378.詳しく知らないが過去の眷属はそんな感じだったのだろうか
邪竜アレクの動向は気になるが、日々を過ごすことに変わりはない。
この日俺は冬の定番である港予定地を訪れた。水平線を眺めながらの考え事はとても捗る。ついでにゴーレムにした岩を運んで今後の作業も準備をしておく。
「む。珍しい組み合わせだな」
「アルマス様、お疲れ様です」
「おつかれさまですー。釣りですか?」
港にはロイ夫妻がいた。既に釣りを終えたのか、焚き火を囲んで魚を焼いている。
「まさか眷属アルマスが来るとはな。二人に誘われてここまで来ていたんだ」
なぜか無駄に偉そうに言うのは邪竜アレクだった。その視線は今焼いている魚に向いている。切り身になっているからわからないが、結構でかい。アリアは意外と釣り名人なのである。
「俺は岩運びと釣りだな。良い気分転換になる」
「眷属アルマスはよくここに来ると聞いた。海が好きなのか?」
「……そうかもしれない。見晴らしが良いからな。魚が釣れれば食料にもなる」
とはいえ殆ど釣れないわけだが。
せっかくなので俺も焚き火の周りに座ると、アリアがお茶をいれてくれた。茶器と一緒にやってきたらしい。
温かい紅茶をいただきながら、焚き火の上に雑に置かれたフライパン上で魚が良い感じに焼けるのを眺める。
「ロイ先生たちはなぜアレクを誘ったんだ? 全然理由が見えないんだが」
「ちょっと屋敷の食堂で暗い顔をしていたので気晴らしにー」
「アリアさんが誘ったら自然とこんな流れになりまして」
「なるほど。暗い顔……?」
アレクの方を見ると、フライパン上の魚を真剣に見つめていた。聖竜領のバターを使っているのか、香ばしい匂いがしてくる。間違いない。このまま食べて十分美味いやつだ。
「……聖竜兄者に説教されたんだ。それもかなり」
「そういうことか」
聞けば邪竜の行動は全て独自のもの。六大竜的にやってはいけない行為に違いない。
「わかるだろう。眷属アルマス。聖竜兄者の説教は長いんだ。しかも、すごく悲しそうな話し方をする」
「いや、俺は聖竜様に怒られたことがないからわからないな」
「なんだと……」
これは本当だ。俺は基本的に聖竜に従う。そして聖竜様は優しいから無茶な命令をしてこない。怒られはまず発生しない。上手くいかなかった時に『次、頑張ってみよう』となるくらいだった。
「信じられないほど聖竜兄者と相性がいいのか? 人間の眷属など勝手な行動をとって困らせるのが常なのに」
詳しく知らないが過去の眷属はそんな感じだったのだろうか。
「時代というのもあるだろうな。この国にいる限りは平和だ。差し迫った判断を迫られにくいのもある」
「そういうものか。いや、そうらしいな。ロイ夫妻に色々と話を聞かせてもらった。なかなか面白い出会いをしたようだな。まさか、これほどまでに六大竜の眷属と人が共存する村ができるとは思わなかった」
「アルマス様は私達によくしてくれますからねー。あ、お魚焼けましたけど食べますか?」
「いただこう。感謝する、夫人」
「あら、夫人ですって。ロイ先生、この呼ばれ方は奥さんっぽくて良いですねー」
「そ、そうですね。なんか、ちょっと実感湧いてきました」
「もう結婚して大分立つだろうに……」
それから、軽く食事をとりながら邪竜アレクから色々な話を聞いた。ここに来るまでに浄化した混沌の事。他国はイグリア帝国ほど豊かでないこと。少しだけ竜の力で土地を整えたりもしていること。
俺達からはこの国の生活や歴史についてだ。少なくとも平和で、混沌による影響は少ない。
「眷属アルマス。この辺りが落ち着いているのはお前の頑張りだ。聖竜兄者と協力して何百年も単調な浄化を行ったからだな」
もぐもぐと三個目の切り身を食べながらアレクが言う。食事が必要ない身体の割に、よく食べる。美味いものが好きらしい。地味に聖竜様から怒りと嫉妬の感情が伝わってくるのだが、これが原因で激怒したんじゃないだろうか。食べ歩きし放題だからな。
「あの行動に意味があったのなら何よりだ。『嵐の時代』は酷いものだったからな。できれば、平和が続いて欲しい」
「そのために俺が来たんだ。……ごちそうさまでした」
食事を終えたら自然とまた釣りの時間になった。冬の港は寒いので、暖房の魔法を使いつつのんびりと釣り糸を垂れる。せっかくだから、夕飯分も確保したいものだ。
ロイ先生とアリアも一緒に付き合ってくれている。二人揃ってデート気分だったろうに。なんだか邪魔をして悪い気もしてきたな。
「実際、混沌の処理については少し余裕があるんだ。だから、この聖竜領で色々と方針を考えている。眷属が欲しいのも事実だが、それ以上に円滑な移動手段や世の中の情報も欲しい」
どうやら、早くもアレクは聖竜領への滞在を心に決めてくれたようだ。おそらく、聖竜様からの薦めもあったのだろう。
「現代について学ぶのは大切だ。混沌がある地域などについて、イグリア帝国なら情報を集めることが可能だろうな。海外の地図だって取り寄せられるかもしれない」
事情を話せば皇帝なり魔法伯が協力してくれる案件だ。混沌のある場所は大体荒れている。浄化自体は悪いことではない。
「そう言って貰えると嬉しい。すまないが、しばらく世話になる。気になったことがあれば言ってくれ」
アレクは軽く頭を下げてきた。俺はさっそく、いうべきことを言う。
「ではまず、俺達はこの場を去るとしよう。二人は新婚でな。二人きりの時間を過ごさせてやりたい」
「だ、大丈夫ですよ。そこまでお気遣いいただかなくても」
「屋敷では一緒の部屋ですしー」
そうもいかない。そもそも、今日ロイ夫妻は二人でここに来るつもりだったんだ。実は昨日聞いて知っている。俺はゴーレムにした岩を置いてすぐ帰るつもりだった。
「そ、そうだったのか。すまないことをしたな。定命の者の貴重な時間を使ってしまうところだった。だが、感謝する。この邪竜アレク、受けた恩は忘れない」
「お、おおげさですよ。ね、アリアさん」
「はい。私はちょっとお話したかっただけですのでー」
人の良い夫婦は困っていたが、ここは素直に俺達は撤収しよう。俺とアレクは無言で意見を一致させ、馬車を残して聖竜領へと帰ることにした。せっかくなので、アレクには屋敷の人間関係でも軽く教えておこう。








