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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第七章「東の都とついに進捗がみられそうな例の件」
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92.俺と似たようなことを考えていたのだろう。サンドラが楽しげにそう呟いた。

「いやー、なかなか帰ってこないからちょっと心配したんだがね。まさかしっかり結果を持ち帰るとは正直驚きだよ。というかずっと研究していた人達が気の毒になるね……」


 東都の王城に戻ると狙ったようにクロードに出迎えられて応接に通された。

 実際、魔法具などで情報を集め待ち構えていたのだと思う。


「わかったのは遺跡の正体だけで、魔法陣の詳細は聖竜様しか理解していないよ。しかも、どうも感覚的に把握しているみたいだから、技術としては伝えられない。彼らの仕事はまだまだ続くさ……」


 魔法装置の正体について一通り話す間、興奮しきりだったクロードにそう伝える。

 俺が聖竜様から教えて貰った魔法陣については、まだ詳細がわからないので聖竜領からの報告書に書くつもりである


「そうだね。魔法装置の正体がわかったから今後の調査の進展が早くなることを願うよ。それと、今回の件の詳細な報告なんだけれど」


 来た。俺はサンドラに相談し、事前に用意して置いた言葉を放つ。


「それなんだが。報告書を聖竜領で作らせて貰っていいだろうか? 俺もいくつか遺跡から得た知識があるんだが、書くのに時間がかかりそうで」


 帰ってきたのは予想外の反応だった。


「それは好都合だね。実はね、君達を長期間東都に拘束するのは難しいと思って連絡用の魔法具を用意しているのさ。既存のものより大型で多くの書類のやり取りができる上に早い。これで報告書を催促させてもらうよ!」


「…………」


 マジか。もしかして俺、これから先、クロードから書類を催促される日々が始まるのか。


「がんばってね。アルマス」


『頑張るんじゃぞ、アルマス。ワシはお主の妹を助けるので忙しい』


「…………」


 横のサンドラと頭の中の聖竜様の気楽な励ましが心に辛い。


「おや、どうかしたのかい? 難しい顔をして」


「いや、そういう約束だからな。謹んでお受けしよう」


 元より、断ることのできない話ではある。ここは覚悟を決めて書類を書くとしよう。


○○○


 クロードとの話が無事に終わった俺達は東都の街に出た。

 ここに滞在するのはあと三日ほど。その間にどうしてもやっておかなければならないことあがる。

 

 聖竜領の皆への土産の買い出しだ。


 商店の立ち並ぶ地区に向かう馬車の中、俺達は買い物について話し合う。


「とりあえずは保存の効く食材とか香辛料、植物の種かしら。あと、スティーナ用に大工道具とか……」


「ペンやインクも良いですね。屋敷や宿屋用に食器類も欲しいものですが……」


「なあ、なんだか日用品の買い出しの話みたいになっていないか? ……というか、今二人が話していたものだと『もっと働け』と受け取られかねないような」


「…………」


 俺の指摘にサンドラとリーラがはっとした。


「うかつでした。どうも一年以上の開拓生活で生活感が染みついてしまったようです……」


「ものの判断基準が『仕事で役立つかどうか』になっているわね。もう少し考えましょう。というか、アルマスに指摘されるとは……」


「俺は二人ほど仕事人間ではないからな」


 ちょっと失礼な態度のサンドラに怒りは沸かない。若い内は仕事に夢中で周囲が見えなくなるものだ。俺も覚えがある。


「少し方向性を考えましょう。さっき話したのは買うにしても、もっとお土産らしいものも選ばないとね」


「そうですね。せっかくですから、この地方でしか買えないお菓子なども欲しいですが、保存が心配です」


 東都から聖竜領までは順調にいって十日ほどの道のりだ。たしかに新鮮な食べ物を輸送するのはちょっと難しい。

 しかし、ここには俺がいる。


「どこかで大きめの箱でも買おう。俺が魔法をかけるよ。冷蔵でも冷凍でも選べるぞ。前にトゥルーズと実験した感じ、大体のものは長期間保存できる」


 聖竜領の保管庫は俺の魔法によって色んな温度帯のものが設置されている。そこではトゥルーズと共に色々な食品の保存について研究が進んでいるのだ。


「アルマス、その知識、売れると思うのだけど……。いえ、後にするわ。せっかくだから名物とか珍しいものを沢山買いましょう。お金は少しくらいならあることだし」


『のうアルマス。わしにも何か買ってきてくれんかの。菓子の類でいいぞい』


『せっかくですから俺の目を通してものを選んでください。今回の件、本当に感謝しています』


『なに、まだまだこれからじゃよ。それはそれとして土産は受け取るのじゃ』


「聖竜様からもお土産の催促かしら?」


「そんなところだ。そうだ、いっそクロードやシュルビアに頼んで良い物を教えて貰うのもいいな」


「それに関しては心配無用よ。支援の名目でクロード様が色々送ってくれるから」


「なんというか、抜け目がないな、サンドラ……」


「そうでもなければ、辺境を開拓して、実家となんて戦えないもの」


 今回の遠出でまた少し逞しくなったサンドラは、軽く胸を張ってそう言った。


○○○


 それから三日間、俺達は色んな人からお勧めの商品を聞いたりして東都の店を巡って様々な商品を買い求めた。


 食品類も聖竜領やクアリアでは入手が難しい肉や魚を買っては魔法で冷凍して箱に詰めていった。話を聞きつけたクロードがやってきて興味深そうに色々聞いたり買い取ろうとしたりと一騒動あったがそれも良い思い出だ。


「あまり話す時間がなくてすみません。クアリアに戻りましたら連絡をいれますので」


「二人で一緒に聖竜領に訪れるわ」


「その時は歓迎するわ。スルホ兄様、シュルビア姉様」


 俺の前ではサンドラがスルホとシュルビアに挨拶していた。

 先ほどクロードがやってきて手持ちの箱に冷凍の魔法をかけてくれと頼み込んできた後、ヴァレリーに引きずられて去っていったのとは対照的にまともな挨拶である。


「アルマス殿もよい収穫があったようで何よりです。これからもサンドラに力を貸してあげてください」


「もちろんだ。おかげで早い内に妹と再会できるかもしれないしな」


「それは楽しみですね。妹さんが目覚めましたら、是非ともお話したいです」


「その時はすぐに連絡するよ」


 スルホ達も俺の事情は知っている。良い二人だ、アイノも会えば気に入ることだろう。


「では、一足先に向こうで待っているよ。そういえば、今頃聖竜領とクアリアの間を輸送用の竜が飛んでいると思うぞ」


「え………」


 ハリアのことは初耳だったらしく、スルホが顔を引きつらせた。


「アルマス。行きましょう」


 説明するのを面倒だと思ったのか、サンドラが俺を馬車に急かす。

 馬車に乗り込んだが、なんだか申し訳ないので窓を開ける。


「害はないから大丈夫だ。それでは、またな」


 固まったままのスルホにそう言うと同時、馬車は発車した。


「ふぅ……。思った以上に収穫があった旅だったわ」


「そうだな……。本当に……」


 窓の外では、思ったよりも長く滞在した東都の景色が流れていく。

 いざ去るとなると都会の賑やかさが少し名残惜しい。


 だが、それ以上に久しぶりに帰れる聖竜領が楽しみでもある。


「まだ一年しか住んでいないけれど、聖竜領に帰れると思うと安心するわ」


「はい。今となってはあの場所こそがお嬢様の家ですから」


 サンドラとリーラは満ち足りた様子で微笑を浮かべながらそんなことを言った。


「皆、元気にしているだろうな」


 聖竜様から異常があったと連絡はないから、きっといつも通りあの場所で日々を過ごしているのだろう。東都であったことを皆に話すのが楽しみでもある。


「みんなの顔を見るのが楽しみね」


 俺と似たようなことを考えていたのだろう。サンドラが楽しげにそう呟いた。


「そうだな。さしあたって、俺はこれの処理も考えなければならないが」


 そう言って出発直前にクロードから持たされた紙の束を見る。

 例の魔法装置の報告書を作成しろという最初の催促である。


「聖竜領に戻るまでに少し書けばいいんじゃない?」


「そうさせてもらうか」


 サンドラに同意した俺は揺れる馬車の中で報告書の文面を考えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大量のレポートの提出を期せられた学生のように、、、 大変そうだ。
[一言] おかしい、アルマスさんが物凄く常識的な人に思える…周りが極端な趣味人と仕事人間に偏っているのが良くないのか。それにつけても、アルマスさんに四百数十年ぶりの書類仕事は果たして務まるんでしょうか…
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