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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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373.大漁に気を良くしたリリアの発言の中に新情報が入っていた

 冬になると釣りをする日が増える。自分の仕事を増やさない方針の俺ですら、春から秋にかけては何かと忙しい。有用な魔法が使えるので、自然と仕事が発生してしまうものだ。

 なので、畑は休み、寒さで人々もあまりこないこの時期は時間ができて、自然と聖竜領の中央部にある港予定地に来ることが増える。


「ここも大分さまになってきたな……」


 釣り竿を垂らしながら感慨深く周囲を見回す。

 あまり急ぎの工事でないこの場所だが、なんとなく誰かしらが溜まることが多い。そして、足を運ぶ人が多いということは居住性を高める気持ちが自然と生まれてくるものだ。


 この冬の前から、俺とロイ先生は相談した上で、ゴーレムを使って岩を沈め、地面を整地した。当初の急坂の下にできた切り立った低い崖から、立派な陸地へと変貌しつつある。

 もう少し手を入れれば、いよいよ港として機能できるのではないだろうか。そんなところまで来た。


「……海はいい。魚は釣れないけれど」

「ああ、景色がいいな」


 俺の隣では、料理人のトゥルーズが釣りをしていた。どういうわけか、今日は二人共まったく魚がかからない。


「海が近くなったのは有り難い。そのうち塩も作れないかな」

「塩作りか。技術を持った人達に移住でもしてくれれば可能だろうな」


 最近のトゥルーズは「聖竜領産」の食材にこだわりがあるように思える。皇帝来訪に向けてもその方面で調整しているようだ。バターやチーズも領内で製造する目処ができたので、今度は塩か。領内で全部調達はさすがに無理があるとは思うが。


「ロイ先生の話を聞いた。皆、ここに来るまで色々あった……」

「そのようだな。トゥルーズもそうなんじゃないか?」

「私はあまり人とのやり取りが上手くない。ここの人達は意を汲むのが上手くて助かってる」

「大変だったろうな……」


 トゥルーズはあまり愛想がいいとはいえない。性格は聖竜領内でも一番穏やかまであると思うんだが、これだと帝都にいる時苦労しただろう。


「私にもロイ先生みたいな話が来たけど、断った。昔勤めたお屋敷から。多分、聖竜領のハーブや薬草目当てだったから」

「どこも似たようなことをやっているんだな……」


 この手の話はマノンも断りにくいだろう。どうしても本人の確認が必要になる。その上で、都会に帰ると言われたらサンドラも止めない。無理をいって付いてきた仲間に対して、都会への凱旋は一種の報酬にもなりうるからだ。

 今のところ、そちらを選ぶ者がいないのはここが過ごしやすい証明だと思うことにしたい。


「でも、そのうち帝都や東都で勉強したいとは思っている。……やっぱり、人の多いところは生まれる料理も多いから」

「それは、そうだろうな。しかし大丈夫なのか? トゥルーズが長期間留守をすると、屋敷の厨房が困るだろう?」


 トゥルーズの仕事はただの料理人じゃない。聖竜領を代表する存在だ。領内共有のパン焼き釜の管理なども任されているし、農家に食生活について指導することまである。


「大丈夫。メイドの中でも見どころのある子に色々と教えている。サンドラ様に前から頼まれていたから」

「さすがだな。先のことは考えているわけか」

「私も、ここに来て少し変わったと思う。来た時は人に教えようなんて少しも考えてなかった。もっと良くしたいから、遠くにいって勉強したい」


 今日のトゥルーズはいつになく饒舌だ。ずっと前から、こんなことを考えていたんだろう。


「トゥルーズが不在になると、聖竜様が悲しむな。供え物を楽しみにしているから」

「いっそ、東都にも聖竜像を置く? 帝都みたいになるかも」

『うむ。検討を頼むのじゃ。頼んだぞアルマス』

『割と必死ですね聖竜様』


 急に聖竜様が割り込んできたが、それだけトゥルーズの存在は大きいということだ。


「おや、今日は先客がいましたね。あ、トゥルーズさんだ。ちょうどよかったかもです」


 元気よく現れたのは建築家のリリアだった。いつの時期も自由で元気いっぱいだ。


「ちょうどよい?」

「はい。ちょっとまっててくださいねー」


 彼女は俺達への挨拶もそこそこに、近くに固定してあったロープを手に取った。地面に固定されて、海の中まで伸びている。誰かの実験かと思って放置してたんだが、リリアだったか。


「む……むむむ……重すぎて無理ですね。あの、アルマス様、お願いできますか?」


 申し訳なさそうに頭を下げられた。見た感じ、相当重そうだ。


「構わないが、なにに繋がってるんだ?」

「網です。昨日から仕掛けてまして。こう、引っ張り上げると上手い具合に魚が入るやつでして」

「よく一人で仕掛けられたな……」

「ドーレスさんが手伝ってくれました!」


 なるほど。すると調達したのも彼女か。みんな本当に好きにやっているな。


「面白い。では、引き上げてみようか」


 というわけで、さっそく引き上げてみた。眷属の力をこういうことに使うのは良いのだろうか? 食料調達だから問題ないな。うん。


 網は重かったが、魔力で力を引き上げれば案外なんとかなった。


「おお、そこそこ入ってますねー!」

「意外。空っぽかと思った」

 

 二人の言う通り、海の上に出て閉じた形になった網の中には十匹以上の魚がかかっていた。


「このあたり、魚が多いから網を下ろすだけでいけると思ったんですよねー」

「そんな所で一匹も釣れない俺達はなんなんだ……」

「…………」


 リリアの発言に俺とトゥルーズは地味に傷ついた。我々は釣りの才能がない。


「さあ、トゥルーズさん! 出番ですよ! 美味しく調理をお願いします! そうだ、今度クアリアの料理人にも色々と教えるって聞きました。魚料理もいいんじゃないですか?」


 大漁に気を良くしたリリアの発言の中に新情報が入っていた。


「本当に色々とやっているんだな」

「うん。色々やることにした」

 

 網の中の魚を品定めしながら、聖竜領一の料理人は、静かに笑みを浮かべた。

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