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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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366.これは今の俺にとっては仕事ではなく義務だ

 クアリアに来たならば、そこから西に行かなければならない。これは今の俺にとっては仕事ではなく義務だ。

 なぜならば、そこではアイノが仕事をしているので。


 クアリアの門を出て西に向かって街道上に敷設された一対のレール。俺達が帝都に行っている間も作業は進み、今ではそれなりの長さになっている。実際、近くの町へはレール馬車が走り始めた。


 そんな最先端の工事現場にアイノはいる。


「やあ、アイノ。調子はどうだ?」

「に、兄さん? 急に来て大丈夫なの? 聖竜領から結構距離があると思うけど」

「問題ない。走ってきた」


 ちょうどゴーレムを作り終えて一段落している所に到着した。

 俺が全力で走れば町までの道のりなど馬車よりもよほど早い。道も整備されていて走りやすいしな。


「旅人や馬車にぶつからなかったかちょっと心配だわ……」

「さすがに回避する。ちょっと驚かせてしまったがな」


 レールが延伸したおかげで、アイノの様子を見るにも一苦労だ。


「とはいえ、こうして俺が様子見に来られるのも、そろそろ限界だろうな。アイノにとっては気楽かもしれないが」


 街道上に伸びているレールを眺めながらしみじみと言う。他の町からはゴーレムを使わずに工事をしているそうだ。全力で走れば何とかなるという距離を超えつつある。さすがに妹の様子見をするために一泊というわけにはいかない。


「兄さんが私の心配をするのはおかしくないもの。こうして会いに来てくれるのは嬉しいわ。帝都でも色々あったしね」

「ちゃんと解決したじゃないか。それに、この辺りで仕事をする限りでは変なことはないさ」


 クアリア周辺なら、領主の目も行き届いているし、聖竜領の評判があるからアイノに変なことをしてくる輩はいないだろう。


「お二人共、宜しければお茶の準備を致しましょうか? 職人の皆さんもご休憩のようですし」


 小柄なメイドが走り寄ってきて遠慮がちにそう申し出た。見れば、職人たちが座り始めている。


「俺がきっかけで休憩になってしまったか?」

「ちょうど一息つくところよ。劇的な登場だったから手が止まったのは確かだけれどね」


 仕事の邪魔にならないように気をつけたつもりだったが、街道を馬より早く駆け抜けるのは目立ち過ぎだったか。今後は気をつけよう。


 工事中の道沿いの草原に軽いお茶の準備がされる。メイドは軽く頭を下げると、俺達の後ろに下がった。


「マイアさんは大丈夫だった?」

「クアリアの事務所に行ったらもの凄く元気になっていたぞ。マノン達から色々と教わっているようだ」

「そう。良かったわ。あの時は無我夢中で動いてしまったから」

「アイノは悪くはない。ああいった事態は想定されていた。上手く切り抜けられたと思うしかないな」


 結果的に、マイアが落ち込むことになってしまったがな。それも本人は糧にしているようだし、良しとしよう。


「気になるなら、今度顔を出してやるといい。きっと喜ぶぞ」

「そうね! そうだ。クアリアの領主様から、この辺りに家を貰ったの」

「家だと……」


 いきなり想定外の方向から話が出てきた。あの穏やかな領主、スルホがプレゼント感覚で家を? まさかアイノを? いや違うな絶対。


「アイノ様、その言い方だと誤解を招いてしまいますかと。これからの工事に備えて滞在するための施設として……とのことでございました」


 後ろで控えているメイドが教えてくれた。

 なんだ、そういうことか。一瞬あらぬ想像をしてしまった。


「そういうことか。有り難い……といえばいいのか?」

「そうなのよね。近くの人達に手入れは頼んでいるから好きに使っていいって言われたんだけれど」


 恐らく、工事が遠方になるにつれて滞在先を頻繁に変えることになるアイノへの配慮だろう。それはわかるが、俺達兄妹は元々庶民だ。こういった貴族側の行いにどう答えるべきかわからない。


「全く使わないのも失礼だろう。しばらくは拠点として使えばいいんじゃないか? 詳しい使い道はサンドラにでも相談するか」

「そうね。いきなり家とか言われてもちょっと戸惑ってしまって。私は聖竜領に家があるしね」


 俺にとっては嬉しい言葉だ。帝都での振る舞いやここでの仕事ぶりを見る限りだと、もう自立しようと思えばできそうなのに、家はあそこだと言ってくれる。焦ることはない。長くなった寿命を使って色々学んでいって欲しい。


「ご安心ください。アイノ様。スルホ様から頂いたのは療養のための別荘だそうです。なんでも、奥方様が静養するために昔使った場所の一つだとか。しばらくはお仕事の休養のため、将来は別荘として本来の使い方をすれば宜しいかと」


 メイドが控えめながら、わかりやすい話し方で教えてくれた。


「もしかして、普段は領内の事務をしている子か?」

「はい。モーラと申します。少々、気晴らしも兼ねてご同行させて頂いております。別荘の件、持て余すようでしたら、サンドラ様にご相談して聖竜領の物件としても良いかもしれませんね」

「的確な助言だ……」

「ありがとう。助かるわ」


 優秀な人間を優先してつけてくれているようで助かる。しかし、大人しそうに見えて凄い喋るな。


「申し訳ありません。わたくし、仕事のことになると口数が多くなりまして……」


 顔をちょっと赤くしつつ教えてくれた。


「無駄話でないし、問題はないと思うが……」

「そこです。わたくし、無駄話ができないのです。サンドラ様の近くにいると、仕事のことばかりになってしまいまして。そこで、「少しは仕事以外のことも学んで来なさい」とアイノ様へ同行することになったのです」

「そうなのか?」

「初めて聞いたわ。色々できて凄く助かるなって思ってたけれど」


 これはリーラの采配だな。あいつもあいつで苦労している。仕事人間だらけの事務所を見て、何かせねばと思ったのだろう。


「アイノ様、わたくし、今回の同行で仕事以外のことも学びたく思っております。宜しくお願い致します」

「えぇ……。難しいな、そういうの」


 アイノが困っていた。聖竜領の人間は割と自分の好きなことばかりしている者が多いからな。モーラのようなのは珍しいかもしれない。


「良い経験だと思って色々やるといい。さて、少し手伝ったら俺は帰るかな」

「兄さん、さりげなく自分は逃げようとしているわね」


 さすが我が妹だ。実に察しが良い。

 案外、自由に過ごすというのは難しいのだ。俺はそれをよく知っている。

 なので、この仕事はアイノに任せることにした。


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