61.女二人旅 2
今回大半女子トークです。女らしくないけど。
ガールトーク(R15含む)あり。
日没が迫っている。
遠くに、人里の灯りのようなものが見えた。
灯りを目指して馬を走らせる。
日没の頃、村にたどり着いた。
泊まるところはあるだろうか。
村の中心に、尋ね人用の掲示板がある。
ここにメモ書きを貼っておけば、イーゴリやヴィクトルがここを通れば足がかりになるだろう。
掲示板にはイーゴリやヴィクトルが立ち寄った形跡はなかった、
とりあえず、ここを通ったというメモを残しておく。
メモといっても、ヴァシリーサの国の軍人が使う、専用の波動を紙に被せておく。
文面は適当だ、本名も書かない。
単なる尋ね人などのメモに見せかけておいて、ヴァシリーサの関係者ーーそれも、上級のーーには、本当の内容が示されるようになっているのだ。
「こういうとこって酒場しかないよな。酒場でもいい?飲まないからさ」
「飲んでもいいよ」
「いや、何があったときに酔ってちゃダメだ。
気にするな、私の仕事だから」
イーゴリに説教されていたときのナターリヤが嘘のようだ。
だが、自分の力がないばかりに、申し訳ないと思う。
「再会したら存分に飲んで。私が許す」
「そうそう、それでいいんだよ!あの頑なな男に言ってやってよ」
農村かと思ったが、道沿いの宿場町だったようだ。
宿を確保できたので、食事をしに酒場に入った。
酒場はそこそこ客がいて、ざわついている。
ダメもとで、店の人にイーゴリやヴィクトルのような男たちが立ち寄らなかったか聞いてみたが、
酒場ではそういった特徴のある男たちは見かけていないということだった。
サーシャとナターリヤは、酒場の隅で食事を取る。
「今日は霧で距離が稼げなかったな。早く寝て、早く出発して距離を稼ごうか」
ナターリヤがテーブルに地図を広げて言った。
「私たちの道はこっち?」
「そうだよ。
……ああ、こっちの道を大将たちが行ったかもって?」
丘のあたりから道が二手に分かれているところがあった、丘を下っていくルートで、ペルーンに入るにはやや大回りになりそうだった。
「あの人たちなら、距離もいけるだろ。
同じ頃にペルーンに着くんじゃね?」
「同じ国内にはいそうだね、ペルーンの前に、国が一つ。ペルーンへのルートはどっちもここを通ってる。
ナターシャは、ここの国のこと、知ってる?」
「ん、私はあんまり国外に出たことなくてな。でもここは小さい国だ、王がいるけど議会君主制で、政治は議会がやってたと思う」
「地方の有力者が王になったんだっけ」
「あー、そんな感じだった気がする」
多分、イーゴリなら世界の国のことについて詳しいはずだ。
世界情勢にも通じ、世界国々のいろんなことをイーゴリは知っていて、サーシャにも教えてくれていた。
アナスタシアの参謀として、世界情勢把握が必要なことだったのだろう。
「サーシャ。大将のどこが好きなの?」
いきなりナターリヤに聞かれて、サーシャはクヴァスを飲み損ねて咳き込んだ、
「な、何だよナターシャ、変なこと聞くな」
「あの人、女を喜ばすようなこと、全く何もしないじゃん?
サーシャだってどれだけ説教されてきたんだって話。
クソ真面目で面白くないし、頑固でめんどくさいよ。
強いし見た目はいいから、軍に入りたての女の子とかは最初は憧れるらしいけど、
みんなすぐにドン引きするんだよ、真面目すぎて。
サーシャだってそういう面、散々見てるでしょ、だから何でかなって」
「……そんなにみんなドン引きしてんの?」
「ないわー、ってみんながみんな言うね」
「まぁ、私は王女って立場でちょっと違いはあるのかな。
説教はめんどくさいよ?」
「ははっ、だよね、私もいっつもうんざりする。
姫さま姫さま言われて鬱陶しくない?」
「ヴィーシャも言ってたけど過保護気味かな。
……ほんと、何でだろうね?いつしか、なくてはならない存在になってた」
「二言目には姫さま、だったからね。
重いんじゃねってみんな言ってたんだよ」
「別に重くないよ。
生まれたときから側にいたんだぜ、なんつーか慣れてる」
「それはそれで、やっぱり相性がいいってことなのか」
「いつも、受け止めてもらってたからかな。
……城が堕ちてから、特に。
ずっと支えてくれて……何もできない私を助けてくれて……側にいてくれて。
あの人がいなければ、私はどこにも進めなかった」
「何か、もう超えてるよね、好きだの何だのっていう恋心を。
命の掛け合いなんて、単なる主従にできることじゃないし、普通のカップルには到底無理なこと。
貴女たちの間は、切ろうにももう切れないよ。
どこに、黒いものの中へ一緒に飛び込む男がいるよ?
貴女と大将にしか、そんなことできっこない。
女心の分からない大将に、それを分からせなきゃねぇ」
「分かるのかなぁ、あの人……」
サーシャは呟いて、クヴァスの瓶を傾けた。
…………
…………
「ナターシャ、結婚はしないって言ってたよね」
「うん、しない。てか無理。昔付き合ったりしたことはあったけど、すぐ窮屈になって、やめた」
「へぇ。城の人と?」
「軍でね」
「そうかー……ナターシャが恋愛経験あるのはあんまり聞いたことなかったな」
「ま、大っぴらには話さないね。聞きたかったら話してもいいけど」
「いやー、両思いってどうやってなるのかなって思って」
「両思いって単語がピュアでいいわ。私はそんなのとうの昔に捨てたけど」
「何、それ?なに、ナターシャってもう経験済みなの?」
「うん?男の経験のこと?それならとっくに、まぁそこそこ経験あるよ」
「……マジか。そうだったの?
いや、私できる気がしないんだけど、そういうの」
「サーシャはサーシャでいいの、私は割と平気でやっちゃえる」
「……いや、ごめん、ちょっと絶句」
「刺激が強すぎたか」
「身近にそういう人がいるとは思わなかった……
え、あのさ、そういうのって……どういう感覚なの、その」
「私はセックスに興味あったから、やってみたいと思ってただけ、気が合った軍の男友達とやってみた、ってくらい簡単にやったな。
私は貴族として育ったわけじゃなし、そういう制約はなかったからね。
サーシャは……厳しいか、そういうの」
「無理無理、できない、私、男のそういう視線も大っ嫌いだ」
「サーシャって結構男嫌いだよな……アナスタシア様の男対策が強烈すぎたんじゃね?」
「……エドガルのことか」
「そう」
「まぁ、今なら笑い話にできるけどさ……超黒歴史。今でも思い出したら当時の自分を絞め殺したいくらい恥ずかしい。
なんか、男が信用できないんだよ、あれから。イーゴリ以外。
イーゴリにしても、こないだヴィーシャに言われるまで、男としてみてるとは自分でも思ってなかった。
……ナターシャ、今だから言うけど……ごめんね、私、貴女に再会したとき、
もちろん嬉しかったんだけど……
貴女がイーゴリに気にかけられてるのを見て、なんて言うか、面白くなかったんだ。
もし貴女がイーゴリの妹じゃなかったら……」
「サーシャ」
顔をしかめながら言っていたサーシャを、ナターリヤが穏やかに遮った。
「いいから、サーシャ。
私は、大将じゃないけど、サーシャのことは全部受け止めるよ。
サーシャは、そのままでいい。
私に申し訳ないなんて思うな。
これが貴女に生涯の忠誠を誓った者の生き方だ。
私が選んだんだ。
貴女が引け目に感じることは、何もない」
ナターリヤはどこまでもまっすぐに、サーシャに応えてくれる。
受け取るしかないんだな、と思えてきた。
ナターリヤがサーシャを支えようとしていること。
守ろうとしていること、命をかけていること。
申し訳なく思ってしまっては、逆にナターリヤの生き方を否定することになってしまう。
「はぁ、言ってすっきりしたかも。
やっぱナターシャだから言えるな、こういうことも」
サーシャは笑顔に戻って、軽く息をついて言った。
「そうそう、そう思ってもらえたらこっちも嬉しいってもんだよ。
サーシャ、貴女ってよく自分に何もないっていうけどさ、私みたいな部下をもつ君主って実はそうそういないよ?
それだって力のうち。
ヴィーシャだってさ、まぁお父上はあれだけど、一人で頑張ってたようなもんだったよ。
私が話し相手になってから、なんか甘えられてる気がする」
「あいつマザコンだし、年上の女の人にそうしちゃうんじゃない?
ナターシャ、懐も深いしさ、豪傑なとことか、お母さまと共通するとこ、多いと思うよ」
「アナスタシア様は品があるじゃん、私は単なるガサツだよ。
女神ヴァシリーサの末裔と農民の娘を比べちゃいかんよ、まぁ、半分は貴族の血だけど」
「えー?ナターシャ、何も知らなきゃ貴族としか思えないよ?
ていうか、ナターシャの村に行って初めて、私ナターシャが村出身だったって知ったんだけど……」
「えっ?村出身って言ったじゃん」
「いや、まぁ、私の思い込みだったんだけど、辺境の小さい貴族の出のことだと思ってたの」
「いやいや思い込みすぎだよ」
「でも、ナターシャ城勤も長いし、ちゃんと品はあると思うよ。仮にも王女付きの近衛隊長だよ?いくら実力があったって、ガサツなだけの人をお母さまが近衛に任じたりしないでしょ」
「そう?まぁ、一応エリートの部類だったかな、そう言われてみると。
他国へ遣いに行って恥ずかしくないだけの礼儀は、学校と軍とで叩き込まれるしね」
「そうなんだ、まぁそうだよね……上級職になったら外交もするもんね」
「うちって、国王筆頭に、軍人が政治するじゃん、
政治をする人が各々武力をそなえてるっていうか。
文官もいるけど基本、事務的な役割だよね」
「普通って武官と文官って分かれてんのかな」
「国それぞれだろ」
「お母さまから何も教わってないんだ、私。
これから教わるところだったから。
……まぁ、私がいろんな国を見聞して、新しいやり方を作っていってもいいか」
「それでいいと思う。
国民も散り散りだし、一から建国くらいに思えばいいんじゃない?」
「まだお父さまもいるしな」
「うん、大丈夫、サーシャは一人じゃないよ」
いつしか、イーゴリを心配していたことを忘れ、女同士の話を楽しんでいた。
イーゴリがいないから、逆に、ナターリヤと二人きりだからこそ話せることもいっぱいあったのだ。
結局夜が更けて、やっと寝る体勢に入ったとき、ふと感じた、
イーゴリは無事で移動中だと。
自分でも不思議なほど、確信があるし、ぼんやりと、ペルーンへ入る手前かな、くらいのあたりに感じたのだ。
明日か明後日には合流できるだろうか。
女二人の旅も経験できてよかった、と思いながら、サーシャはナターリヤの隣で目を閉じた。
活動報告にも書きましたがTwitterにて(https://mobile.twitter.com/M_O_Minka)サーシャのイメージイラストを載せました。素人絵でかなり雑ですが……
読んでいただく際の一助になればと思います。




