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第91話 49階層東の守護者、ナナミ。

ダンジョンマスター心得その8

魅力的なダンジョンにしましょう。

 49階層、東。

 四獣階層の中で東に存在するそこは、青龍、ナナミが守護者を務める、陽春。


 青々とした草原と、色合い豊かな花々がここにはある。

 タンポポ、チューリップ。春の花がここにはわんさかと咲いていて、さらには、満開の桜が立ち並ぶ桜並木もある。


 風が、花の香りと新芽の香りを乗せたまま、草原や花びらを揺らす様は、まさしく春らんまんと言えるだろう。


 だからここは、思わず走りだしたくなるような、生き生きとした萌芽の階層だ。


 そんな生命を感じさせる、ここ陽春に、今、7名の侵入者がいる。

 Lv200の者を筆頭に、7人全員がLv170以上。そしてLv200の者は、転生者。

 生まれながらに異能を持ち合わせ、半世紀を越える人生で、たった一度の挫折も味わったことのない超人。そんな者が率いる彼女等パーティーは、超がつくほど精鋭部隊だ。


 彼女等は、水晶迷宮を探索中、強制的にここへ転移させられ、今の戦いをスタートさせた。


「リーダー、今そっちに行きますっ」

「分かってますっ」

 すると、そんな大きな声が響く。


 声の主は、若い女と、リーダーと呼ばれた年老いた女、転生者。

 その2名の周りには、それぞれの格好をした5名の仲間がいて、誰も彼もが必死に戦っている。

 そう、彼女等は転生者をリーダーとした7名パーティーで、そして今――。


「そう、こっちに来て、そして盾になりなさい」

「――え? あ――」


 ――6名パーティーとなった。


 彼女等は、多数の魔物に囲まれている。

 いや、多数というほどでもない。たった、4体の魔物だ。


 しかし、その4体とは、900Pという絶対強者をも生成できるようなPを必要とする、超常の力を持つ魔物達。

 この49階層の東西南北それぞれに、4体ずつ配置された、エリアボスだ。


 だが、エリアボスなのだから、本来は一同に会することはありえない。

 そのエリアを守護する存在がエリアボスなのだから、当然の話だ。


 しかし現に今はここに集結している。


 雄大な湖を泳いでいたはずのクジラ系魔物は、今は彼女等に食いかかろうと、空を泳ぐ。

 優雅な空を舞っていたはずのチョウ系魔物は、今は彼女等を倒そうと、花に留まる。

 壮大な山で潜んでいたはずの岩系魔物は、今は彼女等を潰そうと、腕を伸ばす。

 そして、地中に根を張り、地上の生き物全てを養分に生きる、植物系魔物もまた、その根を地上に溢れ返らせていた。


 誰かが意図的にエリアボスを集めなければ、こんなことにはならない。

 一体、一体誰がこんなことを……。


 原因は解明中だが、ともかくエリアボスはこの一角に集まった。

 若木と大樹が数本生え、桜の花びらが舞い散るこの草原で、転生者達を取り囲むように。


 だから転生者達は絶体絶命だ。

 900Pクラスの魔物に囲まれるなど、悪い冗談だろう。例え100階層でも、徒党を組んで出てくる魔物は300Pから450Pクラスの魔物なのだから。


 仲間を犠牲にしないと、生き残れないというのも道理である。

 転生者達のパーティーは、もう今や4人まで減った。しかも転生者以外の3人は、死に体とも言えるような、ボロボロの状態である。


 しかし、だというのに、戦況は徐々に、転生者パーティーが有利になるよう傾きつつある。

 クジラも、チョウも、岩も、ズタボロにされている。

 転生者、たった一人の、華麗な鞭捌きによって。


「ああ、力が漲る。失せなさい、雑魚共が」

 いや、ズタボロどころではない。

 鞭がうねり、打ちすえ、クジラもチョウも岩も、ドロップアイテムと魔石に変えられてしまった。


 無事なのは、本体が地中にある植物系魔物だけ。しかし無事と言っても、相当数の根を破壊されてしまっていて、残された力は少ない。


 倒れ伏した転生者パーティーの内1人の腹部を根で貫き、そこからエネルギーを得て活動を再開させるも、地面から突き出てきた根はか細い。

 転生者を襲おうとしても、近くに根を出したその瞬間に鞭が飛来し、即座に破壊されてしまった。

 植物は、本体が攻撃されない以上、無事ではあるが、かと言って攻撃する術は持たない。最早、勝つことはおろか、善戦することもできない。ただ生きているというだけ。


 とは言え、決して900Pの魔物が弱いわけではない。

 この階層に来たばかりの転生者相手であれば、相手もできただろう。結局は負けることになっただろうが、善戦はできた。戦いにはなった。

 しかし今やもう戦いにすらならない。


 なぜなら、転生者は、この階層に来た頃よりも、異様なまでに強くなっている。

 いや、強さを取り戻している。


 そこに立っていたのは、60代を過ぎた老年の女性ではない。

 その面影を残すものの、30そこそこの、まだ若い女性だ。


 転生者は、自らの手を見て、感涙の涙を流す。

「手にシワがない。体が動く、知恵が巡る。なんということでしょう」


 49階層東。

 ここ、春陽の萌芽は、四獣階層西の真逆。


 極寒や灼熱と同様に、人が生きていけないような空間である理由は、幼化。


 ここでは、侵入者は、常に若返る。


 恐るべき異常だ。

 誰しもが子供に返り、赤ん坊になり、その存在すら失うのだ。

 しかしつまりは、若者はすぐに子供になって力を失うが、若者ではない、例えば60代の者などは、徐々に徐々にその力を強めていくことになる。


 年老いて、体を動かし辛くなった者も、その状態でも十分戦えるような老獪な技術や知恵を持ったまま、全盛期のように動く体を取り戻せるのだ。

 だから、転生者はたった1人で、900Pの魔物達を殲滅してみせた。


「ああ、早く戦わせて。もう、もう我慢できない」

 転生者は鞭を、地面に当てながら、恍惚とした表情で言う。


 生きていた仲間達は、既に赤ん坊になり、抵抗する力を失った。植物の魔物に、今まさに養分にされていっている。

 しかし、転生者はそちらをチラリとも見ない。

 仲間など、最早どうでも良い。転生者は久方ぶりの全盛期の体を手に入れ、その万能感に酔いしれ、そしてその全力をぶつけられる相手を見つけたのだ。


「まずはお礼を。仮初だとして、こんなことができるとは。素晴らしい。貴女の名前は?」


 空から降ってきたその相手は、地面に剣を突き刺し、根を動かしていた邪魔者を消すと、その問いに答えた。


「ふっふっふ。名乗るほどの者じゃありません」


 そうして、転生者とナナミの戦いが始まった。


 ナナミには、全てを貫く無敵の剣、という固有能力と、全てを防ぐ無敵の盾、という固有能力がある。

 それらは、攻撃対象の防御力を減少させ、防御対象の攻撃力を減少させる効果を持っている。単純な効果ながら、その効果量は凄まじい。


 片手剣に盾を装備するナナミのスタイルにもよく似合い、1対1においては壮絶な力を発揮する。


「それそれっ。こんなものですかエロ熟女っ」

「30代はまだ熟していませんよっ」


 しかし、転生者も異常なまでに強い。

 いや、どんどん強くなっていく。


「ふむ、なるほど。急に若返ったので技がチグハグです。30代ではまだこの技を習得していなかったんでしょうか、神経回路が構築されていません。けれど、分かってきましたよ。お待たせしました」

 転生者はニヤリと笑うと、鞭を振るう。

 たった一瞬の、ほんの指先程度の動きであったのに、鞭の嵐がナナミを巻き込む。


 それは、ひ弱な人間が、強大な魔物を打ち倒す為に生み出した技であり、また、実際に数え切れぬほど打ち倒した技。

 それも、短い人生ゆえに生き急ぎ、そしてどんどんひ弱になっていく人間が、それでも倒し続けるために改良を続けた技。


 ナナミは、四獣という最強の魔物だ。工夫などする必要はない。ただ腕を振るえば勝ち、勝てなければ死ぬだけ。

 ナナミは、ダンジョンモンスターという永遠を生きる魔物だ。短い人生しかない者達のように、駆け足で強くなる必要はない。100年、200年、1000年、2000年、気が向くままにやっていけば良い。


 ゆえに、転生者の放った技は、ナナミには理解の及ばない技だ。


 しかしナナミは、まるでその技を予め知っているかのように受けきり、その概念を完全に理解しているかのように、片手剣でその技を模倣して見せた。


 驚きと共に一撃を打ち込まれた転生者。

 その一撃は深い。

 しかし、深く決まったからこそ、転生者の状態異常の耐性が緩んだ。


 その傷を、追撃が来る前に素早く治癒した転生者は、さらに若返っていた。

 年の瀬は、27か8かその頃。


 30代になり、状態異常への耐性が強靭になってから、わずかずつしか若返らなくなっていたが、ここに来て一気に。

 その年齢は、30代よりも、間違いなく衰えを知らなかった年齢である。


「うふふ」

 生物は、動きを1つ1つ、脳と身体に覚えさせることでできるようになる。

 脳の神経を構築し、身体に神経を構築し、できるようになるのだ。

 だから、30でできるようになったことは、それ以前に若返ればできなくなる。神経が構築されていないからだ。


 したがって、そう言った意味では弱くなったと言える。

 身に付けた技が使えなくなったと言える。


 しかし、転生者は笑う。笑いが止まらない。

 たかだか技をいくつか失ったくらいが、どうだと言うのか、と。


 そう、強大な魔物が工夫する必要がないのは、工夫せずとも勝てるから必要ないのだ。

 勝てないのなら、例え上級竜でもいくつもの技を身につけるだろう。

 だから、転生者もそうだ。技を身に付けたのは、戦いを工夫するようになったのは、勝てなくなってきたからだ。


 つまり、技が身についていない体に戻ったということは、工夫せずとも勝てた頃の体に戻った、ということだ。


 転生者として生まれながらに持っている異能。

 それから類い稀なる運動能力と反射神経。それのみで幾多の魔物を屠れる絶対強者の強さを、転生者は今まさに取り戻した。


 それにもちろん、若返った今も、年老いた頃の戦い方は頭に入っている。

 同じ年齢の自分と、もし戦う機会があれば、100回やって100回勝てる。それも、圧倒的に。だからこそ転生者は笑い、そしてナナミへ攻撃を仕掛けた。


 転生者は強かった。

 ナナミに対して、常に優勢を保てるほどに。ナナミは時折、未来を予知しているかのように行動を予測して反撃にでるも、それでも攻めきれなかった。


 しかし、転生者は、一太刀ごとに若返る。

 27から、25へ。24へ、23へ。

 状態異常への耐性を高めようとも、徐々に徐々に。


 転生者は、生まれながらに転生者だ。

 だから生まれた瞬間から類い稀なる力を持ち、一度の挫折も知らないまま大人になれる。

 けれど、そうは言っても、幼い頃から強大な魔物に対し勝てるほどの力はない。


 18歳を下回った頃には、既に、ナナミに対抗する実力は失っていた。

 その微笑みは、堪えきれないほどの歓喜からくる笑みは、さらに増していたが。


 転生者は、10歳9歳とさらに若返ったところで、自らの死を悟る。

 しかしなおも、若い姿で死ねるなんて、とニッコリ笑い、ついには赤ん坊にまで若返って、そうして姿を消し去った。


 49階層東に挑んだ7名は、ボスに勝利すること叶わず、敗退した。


『 名前:ナナミ

  種別:ネームドモンスター

  種族:青帝

  性別:女

  人間換算年齢:15

  Lv:72

  人間換算ステータスLv:404

  職業:東の守護者

  称号:芽吹きの支配者

  固有能力:全てを貫く無敵の剣 ・攻撃対象の防御力を減少させ、防御耐性を減少させる。

      :全てを防ぐ無敵の盾 ・防御対象の攻撃力を減少させ、攻撃能力を減少させる。

      :優雅堂々 ・姿をさらせばさらすほど、全ての能力が上昇する。

      :芽吹きの陽春 ・支配領域の地域や気候を芽生え時期の陽春に変え、幼化を付与する。

      :封印の魔眼 ・右、視界内の対象者の部位や行動を封印する。

  種族特性:竜化 ・青龍の姿になることができる。

      :霊獣 ・肉体の半分を精神体に置き換えることができる。

      :青帝の鱗 ・物理攻撃と魔法攻撃のダメージを減少し、衝撃を減少する。

      :青帝の把握力 ・周囲の状況を事細かに把握できる。

      :春の霊獣 ・存在する地域を萌芽地にし、春季でのマイナスを受けない。萌芽地でのステータス上昇。春にステータス上昇。

      :東の霊獣 ・他の四獣より東に存在する場合はステータス上昇。

  特殊技能:ライフドレイン ・生命力を干渉の度に吸収する。

      :マナドレイン ・魔力を干渉の度に吸収する。

      :クアドロヴァリエ ・自身の性質を変更する。

  存在コスト:4500

  再生P:12000P 』


「……、全部してる。……悪徳の限りをつくしてはる」


 俺は戦いが終わった映像を見て呟いた。


 戦いの内容というか、なんというか。ともかく、全てにおいて問いただしたい。今まで言ってきたこと、全てを複合させて発揮してきてるじゃないか。

 反乱はもちろんのこと、仲間を転移させ、自ら倒し、研究しつくし、挨拶はしない。

 数え役満とはこのことさ。


 一体どれだけの悪を重ねるつもりだ。一体どれほどの憎しみを持てば、こんなことができるんだ。

 名乗れよっ。名乗るほどの者だよ、ボスなんだから。あとエリアボス達頑張ってたよっ。貴女が強化魔法か何かかけたから、普段以上に頑張ってたよ。最後の植物なんて、弱っても侵入者を倒そうと必死に頑張ってたよ。殺しちゃいかん。


 これはさすがに許してはいけない。

 最早そんなところは、ダンジョンではない。ただの処刑場だ。

 誇りを胸に戦う大切さを、そして誇りを踏み躙る恐ろしさを、俺は教え込まなければいけない。それが、ダンジョンマスターの役目だっ。


 なのに……。


「今まで怒らなかったから、怒り辛い……」


 そんなことをしちゃダメよ。と言いたい。

 けれど、ナナミがやったことは、全て他のみんなもやっているんだ。それが重複しただけのこと。

 ナナミだけ怒るというのは、筋が通らない。


 ナナミは末っ子気質なので、怒られると必ずすねる。自分が悪くて怒られてるのに絶対。

 それだけなら良いが、権力を行使してくる。ナナミはすねると、ミロクを召喚する。もちろんナナミが悪いことをしているのだから、ナナミもさらに怒られることになるが、しかし、俺も巻き込まれることがある。ミロクは怖い。


「ナナミ、お帰りー。見てたぜー、良いトコ出てたなー」

「わーいナナー、凄いってー。やったね」


「マキナ先輩、それからトト姉。やはり元が年寄りだと強くなる分、大変でした。おかげさまです」


 すると、宴会場に、ナナミが帰っ――、玉座の間に、ナナミが帰ってきた。


 青い髪のツインテールで、色っぽさを伴う少女は、先ほどまで激しい戦いを繰り返していたとは思えないような風体と、雅な顔をしている。


 ナナミは、しなりしなりと体をくねらせながら、俺の元までやってくると、俺が何の映像を見ていたかを確認し、言う。


「ダンマス様、次回のムフフタイムを、お楽しみに。いやあ、お疲れお疲れ」

 そんな風に、あっさりと。


 そう言った後は、もう何も言わず、俺の目を覗き込んで、ムフフと言うと目をそらし、いやーんとくねくねして。


 その言葉には、聞き覚えがあった。

 ムフフタイム。俺は思い至る。


 ナナミは、スタイル抜群で目立ちたがり屋で、ちやほやされたいタイプだ。

 だからこそ、毎日のように動画を配信している。


 そんな中でナナミは、ちょっぴりエッチな配信も行っているのだ。それが、ムフフタイム。

 あれをまたやると言うのか。

 それは是非視聴しなければいけない。


 しかし、だからと言って、それで怒らないわけにはいかない。

 やはり悪いことはしているのだ。

 確かに、今まで俺は同じことをされて怒ってはいない。けれど、ナナミの場合はいけないことを全て網羅したようなことをしている。罪状というものがあるのなら、一番重い。


 怒れば、ナナミはすねて、保護者であるミロクに言いつけるだろう。

 そして、ムフフタイムはなくなるだろう。

 だが、怒らなければいけない。なぜならそれが、ダンジョンマスターであり、彼女達のパートナーである俺の役割だからだ。


 反乱して戦う。

 エリアボスを転移させる。

 そして自ら倒す。

 侵入者を事前に研究、対策する。

 挨拶をしない。


 全て、侵入者に不利益をもたらす、悪辣なる行為である。

 それら全てをやったなら、それはまさに悪逆非道と言い表しても良いだろう。


 だから俺は、今度こそ叱らなくてはならない。何よりもナナミ自身のために。


「ナナミ……」

「なんです? 悪逆非道の名を欲しいままにしているダンマス様」

 しかし、そう思って呼びかけた、俺の声に反応したナナミは……、ナナミは……。


 疑う余地もないほど、あっさりしていた。

 そう言った後は、ムフフと言ってちょっと顔を赤くし、口元をいやらしくニヤリと歪めては、しかし上目遣いで可愛く俺を見て、エッチー、と指でつついてくる。

 だから、俺はこう言った。


「最高の、戦いだったぜ。ありがとうナナミ。次の動画配信も、楽しみにしてるぜ」

 悪逆非道だとか、そんなことは、俺が口にして良いものではなかった。なんという……。悪逆非道な行いをしてきたツケが……。いや、俺は常に正々堂々をモットーにしてるんですがね。


「重畳重畳。今度の動画の構想は既にできてますよ。3本立てで、名付けて、女湯突撃編。そして寝起きドッキリ編。もちろん最後は、ナナミの部屋」

 ナナミは、姉によく似た、あまり人に見せない少し照れた笑顔で、俺の感謝にそう応える。


 ……こんな、……こんな。

 こんな、いや、女湯突撃と寝起きドッキリはやめなさい。視聴者である俺が危ない。


「トトナ、ナナミ、そろそろ風呂行ったらどうだ? アタシらもそろそろ行くしよー」

「そうですよね。はい。ナナ、早くお風呂入って準備しないと、最後のシメに遅れちゃうよー」


 俺の意見に揺らされず、硬く固持した意思を表明したナナミに、トトナが声をかける。

 するとナナミはこれ幸いにと、そちらへ、俺に微笑を残して去って行った。


「ムフフタイムはだめだよ、ミー姉に怒られるし」

「大丈夫大丈夫。今度は自信がある。その日はミー姉にたくさんお酒を飲ませて、潰してから配信するし」


「潰せるかなあ……。凄く飲むし、それに酔ってる時の方が愛が重いよ?」

「クク姉やリリ姉におしつければ良いんじゃない? 最近スキンシップが少ないとミー姉も言ってたし、丁度良い。犠牲になってもらおう」


 2人は、パーソナルスペースなどどこ吹く風、とでも言うような距離にまで近づいて、ニコニコ笑ってお喋りしながら、宴会場から出……玉座の間から出て行った。


 うんうん、勝って良かった。

 ムフフタイムが見れるんなら、本当に勝って良かったと思う。

 正直、どういったことになるのか、全く予想はつかないが、ともかく勝ったのは本当に良かったと思う。ナナミの企みはこれまで、ほぼ全て、ミロクに潰されているが、まあ、勝ったのは良かった。


 そう思います。


 けれど、うん。


 俺は、目の前に出しているいくつかの映像の内、四獣階層の映像に目を移す。

 四獣階層への転移は、多少の時間差で行われているため、トトナとナナミの2人の戦いは終わってしまったが、残る0人の所はまだまだ終わっていない。


 だから俺は――。


「もう終わっているっ。終わって……」


 ――映像を切った。


 どうして……どうして全員……。


「何やってんだよマスター。映像切ったら、アタシ達の勇士が見れねえだろ?」

「マキナ……」

「これから、水晶迷宮に残ってるやつら、1人残してあと全員倒すんだから、ちゃんと見とけよ?」

「……」


 俺は、玉座の前にいる7名を見た。

 マキナ、セラ、オルテ、ローズ、キキョウ、ニル、ユキ。


 このダンジョンで、最も悪逆非道なネームドモンスターを。


「他のやつらも風呂上がったら参戦するし、いやあ、激しい戦いになるぜー」

「少々、競争めいたことを取り入れていますし、やる気もでますね」

「……もう強いの……いないけど」


「最近は、転移させていただけだったから、体が鈍ってるな。しかし主様、お任せ下さい。必ずや、全ての侵入者を打ち払ってみせます」

「わっちは来たやつしか倒さんぞ? 面倒じゃしな」

「あ、お弁当ちょーだーい」

「おお、そう言えばそんな物もあったな。ワタシもワタシも」


 俺は、残る戦いを見守る。


 今度こそ、悪逆非道なことが、行われないようにと。


 しかしそれが、まさか叶わない願いだとは。

 多分、誕生して2,3日目くらいからずっと、知っていました。


「せーのっ、なんてこったいっ」

 俺は、誰もいない宴会場で、1人ツッコミを入れる。

お読み頂きありがとうございます。

お久しぶりです。


ブックマークして下さった方、評価して下さった方、誠にありがとうございます。

これからも頑張ります。


さて、そろそろ王国帝国編が終わります。しかしすぐ同じような章が始まります。

それが終われば、また登場人物が増えます。よろしくお願いします。

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