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第90話 49階層西の守護者、リリト。

ダンジョンマスター心得その7

侵入者をしっかり観察しましょう。

 49階層、西。

 四獣階層の中で西に存在するそこは、白虎、リリトが守護者を務める、秋場。


 見渡す限り、赤や黄色に彩られた、紅葉の階層。


 平地には、まるで並木道のように木々が立ち並ぶ。

 木々の背は高く、1本1本が間隔を広く開けているため、見晴らしは良く、動きも阻害されることはない。


 ただ、その場に立ったなら、思わず立ち止まってしまうだろう。


 木々は、色とりどりの葉や実を携えている。

 だから見上げれば、もみじやイチョウの元気な葉や熟れる前の若い実が、空を飾りつけているのが見え、見下ろせば、赤黄茶色の落ち葉や熟して落ちた実が、地面を飾り付けているのが見える。

 そして、真直ぐ見たなら、空と地面の両方に敷かれた絨毯が、遠く遠くまで続く景色が見られる。


 思わず立ち止まってしまうのは、その美しさゆえ。


 だからと言うわけではないが、ここ紅葉階層は、多少、ゆっくりできるような雰囲気を持ちあわせる。


 落ち葉が絨毯のように敷き詰められた、フカフカの道。

 紅葉が映り込んだ、色鮮やかな湖。

 時折吹く、残暑の暖かい風や、冬の訪れを知らせるような木枯らしの冷たい風。

 より一層彩り豊かな山。


 落ち葉にシートを広げて、お弁当を食べてみたり。そのまま寝転がってみたり。湖に釣り糸を垂らすのも良い。ただただ雲の流れを見ているだけでも良いかもしれない。


 そんなゆっくりできるような雰囲気を持ちあわせる、ここ紅葉に、今、7名の侵入者がいる。

 Lv200の者を筆頭に、6人がLv170以上。そして唯一Lv170に満たない者は、勇者。生まれ育った村が、数え切れないほどの数の魔物達によって蹂躙されようとした、その瞬間に目覚めた、勇者だ。

 世界を守る勇者でもなければ、国を守る勇者でもない、村を守るための勇者。勇者としては、下の部類に入る。しかしその強さは、そうでない者と比べればまさに異次元。勝利を運命的に引き寄せる、天上に迫る存在。そんな者とLv200がいる彼女等パーティーは、超がつくほど精鋭部隊だ。


 彼女等は、水晶迷宮を探索中、ここへ強制的に転移させられた。

 四獣階層は、本来、祠に勾玉を奉らなければボスが出現しないのだが、それもなく、いきなりの戦闘。焦って当然だろうが、精鋭パーティーに隙はなく、誰1人欠けることなく、今は戦いの小休止中。山の麓で、陣形を構築していた。


「リーダー、今そっちに行きますっ」

「分かってますっ」

 すると、そんな大きな声が響いた。


 声の主は、壮年の女と、リーダーと呼ばれた若い女、勇者。

 その2名の周りには、それぞれの格好をした5名の仲間がいて、誰しもがおののいている。

 そう、彼女等は勇者をリーダーとした7名パーティーで、そして今――。


「リーダー、今そっひに、ひき……? はれ? あたしゃあ何をしようとしてたのかのう」


 ――老いてしまった。


 四獣階層西。

 ここ、秋場の紅葉は、四獣階層北や南のように、寒さや暑さといった厳しさはない。むしろ見た目においては、のほほんとした落ち着く場所である。


 しかし、北や南と同じく、ここも49階層である。難易度は同じだ。

 極寒の猛吹雪と同じくらいに、灼熱の溶岩炉と同じくらいに、ここも、人間や亜人が、到底生きて行くことができないような、厳しい環境なのである。


 それが、老い。


 侵入者は、ここにいる間、常に老けていく。


「しっかりして下さいっ。しっかりっ」

「ふがふが」


 老いの速度は、その者の強さに因る。

 勇者達が、前回ここを攻略した際は、最も老けた者で2,3歳、勇者に至っては1ヶ月分も老けていなかった。


 だが、リリトがボスを務めることで、老いの力は上昇。最も老けた者では20歳以上、勇者ですら3,4歳も老けてしまっている。


 彼女達は精鋭パーティー。若い者の方が珍しい。

 20代が1人、30代が2人。40代が2人で50代が1人。50代が20歳も老ければ、70代。戦える年齢は、いささか通りすぎている。


「ふが……、ああ、関節が痛む……」

 精鋭パーティーの半分は、体を動かすのが億劫になり、残る半分もいつもより動き辛い体に四苦八苦する。


 しかし、1人だけは別だ。

 精鋭パーティーにおいて、飛び抜けて若い勇者だけは。


「回復魔法をっ。これはおそらく状態異常です、それで治るはずですっ」


 勇者は10年前、9歳で勇者となった。元々の年齢は19歳。それゆえ3,4歳老けた今も22,3歳。

 むしろ、絶頂期に近い。普段よりも生命力や魔力に富んでおり、技量は卓越し、精神的な落着きも高まっている。

 だからこの老いが、凍傷や火傷と同じような状態異常であることもすぐさま見抜き、回復魔法で幾分か若返ることにも気付いた。


 勇者パーティーの1人が、最も老いてしまっている者に回復魔法を使う。すると、みるみる内に若返る。

 完全に、とまではいかないが、元の年齢+5歳くらいには収まっただろう。もちろん、治った傍から老いは始まるが、ハッキリと影響が出るまでは時間もかかる。老いを、ほぼ無効化できたと言っても過言ではない。


 しかし、そう。

 この老いは、簡単に対処できる。


 もちろん、この老いが対処できるということは、同じ難易度で、同じ脅威度である、北の凍原や南の溶岩も対処可能だ。


 それら環境は、確かに脅威的なものだ。人が生きていくことができない、というのも、正しい。しかし、鍛え上げられた者が数日間戦う、それくらいならできないことはない。

 戦争が始まった日に行われた、49階層への侵入。その際、純粋に環境のみで命を失った者は、1000人の内の、たった数人。その者達を遥かに上回る実力を持つ勇者パーティーにとっては、1人の犠牲も出さないことは、全くもって難しくない。


 だが、戦争が始まった日に行われた、49階層への侵入。その際、環境が関連する事柄によって命を失った者は、大勢いる。数え切れないほどいる。

 クレバスに飲み込まれ、冷水に叩き込まれ、マグマに飲み込まれ、火柱に焼かれた者達は無数にいる。


 彼等彼女等が、環境に打ち負けたのはなぜか。

 そう、それら環境に、対処する暇を与えない、もう1つの敵がここにはいるからだ。


「早く回ふ――、敵ですっ」

 勇者は、仲間を見ていた目を、山の方に向けた。


「グオオオオオオオオー」

 そこにいたのは、巨大な魔物。巨大な岩の塊。


 人の上半身を模したような形で、体高30m以上、腕を上に掲げれば50m近くはありそうな、岩系の魔物。

 そんな巨体が近場にいれば、否応でも気付くだろう。しかしその魔物は、山に化けていた。証拠に、体にはたくさんの木々が生えている。


 だから勇者パーティーからすれば、あたかも転移してきたかのように、突如として現れた。


 その魔物は、生成Pで言えば、900Pはかかる強力過ぎる種族で、49階層の東西南北それぞれに4体ずつ配置された、エリアボス。

 山を守護する存在だ。


 振り下ろされた腕は、地震を起こす。


 こんな魔物がいるからこそ、侵入者は環境に対してばかり戦ってはいられない。

 そしてこんな魔物と戦わなければいけないからこそ、環境に飲み込まれてしまうのだ。


 彼女等もまた、この魔物と戦うことで、回復を中止せざるを得なくなり、さらに老い、最早回復魔法を使えないほどに老い衰え、そして死んでいくだろう。


「私に任せて下さいっ」

 だからか勇者は、その強大な相手に単身向かう。


「でやあああああーっ」

 勇者は身の丈に合わぬ巨大な大剣を背負うと、味方からの補助や、援護を受け、岩の魔物目掛けて飛び上がる。

 巨大な腕が振り下ろされても、お構いなし。それどころか接触したその瞬間に、腕をバラバラに切り裂いて、さらに上昇。


 このエリアボスは生成に900Pもかかる魔物だが、49階層にいるのだから、Lvは49。思考や攻撃方法なども、49階層並。

 平時の勇者であれば、万に一つの可能性はあっただろうが、今の勇者は戦争のために準備をして、さらに3,4年分、余分に熟練している。相手取るには、ハッキリと実力不足であった。


 勇者は、顔の高さまで飛びあがり、肩に着地。

 そして大剣を真直ぐに構え、突進。岩魔物の顔を貫き、一気に殲滅した。


 岩の魔物は、その巨大な30mほどもある体を消失させ、魔石とドロップアイテムへと変え、勇者はまるで天使のように、空からゆっくり舞い降りた。


 脅威は去った。これで環境との戦いに専念できる。ように見えた。

 しかし、本当の脅威は、これから来る。

 これは囮だ。


 その魔物と、勇者パーティーの仲間を挟んで反対の方向から、別の魔物がやってきた。

 それは、先ほどの魔物より随分小さな、140cmもない、白色の少女。


 この場にいる誰よりも小さく、紅葉の美しい景色に誰よりも映える。

 西の守護者、リリト。


 全員の注意をずらし、巧妙に近づいたリリトは、勇者を遠くに追いやって、残る6名の仲間へ襲いかかった。


「うらうらうらーっ」

 戦闘方法は、パンチ。キック。そしてガード。


 リリトには、覇気の衣という固有能力がある。

 ステータスを上昇させ、攻撃への耐性と無効化を無効化し、防御への耐性と無効化を無効化する効果を持つそれは、戦闘において類まれなる攻撃力と防御力を発揮する。

 ゆえに純粋に、強く、硬く、そして速い。


 それは、老いて、素早い動きが難しくなり、いつもと感覚が違ってしまっている者達にとって、天敵のような力だ。


「私が食い止めます。その間に皆、回復をっ」

 先頭に立ったのは、最も老いていた壮年の女。

 回復魔法によって、今は実年齢+5歳ほどまで戻ったため、それぞれが10歳以上老いている現状では、一番普段通りの力を発揮できる。


 彼女等は精鋭で、1人で強敵と戦うこともしばしばある。できると踏んだのだろう。

 例え無理でも、命を賭せば、せめて全員が回復するくらいまでは、と。


「はっ、舐めんじゃねえーっ」

「ぐううっ」


 だが、壮年の女も、5歳分、老いている。

 ゆえに、鈍った感覚によって、目は、向かって来る攻撃を、実際の攻撃の速度よりも、少し遅い速度だと判断してしまった。急に老けた壮年の女は、その誤差を知らなかった。

 ゆえに、鈍った感覚によって、手は、向かって来る攻撃に対し、少し遅れをとってしまった。急に老けた壮年の女は、感覚に体がついて来ないことを知らなかった。


 勇者は、空中を駆け、仲間の元に駆けつけたが、彼女の仲間達は次々に、たった一瞬の交錯で倒れていく。


 レベルの高い戦いであればあるほど、ギリギリの対応が求められる。

 50の力で対応できることには、50の力で対応しなければ、次の行動に応対できないからだ。

 ゆえに、老いて、50の力を出すのに60の力が必要になったことを知らない精鋭の仲間達は、一発で倒れてしまう。


 赤と黄色と茶色と、緑に空色。

 美しい色とりどりの景色は、風で揺れ動く。

 そんな中に佇む、一切なびく事のない白。


 ここは、美しい景色を持ちながら、人が生きていけない過酷な環境であり、強者ですら戦い抜くこともできない過酷な階層である。


「よお、俺は49階層西の守護者、リリトだぜ。あとはてめーだけだな。夜露死苦っ」


 仲間がいなくなったその場所に、勇者が辿りついた。

 いや、最早彼女は勇者ではない。

 守るべき者を全て失った勇者は、勇者足り得ない。それはまさに、魔王と呼ぶに相応しい。


 激しい戦闘が行われた。

 始め、リリトは防戦一方で、大きなダメージも受けていた。しかし、時間によって、戦況も徐々に傾く。

 老化によって、絶頂期から外れ始めたのだ。


 時折、回復魔法を自分にかけ、年齢を戻していったが、そんな時はリリトも好機とばかりに攻撃に転ずる。

 新技や、秘匿された奥儀、それらを繰り出されてもリリトは、完璧に対抗するどころかカウンターまでをも繰り出した。


 そうしてとうとう、顔や首、手に、たくさんのシワを抱え込み、魔法を使うことも、立ち上がることすらもできなくなる。

 勇者、いや、魔王。いや、老婆はかくして、たった1人でこの世を去った。


 49階層西に挑んだ7名は、ボスに勝利すること叶わず、敗退した。


『 名前:リリト

  種別:ネームドモンスター

  種族:白帝

  性別:女

  人間換算年齢:19

  Lv:72

  人間換算ステータスLv:412

  職業:西の守護者

  称号:紅葉の支配者

  固有能力:覇気の衣 ・ステータス上昇。攻撃への耐性と無効化を無効化し、防御への耐性と無効化を無効化する。

      :下拵え ・対象の状態変化や付与への耐性を減少させる。

      :永遠なる疾走 ・動きによる疲労や磨耗を無効化する。

      :収穫の紅葉 ・支配領域の地形や気候を収穫時期の紅葉に変え、老化を付与する。

      :重圧の魔眼 ・右、視界内の対象に重圧や圧力を与える。

  種族特性:虎化 ・白虎の姿になることができる。

      :霊獣 ・肉体の半分を精神体に置き換えることができる。

      :白帝の巨躯 ・攻撃ダメージ上昇、防御ダメージ減少。反動減少。

      :白帝の機動力 ・移動機動上昇。踏みつけた物を破壊しない。

      :秋の霊獣 ・存在する地域を紅葉地にし、秋季でのマイナスを無効化する。紅葉地でのステータス上昇。秋にステータス上昇。

      :西の四獣 ・他の四獣よりも西に存在する場合ステータス上昇

  特殊技能:ライフドレイン ・生命力を干渉の度に吸収する。

      :マナドレイン ・魔力を干渉の度に吸収する。

      :クアドロヴァリエ ・自身の性質を変更する。

  存在コスト:4500

  再生P:12000P 』


「……、やっぱり反乱してるし、新技も見切ってはる。あと挨拶が口汚い……」


 俺は戦いが終わった映像を見て呟いた。


 戦いの内容についても色々と言いたいことはあるのだが、まずは、まずは……何から問えば良いんだ。いけないことばかりじゃないか。

 だが、そうくるだろうことは、もう分かっていた。これだけ繰り返されれば分かる。

 お約束は多くて3度までだろうに、既に11回目だ。分からない方がおかしい。


 なのに……。


「エリアボスを侵入者の近くに転移させて、囮にするのは読めなかったなあ」


 そんなことをしちゃダメよ。

 リリト、貴女はとっても良い子じゃない。

 疲れていたら、甘い物を作ってきてくれて、肩を揉んでくれる、凄く良い子じゃない。どうして。


「リリトー、やるじゃねえか。勇者相手にいい戦いだったぜ」

「だそうだ。良かったな、リリ」


「お疲れさまっすマキナ先輩。クク姉も。余裕でしたね」


 すると、宴会場に、リリトが帰っ――、玉座の間に、リリトが帰ってきた。


 白い髪をお団子にまとめた、威圧感溢れる女の子は、先ほどまで激しい戦いを繰り返していたとは思えないような風体と、不機嫌な顔をしている。


 リリトは、小さな体を目一杯に大きく見せながら、俺の元までやってくると、俺が何の映像を見ていたかを確認し、言う。


「ダンマス様、俺は全然良い子じゃないですから。だから、あーいうことも平気でやるぜ」

 そんな風に、ぶっきらぼうに。


 そう言った後は、もう何も言わず、俺の目を見て、一旦目をそらしまた目を見て、何かを言おうとするもそれを飲み込み、またバツが悪そうに逸らして。


 この反応は、もしや……。

 俺は、思い至る。


 リリトは姉達によく似て、思いやりのある良い子だが、姉達によく似て、頑固なところもある。意地っ張りなのだ。 

 だから良い子だと言われれば、突っ張ってしまう。さっきのように。

 そして一度突っ張ったなら、今更謝れない、となる。それが、今だ。

 バツが悪そうな顔をしているのは、そのせいだ。俺が、良い子だと言ってしまったから、謝れなくなって、バツの悪い顔をしているのだ。

 リリトの謝るチャンスを、俺が潰してしまった。申し訳ない。


 しかし、だからと言って、それで、なあなあにしておくわけにもいかない。

 エリアボスを転移させるなど、それは言語道断の行いであり、それについて謝らなければいけない対象とは、俺ではないのだから。


 俺が傷つく分には構わない。

 俺は、彼女達のパートナー。……あ、パートナーは10点満点中4点? 下がったな、代わりの言葉を考えておかなければいけないのか。まあ、今はパートナーで良いとして。

 俺は、彼女達のパートナー。だから、俺に対しては、例え何をしようが、そんなもの、可愛らしいイタズラのようなものだ。


 しかし、エリアボスを転移させるというのは、侵入者に対する冒涜である。

 その努力や、培った経験を無に帰すような、非道な行いである。

 生物を成長させ、導くダンジョンにとって、そんなことは、冗談でもやってはいけないこと。


 だから俺は、今度こそ叱らなくてはならない。何よりもリリト自身のために。


「リリト……」

「なんすか? 階層ボスをその階層でほとんど戦わせたことないダンマス様」

 しかし、そう思って呼びかけた、俺の声に反応したリリトは……、リリトは……。


 疑う余地もないほど、不機嫌だった。

 ちょっと顔を赤くし、口元を強く結び、しかし上目遣いで俺を見ては、何かを想像して目を瞑る。

 だから、俺は、こう言った。


「最高の、戦いだったぜ。ありがとうリリト。元から褒めるつもりしかなかったに決まってるじゃないかあ」

 ボスを転移させてはいけない、そんなことは、俺にどうこう言える問題ではなかった。なんという……、悪逆非道な行いをしてきたツケが、こんな……、いや俺は常に階層で戦いなさいと言ってますがね。


「だろーな。なんだよ、もっと褒めろよ。褒め称えて下さいよ。頭は撫でんなっ、髪が崩れるっ。……他のとこなら撫でても別にいーけどー」

 リリトは、姉によく似た、あまり人に見せない屈託のない笑顔で、俺の感謝にそう応える。


 ……こんな、……こんな。

 こんな不機嫌に報告してくる子に、自分のことを棚に上げて叱るだなんてできるはずないじゃないっ。


「ククリ、リリト、そろそろ風呂行ったらどうだ?」

「そうですね。そうしましょう。リリ、風呂行くぞー」


 両手で頬を撫で回した結果、予想外の事態に困惑して硬直するリリトに、ククリが声をかける。

 するとリリトは平静を取り戻し、俺にパンチを食らわせると、逃げるように去って行った。


「どうしたんだ急に慌てて、……って顔赤いな」

「うるせー。うるせーっ、もー。ほっぺって馬鹿じゃねーの? なあ? セクハラで訴えてやるっ」


「ほっぺって。言い方可愛らしいな。あ痛っ、殴ることはないだろ」

「うるせーうるせーっ。風呂行くぞ風呂っ、走るからな」


「えー」

「いーからっ。つかその服この前と一緒じゃねーか、洗えよ今日こそ。着替え用意してやっから」


 2人は、パーソナルスペースなどどこ吹く風、とでも言うような距離にまで近づいて、ニコニコ笑ってお喋りしながら、宴会場から出……玉座の間から出て行った。


 うんうん、勝って良かった。

 あんな笑顔が見れるんなら、本当に勝って良かったと思う。

 頬を撫でるのは、不評だったしセクハラで訴えられるようだが、ともかく勝ったのは本当に良かったと思う。


 思う気持ちはあります。


 けれど、うん。


 俺は、目の前に出しているいくつかの映像の内、四獣階層の映像に目を移す。

 四獣階層への転移は、多少の時間差で行われているため、ククリとリリトの2人の戦いは終わってしまったが、残る2人の所はまだまだ終わっていない。


 だから俺は――。


「次に見る子は……、なんやかんや、なんやかんや良い感じでいきますようにっ」


 そう祈って、次の子の戦いを見守る。


 それが、まさか叶わない願いだとは、この時の俺には、知るよしもなかった、ら、幸せだったろうに。

お読み頂きありがとうございます。

お久しぶりです。

これからもまた頑張りますので、どうぞお付き合い下さい。


誤字報告して下さった方、誠にありがとうございます。とても助かりました。


読んで下さる皆様のおかげで、なんとかやっていけております。

本当に感謝しております、ありがとうございました。令和もまた、頑張ります。

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