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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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379.日常をおろそかにしてはいけない

 アイノとクアリアに行くことにした。目的は買い物だ。妹が帰ってきている貴重な時間。邪竜の存在は気になるが、日常をおろそかにしてはいけない。

 クアリアでの買い出しはちょっとした楽しみである。発展し続けているのもあり、見慣れないものをよく見かける。そんな町中をアイノと歩くことほど有意義な時間はない。


「本当に俺もついてきて良かったのか?」


 レール馬車の中、向かいに座ったアレクが遠慮がちに聞いてきた。


「問題ない。むしろ、最初に拒否したのが驚きだったぞ」

「聖竜兄者にきつく言われたんだよ。お前たち兄妹はようやく再会できたんだから、そっとしておいてやれ、と」


 さすがは聖竜様だ、俺達にまで心を砕いてくれている。しかし、心配無用だ。今回のアレク同行はアイノが言い出したことでもある。


「私からお誘いしたことですから。せっかくですし、クアリアの町を回りましょう」

「アルマスの妹からそんな申し出があるのが驚きだ」

「俺もだ。だが、アイノが言うなら問題ない」


 個人的にアレクとアイノは接触を避けさせようと思っていた。うっかりすると、邪竜の眷属にされてしまいそうだからな。アイノの存在は邪竜にとって都合が良すぎる。

 それがアイノの方から話を出すとは思わなかった。


「えっと、私達の生活を見るなら、クアリアに行くのは良いことかなって思ったの。とりあえず、本屋さんとか?」

「そういうことか。領主の屋敷にも資料は沢山ある。この国や周辺国家の事情を学ぶことができるな。ところでアレク、文字の方は?」

「問題ない。読めるようにしてある。これまで町についても落ち着けなかったからな。知識を仕入れる機会があるのは良いかもしれん」

「頭の中の知識は荷物にならない、って兄さんが良く言っていたから。旅先でも役立つんじゃないかと思います」

「違いない。ところで眷属の妹よ、変わった体になったようだな。……不便はないか?」

「…………」


 一瞬、アイノが勧誘されるかと思ったが杞憂だったようだ。真面目な顔で心配している。


「はい。兄さんと聖竜領、それと聖竜様のおかげで」

「そうか。安心しろ、アルマス。俺はお前の妹を連れて行ったりはしない。聖竜兄者に止められているし、旅慣れているように見えないからな。能力的にはちょっと惜しいが」

「やはり、アイノは混沌の浄化に向いているのか」


 アレクは静かに頷く。


「眷属に近い体だからな。浄化の魔法は簡単に習得できるだろう」

「じゃあ、私も浄化のお仕事をやろうと思えばできるんですね。あ、そうだ、浄化の魔法具とか作れないかしら? 私や兄さんなら長期間持続するようにできるだろうし」


 俺とアレクは同時に目を見開いた。さすが俺の妹、さては天才か? 


「眷属アルマス。その魔法具とやらは現実的な話なのか?」

「机上の空論だ。今の時点ではな。だが、やってみる価値はある。浄化の魔法を使えるものなら、浄化の魔法具を作れる。その可能性は高い」


 基本的に魔法具とは自分たちに使える魔法を手軽に使えるようにするためのものだ。応用として通信用のものを作成したりもするが、火を点けたり水を出したりする基本的なものが

本質に近い。


「今は冬で時間がある。俺とアイノに浄化の魔法を教えてくれないだろうか? 魔法具の開発を試してみよう」


 理想は俺とアイノが浄化の魔法具を量産し、各地に配ることだ。これによって六大竜に頼らず、人の手で混沌を浄化する仕組みが作れるかもしれない。


「面白いな。やってみよう。どうする、来た道を戻るか?」

「やめておこう。まずは、町を楽しんでもらいたい」


 たった今出た思いつきのために引き返すにしては、時間がたちすぎた。レール馬車はもう、クアリアの町に入ってしまったのだから。


 ◯◯◯


 アレクと一緒の買い物は楽しかった。本当にここに来るまで町をのんびり見る余裕がなかったのだろう。俺達に次々と質問してはいろいろな所に感動していた。特に、イグリア帝国の治安と食料関係の豊かさを何度も褒めていた。クアリアは領主のスルホが優秀だというのもあるわけだが、俺も同意見だ。

 一通り店を回った後寄ったのは聖竜領の出張所だった。


「はじめまして。邪竜アレク様。出張所を預かっているマノン・セガリエベと申します」


 建物に入るとすぐに応接に案内され、マノンとマルティナがやってきた。

 既に話はいっているだろうが、挨拶くらいしておくべきだと思ったんだ。アレクがそれなりの期間滞在するなら、一人でクアリアに行くこともあるだろう。そんな時、ここの人々が頼りになる。


「邪竜アレクだ。様付けはやめてくれ。偉そうでよくない」


 そう言いながら軽く頭を下げると、出されたお茶に手を出し始めた。聖竜様も同様なんだが、何故か人々から敬称付きで呼ばれることを嫌う。なにか理由があるようだ。なんだか俺だけ様付けで呼ばれて申し訳ない気持ちになるのだが。


「では、そのように。色々と買ったようですね」

「アレクのためにも必要なものが多くてな」


 建物内にはいつもの買い物よりも多くの荷物が運び込まれている。アレク用の服や本、日用品が半分ほどだ。残りは俺とアイノ、それと聖竜領の人々用だ。久しぶりだし、アイノが色々と欲しがるので思い切って買い物してしまった。


「なんだか申し訳ないぞ。礼もできんのに」

「このくらいはお安い御用だ。気にすることはない」


 本当に気にしないでほしい。何なら王侯貴族のための品でも足りないくらいの存在なのだから。アレクの服はボロボロだから新しいものを作るべく布を買ったりもした。冬の間に一着あつらえて貰うつもりだ。


「そうか。世話になるな。ここに来て本当に良かった」

「私共のところに来たのはご挨拶だけではありませんね?」

「ああ、クアリアや周辺の情勢について教えてくれ。俺では説明できないことも多いんでな」


 基本的に俺は聖竜領内のことしか詳しくない。イグリア帝国東部についてなら、出張所で貴族と頻繁にやり取りのあるマノンが最適だ。軽く社会情勢について教えを請おうというわけである。


「では、短めのもので宜しければ。マルティナ、少し本格的な休憩にしましょう」

「承知しました」


 静かに佇んでいた戦闘メイドは素早くお茶の用意をした。菓子が出るならアイノも呼んでこよう。妹は今、ドーレスと楽しそうに話していた。


 マノンの講義は一時間ほどで終わった。世情に疎い俺にもわかりやすく、案外楽しいものだった。今や絶縁したサンドラの義母達は遠くで苦労しつつ暮らしているとか、そんな情報まで入ってきたのは意外だ。念の為、目を光らせているのだろう。


「わざわざ専用の馬車まで用立ててもらってすまないな」

「大切なお客様ですもの。それに、乗り合いだったら荷物が乗り切りませんわ」


 その通り、久しぶりの妹との外出で張り切りすぎた。


「では、また来る。なにか気になる動きがあれば教えてくれ」

「承知致しました。皆様のまたのお越しをお待ちしておりますわ」


 いたずらっぽく笑うと、出張所の主人と従者が揃って丁寧な礼をして見送ってくれた。


「二人共、今日はありがとう。楽しかったぞ」

「歓待としては足りないくらいだと思っているよ」


 馬車が出発するなり、アレクがこちらに頭を下げた。六大竜だというのに、身軽すぎて心配になるな。


「そうですよ。大切なお客様。聖竜様の御兄弟なんですから。楽しんでもらわなきゃ……。あ、雪だわ」


 笑みを浮かべたアイノが話しながら外を見た。つられるように俺とアレクも窓の外を見る。

 細かい雪が勢いよく舞っていた。聖竜領の方を見ると重い雲がかかっている。


「これは本格的な雪になりそうだな。少し、急いでもらおう」


 雪を見ていたら急に寒く感じてきた。まだ夕暮れまで時間はあるのだが、妙に暗い。明かりの魔法を使うべきかもしれないな。


「雪、積もるかな?」


 誰ともなく呟いたアイノの問いが暗い空に吸い込まれていった。

 しんしんと雪が降る中、レール上に乗った馬車はやや早いペースで聖竜領に向かう。

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