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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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344.部屋の空気が最悪になった。話題を変えよう。

「さて、これからどうしようか?」


 そんな俺の発言で、打ち合わせは始まった。場所はヘレウスの屋敷にある執務室だ。この男は休日も仕事をしているらしく、設備の整った部屋が用意されている。どことなく、サンドラの執務室と雰囲気が似ている。彼女も無意識のうちに、馴染みのある景色を再現してしまったのかもしれないな。口に出すと怒られそうだが。


「そうね。ある意味、わたし達の目的は達成しているのよね。色々投げ捨てて聖竜領に帰るのも一つの手だと思うけれど」


 どう、とばかりにサンドラが視線をやると、ヘレウスが厳かに頷いた。


「その通りだ。皇帝陛下への謁見、アルマス殿の力を示す、この二つの目的は果たしている。航空便と冷房の魔法を見てよからぬ動きをする貴族はいるだろうが、帝都と聖竜領の距離が邪魔をする」

「しかし、将来への禍根をいかに断っておくかということになるな」

「少なくとも、ヴィクセル伯への対応はしておいたほうがいいと思うの。わたし達の活動で明確に不利益を被っているわけだし」


 聖竜領とドワーフ王国の取引開始で損害が出たという、商人貴族か。かなり恨みを持っていても不思議ではないな。


「全てを味方にというわけにもいかないが、無駄に敵対する相手を作らないのも大事だ。今後、聖竜領への投資が増えることを考えると、最低限の関係を作ってから帰るといいだろう」


 つまり、すぐ帰らずに少しは先を見据えた行動をしていけというわけだ。ハリアを使えば三日で聖竜領へ帰れる、急げばもっと早い。慌てて帰ることもないだろう。


「では、どうする? いきなり乗り込んで話し合いもできないだろう?」

「……できるかもしれないな」

「そうね。できるかも」


 できるのか。一応、敵対的な態度を取られているはずだが。


「ヴィクセル伯は商人だ。あれだけ派手な謁見をした相手からの申し出を断ることはないだろう。しかも、今なら陛下と私に続いて三番目だ」

「関係をアピールできるし、何なら自分の麾下の商会を聖竜領に作って、失った利益を取り戻すかもしれないわね」

「さすがは商人というわけか。本心を隠して動ける相手は怖いな」

「ここではそんな人間ばかりだよ」


 それを聞くと帰りたくなってくるな。普通に畑の世話しながら、のんびりトゥルーズの料理を食べている方が全然気楽だ。


「そうだ。ハギスト公の屋敷にもいかないとな。冷房の魔法をかけなきゃいけない」


 約束は大事だ。早めに済ませておきたい。


「ハギスト公については、私からも頼む。宮廷内で一緒になることも多いのでな、心象が良くなる」

「では、決まりだな。まず、ハギスト公のところに冷房の魔法をかけにいこう。その後はヴィクセル伯かな?」

「それはいいけど、大丈夫なのアルマス? 仕事ばかり詰め込んでいると、アイノさんはそのままになっていまうけれど」

「……そうだな。つい、仕事をしてしまいそうになった」

「せっかく来たんだ。帝都を楽しんでいくといい。ハギスト公への渡りはつけておこう。パーティーの用意をされるかもしれないが、どうする?」

「辞退させてくれ。クレスト皇帝も気を使ってやらなかったとか、理由にならないか?」


 貴族の集まるパーティーとか勘弁願いたい。絶対に面倒なことになる。想像したのか、サンドラも嫌そうな顔をしている。


「承知した。アルマス殿はともかく、サンドラまでそんな顔をするな。爵位を持つ貴族なんだから」

「つい、ね。帝都のパーティーに良い思い出がなかったものですから。お父様の再婚とか」

「…………」


 部屋の空気が最悪になった。話題を変えよう。


「帝都に出るのは賛成だ。このままだと、土産話が魔法をかけただけになってしまう」

「そうだな。若い者に案内させる。陛下の客人をもてなすのも仕事のうちだ」

『ほう。それは期待できるのう。人の多い所は食事も多い。つまり、珍しいものが食べられるわけじゃ』


 急に聖竜様が出てきた。さっきまで静かだったのに。


『いきなり食べ歩きをするわけじゃないですよ?』

『それくらいわかっておる。じゃが、せっかく像が稼働するんじゃ。色々と期待してしまうじゃろう? これがワシにとっての数少ない世界との物理的接触なんじゃぞ』

 

 そう考えると気の毒になってくるな。聖竜様は俺のように自由に食事を選ぶことすらできない。今更だが。


「アルマス、さっきから目が凄い勢いで光っているけれど」

「ああ、聖竜様とちょっとな。せっかくだから、帝都の色々なものを買って贈ろう」

「そういうことなら、期待していい。必要になると思って、部下達に情報を集めさせてある」


 さすが、家族関係以外は有能な男だ。


「そうだ。あと一人、こちらに干渉してきそうな貴族がいたな。レフスト伯だったか」


 たしか、武闘派の貴族だという話だ。今のところ、一番動きもないし、警戒するような話もない。


「彼は……ちょっとわからないところがある。悪人でもないし、頭が悪いわけではないのだが、たまに予想のつかない行動に出ることがあってな……」


 ヘレウスにしては珍しい、歯切れの悪い回答だった。


「つまり、お父様ですら予測不能な行動をとるのね」

「そうだ。一応、それぞれ監視はしている。動きがあればすぐに伝えよう」


 今のところ、目立った問題はおきていない。全く、何もしてないのに嫌われたり恨まれたり、人の多いところは面倒が多いな。


「面倒事は忘れて、少し帝都を楽しんでいってくれ。でも一応、用心はしてほしい」


 まるで安心できないことを、穏やかな顔をしながらヘレウスが言った。サンドラがそれを聞いて顔をしかめていた。多分、同じ状況だったらサンドラも同じことを言うと思う。口には出さないが。

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