表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第四章 四人での旅
62/201

62.蜘蛛の巣

久々に軽くバトル系です。


翌日、宿屋を出て馬の準備をしていると。


「お嬢さん方、この先は危険です、我々と同行しませんか」


声をかけてきた男がいた。

男女の旅のグループのようで、装備もちゃんとしている、

ある程度の実力はありそうだ。


だが、

「いえ、結構、備えはしてますので」

サーシャが断る。


「女性だけでは厳しいですよ、金など取りません、我々は助け合いの精神で、旅の女性を守っていまして」

「だから結構だと言っている。ナターシャ、出発だ」


サーシャはイーゴリ並みに撥ねつけた、

見知らぬ男との会話は嫌いだと思った。


ああ、イーゴリも見知らぬ女を嫌うのはこういう感じか。

なんか似た者同士だな。


そんな話をナターリヤとしながら、馬を走らせた。



昨日と打って変わって、今日は天気がいい、遠くまで見渡せる。


先ほどの連中が、後ろから同じ方向に進んできている、

サーシャは舌打ちをして馬をさらに進ませた。


小高い丘にさしかかる。

この先はところどころ林になっていた。

今日は食料調達もしながら行けそうだ、小動物は狩るつもりで、木々の間にも目を向けながら進んでいく。

さっきの男が危険だとか言っていたから、一応、周りの様子には注意を払っておく。


…………

…………


「うっ、やだ、クモの巣」

サーシャが顔をこすって、クモの巣を払った、

そのとき、何か違和感があった。


「ナターシャ。止まって」

ナターリヤが馬を止める。

「どうした」

「……違和感がある」


周りは木々しかない、何か変わったことがあるとはわからなかった。


「慎重に進もう」


最大限に警戒しながら、二人は馬を歩かせた。


「確かに変な感じがするな」

ナターリヤも言う。


道の先に、歩く二人の女性の姿が見えた。

だが様子がおかしい。

どうにも道に迷ったように、困っているようだった。


その二人が、馬の音が聞こえたのか、振り向いた。


サーシャとナターリヤは、その片方の顔を見て、驚愕する、


「……ミーナ、だっけか?」


女性は二人とも、サーシャとナターリヤを見て驚愕した。


「ア、アレクサンドラ、王女様……!?」

「近衛隊長様!?ほ、本物!?」


「ミーナ、だよな?

私だ、アレクサンドラだ。なぜここに」

「は、はい、ミーナです、王女様こそ、どうしてこんなところへ……」


忘れもしない。城が黒いものに襲撃されて、城に戻ってきたとき、最後まで側で働いてくれたメイドだ。

もう一人も、確かミーナと共に礼拝堂で見かけた、ヴァシリーサのメイドだったはずだ。


「私たちはペルーンへ向けて旅をしている道中だ、

貴女たちはどこへ」

「王女様……ご無事でいらっしゃったのですね、嬉しゅうございます。

こちらは先輩のエーリャです。私たちは、城の地下から脱出して、マカール将軍の土地へなぜかいたのです、私の故郷がこの先にあり、そこへ身を寄せようと思いまして、旅をしておりました。


ですが、ここで、様子がおかしくて」


「様子がおかしい?」


「いくら歩いても、林を抜けられないのです。30分も歩けば林を抜けて集落に当たるはずなのに。もう1時間くらい歩いていると思います」


サーシャとナターリヤの顔が、厳しくなった。


ナターリヤが突然、左手側にある木に、稲妻を落とした。

木が一本、黒焦げになり、煙があがる。


「これで進もう。目印だ。貴女たちも馬に乗れ」

「ミーナ、さあ」

「お、王女様のお馬など、私のような下々の者が」

「身分などどうこう言ってる場合じゃない。私の前にそんな気遣いは不要だ、さあ、乗れ」

サーシャはミーナに手を差し出して、おずおずと手を伸ばしたミーナを引っ張り上げた。

ナターリヤも、連れのエーリャを馬に乗せた。


「しっかりつかまってろ、走るぞ」


サーシャたちは、馬を走らせた。


* * *


確かに、いつまでも、林を抜けない。


しばらく走るとーー


「……サーシャ。やられた。

見てみろ」


ナターリヤが馬を止め、左前方を指す。


ナターリヤが稲妻を落とした、黒焦げの木だ。


お伽話でよく見る、術にかかって森から抜けられないというやつだ。


「そ、そんな」


ミーナとエーリャは、怯えている。

無理もない、戦う力を持たないメイドなのだ。


「ミーナ。

忘れたか?我らが誇るナターリヤ近衛隊長がいる、心配はいらん」


サーシャは不安そうなミーナに、穏やかに微笑みかけた。

「王女様……」


「ナターシャ。脱出を試みる」

「サーシャ。……わかった」


どうやる?と聞きたかったようだが、メイドの手前、不安を与えるような言葉は言わないようにしているのだ。


一同は馬を降りた。

そこへ。


「危険だと申しましたでしょう……

上手いようにかかってくれましたね」


男の声がして、ナターリヤとサーシャは背中合わせになって剣を構えた。


いつのまにか、周りを囲まれている、


男が5人、女が3人。


「なんだ、今回は男がいないじゃない。ハズレね」

女が言う。


「前回は男ばっかりだったじゃねぇか、お前らばかりいい思いしてんじゃねーよ」

男が言う。


「うはは、若い女ばかりだぜ、いい獲物がかかったな」

「一丁前に剣なんか構えてやがる。活きがよさそうだ」


男たちの声に、サーシャは心の底から嫌悪感を覚えた。

この感覚がもしそのまま力になるのなら、おそらく男たちは一瞬で破滅しただろう、そのくらいの勢いだ。

……だが、実際にはそんな力はないのだけれど。


けれど、今ない力を欲しても仕方がない。

怒りを置いておいて、サーシャは勝機を分析する。


8人やそこら、ナターリヤには脅威ではないはずだ。


だが守るべき者が3人もいては。


一人で戦うのとは訳が違う、

しかも、ナターリヤが最後の砦なのだ、


戦うだけとは違うプレッシャーが、知らず知らずのうちにナターリヤにのしかかるのではないか?

サーシャはそれを危惧した。


「えーと、目的はなんでしょうか」


サーシャはわざと剣を下げて、先程声をかけてきたリーダーっぽい男に聞いた。


「サーシャ……」

ナターリヤがサーシャの背で呟く。


「おや。随分と余裕のあるようだね?

まぁ、我々のことがバレたところで痛くも痒くもない、あなたたちの自由な人生の最後に教えてあげよう。

我々は幸福を追求する集団、パウキ、という。

欲しいものを手に入れ、したいことだけをして過ごしている。

そうすればいずれとてつもない力が手に入るのでね。


あなたたちは若くて美しい人ばかりだ。

我々が楽しむにはもってこいだね。


旅をしているんだから金は多少持ってるでしょう、それでうちの女性陣には満足してもらおう」


「私たちに同行を持ちかけましたね?

同行して、襲う計画でしたか?」

「同行すれば、力づくでということはなかったでしょうに」

「蜘蛛の巣のように張っていた術の空間に、獲物が引っかかるのをまっていたというわけだな。

パウキ(クモども)の名の通りだ。

卑劣なことをしやがる、この道の安全のために、排除しておきたいな」


「排除ですって?生意気な子ね、うちの男たちを甘く見てんじゃないわよ!あんたたち、早いとこやっちゃってよ」

「まぁ焦らなくても、こっちは5人もいるんだから」

見るからにワガママで全てが我が物とでも言いそうな派手な女性が言うと、

男たちは剣やナイフなどを構えながら、近づいてきた。


「男5人か。

乗りこなすにはちと人数が多いぜ」

「ナターシャ、ナイスな冗談だな」


「この女。乗りこなす、だと?

大口叩きやがって、ナメてんのか」

「オレは真ん中のカノジョがいいな、剣構えてる二人よりかわいいし大人しそうだし」

「あのデカい女を倒したらやるよ」


聞こえよがしの下品な会話に、サーシャは苛立ちを募らせる。

こうやって女を道具にしか見ていないような男の発言が、大嫌いだ。

文字通り、殺したくなるほど。

しかも、一度イヴァンで人を処刑しているから、本当に殺してしまえると思う。


こういう男は、女が襲われることの苦しさに、ほんの少しも気づくことがないのだろう。

襲われるくらいなら殺したほうがましだと思うくらい、絶望、惨めさ、汚さ、それはもうありとあらゆる苦しい感情に苛まれるのだと思う。

想像しただけでそうなのだ。


例え己の手を血で汚そうと、イヴァンの国で慰みものになり、命を絶ったあのメイドのような女性を出してたまるか。


サーシャの中で静かに燃える怒りで、不思議と感覚が研ぎ澄まされた気がした。


「ナターシャ。ミーナとエーリャには結界を」

「サーシャ?わかった」


ナターリヤは、そうと悟られないように結界を作り出す。

戦力でないこのメイドたちから崩すのが、誰が考えても一番手っ取り早いだろう。

極力この二人を巻き込むわけにはいかない。


「ナターシャ。

貴女は私の言う通りにすればいい。

余計なことを背負うな。

私の言うことを聞け」

「了解。

ありがと、その方が気が楽だ」


「何をこそこそやってる?

お前らは女2人、俺たちに敵うわけねぇんだよ!

まぁ、串刺しにしてやるのも悪くねぇがな」

「串刺しは使用済みにしてからにしろよ」


男たちが距離を詰めてくる。


「ナターシャ。

ちょっと、足止めを頼む」


サーシャはそう言うと、剣を構えた。


「私の好みは剣筋の美しい男。

貴様らの中にできる奴がいるかな」


「何だ?この女」

男たちが訝しむ。


構えを変え、そして次の構えに実に滑らかに移る、


剣をある程度使うものなら、心奪われずにはいられないほどの完成度だ。


ーーそして、周りの景色が変わる。


サーシャの剣舞奏。


幻を破る術。


リーダーの男の顔色が変わっている。


「な、……何だって……?まさか、それは……」


「おい、術が破られた!?」

「なっ、嘘だ!」


「貴様らのことについて、もう少し教えてもらおうかな」


サーシャは悠然と構えている。


「ま、まずい!てめーら、撤退だ!この女はまずい」

リーダーが慌て出した。


「ちょ、何なんだよ!」

「術が破られたくらい何よ!」


「あの女は、剣舞奏の使い手だ……あれはヤバい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ