第86話 30階層の守護者、イーファス。
ダンジョンマスター心得その3
Pは計画的に使いましょう。
30階層。
干支階層の中で、北東微北に位置するそこは、丑、イーファスが守護者を務める、罠と知略の牧場。
侵入者に課される試練は、張り巡らされた罠と、力では解決できない問題を抜けた先、台座周辺で待ち受ける、守護者イーファスを倒す、というもの。
階層の主体は牧場。
僅かな起伏の丘陵と、わらで作られた巨大なロール。いくつかの柵に、平屋だが大きな牛小屋。
あとは全てウシが食べやすそうな、草が生えているだけの、至って普通の牧場だ。
そんな牧草地には今、7名の侵入者がいる。
Lv198の者を筆頭に、6人がLv170以上であり、唯一Lv170以下のLv153の者は、英雄という破格の強さを手にした存在。7名は、超がつくほどの精鋭部隊だ。
侵入者達はつい先日、29階層から40階層のボスを、そして49階層の4体のボスを倒した。
そしてそのままの勢いで、50階層のボスと60階層のボスをも倒して、天空城砦の攻略を開始したのだ。
しかし、天空の城に入るための最終関門である、水晶迷宮を進んでから、丸1日経った今日。
景観が美しかったからか、魔物がほとんどいなかったからか、侵入者達は全員油断してしまっていて、普段はかからないような罠、転移の罠にかかってしまう。
彼女達の目論見通りに。
まあ、本当は転移の罠ではなく、待ち受けていたネームドモンスター達の空間魔法による、強制的な転移だが。
超常の力を持つネームドモンスター達が、息を合わせ心を合わせて全力をだし、なおかつダンジョンの権能をも利用していれば、6名から8名くらいの集団なら、楽に転移させることができる。油断していようが、していまいが。
なんてこったい。
ともかく、侵入者達は次々と転移の罠にかかていった。
そしてその中で、近くにいた英雄を含む7人が、3時間ほど前に、この30階層へ強制的に招待されたわけだ。
もちろん、水晶迷宮にすぐ帰ることはできない。
現在各階層はダンジョンのギミックによって、守護者を倒すまで出られないようになっているからだ。
早く仲間の元に戻らなければ、と思うだろうが、攻略するしか選択肢は用意されていない。ここに来た英雄達もそれを確認すると、手早く30階層の攻略を目的と定め、行動を開始した。
しかし、おそらく最初は、すぐに戻れると思っていたに違いない。
こんな階層、簡単に攻略できると。
転移した英雄達7名は、普段からパーティーを組んでいる7名である。
力量の分からない者と組まされたのなら不安もあるだろうが、力量どころか気心まで知れた仲間がいるのなら、不可能などどこにもない。
さらには実力から言っても、英雄達にとって、こんなものは窮地でもなんでもない。
本当の窮地とは、先々月、別の任務中に遭遇した、生成Pで言えば700Pもかかるような強敵と出くわした時など、そういうことを言うのだ。
新フォーメションで見事に倒していたのは、記憶に新しい。
また、簡単だと思った極め付けの理由は、一昨日のこと。
侵入者達が干支階層四獣階層などを攻略したあの日、この30階層を攻略したのは、何を隠そうこの者達なのだ。
英雄達は、500名の先遣隊がなぜ敗北したのか、理由も分からないほどにあっけなく攻略した。おそらく、30分もかからなかったはずだ。
だから、簡単に攻略できると思うのは当然。
見覚えのある牧草地だと確かめた一向は、破竹の勢いで攻略していく。
30階層の魔物という、箸にも棒にもかからない雑魚を蹴散らし、30階層の環境や仕掛けという、箸にも棒にもかからない浅知恵を蹴散らして。
だが、現在。
英雄達がこの階層にやってきたのは、3時間も前のことになった。にもかかわらず、英雄達はまだ攻略できていない。
前回よりも急いでいるというのに、前回よりも多く傷つき多く疲弊しているというのに、まだ攻略できていない。
ボス戦など、ものの1分ほどで終わらせることができたというのに、ボスと戦ってから30分以上、未だ決着の糸口さえ見えていない。
なぜなら、前回英雄達が来た時の階層守護者は、派遣された代理のマスプロモンスターだったから。
正当な30階層だったからだ。
今は違う。
30階層なんていう低階層とは、まるで比べ物にならない脅威と難易度を誇る極悪階層になっている。
のどかなのどかな牧草地は、いつの間にやら、そんなものとはかけ離れた、試練の階層になっていた。
その試練とは、もちろん、罠と知略である。
「リーダーっ、今そっちにっ」
「分かってますっ」
牧草地の真ん中、台座近くで、そんな声が響いた。
声の主は、壮年の男と、リーダーと呼ばれた若い男、英雄。
その2名の周りには、5名のそれぞれの格好をした仲間がいて、誰しもが微動だにしないまま警戒している。
そう、彼等は英雄をリーダーとした7名パーティーで、そして今――。
「残念ですが、そこら一帯は危険ですよ」
――罠にかかっていた。
イーファスのその言葉が引き金になったかのように、あちこちで罠が作動する。
「くそっ。解除をっ、誰か手伝ってくれっ、解除をっ」
「俺がボスを抑えるっ、誰か早くっ。ち、違うっそこを走るなっ、罠が作動するぞっ」
壮年の男、Lv198と最も高Lvだった男は、牧草地の地面から突如として出現した投網にかかって、身動きができなくなってしまった。
そしてそれを助けようとした、別の高Lvの男が走り寄るのだが、そこでもまた何かの罠を起動させてしまう。
寄るために走ると、走った分だけ、カチカチと、何かが起動する音がした。
毒の矢、毒の霧、落とし穴、トラバサミ、爆発、魔物、ピコピコハンマー、様々な罠が英雄達を襲う。
見晴らしの良い牧草地。
罠などとはおおよそ無縁にも見えるその場所には、無数の罠が仕掛けられていた。
それも、地面にだけではない。
毒の矢などは、真横から飛んでくるし、今壮年の男が捕まっている投網も、上から降ってきたものだ。
それも投網のスイッチは足元にあったわけではない。壮年の男が剣を上段に構えたその時に、剣先がスイッチを押したのだ。
ダンジョンでは罠を生成する際、空間を無視して配置することもできる。
大層なシステムではない、ただ、スペースの最大利用を目的とした処置のこと。
例えば、普通なら、壁から矢を飛ばす罠を作りたいと思った場合、壁の中に矢を真直ぐ置けるだけのスペースを設けなければ置けない。だが、ダンジョンではそのスペースを考えなくても良く、1mmの厚さの壁からでも、矢を飛ばすことができる。それだけだ。
もちろん罠として、視覚的にも存在するため、矢を飛ばす際はパカっと開くかなどして放つが、パカっと開いた中身は、壁が1mmとは思えないほど深くまであり、きちんと矢が収納できるスペースもある。手も入れれば何の違和感もなく入る。部分的な異空間だと思えば良い。
しかしそれをすると、見た目で錯覚してしまう分、魔法的な発見はされやすくなり、気配的な察知もされやすくなってしまうデメリットがある。
ただ、落とし穴をその要領で作ると、地面に穴を開ける分のPを節約できるというメリットがある。特に、奈落もかくやという峡谷を作りたいのなら、地下水脈や地下の生物、プレートなどの問題を無視できるそのやり方が良い。デメリットもあるが、メリットもある、要は使い方次第。
だが、そうは言っても、罠の仕掛けを空中にすることはできない。
罠が発動するまで、視覚で捉えられないなんてことにもできない。
スイッチが宙に浮かせることは……あるいは可能だが、見えないようにはできない。
そしてたかだか30階層で、いくら無数に罠があるとはいえ、こうもポンポン高Lvの者が引っかかってしまうようにもできなければ、動けなくなってしまうような威力を出すこともできない。
ありえないことばかりが起きている。
英雄達も、思わず面食らったことだろう。これが、30階層牧草地の、罠の試練である。
全ての罠は、何重にも張り巡らされた罠だった。
罠自体が宙に浮いているのは、別の罠によるもの。
見えないのも、別の罠によるもの。
スイッチが浮いているのも、見えないのも、別の罠によるもの。
引っかかり易くなるのも、威力が高いのも、別の罠によるもの。
それらを行っている罠が見つからないのも別の罠によるもので、解除しようとすれば必ず失敗するのも別の罠によるもので、それが見つからないのも別の罠によるもので。
ここでは、最初の罠から1つずつ解除していかなければ、最後に辿り着く台座周辺では、ご覧の通りに、手のつけようがない事態に陥ってしまう。
固有能力、罠を極めし者を持ち、罠に冠する全ての事柄に対して補正と、罠に近い物事を罠の範疇に収められる効果を、いかんなく発揮できるイーファスにとっては、そんな壮大な罠を作り上げることすらも容易いことである。
「助かった……、ゆっくり休め……」
先ほど罠を起動しながら走っていた者は、その身を無数の罠に虐げられながらも、壮年の男にかかった罠を解除した。代償は大きく、英雄達は仲間の1人を、いや、自らの心の一部と言える存在を失ってしまった。
「うおおおおおっ」
だが、そうまでして得た壮年の男の自由に、その代償に見合う価値は、残念ながらなかったと言えよう。
壮年の男は雄叫びを上げながら、イーファス目掛けて突進し、剣を上段から振り下ろす。
走ったそのルートは、先ほど死んだ仲間が、罠を起動させながら走ってしまったルート。であるから、罠は残っておらず、攻撃は決まる――かに思えた。
しかし、壮年の男は再び罠にかかってしまった。
しかも今度は、動けなくなる罠ではない、死に至る罠。
「……ああ……すまん。リーダー、後は……」
確かに、その場所に罠は存在していなかった。剣を振りかぶった、その空中にもない。
Lv198ともなれば、例え行動を制限する罠を察知できずとも、死に至るような罠の気配だけは敏感に感じ取れるだろうから、やはり罠が仕掛けられていたわけではなかった。
だが、ここの試練は罠だけではない。
罠と、知略だ。
知略とはすなわち策略であり、罠と言えば罠だ。だが、物質的な構造を持つ罠ではない。
ただただ、イーファスの頭が良い、ということ。
頭が良いから、行動の先読みができる。
行動の先読みができるから、前もって攻撃の準備ができる。
前もって攻撃の準備ができるから、例えLv198という化け物に片足を突っ込んだ猛者であろうとも、死に至らせる攻撃を可能とする。
まさしくそれは、死に至る罠である。
もちろん、知力によって解除できる罠も多く用意されている。
30階層内にいくつも建てられた牛小屋には、それぞれに1つずつ、罠の多くを一括解除できるような問題もあって、解けば解くほど攻略は楽になる。魔物を弱体化させる問題とて作った。
だから、知略の試練というのは、そういった意味合いもあり、侵入者もそう思うだろうが、やはり、大きくは、イーファスのただの未来予知じみた頭の良さのこと。
特に、不抜の心得、という、陣を布いた防衛においてのみ未来を予測できる効果を持った固有能力を、30階層ではどこにいようが存分に使えるため、知略の試練は、罠よりも難易度が高いと言えよう。
英雄達が、必死に開発した、新フォーメションすらも、まるで予め知られているかの如く、未来予知の餌食にしかならないのだから。
物理的な罠と知略の罠によって、イーファスは、英雄達のパーティーをボロボロと崩していく。剥がしていく。
その肉体の強さも、精神の強さも、過去の思い出も、未来の夢すらも。
そうして、英雄は、1人だけになってしまった。
けれども英雄は強い。Lv150と最も低くても、そのステータスはLv200を遥かに越える。
さらに、足手まといがいなくなった今、生への執着がなくなった今、心のリミッターが外れた今、英雄はまさしく、覚醒したと言えるだけの強さを手に入れた。
ただ強いだけの存在から、奇跡を無理矢理にもその手に掴み取る存在へ変貌したのだ。いいや、到達したのだ。
「ようやくですか。では改めまして、30階層、第二の鎖の番人、イーファスです。ここでは私が絶対的に有利なので、他のところでお会いしたかったですが、仕方ありませんよね。罠と知略を、存分に味わって下さい」
戦いは激化して、長い時間続いた。
お互い一歩も引かぬ戦いだったと言って良い。
しかしだからこそ、地の利は最後までよく働いた。
英雄は最終的に自らが発動させた罠を、それでも避けるなどして無力化に近い対処を行っていたが、100%のパフォーマンスは発揮できない。
その分で、イーファスは見事勝利を掴んだ。
30階層に挑んだ7名は、ボスに勝利すること叶わず、敗退した。
『 名前:イーファス
種別:ネームドモンスター
種族:クレバーハイカウ
性別:女
人間換算年齢:12
Lv:203
人間換算ステータスLv:296
職業:第二の鎖の番人
称号:難攻不落の仕掛け人
固有能力:罠を極めし者 ・罠に関する全ての事柄に対し補正。罠に近い物事を罠の範疇に収められる。
:不抜の心得 ・陣を布いた防衛においてのみ未来を予測できる。
:焦燥加速 ・罠領域に入った敵対者の精神限界を減少させる。
:鶏鳴の絶対防御 ・1時から3時の間、夜明けまで全ての行動に対し補正が入る。12人の使徒の内最も北東微北にいるとさらに補正。
:牛化 ・牛の姿になることができる。
:起因の魔眼 ・左右、対象の行動、心情のきっかけを作ることができる。
種族特性:牛の指揮官 ・牛系の魔物を率いることが可能。知能が足りない配下に知能を持たせることができる。
:栄養満点の母乳 ・栄養満点の母乳を出せる。
:類まれな消化器 ・大概のものを消化できる。
:巨なる体躯 ・物理攻撃上昇、物理防御上昇。
特殊技能:ヴァイタルドレイン ・生命力を干渉するたびに吸収する。
:マインドドレイン ・気力を干渉するたびに吸収できる。
:トラップパーティー ・自身の設置する罠の効果位置の情報を読み取れる。
:ノーインペイション ・焦らない。
存在コスト:1800
再生P:11000P 』
「……、やっぱり反乱してるし、あと必殺のフォーメションめちゃくちゃ見切ってはる……」
俺は戦いが終わった映像を見て呟いた。
戦いの内容についても色々と言いたいことはあるのだが、まずは、どうして秘匿された新技を見切っているのかについて問いたい。
普通は知らないはずなんだ。それがまるで、見たことがあってなおかつ予め対策を講じているようだったではないか。
英雄達のフォーメーションは、あれはとてつもなく強力である。
Lv100を越えた生成P700Pクラスの強力な原生魔物なんて、早々お目にかかれるもんじゃない。そんな化物と偶然に遭遇しながらも、勝ちを掴めるのだ。凄まじいという賞賛の一言に尽きる。
知らずに食らっていれば、イーファスとて無事では済まず、戦況は大きく傾いていたに違いない。
なのに……。
「いや、俺も知ってるんだけどさ……」
作戦室で上映会してたんだもの。
700Pの魔物を生成して、追放して、わざと襲わせて引き出したんだもの。
「あ、お帰りイーファスー、お疲れー」
「イーっ、どうだったどうだったっ? ワタシはもちろん勝ちましたけどっ?」
「ニル先輩、アリス。ただいま帰りました。私だってもちろんっ。ハードな戦いでしたけど、完勝ですっ」
すると、宴会じょ――、玉座の間にイーファスが帰ってきた。
橙色で硬めの髪質の、眼鏡をかけた少女は、さきほどまで激しい戦いをしていたとは思えないような風体と、陽気な顔をしている。
イーファスはそのままテクテクと、高揚を隠せていないような早足で俺の元まで向かってくると、俺が何の映像を見ていたかを確認して、言う。
「ただいま帰りました王様っ。王様も見ていらしたんですね。私としては上手く決まったと思うんですけど、どうでしたかっ?」
そんな風に、ずいっと身を乗り出してきて。
そう言った後は、もう何も言わず、しかし目すらそらさず、俺の目だけを見て、たまに見つめあっている事実に気付くからかそらすも、やはり俺の方を見てずいっと。
「あー……、イーファス」
「はいっ。なんですかっ」
数秒の沈黙の後、俺はイーファスに呼びかけた。もちろん内容は、最早溢れんばかりの悲しみを伝えるのみだ。ダンジョンマスターとして俺は悲しい。
どこから始まったのかは分からないが、悲しいことしかない。世の中の当たり前だ。だが、それを許して良いわけではない、注意すべきである。
しかし、そう思って呼びかけた俺の声に反応したイーファスは、とても張りきっていた。
ハキハキとした口調で反応した後は、ちょっと顔を赤くし、やはり目をそらさず、時にはそらして、にこっと満面の笑みになるのを、手で抑えたり。
だから、俺は、こう言った。
「よく、頑張ったね。最高の戦いだったぜ、イーファス」
哀愁というものを全て飲み込んだ漢の顔をして、感謝を伝えた。
「いえ、まだまだ精進は必要ですから、満足していません。次回もまた頑張りますっ」
イーファスは、身を乗り出したまま大きな声で大きく頷き、俺の感謝にそう応える。
……こんな、……こんな。
こんな張りきって報告に来て、褒めたらもっと頑張ろうとしてくれる子に、怒ったりできるわけないじゃないっ。
「お帰りー、ヴェルティスー。2人ももう帰ってるよー」
「ヴェルー、勝った勝ったー、イエーイ」
「あ、ホントだ。ニル先輩もアリスもただいま。イエーイってなによ、……イエーイ。……イーはどうだったのよー」
頭を撫でると一度は拒否するも、2度目は背伸びして味わうイーファスに、戦闘を終え玉座の間へと帰ってきたヴェルティスが、走り寄りながら声をかける。後ろからはアリスも追いかけてきた。
するとイーファスも、俺の手を振り払って、飛ぶように走り寄って行った。
「イーはねー、超ー苦戦してましたよね」
「してませんー。見てないのに言わないで下さいっ」
「あんたら喧嘩しないのっ。どうせ後で見るんだし。さて、お風呂いくわよ」
「ワタシが一番っ」
「あ、ずるいアリス。待っ――痛っ」
「ちょっとイー、大丈夫?」
「やーいこけたーっ。のろまですねーのろまーのろまーっ。あははは、……、……? イー? イー、大丈夫? イー? 痛かったの、ごめんね」
「嘘でーす。引っかかったアリスー。隙ありー、今日は私が1番ですっ」
「……いや、絶対あんた今痛かったでしょ。ゴンって言ったわよ。眼鏡落ちてるっ、イーってば」
3人は、パーソナルスペースなどどこ吹く風とでも言うような距離にまで近づいて、ニコニコ笑ってお喋りしながら、玉座の間から出て行った。
うんうん、勝って良かった。
あんな笑顔が見れるんなら、本当に勝って良かったと思う。
なんかトラブルはあったけど、まあ、勝ったのは本当に良かったと思う。全員ビクッて振り向くくらいの凄い音したけど、うん。
うん。
俺は、目の前に出しているいくつかの映像の内、現在戦闘中の干支階層の映像に目を移す。
干支階層への転移は、時間差で行われているため、アリス、イーファス、ヴェルティスの3人は戦い終わってしまったが、残る9人の所はまだまだ終わっていない。
だから俺は――。
「次に見る子は……、見る子は……、一体なにを祈れば良いのか分からないけど、ともかくお願いします」
そう祈って、次の子の戦いを見守る。
それが、まさか叶わない願いだとは、この時の俺には、知るよしもなかった。ような気がしないこともない。
お読み頂きありがとうございます。
戦争編の第二幕です。
またまたまたまた、同じ文面が続きます。少しずつは変えていっておりますが、飽きてしまわれたらすみません。ちょっとの変化を楽しんで頂ければ幸いです。
ありがとうございました。




