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弟79話 29階層の守護者、アリス。

悪逆非道のダンジョンあるあるその19

見栄を張った生成は身を滅ぼす。

生成Pの高いダンジョンモンスターを生成すると、それに見合った個性持ちのネームドモンスターが誕生するが、逆にその者達に見合うダンジョンでなければ色々あってダンジョンが終わってしまうこと。

 29階層。

 干支階層の中で最も北に位置するそこは、子、アリスが守護者を務める、逃走と増殖の地下道。


 侵入者に課される試練は、逃げて増えて逃げて増えてさらに逃げる守護者アリスを、追いかけ続けて倒す、というもの。


 階層の主体は地下。

 歩いただけ、という小さな小さな音ですら、どこまでも反響していく、無機質なコンクリート製の地下道だ。


 設けられた通路は、武器を振り回すには難があるものの、通ったりすれ違ったりする分には狭くなく、迷路のようではあるものの、上下構造が1層のため上り坂や下り坂すら存在せず入り組んではいない。

 そしてダンジョンであるため、視覚遮断の設定がされていなければ、前が見えないほど暗くなることもない。


 地下道、と言われ想像するイメージとは、おそらく、得体の知れない何かがいそうな、見通せないほどに深い非日常感の恐怖だ。

 この階層の地下道では、それらは少し感じられない。

 別に複雑でも、暗くも、汚くもないし、どことなく安全なような。


 だが、それはきっと、実際に入った者に聞けば、別の解答が返ってくることだろう。

 1時間ほど前から、地上にあった29個の入口の内、宝箱のある地下道とは別の場所へ繋がる4個の入口を除く25個の入り口によって、500名が地下道に侵入している。


 中では、絶えず様々な音が反響していた。

 その音の中に含まれる、叫び声や、恐怖の声、半狂乱の声。

 それを聞けば、ここには何か、得体の知れない何かがいるのだと、体を震わせずにはいられない。


「隊長っ、今そっちにっ」

「分かっている」

 地下道のどこかで、そんな声が響いた。


 声の主は、若い男と、隊長と呼ばれた壮年の男。

 その2人の周りには、6人ほどの同じような格好をした騎士がいて、ある一方向を警戒している。

 そう、彼等はこの8人はチームとして動き、そして今――。


「チューチュー」


 ――ネズミに、おびただしい数の足音を伴奏しながら駆け寄って来る、数百のネズミに、飲み込まれようとしていた。


「魔法だっ、弾幕を張れーっ」

「うおおおおーっ」

「ええええいやああっ」


 8人の男達の内、背後を警戒する役割の2人を除いて6人が、魔力を操り、魔法を行使しした。

 それは、素早く使う為に、詠唱を破棄された、本来の威力よりも少し劣るものであったが、29階層の魔物の集団を倒すには十分な威力を持っている。

 間違いなく魔法はネズミ達を蹂躙した。


 証拠に、魔法を放つのを止めたその場には、魔石とドロップアイテムが先ほどの魔物の数だけ転がり……、いや、そこにあったのは両手があれば数えられそうな数の魔石とドロップアイテムだけ。

 数百いたにも関わらず、倒した痕跡はたったそれだけ。


 しかし、なぜだろう。

 残っているはずの魔物はそこにはいなかった。彼等の目の前には、魔物が1匹も映っていなかった。


 もちろんそれは、希望の情報ではない。

 絶望の情報だ。


 すると、ネズミ達は再び、通路に溢れんばかりに現れた。

「くそっ、また横道をっ」

「ネズミ達、また横道から出てきましたっ、で、でも、もう魔力がっ」

 地下道の通路の壁にある、小さな排水用の穴や、亀裂、大きめの土管から。


 地下道は決して入り組んでいない。

 ダンジョンマスターが人間種族である以上、攻略に必要なルートは全て、人間が進めるかどうかの基準で生成しなければならないからだ。

 ほふく前進くらいのルートなら用意して良いが、そこでは魔物と、まず遭遇しない。この地下道にもそんな場所はいくつかあるが、どちらにせよ全て人が入れる大きさだ。


 しかし、かと言って、小さな道を用意できないわけではない。

 攻略に不必要なルートを生成するのは、Pと階層コストの無駄なだけで、いくらでも生成できる。


 ネズミ達は魔法が放たれた瞬間、そういった横道に逃げ込んだ。

 もちろん攻撃魔法は、余波か何かがそういう横道にも入りこんでくるため、近場にいたネズミ達は死んでしまったが、しかしまともに食らった場合よりも大幅に生存している。


 29階層の魔物の危機察知能力や思考能力では、回避をタイミング良く成功させることは難しいが、種族特性により、ネズミ系等の種族を統制できるアリスならば、重要な場面ではそのように操作することも可能。

 そうして、無事だった数百のネズミ達に近くまで迫られ、もう魔力も心許なく、8人の騎士達は不利な状況に陥った。


 だが、所詮は29階層の魔物。

 騎士達はこの階層に先遣隊として、いわば偵察として送りだされた、今回の戦争の参加者の中において少し弱い部類の騎士達である。

 それでもLvは全員110以上、平均すればLv132。隊長に至っては、Lv180という強者。


 ダンジョンに入れば、50階層以上を主戦場とする8人が、直接的な戦闘に本気になったなら、たかだか数百のLv29で生成P30P程度の魔物など、蹴散らすことができる。

 先ほど魔法を放った6人は、魔法と、武器による攻撃準備を始め、背後を警戒していた2人も、迫り来る数百のネズミ目掛けて、攻撃準備を始めた。

 きっと彼等が、被ダメージや魔力残量を気にせず、本気で蹴散らそうと思えば、ネズミの大軍はものの10秒程度で消えて無くなるに違いない。


 しかし、だからこそ、本気になったからこそ、背後の警戒に手を回せなかった。


 8人の背後の通路の、右側の壁にあった小さな亀裂から、1匹のネズミが、音もなく現れる。

 そのネズミは、他のネズミと違い、とても美しい毛並みで、なにやら鍵になりそうなアイテムを、首? から紐でかけていた。


 騎士達は全く気付いていないまま、ネズミの群れを倒す準備を始める。

「避けられないよう攻撃までもう少し引きつける。あと3秒、2秒――」


 ネズミは、緊張と魔力を高めて行く騎士8人を見ると、ふと微笑んだかのような表情をして、次の瞬間、自らの姿を、愛くるしい少女の姿へと変える。いや、戻る。

 そのネズミとは、この階層の守護者、アリスだった。


 アリスはさらに、手を横に広げながら回転すると、いきなり5人ほどに分身する。


 アリスの持つ、無限増殖という、自身の分身を作りだすことのできる、固有能力の力だ。

 それは全てが実体を持っている分身で、アリス達5人は細い地下道で前後2列に並び、前列がしゃがみ、後列が立ち、全員が前方へ向けて杖を構えた。

 そして――。


「1秒、放――」

 

 ネズミ達へ攻撃しようとしたその8人へ、それよりも僅かに早く、魔法の砲撃を行った。

 虚の限りを突かれた8人の騎士達。


 水の弾丸をまともに浴び、Lvが110ちょっとと低かった3名は、成す術なくその場に倒れる。残る者達もLv180の隊長以外、やってきたネズミの大軍に攻撃され、倒れていく。


「ボ、ボスだとっ? こ、このおおおーっ」

 唯一生き残ったLv180の隊長は、剣を振り回し、群がるネズミ達をはね飛ばしながら、アリスへ向けて魔法を放つ。


 放たれたのはその隊長が得意とする火の魔法。地下道の、松明を点けたほうが良いかも、というくらいの暗さを、全て吹き飛ばしてしまうほど、それは明るく、激しい炎だった。

 地下道を朱に染めながら炎がアリスへと迫る。


「不意打ち大成功っ。あ、気付かない方が悪いからっ」

 しかし、アリスは余裕たっぷりにそう言うと、5人の分身と共に、一斉に小さなネズミへと姿を変えた。

 炎は小さなネズミの上を通りすぎて行く。

 そして5匹のアリスは、亀裂や土管、床に時折設けられているグレーチングに飛び込み、隊長の前から姿を消してしまう。


 29階層。

 干支階層の中で最も北に位置するそこは、子、アリスが守護者を務める、逃走と増殖の地下道。


 誰もアリスには追いつけない。


 ――、いや、追いついてはいけないのかもしれない。


「見つけた、見つけたぞっ、あいつ等の仇ーっ」

 あれから数十分後、Lv180の騎士は、他の何名かの騎士と共に、剣をその手に握りしめ、亜人型になっているアリスへ向けて走って行く。


 アリスは、今行き止まりに追い詰められており、その行き止まりには、ネズミになって逃げられるような穴はどこにもない。


「やめ――、やめて――、やめて下さい――」

 絶体絶命のピンチが、今、目に涙を浮かべているアリスを襲っていた。


 実は、この階層は、逃走を前面に押し出しながらも、アリスの逃走を封じている。

 それが、今でも、ネズミ状態のときでも首からかけている、鍵のようなアイテム。


 そのアイテムは、地上にある台座に使う鍵であり、ダンジョン攻略に必要なため、台座とセットになっている破壊不能のオブジェクトである。

 破壊不能が分かり易いように、攻撃を加えると、効いていませんよ、とでも言うようなエフェクト、赤い光を出すエフェクトを放つ。


 その設定がどう作用したのかは分からないが、そのせいで、2つセットのアイテムである台座と鍵、そのどちらかに攻撃すれば、両方でエフェクトが発生する仕組みとなってしまっている。

 つまり、台座に誰かが攻撃すれば、アリスが首から下げている鍵が赤く光る、ということだ。


 地下道は真っ暗ではないが、松明を点けた方が良いかも、と思うような薄暗い場所。

 連続で攻撃しても、一定時間を置かねば発光しないようにはなっているが、そんな場所で赤い光が時々でも出たなら、たちどころにその居場所は分かってしまう。


 アリスは最初から逃走、という選択肢を縛られた状態で、ここにいる。


 また、増殖も前面に押し出しているが、アリスの増殖には弱点がある。

 召喚しただけならば、魔力の減少のみで済むが、固有能力、無限増殖を使用し仲間を増やしたならば、その度にステータスが低下するのだ。


 元々29階層にはネズミ魔物が大量にいるが、たった8人へ数百体向かわせられるほど、多いわけではない。

 そして、巧みな行動をさせるためにもアリスが統制する必要があるのだが、アリス1人だけで、500名の侵入者達と戦う全てのネズミを操れるわけがない。

 だから、アリスは自身を膨大な数のネズミに増殖させている。


 ゆえに、たった8人へ数百体向かわせることも、全てのネズミの行動を網羅し操ることもできているのだ。


 しかしそう、つまり、膨大な数に分身している今、アリスのステータスは、とびっきり低い状態にある。

 増殖の解除も間に合わない。

 Lv180に勝てるわけもない。

 逃げられない。


「殺さないでっ」

 アリスは涙ながらに訴える。

 愛くるしい顔をした少女に、そんな表情をされれば、思わず立ち止まってしまうのが人情だ。

 事実、何人かは足を止めた。


「うおおおおおおーっ」

 しかし、Lv180の隊長は止まらない。

 部下を殺された恨みは、相手が誰であろうと、何をしていようが足を突き動かす。


 そして、その男は、アリスに追いついた。

 

 追いついてはいけないというのに。


 アリスは、ピンチの時こそ最も強いのだから。


「我が身に宿りし水の魔紋よ、力を与え形を与えん。ゆえに伝い集い玉と球と弾となり、我が祈り、盟約と共に、顕現せよ、ウォーターボール」


 固有能力、窮鼠猫を噛む。という力をアリスは持っている。

 追い詰められれば追い詰められるほど、与えるダメージが上昇する効果を持つこの能力は、極限までステータスを減らせる無限増殖ととても相性が良い。


 魔法を覚えたての子供ですら詠唱を短縮して使うような、ともすれば正式詠唱を誰も知らないウォーターボールを、その正式詠唱でしか使えないほど低いステータスで、Lv180やその他の騎士達に行き止まりへと追い込まれた、というのは、一体どれほど追い詰められた状態だったのか。


 その答えは、威力をもって示される。

 対象に、多少の衝撃と濡れるという事象しか与えられない、嫌がらせのような威力の水の魔法は、一撃でLv180の隊長を貫いた。


「が……あ……」

 隊長は、フラフラと2,3歩後ろへ後ずさり、うわ言のように散った仲間の名を呟くと、その場にバタリと倒れてダンジョンへ回収される。

 一瞬の出来事。誰も、そこで何が起こったのか分からない。

 誰も動けず、誰も言葉を発せないその状況で、アリスはゆっくり立ち上がる。そして、へたり込むようにしゃがんでいたことで、汚れたかもしれないショートパンツのお尻を、パッパと手で払うと、前方にいる者達を一瞥し、ニコリと笑う。


「改めまして29階層、第一の鎖の番人、アリスです。歓迎しますよ侵入者、さあワタシは逃げますから、さっさと追い詰めて、そしてさっさと死んで下さい」


 侵入者達の後ろの壁の穴から、大量のネズミが雪崩れ込んでくる。

 それに一瞬気を取られ振り向いてしまった者達は、すぐさまアリスへ顔を戻すも、既にそこにアリスの姿はなかった。


 どこかで赤い光が発光したのは分かったが、しかし……。


 歴戦の騎士達は、その有能さゆえにアリスに幾度も幾度も追いついた。

 手を変え品を変え、時には偶然に、時にはアリスの演技に誘い込まれ。


 しかし仕留めることはついぞできず、むしろ追い詰めることに成功した有能な者達だけが倒れていく。


 29階層に挑んだ500名は、台座から鍵を取り出すこと叶わず、敗走した。


『 名前:アリス

  種別:ネームドモンスター

  種族:パーティーハイラット

  性別:女

  人間換算年齢:12

  Lv:198

  人間換算ステータスLv:285

  職業:第一の鎖の番人

  称号:捕獲不能の逃走者

  固有能力:無限増殖 ・自身の分身を作りだすことができる。増やす程にステータスやスキル等が低下。一定値以下になると行使不能。

      :窮鼠猫を噛む ・追い詰められると与えるダメージが上昇。対象の耐性を減少させる。

      :身代わり ・致命的なダメージを受けた際のみ、近距離にいる分身にダメージを移すことができる。

      :夜半の大行進 ・23時から1時の間、全ての行動に対し補正が入る。12人の使徒の内最も北にいるとさらに補正。

      :鼠化 ・鼠の姿になることができる。大きくなればなるほどステータス低下。

      :催眠の魔眼 ・右、視界内の生物の意識を封じ、その体を操ることができる。

  種族特性:大繁殖 ・1度に何匹も子を生むことができ、妊娠期間も短い。

      :一致団結 ・仲間の数が多くなればなるほどステータス上昇。

      :共通思考 ・仲間と思考と五感を共有できる。

      :死への抵抗 ・危機に対しての直感が鋭くなる。

  特殊技能:ヴァイタルドレイン ・生命力を干渉するたびに吸収する。

      :マインドドレイン ・気力を干渉するたびに吸収できる。

      :プレイングデット ・演技で誘いこむことができる。

      :デッドショット ・狙いすました魔法攻撃を急所に必中させる。

      :ブレイバーブレイン ・危機的状況でも冷静に思考できる。

  存在コスト:1800

  再生P:11000P 』


「……、凄く当たり前みたいに反乱状態で戦ってはる……」

 俺は戦いが終わった映像を見て呟いた。


 戦いの内容についても色々と言いたいことはあるのだが、まずは、あまりにも自然に反乱状態で戦っていることについて問いたい。

 29階層程度じゃあ、そんな大した実力は出せないはずなんだ。


 特にアリスは600Pの種族で、マキナやセラ達よりも随分格下の種族。

 低階層のマイナス補正をより多く受けてしまう。

 Lv180の混ざった500名の侵入者達と、真正面から戦ったならば、太刀打ちなどできるはずがないのだ。


 なのに……。


「徹頭徹尾、反乱してるじゃないの……」


 戦いの内容についても色々と言いたいことはあるのだが、やっぱりもう、それしか出て来ない。


「あ、お帰りアリスー、お疲れー」

「ニル先輩、ただいまです」


 すると、宴会じょ――、玉座の間にアリスが帰ってきた。

 灰色のくるくるでサラサラな髪の、小柄な少女は、先ほどまで激しい戦闘を繰り返していたとは思えないような風体と、ちょっとゴキゲンな顔をしている。


 アリスはそのままトコトコと、嬉しさを隠せていないような早足で俺の元まで向かって来ると、俺が何の映像を見ていたかを確認して、言う。


「あ、王様。見てたの? ……ただいま」

 そんな風に、ぶっきらぼうに。


 そう言った後は、もう何も言わず、しかしどこにも行かず、後ろで手を組んで、他所を見て、たまに俺の方をチラリと見て。


「あー……、アリス」

「な、なにっ? なに言いたいのっ?」


 数秒の沈黙の後、俺はアリスに呼びかけた。もちろん内容は、反乱して戦ったことを問い詰めるため、ダンジョンマスターとして怒るためだ。

 いけないことをしたら、怒る。これが世の中の当たり前。

 しかし、そう思って呼びかけた俺の声に反応したアリスは、目を輝かせていた。


 勢いよく反応した後は、ちょっと顔を赤くし、上目遣いで見て、目が合えば逸らして、また合わせて、たまにニヒッ、と笑ったり。

 だから、俺は、こう言った。


「さ、最高の、戦いだったぜ。ありがとうアリス」

 多分すごく、くしゃっと崩れた笑顔で、感謝を伝えた。


「へっへーん、普通だもーん。普通に戦っただけですーだ。王様見る目ないし、感謝されても別になー、セクハラだしー」

 アリスは、体を左右に揺らしながら俺の感謝にそう応える。


 ……こんな、……こんな。

 こんな嬉しそうに報告に来て、褒めたらこんな嬉しそうにする子に、怒ったりできるわけないじゃないっ。


「お帰りー、イーファス、ヴェルティスー。アリスももう帰ってるよー」


「ただいま帰りましたっニル先輩っ。あ、本当だ、アリスー」

「ニル先輩、ちゃんと勝って来ましたよ。あ、アリスー、あんたも勝ったのー?」


 頭を撫でれば、嫌やめてと言いながらもその場から動かないアリスに、戦闘を終え玉座の間へと帰ってきたイーファスとヴェルティスが、とびきりの笑顔で走り寄ってきながら声をかける。

 するとアリスも、俺が褒めた時よりも一層嬉しそうな笑顔で2人を見ては、走り寄って行った。


「勝ったに決まってるじゃないですかっ、だってワタシは2人と違って賢いですしっ」

「なにそれっ、心配してたのにっ。……まあ、今日は特別に許してあげる」

「良かったぁ2人が無事で、って、べ、別に心配してたわけじゃないんだからねっ」


「えへへ、ほら早く2人共お風呂行こー、汗かいちゃった」

「仕方ないなあ、って引っ張らないでよー」

「あ、聞いて、あたしね、ずっと練習してた必殺技がね――」


 3人は、パーソナルスペースなどどこ吹く風とでも言うような距離にまで近づいて、ニコニコ笑ってお喋りしながら、玉座の間から出て行った。


 うんうん、勝って良かった。

 あんな笑顔が見れるんなら、本当に勝って良かったと思う。


 思う気持ちはあります。


 けれど、うん。


 俺は、目の前に出しているいくつかの映像の内、現在戦闘中の干支階層の映像に目を移す。

 干支階層への侵入は、時間差で行われているため、アリス、イーファス、ヴェルティスの3人は終わってしまったが、残る9人の所はまだまだ終わっていない。


 だから俺は――。


「次に見る子は、反乱していませんように。反乱していませんように」


 そう祈って、次の子の戦いを見守る。


 それが、まさか叶わない願いだとは、この時の俺には、知るよしもなかった。……いや薄々は感じていましたがね。

お読み頂きありがとうございます。

ブックマークして頂いた方、評価して頂いた方、ありがとうございました。

総合評価が1100Pを越えました。誠にありがとうございます。これからも、ご期待に応えられるよう、頑張りますので、応援のほど、よろしくお願い致します。


なお、この話は、1度投稿している話でしたが、前章に自己紹介部分を移したことで、文字数を減らして再度投稿させて頂きました。既に読まれている方もいらっしゃるかと思います。お手数をおかけします。

また、これからは、1度読んだ話が投稿されていくかと思います。申し訳ございません。


呆れずにお付き合いいただけると嬉しいです。

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