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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第三章「厄介払いした妹の活躍を邪魔しようとして酷い目に会う姉の話」

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35.俺の発言に、トゥルーズが「たしかに」という顔をした

「あらアルマス。思ったより早いのね」


「畑の世話も終わったし散歩がてらにな。……お茶の時間だったか」


「えぇ……。アルマスもどう? というか、あなたわたしのティータイムの時間に来ることが多くない?」


「偶然だ。これは本当に。仕事を片づけて散歩がてらここに来ると大体この時間になるんだ」


 自分の畑の世話などをすませてから、ちょっと早めに領主の屋敷に向かうと、執務室でサンドラがちょうどティータイムを楽しんでいる時間だった。


 森の畑がエルフの手で回せるようになったおかげで、少し人手に余裕ができたのか、サンドラは執務室にいることが少し増えた。

 そこで面倒そうな書類仕事をしたり、こうしてトゥルーズにおやつを用意して貰ったりしている。


 ちなみに俺の名誉のために言っておくが、おやつタイムに狙ってやってきているわけではない。


「? リーラがいないようだが?」


「マイアと訓練中よ。誰かさんが相手をしてくれないからよ。そうそう、「今日はお呼びしましたし、ティータイムの時間に来るでしょう」とあなたのことを信頼していたわよ」


「……………」


 悪戯っぽい笑みを浮かべるサンドラに、俺は表情を変えずに無言で通した。


「アルマス様、やっぱり面白い……。座ってください。アルマス様の分もあるから」


 そう言って、トゥルーズが近くの席へ俺を案内する。

 彼女は相変わらずだ、畑の手伝いをしたりしつつ、皆の料理を作っている。

 街道工事の時など聖竜領に来た職人のために食事を作るのに大活躍だったのだが、いつもの様子からはそんな姿を想像出来ない。


「今日はクアリアから色々入ったので、パンケーキ……」


 そう言って、俺の前には切り分けられたパンケーキの乗った皿が置かれた。


「パンケーキ……だと……」


 綺麗だ。きつね色に焼き上がった表面。焼くときに何かの工夫をしたのだろう、そのパンケーキはふっくらと、大きく厚く焼き上がっていた。


「お好みで蜂蜜をどうぞ。バターはないけれど……」


 そういって、ビンに入った蜂蜜を渡された。

 俺は震える手をどうにか落ち着けて、パンケーキに蜂蜜をかける。


「436年前って、パンケーキがなかったのかしら?」


「いや、このくらいはあった。だが、パンケーキを食べるのは436年ぶりだ」


 クアリアの街に行った時は出てこなかったし、その後すぐに道路工事が始まってほぼ聖竜領にいたからな。


「では、いただきます」


 俺はそう宣言してフォークとナイフを駆使して、パンケーキを切り分け、口に運ぶ。


「……うまい」


 濃厚な蜂蜜の甘さ。そしてそれを柔らかく受け止めるパンケーキの包容力。

 素晴らしい出来映えだった。何より先に俺の心が反応し、自然と涙が溢れてきた。


「……うぅ。甘い物美味しい」


「まだ泣く要素があったのね、アルマス」


「料理人としては泣くほど感動してもらえるのは嬉しい……」


 サンドラが何か言ってるが、今は食べることが肝要だ。

 というか、普通にトゥルーズの腕がいい。滅茶苦茶美味い。


「美味かった……ありがとう、トゥルーズ」


「…………ん」


 俺が礼を言うと、少しだけ笑みを浮かべたトゥルーズが静かに頷いた。


「まあ、たしかにトゥルーズの料理の中でも何よりお菓子は美味しいけれどね」


 苦笑しているサンドラにトゥルーズが言う。


「サンドラ様、そろそろ鶏を飼いたいです。クアリアから卵を運んで貰うと高いし。それに冬が来る前に肉の確保ができる……」


 ここ最近、サンドラの連れてきた最初の領民達は彼女のことを「お嬢様」と言わなくなっていた。いつの間にかこうなっていたのだ。領主としての彼女の成長を認めたということだろう。


「鶏ね……。確かに今ならちょっと余裕もあるからいいような。施設の規模も小さいし。卵があればお菓子も色々作れるし……」


「サンドラ様の好きなお菓子を沢山つくれるよ……」


「そうね……」


 トゥルーズの後押しするような口調にサンドラは真剣に考え込んだ。

 立派な領主といえど、まだ13歳の少女ということか。


「やれやれ、サンドラもまだ子供だな。……牛も必要だろ。常識的に考えて」


 俺の発言に、トゥルーズが「たしかに」という顔をした。


「今回は魔法で保存した牛乳を特別安く譲って貰った。確かに欲しい……」


「ちょっと待って。牧畜は流石にまだ無理よ。世話を仕切れないし、準備もできない。あとアルマス、さりげなくわたしを子供扱いしたでしょう?」


 その後、唐突に不機嫌になったサンドラの機嫌をなおすのに少し時間がかかった。


○○○


 夜になった。

 流れるように屋敷に滞在していた俺は、ロイ先生の手伝いなどをしつつ夕食を頂き、そのまま領地の全体会議に参加することになった。


 場所はいつものように屋敷の食堂。最初の領民10人とエルフの代表としてルゼ、そしてマイアが参加している。


「では、久しぶりの会議を行うわ。まずは、街道工事など、一連の仕事に目処がついた。みんな、ありがとう。領主として礼を言うわ」


 会議の始まり、そう言ってサンドラは静かに頭を下げた。


「気にすることないさ。ちゃんと給料もらえるようになったしね」


 大工のスティーナがそういうと、周りの全員が頷いて肯定した。


「畑の方はとりあえず落ちついたみたいね。アリア、もう大丈夫?」


「はいー。エルフの皆さんのおかげで大分楽ができるようになりましたー。畑の大きさも現状維持でお願いしますー」


 前より元気そうなアリアがそう言った。彼女は一時期の過労状態から抜け出しつつある。たまに魔法草の世話で夜遅くまで起きているが、ロイ先生が諫めているらしい。


「では、本題よ。――宿屋を作ろうと思うの」


「……………………」


 その言葉に、全員が沈黙する。

 宿屋、それはつまり、人が寝泊まりする店だ。


「説明するわね。街道ができて、行商人なんかが来るようになったわ。今は屋敷に泊めているけれど、寝泊まりする場所があった方がいいと思うの」


「なるほど。しかし、他にも理由がありそうですが」


 ロイ先生の問いかけに、サンドラが頷く。


「スルホや行商人の話を聞くに、聖竜領のハーブがそこそこ評判になりつつあるみたい。確実に来る人が増えるわ。それと、クアリアから移住希望の人もいるみたいなの。農地を持っていないような人達の一部ね」


「いわゆる小作人だな。地主が労働力を手放すのか?」


「手放すわ。スルホが有能なおかげで、クアリアはちょっと人が増えて農地が足りないみたいだから。それで、スルホが良い人を紹介してくれるの」


 なんだ。既にそこまで話が整っていたのか。スルホが面倒を見てくれるなら安心だ。


「あと、もう一つ。聖竜領内でも道を整備しようと思うの。あの街道ほど立派じゃないけれどね。ロイ先生が職人さんに好かれたみたいで、向こうは乗り気よ」


 クアリアと共に作った街道は聖竜領の入り口で止まっている。領内は今でも土を固めた道だ。そちらも対策を打つのか。


「なにか問題があれば言ってちょうだい。今に限らず、他に優先するべきことがあればそっちにする」


 サンドラの問いかけに異論を唱える者はいないように見えた。

 そんな中、スティーナが手を挙げた。


「ちょうどアルマス様の家もできたことだし、アタシらは手があいたしね。仕事を貰えるのはありがたい。一つ確認だけど、宿屋は誰がやるんだい?」


 それは答えを確認するための質問だった。

 サンドラは逡巡することなく、返事をする。


「宿屋の運営はダン夫妻よ。建物は宿屋、酒場、雑貨屋を兼ねてもらう。人手が足りなければクアリアから雇って貰ってもいい。……大きめの建物になっちゃうけど、いいかしら?」


「アタシは問題ないさ。ダン夫婦はどうなんだい?」


 スティーナの問いかけに、ダン夫妻の旦那の方が立ち上がった。


「店をもたせてもらえるなら、喜んで働きます!」


 その目には商売に対する情熱と希望がわかりやすいくらい浮かび上がっていた。

 夫のみならず、奥さんも隣で同じ顔をしていた。


「良かった。では、賛成ということで、明日から打ち合わせに入るわ。アルマスとロイ先生には沢山ゴーレムを作ってもらうことになるわね」


「大丈夫だ。実はロイ先生に教わって簡単なゴーレムの魔法陣なら描けるようになった」


「アルマス様は流石ですね。少し教えただけなのですが……」


 この数ヶ月で、俺も久しぶりに魔法士としての技能が向上しているのだ。

 これでもう少し、皆の役に立てるだろう。


「わたしからの話は終わり。あとはそうね。ルゼからエルフ村のことを聞きたいのだけれど……」


 本題は終わったが、まだまだ話し合うことはある。

 その日の会議は、もう少しだけ続いたのだった。 

人が来るようになったのもあり、いよいよ領内に建物が増えていくターンになります。

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