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ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第三章 父の国
39/202

39.処刑

※タイトル以外にも、残酷な内容・表現を含みます※


メイドは考えを巡らせている……

ややあって、


「……もしや、あの方。

……見なかったことにしてとお願いしましたのに」


「彼は私に隠し事などできないタチでな。

一人の運命より私への忠誠心が勝る、不器用な男だ。

頼んだ相手があの男だったのが残念だったと言おうか」


「そうですか……」


「口外されたことであの男に何かしようとでも言うなら……

私が代わりに受ける」


「……そういうわけではございません」


メイドは感情のこもらない声で答える。

サーシャは、先ほどから薄々感じていたことをーー


「……あなたは、人ではないな?」


メイドが初めてサーシャの目を見た。


「……なぜ、そうだと?」

「あなたのような人々を見かけた。


……()()()()


メイドの口元が、少し緩んだ。


「貴女様は、あのとき私たちの中にいらっしゃった……

私たちを、あるべきかたちに還してくださった方、ですね?」

「あるべきかたち……取り込んだことか。

……驚いたな、まさか意志の疎通ができるとは。

っていうか、城内に入り込んでるって……」


「貴女様にだけはお話しいたしましょう、私たちを助けてくださったのですもの。

……この城を飲み込む前に」

「……飲み込んでほしくないが、ひとまず聞こう」


メイドが、静かに微笑みを浮かべた。


…………

…………


「私は……いえ、この体の持ち主は、先日自ら命を絶ったのです。

恨みと絶望……惨めさ、恐怖、……それはそれは、あらゆる負の感情にまみれて。


体が死ぬ前に、心は既に壊されていました、

ですが一つだけ……強烈な願いを持っていました。


彼女を壊したものに一矢報いたいと。


我々は彼女の負の感情を対価に、彼女の体を借り、

彼女を壊したものたちを取り込んできたのですよ……それもまた我々にとっての対価。

飲み込む対象がコントロールできているのは、この体があるからです。

彼女の思考の仕方や感じ方がこの体によってなされるので、

人と同じように行動できますよ」


「心が壊された、とは……」


なんとなく、検討はつく。


「お察しの通り……


男どもの、慰みものだったのです、


将校級の」


「将校級、って……」


「将軍と、副将たちですよ、先代派の」


サーシャは息を飲んだ。


「籠城後のことでした。その男どもから要請がありました、女を所望すると。といっても貴族の女は対象になるわけがありません。女を仕事にしている者は城になど入れませんでした、

必然的にメイドから選ばれることになります。


その役を引き受けたのが、この女……

メイドたちの姉的存在だったようですね。


男どもを一手に引き受け……


言い表すのもおぞましいことをその身に受け……


長くは持たなかったのです。


我々のもとに落ちてきたとき、壊れた心の底に残っていた思い、

それは、他にこんな犠牲者が出ぬよう、ということ。


我々がこの体に宿り、発現した意志とは、

犠牲者が出ぬよう、その男どもを取り込む、つまり亡きものにすること。


この女が命を絶ったことは誰も知りません。


生前と同じように存在しています。


そして、日々、あのおぞましい出来事を繰り返しています、

時が来たら、取り込むべく。


……貴女様の部下の方が、この女を襲っていた男どもを閉じ込めましたよね。

あれは、我々が既に取り込みました。

あれも先代派の下っ端のものです、先代派の中では隙を見てはこの女ができる対象だということで、皆狙っていますよ。

あのように男どもに襲わせ、取り込んで、を繰り返しているのです、

貴女様に救っていただいてかなり減少していたのに、おかげでまた増えてしまいました」


…………

…………


なんて……


反吐が出そうな話だ。

そして話の内容がショッキングで、気がつかなかった、


ーーいつのまにか包囲されていたことに。


「ヴァシリーサの王女。

一人とは無用心なことだ」


後ろから男の声が聞こえ、振り返って身構える。



ヤン将軍。

そして旋律の習得に加わったレオニードら副将たちを除く、城の上位者。


「貴様が来てから我が国は混乱に陥っている。

国王はすっかり腑抜けていらっしゃる、貴様の母親を思い出してな。

我々の希望だったヴィクトル王子までもたぶらかし、

我が娘から王子を奪うとは……貴様はもはや放置してはおけん。


貴様を排除し、ヴィクトル王子に正気に戻ってもらい、国王の座を明け渡してもらう。

かつてのこの国の栄華が再び戻るのだ!

覚悟せよ、勇士イヴァンをたぶらかすヴァシリーサの子孫よ!!」


城の上位者。

剣も魔法も、使えるものばかりだ。


サーシャに勝機など、ヴィクトルとの手合わせ以上にあるわけがない。


しかも……このメイドを追いかけていたら、人気のないところへ来てしまっている。


「希望も何も、王子だけじゃ打開できなかったくせに、的外れなことを言いやがる」


まずは牽制する。

打開先はないことはない、弱くても魔法で爆発をおこせば、

あるいは、いっそ攻撃してもらって爆発でも起きれば、物音で異常事態が伝わるはずだ。


「ヤン将軍。あなたはこのメイドをご存知のはずですね?

……知ってますよ、今聞いたんでね、まぁ、卑劣な男どもだ」


「う……うぬ、貴様、まさかしゃべったのか!?

貴様から始末してやる!」


「無駄ですよ、この女は……既に死んでいますから」


「「何っ!?」」

その場の男たち全員が声を上げた。


「魔術師もこんなにいて気付かずに事に及んでたのか?

まったく程度が知れてるぜ……」


「でたらめだ!死んでいるなどと!」


「あの娘にこの父か、まぁわかる気がするな……」

「何を呟いている!貴様は終わりだ、黒いものは国王と王子でなんとかできるだろう。

ヴァシリーサの血など災いでしかないわ!ここで絶やしてやる」


魔法が放たれようとしている。


ヴィクトルにやったように、耐えられるだろうか?

いや、この場に5人。

勝ち目も、逃げ道も……厳しすぎる。


「あなたの名は?」

サーシャは後ろにいたメイドを振り返って、尋ねた。


「この女の名ですか?リョーナと言っていました」

「お前をリョーナと呼ぼう……リョーナ。

こいつら、取り込めるか?」

「もちろん……そのつもりでしたから、喜んで。

ですが……これだけの力あるものを取り込んだら、もう人間の形態は維持できません、溢れてしまいます。

瞬く間に城へ広がり、地を這って城門を越え、外のものと合流するでしょう。

そして、この城を飲み込みにかかります。

それでも、いいのですか?」


男たちが間合いを詰めてくる。


取り込むということは、この男たちを……殺すということだ。


だが、


「構わない。取り込め」


サーシャは静かに命じた。


「仰せのままに」


リョーナの体が、端から黒い波と化した。

触手が飛び出し、男たちを囲み、身の自由を奪った。

「うわあっ!?こ、これは!」

「あの黒いもの!?なんで、この女が!」

「王女!貴様は一体……!!」


サーシャは黒いものの中で、平然と立ち、男たちの末路を見ている。


「き、貴様はやはり、コシチェイの……」

「知らねーな、そんなもの」


黒いものに巻かれ、地に転がった将軍の頭を、サーシャは踏みつけた。


同様に黒いものに全身を覆われた男たちが、断末魔の声をあげていく、

黒いものに体を貫かれているのだろう。


「お父さまを……よくも裏切ってくれたな?

お父さまの優しさを踏みにじり、城のものを傷つけ、お兄様を食い物にしようとしやがった。


そして、女というものをこれでもかというまで踏みにじった……


私が代わりに貴様らを踏みにじってやる。

あらゆる負の感情の糧となるがいい」


男たちの声が消え……

後には黒いものが浅い波のように漂っている。

リョーナの姿はもうない、だがサーシャには聞こえてきた、黒いものからの声が。


「ごちそうさまでした。

貴女様とお話できるのもあと少し……

貴女様に免じて、この意識がある限り、城の者たちを巻き添えにしないよう、一旦外に出ます。

また我々を助けてくださいますね?

貴女様に抱かれに、戻ってきます。

また相見(あいまみ)えましょう」


「待って、あなたは……どこから来た?コシチェイって、あなたと関係あるのか?」


聞きたいことはいっぱいあった。

だが、

黒いものは、もう四方へ流れていってしまっている、城内に一部入り込んだものがあったようだ、悲鳴や怒号が聞こえた。


ーーここは地に結界を張っている、地に潜れなかったものが結界の上を漂ってしまったのだ。


廊下の隅にほんの少しだけ残った黒いものに触れた。

その瞬間、黒いものは黒い光の粒に変わる。


ーーありがとう。


そんな声が聞こえた気がした。

何に礼を言ったのだろうーーああ、リョーナだ。


おぞましかった生から今やっと解き放たれ、自由になったのだ。


サーシャは廊下の先まで歩いて行った。

窓から外を見る、

城の敷地の上を黒いものが細い川のように這い、城壁の隙間から外へと消えていく。


ーー開戦だ。


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