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第92話 勝利と裏切り。

ダンジョンマスター心得その9

敵も味方も、育てることが大切です。

 追いかけるの追う、に、攻撃の撃、と書いて、追撃。

 殲滅の殲、に、殲滅の滅、と書いて、殲滅。


 それらが、この世で一番得意なのはだあれ?


 それはね。


 このダンジョンの住人さああっ。


『うらうらうらーっ。逃がすかーっ』

『そちらは行き止まりですよ。残念ですね』

『……追い……、詰めた』


 やめるんだ。マキナ、セラ、オルテ。追撃は良くないよ。

 ダンジョンは専守防衛。侵入者の侵入を食い止めるのが君達の仕事だよ。帰ろうとする侵入者達に攻撃するのは間違ってるよ。


『ここは片付いた。次っ』

『ふむ。ここら一帯にはもうおらんくなったか。これでゆっくりできる』

『よりどりみどり。いっただっきまーすっ』


 やめるんだ。ローズ、キキョウ、ニル。殲滅は良くないよ。

 ダンジョンは専守防衛。侵入者を侵入を食い止めることが君達の仕事だよ。追い詰めた侵入者達に攻撃するのは間違ってるよ。


『むむっ、新技を思いついたぞっ。試し斬りだっ』


 そして勇者よ。

 君は、向こうの味方であれよ。


『え? 魔王なんだって? 殺しに来いってことか?』

「違いますっ。嘘ですっ、やめて下さいっ、侵入者達を倒してきて下さいっ」

『良いだろう、勇者としてその願いを聞きいれてやろう』

「やることも口調も俺より魔王っぽい」


 一体、彼女達はいつからこんな風になってしまったんだ。


 ダンジョンモンスターの、できること、というのは、適性と性格によって決まる。


 適性とは、生成された瞬間から、知識や属性、素地、腕前、スキルなど、様々なものを身に付けるよう反映される。

 先天的なできることは、こちらで決まる。


 性格では、後天的なできることが決まる。

 興味などに反映されるため、成長することのできるネームドモンスター限定だが、日々の積み重ねでできることが増えていく。


 ゆえに、1万Pをかけて生成された彼女達は、当然のように、色々なことができる。


 そしてその色々なこととは、基本的にバラバラだ。


 なぜなら彼女達は、侵入者にとって、関門となるべきダンジョンの守護者。

 全員が同じことしかできず、同じように対処するようでは、ダンジョンとしてとても困る。全員同じやり方で倒せるってことだからね。


 したがって、彼女達は、適性も性格も、各自バラバラになるよう設定され、その目論見は大成功。最早、個性豊かを通り越して、彼女達のできることは、千差万別とも言える。

 だからこそ俺は毎日を、こんなにも豊かに賑やかに過ごしているのだ。


 しかし、不思議なことに、最も得意なことは、彼女達全員、同じであった。

 あれだけまとまりがないのに、一番得意なことはみんな一緒なのだ。本当に不思議に思う。


 やはり同じダンジョンモンスターだからか、同じダンジョンマスターに生成されているからか、何か繋がりがあるのだろうか。

 絆というか、なんというか。

 それが理由なら、なんとなく、心もほころんでしまう。


 ……もちろん、得意なことが、追撃や殲滅でなければ、の話だが。


 君達は一体、何を望まれて生成され、日々の生活の中で、何に興味を持ってどうやって伸ばしているんだ……。


「どうしてぇ……」


 俺は玉座の間で1人、そんなことを嘆く。そして展開されている映像に目を移した。


 そこでは、無慈悲なまでの追撃と殲滅が行われている。

 7人の、出番がなくフラストレーションを貯めたネームドモンスターと、21人の、お風呂から上がりホコホコした体のネームドモンスター達によって。


 侵入者達に成す術はない。


 天空階層に上がった者達は合計で1万5000名。訳あって21箇所に、それぞれ6名から8名ほどが転移させられ、合計150人ほど人数を減らしたが、数はまだまだ多い。

 そして、残る全員が精鋭だ。かなりの実力者で、平均Lvも120ほどある。


 しかし、水晶迷宮内は坑道状になっていて道が細く、人数の利は活かせない。

 むしろ大人数であればあるほど、行動に制限が設けられ、不利になるだろう。


 反対にネームドモンスター達は少人数で行動しながらも、常に連絡を取り合い、挟み撃ちなど有利に立ち回る。

 また水晶迷宮の構造を完全に把握した上で、壁を貫通する攻撃を行なうため、警戒すら無意味だ。


 そんな彼女達に対抗するため必要だったのは、個人の圧倒的な強さである。


 そう、強い者なら戦える。

 本当に強い者なら戦える。戦えた。


 1万5000名の彼等の中には、その条件を満たす、異常なまでの強者もいた。


 例えば、勇者や英雄、転生者転移者、そしてLv200といった存在。

 彼等は本当に強い。転生者や転移者の中には、普通とそこまで変わらない者も多いため、そういった者達を抜いて考えて、力を持つ者だけの数を数えたなら、おおよそ40名ほど。1万5000名に比べれば随分少ないが、しかし、それだけいれば十分。


 彼等こそが、部隊の中核たる存在。


 圧倒的な実力者。


 精鋭中の精鋭。


 彼等なら戦えたはずだ。

 なぜなら彼等は、単騎でですら、我が家のネームドモンスターを打ち倒せるほどの強さを有し――。


『普通に勝てましたけどっ?』

『倒されたりなんて、一切してません』

『別に強くなんてなかったんだからねっ』


『どこ見てたのかしらね』

『根性が足りませんよっ?』

『ホンマになあ』


 有していたかは別として、ともかく凄く強い存在だった。

 しかしだからか、残念なことに、彼等はもういない。


 なぜなら彼等は、21箇所にちらばるネームドモンスター達の元ヘ転移させられ、倒されてしまったからだ。


 研究し尽くされ、ホームという利を活かされ。

 彼等はそれでも善戦し、ともすればあと一歩というところまで――。


『善戦されてませんって』

『しつこい王様は嫌われるぅ、眠い』

『真似する価値もありませんねっ』


『だそうですよ?』

『死んだ者が弱いのです』

『言葉責めですかっ? それは言葉責めですかっ? 良いですねえ王様、さあ王様のその歪んだ性癖を、このタキノちゃ――』


 あと一歩というところまで追い詰めていたかは別として、彼等は早々に倒れた。


 彼等にしてもそうだが、他の者達からしても、出来の悪い夢を見ているようだった違いない。

 あれほどまで圧倒的で、自らよりも絶対的に強い者がこの世にいるのだと、心の底から思わざるを得ないほど強かった者達の死亡報告が、アッサリ、あっけなく、そして次々と届くのだから。

 

 心を折られても仕方ない。


 だが、侵入者の諸君に、俺は1つ言いたい。君達に届いた報告はニセモノです。


 その報告は、おそらく彼等がいなくなってから、すぐさま、そして映像つきで届いたと思うが、それはあらかじめ作ってあったもので、本物の映像ではない。ただの合成だ。

 本当はまだ戦っていたし、映像のように成す術なくやられてもいない。

 プロパガンダというか、情報操作というか、そういうものの一環で……、ごめんよう。


 本当はもっと、みなさん頑張ってたよ。

 反乱されなかったら勝ってたのは間違いないし、研究されなかったら勝ってたのも間違いない。

 こっちが色々と、魔物を犠牲にしたりしてたのだって、そうしなかったら勝てなかったからだし、それにそうやっても紙一重の戦いばかりだった。


 前回、そのパーティーに攻略させてたことも大きいよね。

 あれで警戒を薄くさせたり、できてたことをできないようにして不利に陥れたり、正解を勘違いさせたり、色々罠を仕掛けてたからね。

 ダンジョンで2回も同じところ攻略するって、ないからね。1回目と2回目で難易度が全く違うっていうのは特に。


 そういうのがなかったらさ、絶対に彼等が勝ってたよ。

 あの映像を信じちゃいけない。もっと仲間を信じるんだ。


 君達の仲間は、期待を裏切らないよ。俺の仲間と違ってねっ。


『やる気がなくなりました。まさかそんなことを言われるとは思いませんでした』

『ホントだぜ。裏切り者扱いたあ、驚いたぜ』

『帰ろっかなー』

『あーあー、侵入者の皆さん、玉座の間の入口はこちらでーす』


 頑張れみんなっ。

 俺はみんなを信じている。なんてたって最高の仲間、そして最強の仲間だからねっ。


 裏切り者はあれですよ、君達に簡単にやられた勇者とかの方っすよ。味方に期待させといて酷いよねえ。

 うんうん。


『ダンジョンマスター様。次にそんな悲しいことを仰ったら、わたし、怒りますからね?』

「はい、ごめんなさい」


『鬱にしちゃうぞ』

「しないで下さい、ごめんなさい」

『あれは恐ろしいですわよ』

「そうですよね、ごめんなさい」


『旦那様、そんなこと言うなら、わたし達が作るご飯を抜きにしますよ』

「はい、ごめ……、いやそれは抜いてくれた方が……」

『そんなこと言ったから、わたし達が作った以外のご飯を抜きにしましたよ。旦那様』

「ごめんなさい。許して下さい」


 ……。


 ともかく、そういったこともあって、侵入者達は追撃や殲滅を受けているというわけだ。


 彼女達に対抗できるような強者もいるのだが、プロパガンダのせいか及び腰で、本来の実力を出せていないし、快進撃は続くだろう。


 目標としていた通り、1万5000名が残り1名になるまで、攻撃を続けるようだ。

 彼等はミロクの階層を突破した際と、別のパーティーを組んでいるから、天空階層から逃げられないし。なんて恐ろしい。


 確かに、軍事的な意味で殲滅とは、全滅させること。

 そして全滅とは、部隊の3割を喪失すること。

 入ってきた侵入者の人数は5万名で、その内1万5000名の喪失であるから、数としては丁度である。


 でもそれって部隊単位の話で、全軍じゃないじゃん……。

 普通は上がって来た1万5000名の中の3割じゃん……。


 俺は、水晶迷宮を地獄として、庭園を天国として、それぞれ生成したのだが、そのどちらも違ったようだ。

 なぜなら地獄も天国も死者が行く場所であって、生者が死者に変わる場ではないのだから。


 なんてこったい。


 俺はこのまま、この残虐な映像を見続けるしかないのか。


『ボケーっとしてんなら宴会の準備しとけよ』


 宴会の準備をしながら見続けるしかないのか。


『それなら掃除もよろしくお願いします』


 宴会の準備と部屋の掃除をしながら見続けるしかないのか。


『……オー。……飴』


 宴会の準備と部屋の掃除と、飴を生成しながら見続けるしかないのか。


 ……いや、そんなことはない。

 なぜなら俺はダンジョンマスター。

 彼女達を統べるダンジョンの主であり、そして、ダンジョンにおいて全知全能の力を誇る、無敵の存在。


 できることはまだあるはずだ。


『そうですね、では、雰囲気を良くするため、宴会場の飾りつけなどをお願いしたいと思います』

『わっちはカラオケがもう1台欲しいの。参加する者が多くなって順番が回ってこん』

『食べ物たくさんあれば良いよー』

『ワタシも食べ物かなー。あ、そうだ、桜の季節なんだし、花見がしたいな。宴会場に桜を用意しとけ、全知全能』


 ……。


 俺は、殲滅される侵入者達を見ながら、宴会の準備を進めた。

 宴会まで、おそらく時間ももうないため、急がなくてはいけない。


 桜の木かあ、風流ですなあ。


 ……。


 途中、せめてもの反抗として、侵入者が使う用の武具や、回復アイテムなどを用意してみた。

 水晶迷宮や庭園には、隠し部屋などもある。そこに置いておいて、見つけた侵入者が彼女達に一糸報いる、もしくは逃げてくれる。その手助けになれば、と。


 しかし基本的に、そこに1番最初に入ってくるのは、彼女達だった。

 ネームドモンスターだし、ダンジョンの権限をたくさん持ってるから、置いたらすぐに分かるんですよね。あとダンジョン内なら自分の家みたいなもんだから、どこでも転移し放題だし。

 そして、武器防具は彼女達の使う物よりも性能が下なので、即座に武器防具コレクション用の武器庫へ送られ、回復アイテムはその場で使用された。


「サンキュー」

 と、お礼を言われた。


 ダンジョン側が回復アイテムを使っちゃいかんよ。


 しかしこの行為、まるで俺までもが追撃と殲滅に加担しているようではないか。

 それも回復アイテムを自軍に大量に与えるという、ダンジョンとして言語道断な方法で。それはいけない。俺はもう、悪逆非道でありたくないんだ。


 ……なら、もう、やるしかない。

 例のあれをっ。


 俺は、意を決して試みた。


「力が、欲しいか……?」


 そう、残る侵入者の中で、最も強い、英雄の転生者へ語りかけたのだ。


 これは、ダンジョンマスターのできることの中で、最も重要な行為だと言っていい。


 声をかけた侵入者が頷けば、ダンジョンマスターは力を与える。

 例えば、武器、防具、アイテム。それから経験値や、スキル。様々な力を、それこそ、自らのダンジョンを踏破できるほどに。


 そう、これはすなわち、自らのダンジョンを滅ぼす者を、見定める行為だ。

 滅びを決めたダンジョンマスターが、行う、最初で最後の一番重要な儀式。


 とは言えもちろん、俺は滅ぶつもりはない。本当に踏破されたら困る。

 だから、踏破させるためにプレゼントをするわけじゃない。


「そうか、力が欲しいか。ならばこれを受け取るがいい。しかし、今は引くのだ。このダンジョンと戦ってはならぬ。そして、どうか、良い思い出を持ったまま帰るのだ」


 評判を、ちょっとでも上げるためだ。

 世の人々は、これをダンジョンマスターがやっているとは知らないだろう。だから、これをすることで俺の評判が良くなるわけじゃない。


 けどね、これをやっておけばね、きっと、気持ち良く帰ってくれると思うんだ。


 いやあ良かった良かった、こんなの手に入れたよー。戦争した甲斐があったね。

 そんなことを思ってくれると思うんだ。


 特に俺が与えるアイテムの中には、スキルの宝玉や進化の宝玉がある。

 スキルの宝玉は、スキルを与える際に必須のアイテムだが、非常に珍しく、そしてこのダンジョンであれば魔眼すら与えられる。

 進化の宝玉は、Lv100以上の者を強制的に進化させられるアイテム。人間だろうが亜人だろうが、例外は無い。こちらも非常に珍しい、というかこっちはほぼ出回らない。


 これをプレゼントするんだから、きっと、きっと良い思いを抱いてくれるはずさ。

 例え……、自分しか生き残れないとしても……。


 俺は、問いに頷いた英雄の転生者に、たくさんのプレゼントをした。残る1人の侵入者になってしまった英雄の転生者が、かろうじで動き始めたエレベーターに乗ったところでも、たくさんのプレゼントをした。お土産です、と。


 どうか、どうかこの子から、悪逆非道だという噂が広まりませんように。

 良いところだと広まりますように。

 そんな願いを込めて。


 さあ、宴会の始まりだ。


「いたぜー、裏切り者だー。アタシ達が戦ってる最中、敵に物資を送ってた裏切り者だー、であえであえーっ」

「まさに獅子身中の虫ですね。天空階層から生かして帰す敵はただ1人。つまり、既に1人帰ったということが、どういうことか分かりますか?」

「……許すまじ」


「主様のやることですから、きっと正しいのでしょう。しかし、私は悲しい。私もプレゼントが欲しい」

「とりあえず、慰謝料じゃの。今回の戦争で得たP全部で良いぞ。あ、退却時のも含めての」

「ごーはーんー。ごーはーんー。今日は倒れるまで食べるよー、あるじ様も食べるよー」

「お、桜だ、綺麗だなあ。ああところで知っているか? 魔王、桜の下には何かが埋まっているらしいぞ? 伝統は守らないとな」


 さあ、宴会が、始まりました。


 今回は、一体、どんな宴会になるのでしょうか。その内容は、この時の俺には、知るよしもなかった。


 知るよしもなかったが、しかし一言だけ言わせていただく。

 ごめんなさい。

お読みいただきありがとうございます。

久しぶりの投稿となりました。

忘れてしまった方も多いと思います。大変申し訳ございません。


これからはまた頑張ります。

次で、この章は終わりますが、次章もまた、同じようなお話です。面白い話にできるよう頑張ります。


よろしくお願いします。ありがとうございました。

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