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ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第三章 父の国
47/202

47.次の目的地


何なんだ?


サーシャは首をかしげる、


あのパーティーの次の日から、イーゴリとナターリヤの様子が何となく違うのだ。


イーゴリはなんだかはつらつさに欠けて、考え込んでいるというか、迷っているように見えるし、

ナターリヤは、どうも自由時間になると浮ついている、仕事のときはきちんとしているが。


それをヴィクトルに聞いてみると、なんだか濁されている気がする。


あの夜は自分も混乱したが、

今イーゴリが塞いでいるのをみると、純粋にイーゴリが心配になってきた。


イーゴリに直接聞いてみるのだがーー


「姫さまが案ずるようなことは、何もございません、どうかご心配なさいますな」


穏やかにそう言われて、それ以上は突っ込みにくかった。


…………

…………


連日、この国の復興についてと同時に、

サーシャたちの次の目的地についても、王やヴィクトルも交えて相談が重ねられている。


コシチェイの存在が、サーシャによって確認されたこと。

そして、世界中で暴れると言っていたから、コシチェイとはやはり、倒すべき存在のようだ。


神話でしかないので、参考までに、というとこだが、

王は学術的編成のなされたイヴァンの国の神話を持ち出してきた。


それによるとーー


コシチェイとは悪の化身。

勇士イヴァンは、クラデニエッツという魔剣を携え、コシチェイを倒しに向かう。

クラデニエッツは存在が秘匿されており、神話では、天の門の先にある聖樹の下にあるという。

天の門とはーー

東の果てに門への入り口があるとされていて、

門の先は、神の世界につながっていると言われている。


そしてコシチェイがいるとされているのが、西の果てに入り口があるとされる、地の世界。

そこは地獄と言われたり、悪魔の世界と言われたりしている。


「黒いものが、黒い光に還れずに、溜まってこぼれたものが、地に出てきた黒いもの、か。

それで、コシチェイが完成されたって。もとは黒いものなのか」


それがサーシャの得た情報だ。

サーシャの情報の方が真実ではあるだろう、神話はあくまで伝承といわれるものであり、必ずしも一致するとは限らない。


サーシャは、黒いものの中で聞いたチェルノボーグとベロボーグという単語も探してみたのだが、

そちらは文献を隅々まで見ても見当たらなかった。

イヴァンの神話にはたまたまないのだろうか。世界のどこかの神話には記されていたりするものなのか。

それとも、その単語自体が、黒いものしか分からない特殊なものなのだろうか。



「コシチェイのいるところから黒いものがこぼれ出たというのは確かなようだな。

だが、黒いものについてはやはりサーシャでないと対処できまい、

魔剣クラデニエッツといっても、コシチェイを切って終わりじゃないのでは」


ヴィクトルが言う。


「神の世界と地獄の世界、だとして、

相反するといえば、俺とサーシャのようじゃないか?

ただ、俺たちは敵対ではないけどな」

「私たちは橋渡しかも」

「神と地獄だって真実とは限らんしな」

すっかり兄妹らしくなったヴィクトルとサーシャを見て、父王は嬉しそうである。


「ともかく、剣を探しにいかねばならんということか。

次の目的地は、東だな」

「東に行ってこっちまで戻ってこなきゃいけないのかよ……」

サーシャが愚痴をこぼす。


「東といえば」

父王が言った、

「ヴィクトル、そなたには世界会議の本部に出向いてほしいのだ」

「今回の一連のことについてでございますか」

イーゴリが言う。

「いかにも。

黒いものの襲来を受け、緊急世界会議が開催される予定なのだ。被害は我が国及びヴァシリーサの国が中心ではあるが、伝承であるコシチェイが実在しているとなれば、世界規模で対策を練らねばならぬ。

我が国が無事であったこと、アナスタシアが没したことは既に伝え、アレクサンドラ、そなたの存命は報告している。さもなくばヴァシリーサの国が滅亡したという判断がされてしまうのでな。

我が国がようやく動けるようになったため、会議は各国からの集合を見越してひと月後の予定だ。我が国での復興は置いておいて構わぬ、永世中立国ぺルーンへ向かってほしい。

アレクサンドラも、ヴァシリーサの次期国王として出席するのがよかろう」


永世中立国ぺルーン、聞いたことはある。

世界中の国々が、世界の安定のために様々なことを評議し決定する、世界会議の本部が置かれている国で、どの国とも同盟を結ばず、いかなるときも中立を貫く国である。

各国の大使館が置かれていて、その各大使館を、ぺルーンの専門職員と各国職員が共同で管理している。

国同士でいざこざがあっても、国内においては争いは許されない、

だがこの国に助けを求めても、中立という立場から、庇ってもくれないのだ。

国が滅びたら大使館がなくなり、担当の職員は異動するだけだ、あくまで世界会議用の場なのだ。


年に一度世界会議が開かれており、世界の首脳が一堂に会する。

イーゴリはアナスタシアの護衛の一人として何度か訪れたことがあり、

ヴィクトルも、既に国王代理として出席したことがある。

母アナスタシアとは、そういうところで辛うじて交流を持っていたのだ。


馬で行けば10日程度といったところか。

途中のトラブルの可能性なども考慮して、来週には出発した方がいいだろう。


この地に滞在することひと月、いよいよ出立のときがやってきた。


* * *


今日は、イーゴリによる最後の武術指導の日だ。

希望者ーー一軍ほぼ全員ーーが一定時間、イーゴリと剣を交え、指導を仰ぐのだ。


イーゴリは最近剣の訓練時間が十分に取れていなかったからと、

何十人も続けて相手になるという荒行を喜んで引き受けた。


隣の広場ではナターリヤが、訓練バカだと呆れながら、ファイーナ始め希望する女性たちに魔法や剣の指導をしている。

もう女性たちが城の男に怯えることはなくなったが、力が使えたり戦えたりできるようになったことは、一部の女性たちにとっては喜びとなった、

最後まで、ナターリヤから学びたがったのである。


「見て、レオニード様の順番」

誰からともなく、レオニードとイーゴリとの勝負へと目が向き始めた。

今やイヴァンの国最高位のレオニード将軍と、ヴァシリーサの国の最強戦士イーゴリとのやり合いは、武人でなくとも興味をそそられるだろう。

ナターリヤも、一旦休憩を取ることにして、皆で勝負の行方を見守った。


イーゴリは既に何十人も相手にしたあとで、

レオニードは元々実力もある上、毎日ナターリヤと稽古を積んでいる、

どちらが優勢だろうか。


イーゴリの剣さばきはまったく衰えを見せない、だいぶ疲労はしているだろうに。

あと数十人、余裕で相手にできそうである。

レオニードは果敢に打ってかかるのだが、イーゴリに圧されてしまっているようだ。


ナターリヤは改めて、兄である前に師匠であり上官であるイーゴリの戦闘力の高さに、畏敬の念を抱いた。

30年近く厳しい訓練を積んできた賜物である。


無駄のなく、型に忠実な剣筋。

側からみて、とても美しい。


しかも、剣を交えながら、レオニードに指導さえしている、

一体その実力はどのくらいなのだろうか?

レオニードも飲み込みがいいから、指導されたことをものにしていっている、成長を見せているのに尚、イーゴリの優勢は変わらない。


レオニードはかなり善戦したのだが、打ち負かされてしまった。

力を出し切って、剣を地に突き刺し膝をついてしまっているのに、

イーゴリはまだしっかり立っていて、その上、副将たちとの稽古を始めた。

イーゴリもどうやら限界までやり切るつもりである。


「大将、マジで修行バカだな」

ナターリヤは呟いた。

そして、レオニードの姿を目で追うーー


確かに、一度死にかけたことで、一皮剥けている感じがする。

自分をしっかりもって、圧されていたとはいえ落ち着いて対峙できていた。

これから、アレクサンドル国王の側で、しっかり王を支えていくようになるだろう。


それと、心なしか、男っぷりも上がったような気がするーー自分のひいき目かもしれないが。

自分が去ったら、さっさとふさわしい妻を娶って、優秀な子をもうけてほしいものだ、と思う、

それが一番、彼のためになるのだから。


* * *


ヴィクトルは、城の窓から訓練の様子を見ていた。

そこへサーシャがくる。


「ヴィーシャ。何見てるの?」

「訓練やってるぜ、見てみろ、お前の想い人の勇姿を。一軍ほぼ全員に、一人で対峙しやがった」

サーシャは、想い人という表現に、顔を赤くした。

「あの人は修行バカなんだよ」

「違いない」

「……何か秘めてるんだよ、あの人、そういうとき、剣に走りたがるから」

「よくわかってるな、夫婦みたいに」

「からかうな、バカ」

「はは、悪い。……そこまで分かるなら聞いてみろ」


「……私には、話してくれない」


サーシャは、か細い声で言った。


「焦ることはない」

ヴィクトルが、窓の外に顔を向けたまま、答える。


「お前の家臣であろうと努めてる。

今までもずっとそうしてきたんだろう。

だがそれが一瞬緩むときがあれば、お前が入り込める」


「緩むって?」


「あの男は常に自分を押し殺してるだろう。

個人である前に公人であると。

だが押し殺す力が一瞬抜けたとき。

自分の気持ちや欲が一瞬出たとき、お前が奴を受け止めれば、入り込める」


「具体的にどういう」

「そりゃお前の観察次第だ」

「難題だよ……」


この兄は、洞察力にかなり長けている、だが自分は、人の気持ちなど見抜けない。

ーー黒いもののことなら直感がよくはたらくのだが。


母アナスタシアの洞察力は、自身の能力か、それとも王の力によるものなのか?

王の力ならばいつか継承できるはずだが、母個人の力ならば、自分のものにはならない。

そんな力があれば、イーゴリのことがよくわかって、攻略に役立つのに。


夢物語みたいな想像をしてしまった。


「そういえば、父上がお前と話したがっておられたぞ。

俺はいずれここへ戻るが、お前はそうそう来れんからな。

自分の名をつけたかわいい娘との別れは名残惜しいだろう、元気付けてやってくれ」


「そう……わかった」


サーシャは、その場をあとにする。

ヴィクトルは再び庭に目を向ける、今度イーゴリに対峙しているのは、

ナターリヤだった。


事件の起こらない回を書きたくて。

あとは緩めに、三章もう数話続きます。

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