった。


そのミーナも王族への給仕などしたことがない、緊張し通しだった。

サーシャは気を使うなと声をかけておく。


「ヴァシリーサの軍のこと、知らない?遠征のときは首領だってほぼ地べたに雑魚寝だし、獲物の丸焼きとか食うんだよ?

今回の旅は半分は野宿だし。ほんと、今はそういう身分とか、いらないから」


メイドには、軍の内情はあまり知られていないようだ。

家族も含めて、驚いたように押し黙って聞いている。


サーシャはミーナの家族に挨拶し、

ミーナの忠誠ぶりを紹介して感謝の意をのべた。


少し話をしてーー


ナターリヤが言い出した、

「サーシャ、ミーナ、ごめん、私、領主の迎えが来るまで、寝さしてもらっていい?

ちょっと疲れがきた」

「あっ、よろしければ質素ですがベッドをどうぞ」

「ナターシャ。いいよ、寝といで」

「ほんと、悪い。じゃあ借りるよ」


ナターリヤの使った魔法は結構難易度が高い。

疲れるのも無理はない、せめて安心できる場所で寝れたら、疲れの回復もしやすいだろう。



ーー救世主。


その言葉を聞くのは二度目だ。

確か、ヤロスラフのところで、領主の妻がそんなことを言っていた。


ヴァシリーサやイヴァンといった神に匹敵する位置にいるのか?

それとも人間がそう名乗っているのか?


その存在を表明されただけで、口にしたものを黒いもので取り込み、口止めをする。

相当、正体を明かされたくないらしい。

黒いもの。コシチェイと、どうつながっているのだろう。

あの3人から鱗片でも聞き出せればいいんだが。



……私も疲れた。

黒いものを取り込んで、そこからここまで来て、思ったより気力を使っていたようだ。

ちょっとだけ、横になろう。



ミーナが部屋を覗いたとき、サーシャはソファーに横になって寝息を立てていた。


ピンチというほどピンチでないのは分かっております^^;

もともとギリギリのせめぎ合いとかが、読むのも書くのもちょっと苦手だからというのもありますが、本章は軽めにいきたいので、あんまり深くなくてすみません^^;

作者かなりビビリなのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ