46.名誉の勲章
*R15ロマンス有り。普段より長いですがそこは察してください。笑
ナターリヤは、レオニードと肩を並べて歩く。
「ピノ・ノワールか、いいね」
「好き?」
「そうだな」
「よかった。うちの特産だ、農業が壊滅しちまったから、出稼ぎを周辺国に頼まないと」
「そういえば、うちには避難民がゆうに200人はいる、城は堕ちてるが周辺領土に頼むことはできるな」
「そうなのか」
「サーシャが逃したんだ」
「……うちとはかなり違う結果になったんだな。こればかりは正解は見つからないが……すごい判断をなさったのだな」
「アレクサンドル陛下が間違ったって言いたいんじゃないよ、あの方は最後まで責任を取ろうとした、立派な国王だ」
「貴殿にそう言ってもらえると、嬉しいものだな」
レオニードの部屋は、ベッドと執務机、ソファーなどの揃った、小綺麗なものだった。
怪我をした時眠っていた部屋とは違う、副将たちに個人的に与えられている部屋で、ナターリヤはもちろん初めて入る。
レオニードの母は元々城下町の屋敷に住んでいて、レオニードは城勤でたまに屋敷に帰っていた、母は避難してきた侍女と共に、別の部屋で寝泊まりしている。
「適当に座ってくれ」
レオニードは、戸棚からグラスを準備し、栓を開けて注ぐ。
「じゃあ、我々の勝利に、乾杯」
二人とも、グラスを掲げ、あける。
「んー、いい熟成」
「陛下からお許しをいただいた」
「早々と開けちゃうのかよ?しかも私にくれるって、もったいない」
「俺が生きてるのは貴殿のおかげだからな。貴殿にも味わってほしい」
「じゃあ、遠慮なく頂くよ。ああ、貴殿なんてもういいから」
レオニードがナターリヤのグラスに注いでくれる。
ナターリヤも、レオニードのグラスに注いで、久しぶりの上品なワインを楽しんだ。
「ナターリヤ、今回は、何から何まで……きみには本当に世話になった。
礼を言う。
アレクサンドラ殿下はもちろんすごかったと聞いてるが、きみは……この国の根幹から、いい方に変化をもたらしてくれた。
メイドたちが明るくなったのも、兵士たちが女性を……それだけじゃなく互いにも尊重するようになってきたのも、きみが教えてくれたからだ。
うまく言えないが、本当に感謝している」
「別にこの国のためじゃないよ。
サーシャを守るため。サーシャの、お父上を守りたいという気持ちに従っただけだ。
私の主君はサーシャなんだからな」
「だが、それでも、そのおかげでこの国が救われたのは確かだ。
……俺を将軍に、と進言してくれたのも、きみだと聞いているが?」
「お前の功績というよりも、最初から、お前がこの国の将来を担うのにふさわしいと思っていたよ。実力も、指揮力も、忠実さも……あと優しさ。陛下をお守りし、お支えするのに申し分ない」
「……きみに、何一つ、敵わなかったのにか」
「私の持てるものを叩っこんだだろ」
「いっそきみが将軍になったほうがよかったんじゃないか」
「逃げるなよ、馬鹿野郎。私の期待を裏切るんじゃねーぞ?」
レオニードは、拳を握りしめる。
身が引き締まる思いだった。
これからのこの国を担うことを思って。
それを、このひとが信頼してくれていることを感じて。
「一回死んだんだろ?
あの度胸がありゃ大丈夫だ」
ナターリヤは、そう言って笑っている。
「そうだーー
きみが一番に俺を助けてくれたんだってな?……母から、献身的な回復処置だったと聞いた……
俺は、きみを助けないとぬかしたのに。
……なぜ、俺を助けてくれたんだ……」
「献身的とかじゃねーよ、別に。
お前はこの国にとって必要だからな、陛下のため、死なせるわけにはいかないだろうがよ。
……てのはまぁ、建前で。
戦友を見捨てるのは……やっぱり忍びないよな」
このひとが、俺を、戦友だと?
教わってばかりで、何一つ、返せてもいないのに。
「理由なんかない。
体が勝手に動いただけだ」
ナターリヤは、グラスをあけると、テーブルに置いたーー
レオニードも、同時にグラスをテーブルに置く。
ふと、目が合い、
レオニードはそのまま、ナターリヤに顔を近づけ、
唇に触れた。
そのまま、接吻を続けーーナターリヤは、応えてくれるーー
ややあって、唇だけ離した。
「……やめとけ」
拒否しなかったのに、ナターリヤはそんなことを言った。
「お前は、それなりの身分の妻を迎えなきゃならないだろ。
私はまもなくここを去る。私はアレクサンドラ殿下に命を捧げている、誰かのものになる気はない」
レオニードは構わず、もう一度ナターリヤの唇を塞いだ。
「きみにそんなことは求めていない。
……わかってる」
「言っとくが、私は処女じゃないからな」
「そんなこと……どうでもいい」
「また別の国に行ったら、同じように男とセックスしてるかも、私はそういうタイプだ」
「まだ……してないじゃないか」
「するつもりのくせに」
接吻しながら会話を続けていた、
レオニードは一旦離れる。
「なんだ、引いたのか?
男なら武勇伝って言われることなのに、
女が男を渡り歩いたらあばずれ呼ばわりとか、ほんと何なんだろうな?」
「そんなこと言ってないだろ。
……ほんとにきみは、この国の常識をことごとく、ぶっ壊してくれるんだな……」
レオニードはナターリヤの頬に触れると、真っ直ぐナターリヤの目を見つめた。
「一晩でいい。
きみを愛させてほしい」
* * *
罵倒されるわ殴られるわ、こき使われるわ、このひとには本当に、いいところを何一つ見せられていない。
なのになぜか気になってしまっていた、この国の仕組みを次々壊して、ものにしていく姿に。
戦況を適切に判断する力、部下でもない男たちを仕切る力、
前線でも戦えるし、ヴィクトルのサポートに回って戦う力も、この城の誰よりもずば抜けていた。
武人として、非の打ち所のない、何をやってもこなせる理想の姿。
自分がその境地にたどり着けるのは、あと何年後だろうか?
だが、少しだけ、このひとに近づけた気はしている。
同じように、黒いものによって死の縁を彷徨い、今こうしてこのひとの前にいることで。
ナターリヤは始め、レオニードを押し留めた。
妻を迎えるべき体、一夜限りの情熱などにでなく、妻のために取っておけと。
しかしそれでは、逆に未練が残ってしまうに違いなかった。
妻もなにも、ナターリヤ以外に魅力を感じる女性などいないのに。
ナターリヤが出立すれば、関係は終わるというのはわかっている。
アレクサンドラ王女の目的が果たされ、ナターリヤの旅が終わるとしても、ナターリヤは引き続きヴァシリーサの国での仕事がある、
会うことは叶わないだろう。
だからこそ、今だけでいい、このひとを愛したかった。
もっともナターリヤにとっては、自分など通り道に過ぎない、それもわかっている。
でもそれでもよかったのだ、このひとの人生に自分が一瞬でも加えてもらえるだけで。
ナターリヤは条件をつけた。
「大抵の女は、昔の女に嫉妬する。
それを受け入れてくれるほど度量のある女を選ぶか、
そうでなければ、私とのことは墓場まで持っていくこと」
まだわからぬ将来に、どこまで気を遣ってくれるのだろう?
それこそ、度量のある女性だ。
本当に、どこまでも、このひとには敵わない。
なのに、なぜ、受け入れてくれるんだ?
「そろそろいい男がほしいと思ってたところだ。
お前の身体なら、満足できそうだ」
ナターリヤは、本音か冗談かわからないことを言う。
でもどっちでもいい、このひとに満足を与えられるなら、少しでももらったものを返せる。
唇を押し付け合うようにして接吻を繰り返し、
ナターリヤの方が、レオニードの体に触れてきた。
レオニードは、上半身を露わにしていく、
細身だが訓練の賜物でしっかり筋肉のついた、精悍な体つきだ。
そして胸のあたりに、拳大の傷跡。
黒い攻撃に貫かれた跡だった。
すっかり塞がってはいるが、跡は残ってしまう。
腕や、腹にも、小さいがいくつも貫かれた跡があった。
ナターリヤは、レオニードの傷跡に手を触れーー
「あの黒い攻撃は、触手よりも威力が強いそうだ。
……よく、生き残ったな。
この傷は、お前の名誉の勲章だ」
そう言って、傷跡に唇を押し当ててきた。
感慨で、体が震えそうな感覚に襲われ、手を握りしめて堪えた。
「ナターリヤ」
「ナターシャでいい。……私のも、見せてやる」
その身体は、驚嘆すべきものだった。
広めの肩幅に筋肉がしっかりついていて、剣を振り回す腕にも筋肉で太さがある、
引き締まった体に似つかわしくない、豊かな胸。
そこにーーかつて触手に貫かれた、いくつもの傷跡がある。
だが、最高に美しいと思う。
その身体を包み込み、抱き締めて、女の身体の感触を確かめる、
「愛してる、ナターシャ」
「今だけな」
「わかってる……だから今だけは、俺の女でいてくれ」
レオニードの頬を、ナターリヤの指がなぞり。
誘われるように、再び深く口付けた。
* * *
「明日、稽古に付き合ってくれないか」
レオニードは、ナターリヤに腕枕をしながら言った。
「きみが出立するまでに、できる限りのことをきみから教わっておきたい」
「賢者モードかよ、将軍になったからって真面目になりやがって。
こっちは余韻に浸ってるのに」
「す、すまない……そうだったのか」
「女の感じ方はそうなってんだ、覚えとけ。
……稽古には付き合ってやるよ」
「そうか、ありがとう」
副将だった自分が敵わなかったナターリヤが、自分の腕の中で、これほど女を感じさせるとは思わなかった。
初めて見る恥じらうような表情に、ますますそそられた。
しがみつかれたときには、この女性を守れるのは自分だけだと錯覚しそうになった。
自分を感じている姿が、この上なく愛しかった。
ありったけの想いを、愛する女へ注ぎ込み。
ようやく落ち着いて、まどろんでいるところだった。
「またきみにダメだし食らうかと思ったよ」
「お前は意外に女の抱き方を心得てるな、思ったより経験豊富か?」
ナターリヤにそう評価されてびっくりする。
「えっ、いや、そりゃ初めてじゃあないけど……ぶっちゃけほとんどないに等しい、
なんだよ、その高評価」
「ふーん……そうだったか?
ひとりよがりじゃないのは何よりよかったな、私の身体をちゃんと確かめながら進んでくれるところ」
「言ったろ……きみを愛してるって。ならそうするだろ」
「そう言っててもできない男の方が多い」
「俺は、きみの男ランク上位には入れたか」
「それは……秘密」
「ちなみに一位は?やっぱりイーゴリ閣下とか?」
「馬鹿、あの人は女嫌いだって言ったろ。あの人は童貞だし、ちなみに、私の兄だよ」
「えっ、マジか、バレたら怖いな、てか童貞って」
「最近直接聞いた」
「よくやるな……」
「サーシャ以外に目を向けたくないから、生涯結婚もしないって」
「アレクサンドラ殿下をお慕いしてるとか?」
「いやー……鈍い人だからなんとも……でもサーシャ以外ほんとに目に入らないんだろうね、
サーシャに文字通り、命をかけてるから」
「すごい方だ……」
「サーシャの王配には……大将がいいと思うんだけどな」
ふと、ナターリヤが呟いた。
「サーシャも……大将に対して命をかけてるのが、最近はっきりわかる。
いくら主従だからって、部下が命をかけるのはともかく、互いに命を掛け合う関係って、そうそうないよ」
「いつも一緒に寄り添ってる印象はあるな、閣下は陛下からの信頼も厚いし、確かにお似合いだ」
「こればかりは、もうアナスタシア様がいらっしゃらないから、何とも言えないんだけど」
ナターリヤはそう言うと、レオニードに背を向けた。
レオニードは、後ろからナターリヤの身体に触れ、背や肩に唇を当てる。
「うん?まだやる?」
「……そういうつもりじゃない。
きれいだから、つい」
「傷跡だらけだ」
「それでも……きれいだ。きみのも勲章だろ」
「そう、自慢の傷跡」
「俺も、誇りに思っている」
「同志だな、私たち」
「ナターシャ……」
国は違うが、同じ生き方の自分たち。
ナターリヤからそう言ってもらえて、この上なく嬉しかった。
ナターリヤが再びレオニードの方へ身体を向ける。
女性らしからぬ、傷跡だらけの身体。
黒いものの跡だけではない、古い刀傷や切り傷もうっすらとだがいくつも跡が残っている、
だがそれが愛おしくて仕方がない。
もう一度、ナターリヤに覆いかぶさり、唇を重ね、
身体の傷跡一つひとつに唇を押し当てていく。
まだ何度でも、このひとを愛したい。
ナターリヤもその思いに応える、
いつ尽きるともなく、愛し合うのだった。
* * *
夜明けが近くなっていた。
ナターリヤは、自分の部屋に一旦戻って少し仮眠を取ろうと、レオニードの部屋を後にしたーー誰も起きていない今のうちに移動したかったのだ。
さすがに疲れて眠い。
でも、心地よい疲れで、爆睡できそうだ。
レオニードの身体の感覚を思い返し、浸りながら、部屋へと歩く。
普段は、終わればさっさと忘れてしまうことなのだが。
久しぶりだったのもあったのだろうか、今までより余韻が続いている。
国を出るまでは、しばしレオニードに溺れるのも悪くない。
もう、城内を一人で歩いても大丈夫だし、そもそもナターリヤに敵うものなどいない、
緊張せずに歩いていたら、前から誰かやって来る、向こうもナターリヤに気づいたようだ。
ヴィクトル王子。
この国の将軍とさっきまで肌を合わせていたのは何となく気まずい、だがもう知らぬふりはできなかった。
「殿下。こんな時間にどうしたんですか」
「お前こそ、ナターシャ。
俺は父上と積もる話をしてたんだが……」
ヴィクトルが、急に距離を縮めてきた。
驚いている間に、ヴィクトルがナターリヤの首筋に顔を近づけるーー
「……男の匂い。
うちの誰かを食ったか」
ーー不覚。
動くことができなかった。
他の男ならば、油断していたとしても、瞬間に身を引いて構えられる、ここまで近づけなどしない。
だがこの王子はーー
最初にイーゴリと剣を交えたときも、ルフィーナと対峙したときも、
瞬く間に距離を縮め、相手の懐に入り込むように接近し、己の射程距離に取り込むのだ。
ヴィクトルは、すぐにナターリヤから顔を離した、
だが距離は取らない。
開き直ることにした。
「何か問題でも」
「……いや。というか否定しないんだな」
「貴方の目をごまかしても仕方ないでしょう、ごまかせるとも思わないし」
「まあな」
「咎めないのか」
「別に」
「そういう女は軽蔑するかと」
「合意の上のことをとやかく言うつもりはない」
「なら結構」
「うちにもお前の眼鏡にかなうほどの男がいたか」
「ええ、さすがは勇士イヴァンの国」
「ヴァシリーサの国には、強く、年上で、抱擁力のある女はいそうか?母上みたいな」
「アナスタシア様みたいって……マザコンじゃねーか」
「俺はマザコンなんでな。まぁ、今はいい」
「そうですか、ほかにご用がなければ、失礼します、もう眠くて」
「ああ」
ナターリヤとヴィクトルは、すれ違い、反対方向に歩いていった。
「そうだ」
ヴィクトルの声に、ナターリヤは振り向く。
「何か」
「サーシャが……ちょっと動揺しちまってな。
イーゴリに後を任せてきたんだが、一応お前にも知らせておく」
「サーシャに何したんだ」
ヴィクトルは、振り返り、再びナターリヤのところまで来て、小声で言った。
「……自分の気持ちに気づいちまっただけだ」
「サーシャの気持ち?」
「そう。いつも側にいる男への、な」
「……それって」
「兄としては是非進めたい」
「妹としても同じだ」
「……そうか、お前は奴の妹だったな。
また相談しよう」
「ええ、喜んで」
ヴィクトルは、挨拶すると、その場から去っていく。
ナターリヤは、眠い目を擦り、再び部屋へ向かって歩き始めた。
作者の大好物シーンですw
早く書きたくて書きたくて(どんだけ)
R15で収まるように結構苦心しました(*゜∀゜*)
ピノ・ノワール(赤ワイン)はただの知ったかぶりです。作者お酒一切飲めません(*´ω`*)




