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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第七章「東の都とついに進捗がみられそうな例の件」

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82.どうやら、俺に新たな役割ができてしまったようだ

 夜になり、街では昼からの喧噪がまだ消えない中、東都の城でも賑やかな催しが開かれていた。

 スルホとシュルビアの結婚に伴う宴である。

 こういった時のために大きく作られたであろう室内は盛装した男女で溢れ、テーブル上には贅をこらした食事の数々が並び、室内の一画では楽団が穏やかな音楽を奏でている。


「まるで物語にでてくるような宴だな」


「第二副帝のお城だもの。物語の題材にされてもいるからそのものね」


 俺の隣で絞った果汁を飲みながらサンドラが言った。

 当然ながら、彼女も盛装だ。青いドレスを身に纏い、髪は付け足された上で結い上げられている。小柄なことと見た目が幼いこともあって、淑女というにはちょっと及ばないが、とてもよく似合っている。


「しっかりとドレスを着こなすものだな。よく似合っている」


「お世辞はいわないほうがいいと思うの。どうせ子供っぽいとか思ってるでしょう?」


「いえ、とてもよくお似合いです。失神するかと思いました」


 横でいつものメイド服姿で立っているリーラがすかさず言った。ものの例えでは無く本音なのは間違いない。


「リーラに倒れられたら困るわ。わたしの側にいてもらわないと」


「しかし、俺達はこれでいいのか?」


 珍しい場にいながらいつも通りの会話をしている俺達は、会場から孤立していた。

 というか、意図的に孤立して、部屋の隅の方にいる。たまに俺が食べ物を持って来て食べるくらいだ。ちなみにどの料理もとても美味い。


 周りを見れば貴族同士が挨拶したり、ダンスを誘ったりしている。少しだけ会話を拾ってみたが、仕事の話をしている者も多いようだ。

 今日は帝国各地から有力貴族が東部に訪れる珍しい機会だ。この機会に目当ての人物と知遇を得ようというのはおかしなことではないだろう。


 にもかかわらず、聖竜領である俺達はそういうことはまったくしていない。

 ここで何らかのコネクションを得るというのは良い判断では無いとサンドラが決めたからだ。


 聖竜領は第二副帝とクアリアの二つと協力していれば現状十分で、複数の有力貴族が一気に手を入れてきたら何がされるかわからない。そちらのリスクをサンドラは重視した。


 また、聖竜領のことを知っていそうな貴族達もこちらをたまに見てくるが話しかけては来ない。「噂で聞いているが、得体が知れない」ということで警戒しているとはサンドラの談だ。


 そんなわけで、俺達は上手い具合に会場の片隅に陣取ることに成功していた。このままスルホ達が現れたら祝福の言葉を差し上げれば撤収できるらしい。

 下手に何か起きるよりはいいかなと思って大人しく肉料理などを食べていたら、事を起こしそうな者が俺達の前に現れた。


「やあ、アルマス殿とサンドラ! 探したぞ、まさかこんなところにいるとはな!」


 周囲の喧噪付きで現れたのは第二副帝クロードだった。


「クロード様。本日はおめでとうございます。聖竜領の一同、心より祝福致します」


「あの二人には聖竜様の加護があるだろう。末永く幸せに過ごせるだろう」


「ありがとう。聖竜の加護とはありがたい。それにしても、ふむ……なるほどね。いい判断だと思うよ」


 俺達の様子を一瞥して、クロードはそう一言漏らと、サンドラが一礼した。部屋の隅に固まっている意図を察したようだ。


「とはいえ退屈だろう? アルマス殿、チェスはできるか? ボクと一勝負しないかい?」


 そういうとクロードの侍従の一人がいかにも高級そうな折りたたみ式の携帯チェスボードを取り出した。

 同時に周囲がこれまでにないほどざわついた。……何か意図があるのか?


「久しくやっていないがルールは覚えている。俺で良ければ相手になろう」


 おおおお、と何故か周囲から歓声があがった。何だこれは?


「サンドラ、この国にはチェスに特殊な意味があるのか?」


「大丈夫、何もないわ。……アルマスなら平気な気がするから、余計な情報は与えないことにする」


 気になるじゃないか。明らかに余計な情報があるだろう、この勝負に。


「さあ、アルマス殿。勝負だよ勝負!」


 見ればいつの間にかテーブルと椅子が用意され、チェスの対決場が整っていた。周囲に貴族達も集まっている。もう断れる雰囲気ではない。

 席に座り、なんだかご機嫌なクロードに頭を下げる。


「では、よろしく頼む」


「こちらこそ。アルマス殿なら昔の戦術を見れたりするのかと楽しみだ」


 それからすぐ、クロードの先手で対戦は始まった。

 迷いのない手つきで駒を進めたクロードに俺も対応する。


「ふむ。アルマス殿はチェスの心得があるようだね」


「戦友の一人が凝っていてな。無理矢理相手をさせられた」


「なるほど。『嵐の時代』といえど、人がやることは変わらないねぇ」


「戦争がない分、この国は大分良いと思うぞ」


 どうやら、雑談をしながら手を進めるのがクロードのやり方らしい。特に拒否する理由もないので付き合うことにした。俺がクロード相手に敬語を使わないのを見て、何やら色々と周囲で説明やらが始まったのも悪く無さそうだ。自己紹介の手間が省ける。

 多分、このチェス自体がクロードなりのパフォーマンスなのだろう。


「実は今日、皇帝も来たがっていたんだがね。用件があってこれなかった、残念だ」


「皇帝か。どのような人物なんだ?」


「立場に反して気さくな人柄さ。君達のことを話したら、是非一度会ってみたいとも言っていたよ」


 これはそのうち来るな。サンドラの方を見てみると胃の辺りを抑えていた。同じ事を考えているのだろう。


「今の聖竜領から遠出するのは難しいが、そのうち帝都というのを見てみたいな」


 たまにサンドラ達の口から出るイグリア帝国の中心。そこに興味が無いと言ったら嘘になる。とはいえ、まずは聖竜領から安心して遠出できる環境を整えなければならない。


「行けるさ。なにせ、聖竜領にはボクとクアリアがついているんだからね。実に興味深い」


 その一言に反応したのは俺の周りにいる貴族達だった。

 なるほど。これは他の貴族達への牽制か。こういう形で手を貸してくれるのはとても助かる。


「あ、チェックメイトだね!」


「あ…………。俺の負けだな」


 その後も聖竜領のことを聞かれたので答えながら駒を進めていたら俺はあっさり負けてしまった。


「なかなかいい勝負だった。またお願いしたいな」


「ああ、今度は負けないように腕を磨いておこう」


 勝ったのが嬉しいらしく、クロードは上機嫌だ。話ながらだが、俺もかなり頑張った。良い勝負に周囲の観客も満足してくれたことだろう。


「それでは、顔を見たい相手がいるので失礼するよ!」


 そう言ってクロード達は去って行った。

 観客となっていた貴族達も散っていき、また元の状態に戻る。


「お疲れ様。アルマス、凄いのね」


「ああ、なかなかの名勝負だった。負けてしまったがな。……どうかしたのか?」


 俺が所感を語ると、サンドラは物凄く微妙な顔をしていた。怪訝というか、驚きというか、そんな感じだ。


「アルマス、ちょっと……」


 手招きされの人のいない片隅に移動する。

 小さな声でサンドラが言う。


「……クロード様はチェスが大好きなんだけれど、あまり強くないので有名なの。その上、洞察力が尋常じゃないから手加減するとすぐにそれを見抜いて不機嫌になるという面倒くささでね。貴族間では、クロード様と上手にチェスをする方法が悩みの種だったりするの」


「なんだと…………」


 俺はそのクロードとかなり良い勝負をしたぞ。特訓すれば次は勝てると思っていたくらいだ。


「正直、クロード様にチェスの相手を申し込まれることを警戒していたんだけれど。ここに理想の相手がいてくれて助かったわ。今後ともよろしくね、アルマス」


 本心から感謝している様子で言ってきた。悪意も感じられない。厄介だ。


「いや待て。俺がチェスの特訓をして強くなったらどうするんだ」


「わたしが見た感じ、アルマスはそんなに急激に強くならないと思う。戦法も古いし」


 確かに俺の知るチェスの戦法は四百年以上前のものだ。そこは認める。しかし、評価が無情すぎる。


「アルマス様。思うところはあるでしょうが、お願いします。お嬢様は九歳の時に、シュルビア様と遊んでいる際に様子を見に来たクロード様とチェスを遊ばれたのですが……」


「どうなったんだ?」


 サンドラは賢い。きっとチェスも強いだろう。九歳でもそれは変わらないはずだ。


「二六連勝して、「二度とクロード様とチェスをさせるな」と旦那様に言われるほどに打ち負かしてしまいまして……」


「わかった……。俺が担当しよう」


 どうやら、俺に新たな役割ができてしまったようだ。名誉なんだか不名誉なんだかわからないがやるしかない。

 気を取り直して宴に戻ろうと思った時だった。

 向こうから俺達の方にやってくる一団があった。

 人数は十人ほど。誰もが若い。そしてその中にはマノンの姿があった。

 帝国中央から来た若い貴族の団体。その中でも大柄な男が前に出てくる。


「久しぶりだな。サンドラ」


 セドリック・エヴェリーナ。サンドラの義兄が、体格差だけで無く視線も含めて俺達を見下ろすようにしながら挨拶をしてきたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] チェスの相手、 うん、平和でいいね。 ある意味接待係なのかしら?
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