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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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311.画家として良いことなのかわからないが、人間としては良いことだ。

 クアリアの領主の屋敷。その一室に、クレスト皇帝、ヘレウス、それと俺とサンドラが集まっていた。

 室内の主役は俺達ではない、目の前に並ぶ、風景画だ。

 そこに描かれているのは、様々な季節の聖竜領。夏の南部の草原、秋の収穫。ハリアの航空便の発着に飛ぶ姿。ゴーレムの工事。

 筆遣いは様々で、精緻なものから、ダイナミックな色使いのものもある。


「い、以上になります。い、いかがでしょうか?」


 俺達の前で、画家のヘリナが緊張した様子で言った。

 彼女はヘレウスに呼び出され、絵を売るためにクアリアまでやってきた。

 事前に知らされていたとはいえ、普段は人の少ないところでのんびり描いている彼女にとっては、かなりの心労になるのだろう。既に顔色が悪い。


「いかがですか? 陛下」

「ふーん。ヘリナ、人間はまだ描けないのね?」

「ひ、ひとはちょっと……。挑戦してみようとは思ったのですが」


 彼女はかつて貴族のところでこき使われていた影響で、特定のモチーフを描けなくなっている。そのうちの一つが肖像画だ。実際、ヘリナが描いた聖竜領の絵画の数々には、人が描かれていない。


「…………」


 じっとクレスト皇帝が絵を眺める。なんか緊張感があるな。


「うん! 綺麗な絵ね! 余は好きよ!」


 全ての絵画を視線で舐めるように観察した後、重い雰囲気とは打って変わって明るい口調で皇帝が言った。


「多分、帝都の詳しい連中は色々言うと思うけれど、余は嫌いじゃないわ。ヘリナ、たくさん描けるようになって良かったわね。それで、ヘレウスはどう思う?」

「は。同じく良い傾向かと思います」

「なんか、あっさりとした評価だな」


 もっと小難しいことを言うかと思った。二人とも芸術関係の知識が豊富そうに見えるので。


「実を言うと。私も陛下も、芸術はそれほど得意ではないのだ」

「そうなのよねぇ。凄い絵を見ても「すごい」と思って終わりというか……」


 意外なことが明らかになった。いや、俺もそのことについて、何か言えるほどの知識は無い。サンドラはどうだろうか。それなりに芸術は好きなようだが。

 そんな俺の思考とは別に、ヘリナは膝から崩れ落ちて涙目になっていた。


「ヘリナ、大丈夫か? 評価が気に入らなかったのか?」

「いえ、違うんです。ちゃんと見ていただけるものが用意できて安心したのです。陛下とヘレウス様には助けていただき、どうにかご恩返しをしたくて」


 そうか。そういう事情だったのか。例の貴族、よりによって大変なところに目をつけられたんだな。


「まあ、助けたのはヘレウスなんだけれどね。余はちょっと成敗しただけだし。それで、どうするの?」

「買い取るべきです。芸術的評価とは別に、聖竜領の景色を描いたものという点で、現時点で大変価値がありますから」

「どういうことだ?」

「帝都では聖竜領に対する興味が非常に強まっている。特に、ドワーフ王国の工芸品が安く輸入されるようになってからな」


 ドワーフ王国から聖竜領に直輸入すれば、他の経路よりも関税が少なく済む。以前そんな話をしていたが、いよいよ形になってその影響が出たということだろう。


「ふむ。それでこの絵に意味があると?」

「大いにある。帝都の貴族からすると、聖竜領は遠く離れた地。伝聞や新聞などでしか情報が入ってきていないのが現状だ。そこに、陛下が現地の画家の描いた風景画を持ち帰ることに意味がある」

「竜による航空便や、ゴーレムによる工事、レール馬車が実際にある。それがわかりやすい形で示されるのですね。本当のことだ、と。つまり、宣伝にもなる」


 ずっと黙っていたサンドラが口を開く。


「貴族たちのみならず、有能な人間も聖竜領を目指すようになるだろう。少し遠回しに見えるかもしれないが、これも一つの手だ」


 なるほど。つまり仕事だったか。熱心なことだ。


「じゃあ、ヘリナ、この絵全部買うから。代金は追って支払うわね。それと、新作できたら小さいのなら魔法具で送ってくれてもいいわ」

「あ、ありがとうございますぅ!」


 ものすごい嬉しそうにヘリナが言っていた。泣きながら頭を下げている。そろそろ、スランプ脱出と言えるかもしれないな。良いことだ。


「そういえば、ここに来て初めて絵が売れたわけか」

「はい。これでリリアさんにお小遣いをもらう生活から抜け出せます。気にするなと言われても、なんだか悪いことしてる気がしまして……」

「あの、ヘリナ先生? よければわたしからも援助しますけれど?」

「サンドラ様には既にお屋敷を使わせて貰っているだけでも十分すぎますぅ。ありがとうございます」


 今度はサンドラに頭を下げ始めた。サンドラはヘリナを画家として尊敬している節がある。多分、パトロンになりたいんだと思うのだが、なんか難しそうだな。ヘリナは自立心がある。画家として良いことなのかわからないが、人間としては良いことだ。


「しかし、ヘレウス、本当に面白い人を見つけるのが上手ね。どうやってるの?」

「各地に目を配っているだけです。サンドラ、お前向けの人材も見つけるぞ」

「……期待しているわ。お父様」


 複雑な顔をしてサンドラが言った。人材、自分で見つけたいんだろうな。しかし、そっちの面はまだ到底及ぶまい。


「ふぅぅ……これでようやく絵描きらしくなりました。今日はお祝いです……」


 静かに嬉しそうに笑うヘリナ。頼りないように見えるが、地味に皇帝が出資者という凄い存在になってるんだが、気づいているんだろうか?

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