0.滅びた栄華に想いを馳せて
かつて、大陸の全土を統べる強大な帝国があった。
その帝国は大陸へ蜘蛛の巣のように街道を張り巡らせ、豊かな富と屈強な兵を隅から隅まで行き渡らせた。帝国に征服された者達はその威容に恐れをなし、ただの一度も反乱を企てる事は無かったという。
帝都に住めば、働かずしてあらゆる物が手に入った。貴族達がその威信にかけ、市民達に住居を世話し、小麦を与え、衣服を仕立ててやったのだ。かくして余暇を持て余した市民達は文化的遊行に耽溺した。闘技場に赴いて獣同士の死闘を眺め、公衆浴場で汗を流し、哲学もどきの取るに足らない議論で夜を明かしたのである。
彼らは天上に住まう神の如く振舞っていた。その栄華は永遠のものだと誰もが信じていた。金銀の山で内憂を屈服させ、鋼鉄を帯びた兵士達で外患を打ち払う帝国に、終わりは訪れまいと。
しかし、帝国は滅びた。栄華を極めた帝都は虚ろな海の底へと沈み、帝国の栄華を伝えるものは、彼らが築いたいくつかの遺構のみである。
帝国という絶対の秩序が消え去り、大陸に無数の勢力が生まれては滅んだ。長い戦の果てに、ようやく四つの国が芽生え、育ち、新たな大陸の秩序となった。
この物語は、そんな大陸を彩る歴史の断片である。