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第81話 35階層の守護者、コーリー。

悪逆非道のダンジョンあるあるその21

イケイケなネームドモンスターこそがダンジョンブレイカー。

戦いたくて侵入者を誘い込んでも、確実に決まるのではなく、確率を増減するだけな以上、ダンジョン外に出てしまう者は出る。そしてそれが一番戦える。ネームドモンスター全体に悪影響が出てダンジョンのルールが破綻してしまうこと。

 35階層。

 干支階層の中で最も南に位置するそこは、午、コーリーが守護者を務める、災害と強襲の峡谷。


 侵入者に課せられる試練は、悪天候と災害の中、行われる強襲から生き残ること。


 フィールドは峡谷なのだから、階層の主体は峡谷。


 35階層に入ろうと思ったなら、その1歩目から既に、深さ100mはあるV字の峡谷が待ち受けている。対岸までは50mかそのくらいあり、決して飛び越えられる距離ではない。

 左右を見れば、それが半径5kmの階層を、ぐるりと一周するように存在していることが分かる。つまり、どこから入ろうとしても、峡谷を越えなければ台座に辿り着けないことを示す。


 侵入者は、このV字谷を降り、そして登らなくてはいけない。


 峡谷を覗きこむと、ほとんど垂直とも言える崖が嫌でも目に入ってくる。

 それは、男ならば、下半身が縮みあがるような景色であり、持っている物や小石なんかを落としてしまえば、それがあたかも自分の未来と重なるような、そんな錯覚を覚えてしまうに違いない。


 しかし実際のところ、降りなければいけないと考えて、降りるべきルートを探してみたなら、案外そう怖い崖ではないことに気づく。


 崖は、急ではあるものの、岩がゴツゴツと出っ張っており、足を置きやすく掴みやすい。ところどころが平らになっているので、途中で休憩することもできそうだ。

 また、岩はしっかりと安定しているし、ロープを引っ掛けるためのペグや、様々な補助道具を打ち込みやすいスペースが所々にある。

 おそらく慣れた者なら、初心者用、トレーニング用に作られた遊具施設、そんなこと思いながら、スイスイと降りていけるだろう。


 底には川が流れているが、底は浅く、川幅はまたげる程度で、登らなければいけない斜面がすぐさま聳え立つ。


 その場から斜面を見上げたなら、その勾配と遠さに、ここを登って行くのか。と、ひどく疲れた気持ちになってしまうかもしれない。

 だが、降りるのと同様に、登るのも簡単だ。踏み出してみれば、気分は変わる。


 ゴツゴツと出っ張っているものの、安定した岩がしっかりと足場になってくれるため、ほとんど疲れず、スイスイ登れるのだ。

 慣れた者に先に登って貰って、上からロープか何かを垂らして貰えば、苦手な者でも階段か何かかと見間違う、楽な道程である。

 見た目の過酷さとは裏腹に、軽いトレッキングとなんら変わらないな、そんな風な軽口も叩けてしまうに違いない。


 もしも、それでも辛い、と言い張るのなら、吊橋を渡れば良い。


 35階層の外側をぐるりと回れば、3本見つかる木とロープで作られた吊橋。

 見るからにボロボロで、2人以上が乗るか、1人でも走ったりすると落ちてしまう吊橋。この吊橋はその他、様々な条件で侵入者を谷底へと誘う。

 つまり、実際のところは単なる罠という扱いなのだが、救済措置でもある。1人でゆっくり渡るなら、崖を降り登らずとも峡谷を攻略できるようになっているのだ。


 自然型ダンジョンでは、地形を思う存分いじることも多いため、他のダンジョンの峡谷では、奈落の入口もかくや、というような、厳しい地形とてあるだろう。

 それを考えれば、ここは峡谷としては、とても優しく、とても易しい。

 入口に立っただけの者達なら、必ずそう思う。


 だが、それはきっと、実際に入った者に聞けば、別の解答が返ってくることだろう。

 1時間ほど前から、どこからでも降ることのできる35階層の峡谷には、500名の侵入者が侵入している。


 中では、誰もが、自然の恐ろしさに、怯えていた。


 勝てるはずもない、端から勝負する関係ですらない、圧倒的な自然の暴力に、成す術なく。


 自然とは、峡谷の地形ではない。

 この階層が侵入者に与える試練とは、決して峡谷ではない。


 そう、災害である。


 誰かの顔をポツリポツリと濡らし、降りだした雨は、徐々に徐々に勢いを増していく。侵入者の先頭を行く、山登りが得意な者が峡谷を登りきった頃には、前もよく見えないほどの雨になっていた。

 まさしくそれは、豪雨と言えよう。


「隊長っ、今そっちにっ」

「分かっている」

 峡谷のどこかで、そんな声が響いた。


 視界も聴覚も、何もかもを遮るカーテンのような、ザーザーと降りしきる豪雨の中。それでも、お互いに聞き取れるような、大きな声。

 声の主は、若い男と、隊長と呼ばれた壮年の男。

 若い男は、今まさに、激しく降り続ける雨に逆らうように、峡谷の斜面を、ロープを手繰りながら登っている最中。壮年の男はそれを、6人ほどの同じような格好をした騎士と、上の草原で待っていた。この8人はチームとして、動き、そして今――。


「くそ、雨が強くて、前がよく……、なんだ、この音? ――あ、え、うわあああああああーっ」


 ――若い男を、失った。


 地面が割れていく、とでも言おうか、空恐ろしい静かな音の直後、地面が崩れ落ちたのだ。

 あたかも、初めから存在しなかったかのように、ガラガラと。

 全てが崩壊していく。


 土砂崩れ。

 そう呼ばれる災害によって、若い男は、手繰っていたロープや、後ろにいた何人かの者と共に、大量の土砂に埋もれるように崩落し、今や地面の一部と成り果てた。


「ああ……、ああ……」

 隊長と呼ばれた壮年の男は、必死で手を伸ばした状態で固まっていた。他の6人の仲間に、落ちないようにと、土砂崩れに巻き込まれないようにと、力一杯に体を抑えられながらも必死に手を伸ばした状態で。

 先ほどまで一緒にいた若い男は、もう、降り積もった大量の土砂に埋もれて、どこにも見えない。

 よく知る仲なのだから、例え土砂に埋もれてしまっているとしても、魔力などで感知することはできるはずだ。けれども、今はそれが逆に、悲しい事実しか告げてくれなかった。


 降り注ぐ雨は、峡谷を上から眺める隊長を容赦なく打ち、その涙すら、意味を成さぬようにと洗い流す。


 自然には、何も通じない。

 涙を流そうが、声を荒げようが、いかに日々努力していようが。自然から見れば人の優劣など、全くの誤差でしかない。

 自然はただ、サイコロの出目が悪かった、とか、そんな偶然でしかないような理由で、一方的に命を奪っていくだけ。


 35階層では、視界も何もかもを遮る豪雨、肌を蒸し頭を朦朧とさせる日照り、体を浮かせるほどの強風、轟く雷鳴、という悪天候が。

 そして、川の氾濫、土砂崩れ、地割れ、暴風により飛来する木々や石、人をも焼き尽くす落雷、という災害が。

 常に起こり続けている。


 しかし、もちろん、起こりうるのはそれだけではない。

 ここの試練は、災害と、強襲なのだから。


「敵襲ーっ」

 響いた警鐘の声に、見るも無残な斜面の傷跡を眺めていた隊長は、涙を置き去りに顔を上げた。


 隊長達が今いる場所は、草原。

 峡谷を越えると、そこは草原になっており、平坦と言える程度のアップダウンと、所々にある低木の森のために、遠くまで見通せるというわけでこそないが、100m程度なら問題なく視認できる。


 確かに天候は悪く、長時間の滞在はごめんこうむりたいが、見ようによっては、休憩所のようにも見える草原。

 しかし、そこには、魔物が現れる。


 斜面が苦手なウマ系等の魔物達は、峡谷でこそ襲いかかってこないが、平坦な道では、脅威的な速力と膂力を発揮し襲いかかる。

 視認できた100m地点から、馬達はあっという間に、仲間の死から立ち直れていない者達を戦いに巻き込んだ。


 むろん、騎士達は熟練の強者だ。

 悲しみの中でも、たった数秒あれば、戦闘準備を整えられる。武器を構えて、陣形を整えて。なんなら、何の準備をしていない不意打ちだったとしても、35階層程度の魔物には、対抗できる。


 けれど、数の差だけは、どうにもならない。


 ウマの魔物の数が、40体ほどいるのに対し、人の数は、14名だった。


 ウマ達が、その速力と馬力に任せ、侵入者達へ突進すると、侵入者の何名かが吹き飛んだ。勢い余ったウマも同様。

 彼等は峡谷へと、未だ登っている最中、降っている最中の者も多い斜面を、他者を巻き込みながら転がり落ちた。


 ゴツゴツと出っ張っていて、ガッシリと動かない岩は、あたかも天然の拷問器具のように、人も、ダンジョンモンスターも、平等に殴り潰す。


「早く登って来ないと、全滅しちゃいますよ」

 すると、そんな凄惨な戦場に、透明感のある清々しい声が響いた。

 橙色の髪。ウマの魔物の上にまたがっている、唯一の人の形をとった魔物。35階層のボス、コーリー。侵入者に襲いかかった、ウマ系魔物達の中には、コーリーもいた。


 干支階層では、ボスが待ち受けている階層の方が少ない。

 特に、コーリーはそれと最もかけ離れているだろう。強襲の試練の担当なのだから。


 コーリーは、Lv180の隊長の剣での攻撃を躱すと、息を合わせて攻撃を仕掛けてきた者を殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた者は、その絶大なダメージに悶絶しながらも、なんとか着地の姿勢を取り、受身を取ろうとする。が、そこに地面はない。

 空の地面を見下ろした瞬間、死を、覚悟する。


「うおおおお、間に合えええーっ」

 だがそこへ、隊長の手が伸びた。先ほどは届かなかったその手は、今度こそ届き得る。

 手を、絶対に離さないと言わんばかりに握り締め、隊長は、剣を地面に突き刺し、自らの体が峡谷へ落ちないようにして、部下を必死に引き上げた。

 今度こそ、隊長は、部下を助けられた。


 その行為は、賞賛されるべきものだ。咎められるものでは決してない。

 けれども、峡谷を登り、草原に立っていた侵入者10数名の中で、主戦力だった隊長が戦線を離脱した代償は大きかった。

 ほんの一時ではあるが、仲間が登っている峡谷の上を制圧されてしまったのだ。


「業炎大過、フレイムフォール」

 コーリーは、峡谷の上から斜面を見下ろす。

 そして、豪雨の中放たれた、一発の火の魔法が、峡谷を降る。


 誰もが勘違いをしている。

 人にとって、災害とはなんなのかを。


 人を一番殺めているのは誰だ。

 人の活動領域が広がらない一番の要因は何だ。

 本物の災害とはなんだ。

 その答えを、誰もが一時忘れてしまっていた。


 登っていた者達は、防御魔法を展開した。しかし、別のことに気を取られながらの防御、それも急ごしらえのものでは、本来の力には遠く及ばない。

 展開された防御はいとも容易く貫かれ、蹂躙され、火だるまになった何名もの侵入者は、下にいた者達をも巻き込み、滑落していく。

 その一撃によって、土砂崩れよりも遥かに多くの者が、命を失った。


「うおおおおおーっ」

 仲間を助けた隊長は、戦線に戻り、コーリーと対峙する。

 戦いは激しいものだった。

 すると、登ってきた仲間や、吊橋を渡ってきた仲間、それから対岸から放たれる魔法や遠距離攻撃による援護によって、見事に、コーリーや他のウマ魔物を、退却させることに成功した。


 ウマ系等の魔物の逃げ足に、この豪雨の中、追い付き追撃を加えることは難しいが、一先ず防ぎきったのだった。


 けれども、コーリーを倒せたわけではない。

 侵入者達は、さらに進まざるを得ない。


 周囲にボスがいないことを確認し、草原を、台座へ向けて進んだ。


 しかし、たった300mほど進むと、草原は終わってしまう。

 そこには、再び峡谷が、口を大きく開けて存在していたのだ。


 さきほどの峡谷と同様に、ぐるりと35階層を一周している。

 中央に行きたければ、絶対に渡らなければいけない。だが峡谷は、今度は、先ほどよりも深く、険しい。


 侵入者達はその峡谷に挑み、何人かが攻略したその時、再び、コーリーやその他のウマ魔物からの強襲を受けた。


 そして、やっとの思いで退けて、草原を進むと、やはりまた300m後には、峡谷がある。


 先ほどよりも深く、険しい峡谷が。


 そこを越えたなら、また……。


 35階層が、峡谷と草原の繰り返しであると気付くのは、一体何度目の峡谷が見えた時だろうか。


 階層守護者と、その草原に辿り着く毎に、戦わなければいけないと気付くのは、一体何度目の戦闘だろうか。


 人が勝てるはずのない自然と、その自然に打ち勝ち、世界の覇権を握る魔物と。一体、何度。

 5kmを、300mの草原と峡谷の幅を足した数字で割ってみたなら、きっと、笑ってしまうに違いない。


「また会いましたね、35階層、第七の鎖の番人、コーリーです。あと、まだ何度かお会いする予定ですが、もしかすると、貴方はここで最後かもしれません。覚悟はできていますか?」


 コーリーには、存在維持の重税、という固有能力がある。

 これは、対象が現象に耐えれば耐性を減少させ、耐えられなければ効果を上昇させる、という効果を持つ。

 ゆえに侵入者は、どんどんどんどん、自然と魔物に対して無力になっていく。


 また、並列事象、という固有能力もある。

 重ならない事象を、複合して発揮できる、という効果を持つそれは、豪雨と日照りなど、合わさるはずのない天候を、重ねて発動させることができる。

 ゆえに侵入者は、進む体力も、進む気力も、何もかもを奪われた。


 辛うじで前に進めていた何名かも、徐々に徐々にその数を減らし、ついには、Lv180という、35階層なぞ容易く攻略できるはずの、猛者も倒れる。


 35階層に挑んだ500名は、台座から鍵を取り出すこと叶わず、敗走した。


『 名前:コーリー

  種別:ネームドモンスター

  種族:フルアーマーホース

  性別:女

  人間換算年齢:16

  Lv:199

  人間換算ステータスLv:300

  職業:第七の鎖の番人

  称号:生存不能の豪傑

  固有能力:存在維持の重税 ・領域内の対象に起こりうる耐性を減少させる。領域内の対象が起こった事柄を防げなければ効果を上昇させる。

      :並列事象 ・重ならない事象を複合して発揮できる。

      :集結する英知 ・自身に起こった物事の耐性を一時的に得る。対象に耐えられた物事の耐性を一時的に消す。

      :日中の災害 ・11時から13時の間、全ての行動に対し補正が入る。12人の味方の内最も南にいるとさらに補正。

      :馬化 ・馬の姿になることができる。

      :乱流の魔眼 ・左、周囲の流れを乱すことができる。

  種族特性:健脚 ・長距離の移動に補正。移動速度にさらに補正。

      :堅牢な鎧 ・物理攻撃のダメージと状態異常を軽減する。

      :愛馬の誇り ・主人が優れていれば優れている程ステータス上昇。

      :引き締まった身体 ・消費エネルギーを低下させ、運動能力を向上する。

  特殊技能:ヴァイタルドレイン ・生命力を干渉するたびに吸収する。

      :マインドドレイン ・気力を干渉するたびに吸収できる。

      :ハイラルナーヴ ・単純行動に対して補正を入れる。

      :オーバーハイヒール ・過剰に回復した余剰分を貯めて使うことができる。

  存在コスト:1800

  再生P:11000P 』


「……、凄く当たり前みたいに反乱状態で戦ってはる……」


 俺は戦いが終わった映像を見て呟いた。


 戦いの内容についても色々と言いたいことはあるのだが、まずは、あまりにも自然に反乱状態で戦っていることについて問いたい。

 35階層程度じゃあ、そんな大した実力は出せないはずなんだ。


 特にコーリーは600Pの種族で、マキナやセラ達よりも随分格下の種族。

 低階層のマイナス補正をより多く受けてしまう。


 ……3回も同じこと言ってるなっ。


「またまたまたまた、徹頭徹尾、反乱してるじゃないの……」


 戦いの内容についても色々と言いたいことはあるのだが、やっぱりもう、それしか出て来ない。


「コーリー、ご苦労じゃったの」

「ただいま帰りました、キキョウ先輩」


 すると、宴会じょ――、玉座の間に、コーリーが帰ってきた。


 橙色の髪は短く見えるが、後ろ側は長い。それを尻尾のように、歩く度に左右に揺らす少女は、先ほどまで、激しい戦闘を繰り返していたとは、思えないような爽やかさで、清々しい顔をしている。


 コーリーは、軽く手を挙げると、そのまま歩いて俺の元まで向かって来て、俺が何の映像を見ていたかを確認し、言う。


「遠慮せずに、ツッコミ入れて良いんですよ? 王様、なんて言ったってボクは、ボケ担当。王様がツッコミ担当ですからね」

 そんな風に、ニコヤカに。


 そう言った後は、もう何も言わず、どこにも行かず、俺の傍で、自信たっぷりに、例えなんと言われようとも微塵も構わない、とでも言うように俺を見て。


「あー……、コーリー」

「なんですか?」


 数秒の沈黙の後、俺はコーリーに呼びかけた。もちろん内容は、反乱して戦ったことを問い詰めるため、ダンジョンマスターとしてツッコミを入れるためだ。

 いけない行いをしたなら、その分のツッコミを入れられる。これが世の中の当たり前。

 しかし、そう思って呼びかけた俺の声に反応したコーリーは、ツッコミを待っていた。


 ちょっと顔を赤くし、保護者のような目で見て、目が合えばニコっと笑い、また合わせて、たまに思い出し笑いしそうになるのを、我慢したり。

 だから、俺は、こう言った。


「さ、最高の、戦いだったぜ。ありがとうコーリー」

 多分ものすごく、くしゃっと崩れた笑顔で、感謝を伝えた。


「ボケてきますかー、諦めてツッコミの道を歩きましょうよ。お手伝いしますから。あ、でもボクは、これからツッコミは控えていきますし、王様にはもうツッコミ入れないですよ、頼まれても」

 コーリーは、ため息をつきながらも、俺に笑ってそう伝える。


 ……こんな、……こんな。

 う、嘘だろう? コーリーがツッコミを入れてくれない? どうして……、い、いや、大丈夫だ、きっと頼めば、頼めばあのキレの良いツッコミが俺にっ。俺が、夢のボケキャラにっ。


「ご苦労、サハリー、シェリー。コーリーももうおるぞ」


「ただ……、ただい……、まあ、もう……眠さの限界、コーリー、ヘルプ」

「キキョウ先輩っ、たっだいっまでーす。コーリーさーん、お元気ですかーっ」


 王様の頼みだけは断れますね、だって……、と、頷きながら言うコーリーに、戦闘を終え玉座の間へと帰ってきたサハリーとシェリーが、駆け寄ってくる。

 するとコーリーはすかさず、いやサハリー起きようよっ、シェリーも足持って引き摺っちゃ駄目だよっ、とツッコミを入れつつ、そちらへ駆けて行った。


「おんぶとか色々あるじゃないか。そして起きようっ、段差とかどうしてたのっ?」

「ぐぅ、ぐぅ。……無理ぃ、お風呂まで、よろしく……」

「あっ、そうでしたすみませんっ。では、改めて任せて下さいっ、行きますよーっ」


 3人は、パーソナルスペースなどどこ吹く風とでも言うような距離にまで近づいて、ニコニコ笑ってお喋りしながら、玉座の間から出て行った。


 うんうん、勝って良かった。

 あんな笑顔が見れるんなら、本当に勝って良かったと思う。


 思う気持ちはあります。


 けれど、うん。


 俺は、目の前に出しているいくつかの映像の内、現在戦闘中の干支階層の映像に目を移す。

 干支階層への侵入は、時間差で行われているため、コーリー、サハリー、シェリーの3人は終わってしまったが、残る3人の所はまだまだ終わっていない。


 だから俺は――。


「次に見る子は、反乱していませんように。反乱していませんように」


 そう祈って、次の子の戦いを見守る。


 それが、まさか叶わない願いだとは、この時の俺には、知るよしもなかった。……いや薄々は感じていましたがね。

お読み頂きありがとうございます。

本当にありがとうございます。


たくさんの方に呼んでもらえて、とても嬉しいです。これからも頑張ります。

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