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ヴァシリーサの指輪  作者: タバチナ
第二章 旅の始まり
24/203

24.笑わない王女

今回、短いです。


イーゴリは、本日何度目かのため息をついた。

それを見て、サーシャとナターリヤがケラケラ笑う。

ナターリヤはもはや自分を上官だと思っておらず、まったく気兼ねしなくなった。

それどころか、サーシャと一緒になって、事あるごとにイーゴリをからかうのだ。


旅が一気に賑やかになる。


自分と二人旅のときは滅多に喋らなかったサーシャが、明るく楽しそうに過ごしている。

自分がからかわれることくらい、サーシャが明るくいてくれるのなら、ちっとも構わないのだが……


自分との旅は、さぞかしつまらなかったことだろう。

サーシャを守る者として、サーシャの様子に常に気を配りながらいることは言うまでもない。

だが必要以上にサーシャに構うのは、サーシャも望まないだろうと思っていた。

サーシャ自身も、泣いていてもいちいち構わなくていいと表明していた。

いらぬ気を使わなければならない相手ではないのである。


そういう意味で、イーゴリはサーシャを一番信頼していたーー主君アナスタシアよりも。


そういえば、サーシャは”笑わない王女”と一部で囁かれているという噂を聞いたことがあった。

サーシャが幼い頃は、明るくてよく笑う快活な王女だったのだが。

笑わなくなったのはいつごろからだっただろうか?

訓練が高度になり、城内での訓練や演習に混じるようになった頃か。


出涸らしと囁かれ始めたのも、同時期だった気がする。


そのうち、難しい年頃になり、笑わないどころかしょっちゅう不機嫌になって、

何度八つ当たりされたことか。

辛抱強く相手をしていると、落ち着いてはくれたが。

いや、サーシャもどうしていいか自分でもわからなかったのだろう。

アナスタシアの前ではそういう素振りは見せなかったところから、ストレスのはけ口が自分しかなかったのだ。


その後ナターリヤを始めとする近衛隊が編成され、ナターリヤたちがサーシャの相手をすることが増えると、年の近い者たちの方が話もしやすく女性同士ということもあったのだろう、

だんだんと落ち着いたようであり、近衛たちの前では笑顔も見られるようにはなっていた。


ーーもっとも、近衛兵の白一点であるエドガルがアナスタシアの命でサーシャに色目を使ったとき、命令でしかなかったことを知ったサーシャが怒り狂って当たった先が、これまた自分であった。

しかも、その後のエドガルとアナスタシア及びサーシャの間を取り持ったのも自分だった、

信頼されているからこその役目といえば聞こえはいいが、要するに板挟みである、

当時はかなり参ってよく剣に逃げたものだった。

アナスタシアはそうした苦労について、もちろん最大限の配慮をしてくれたから、思い返せばあの時は大変だった、程度で済んでいるのだが。


そんなサーシャもこの2、3年ではだいぶ大人びてきて、考え方もかなり成長し、

王位継承の準備に取り掛かるのにふさわしくなっていた。


だが同時に、また笑わなくなっていた。


無理もない、王位継承にプレッシャーがないはずがない。

自分が出涸らしと言われていることを知っているし、母のような実力がないことを自覚もしているのだ、

不安しかなかっただろう。


アナスタシアもそれは分かっていた。

成人の儀が済んだら、サーシャの指導に当たらねばならんな、と言っていた。


そのとき、心からサーシャを笑わせた者を王配にするか、とアナスタシアが呟いていたのを覚えている。


それがよろしゅうございましょう、と答えた。


果たして、サーシャを笑わせてくれる者は、見つけ出せるだろうか?

しかも、いくら笑わせてくれても平民ではいけないのである、

アナスタシアが許せば別だが、もうその判断を仰ぐことは叶わないのだーー


危険も伴う旅で、そこまで手が回るかは分からないが、

世界を回るのだ、身分がある程度あり、サーシャと年回りが近い次男以下の者もいよう、

できたらサーシャの伴侶を見つけてやりたい。


それがサーシャの世話係・教育係としての役目だと思っていた。


…………


……つい最近、サーシャの笑い声を聞いた気がするが……

どこでだったか?


誰と笑っていたのだろうか?


…………



気のせいか、と思い直す。

厳しい道のりだったのだ、そんな機会もなかったと思う。

昨日は笑ったと言っていたが、まぁ、少々笑うことは普段でもないことはない。


ナターリヤがいてくれてよかった。

少しでも、サーシャの心が軽くなるならば、それに越したことはない。


サーシャの父の国が近づいている。

王子ヴィクトルには会えるだろうか、アレクサンドル国王はご無事だろうか。


これから厳しい闘いが待っているかもしれない。

今のうちに、自分をネタにしてでも、サーシャにもナターリヤにも笑っていてほしい。


「イーゴリが坊っちゃまとかマジで笑うよな」

「全くだ!おっかしい」


「やれやれ……」

イーゴリは、さらにもう一度ため息をついた。



第二章 了


第三章開始まで、しばらくお時間いただきます。

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