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第78話 戦争準備しすぎだみなの者っ。

悪逆非道のダンジョンあるあるその18

勝つ者も負ける者も前へ進む者も死亡者。

勝ち続けた者は負ければ死ぬ。負け続けた者は勝つまでに死ぬ。そして前へ進み続けた者は何かを失ってもそれを取り戻し、本当に大事なものだけを守りながらやはり死んでしまうこと。

 ダンジョンの一番近くにある都市からでも、ダンジョンマスターやダンジョンモンスターの住む天空の城は、少しだけ見える。


 ダンジョン中央から数えれば、その都市は60kmも離れた位置にある。

 天空の城は、そのダンジョン中央であるから、地平線が5kmなことを考えると、同じ高さにあればまず見えない。見える条件というのは、限られる。

 また60km先の物は、例えば距離と面積の関係で考えたなら、1mの距離にある物の0.0000000002778倍の大きさに見えるため、相応の大きさがなければまず見えない。やはり見える条件というのは、限られる。


 しかし少なくともその都市、王国の軍隊が最後に駐留していた都市からは、天空の城が少しだけ見えていた。


 なぜなら天空の城とは、高度5000mにあり、直径10km厚さ3000mの漏斗型の結晶の大地の上に乗る、高さ3000mの城。

 高度5000mにあるため地平線は関係なく、大地と漏斗と城を幅10km高さ6kmのひし形と捉えたなら、面積が30k㎡にもなる、相応の大きさ以上の巨大な建造物だったからだ。


 とは言え、先ほども言ったように、見えていたのは少しだけ。大きく見えていたわけではない。

 面積が30k㎡だろうと、60kmも離れた位置から見たならば、自分から1mの距離の、0.0083㎡の面積の物と同じ、大体手の平と同じかそのくらいの大きさにしか見えない。


 遠くの方に何かある、もしくはそこらを鳥が飛んでいるとか、そんなことを思うくらい。

 曇りの日なんかは、存在を認識することすらなかっただろう。


 だから空を覆うような圧迫感などどこにもなく、むしろその大きさであれば儚げに見える、美しさのみを追求したか弱い存在のようにも見える。

 芸術品として競うのならそれは難敵かもしれないが、それが武力で戦う相手とあっては、侮り、大したことはない、そう思って当然だ。


 出陣前の1週間から数ヶ月、都市に駐留してその小さな城を見続けた者達は、誰もがそう思い、ダンジョンヘと足を踏み入れた。


 1階層を進み、2階層を進み、5階層を進み、10階層、15階層。

 魔物が一切出ないと報告が上がっていた階層は、道すらも進みやすく、どんどんダンジョン中心へと近づいて行った侵入者達。


 いくら近づいても、見えている天空の城が一向に大きくなることはない。だから侵入者達は、改めてあの城はそう大きなものではないと改めて確信していた。

 城を空に浮かべるほどのダンジョンを攻めると聞いて驚いたが、そんな小さな物をまるで象徴のように掲げるような小物のダンジョンなら楽勝だ、そんなことを考えていた。

 そう心から信じていた。


 だから後に、絶望するような間違いに気付く。


 そうなったのは……、そう、王国帝国共に、干支階層と四獣階層と呼称するようになった、29階層から40階層と、49階層に辿り着いた、その頃だった。


 このダンジョンは、地上階層最後のボスと戦うためには、全てのボスを倒さなくてはいけない、というギミックがあるものの、ボスを倒さなければ次の階層に進めない、という通常のダンジョンで採用されているギミックは存在しない。

 それゆえに、侵入者は、29階層から40階層、そして49階層のボスを、全て同一の日に倒そうと、一斉に侵入した。


 干支階層の29階層から40階層の、計12階層分は、ダンジョン中心から21kmの同一距離で、北、北東微北、北東微東、東、と各方角に並んで存在している。

 各階層の大きさは、半径5km、面積は約80k㎡。


 四獣階層の49階層は、ダンジョン中心から13kmを外側とし中心から500mを内側とする、ドーナツ型をした階層で、それをさらに東西南北が扇形になるよう、4つに区切って存在している。

 各区画の大きさは、長さ12.5km、面積は約130k㎡。


 各方角にあるため、南から入ってきた王国軍が、北西微西の40階層までと49階層西まで。南東から入ってきた帝国軍が北の29階層と49階層北まで。

 それぞれ配置につくのに、4日の時間がかかったが、包囲は完了。


 北、29階層、子、アリス。

 北東微北、30階層、丑、イーファス。

 北東微東、31階層、寅、ヴェルティス。


 東、32階層、卯、エリン。

 南東微東、33階層、辰、カノン。

 南東微南、34階層、巳、ケナン。


 南、35階層、午、コーリー。

 南西微南、36階層、未、サハリー。

 南西微西、37階層、申、シェリー。


 西、38階層、酉、スノ。

 北西微西、39階層、戌、ソヴレーノ。

 北西微北、40階層、亥、タキノ。


 49階層北、玄武、ククリ。

 49階層西、白虎、リリト。

 49階層南、朱雀、トトナ。

 49階層東、青龍、ナナミ。


 侵入者達は、まず29階層に雪崩れ込み、おおよそ30分刻みで30階層、31階層と雪崩れ込んで行った。


 そうして順々に、ずっと見えていたあの天空の城は、途方もない大きさだと気付いていく。


 距離と面積の関係は、60km先の物が、1mの距離にある物の、0.0000000002778倍の面積に見える関係だが、それは、少々数字が大き過ぎるため、イマイチ分かり辛い。


 重要なのは、近づけば近づくほど、大きく見える、ということと、距離が半分になれば、大きさは4倍に、距離が3分の1になれば、大きさが9倍になるということ。

 つまり、干支階層の中心である、21kmの地点から天空の城を見たなら、都市のあった60km地点から見た天空の城の、9倍の大きさになっている。

 たかだか9倍だ。


 都市からは手の平サイズだっため、それを9倍しても大した大きさにはならない。

 計算しても0.064㎡の面積。分かり易く言えば25cm四方の物、それと同じ大きさである。

 もちろん、天空の城は平面ではなく立体であって、大地の円は手前に5km分、漏斗の下側の高さは2000mほど、逆に城の上部は高さ8000mという形であるから、厳密に言えば25cm四方の物の見え方とは異なるが、しかしどの道、60km地点より、そう大きくなってはいない。


 その程度の物が空に浮かんでいようが、やはり別段大き過ぎるとは思えない。


 覆うような圧迫感はどこにもなければ、やはり小さく儚げにも見える、美しさのみが追求されたか弱い存在だ。


 しかしそんな城を、階層に雪崩れ込んで行った多くの者が、あたかも、膝に力を入れていなければ立っていられない、とでも言いたげな風体で眺めていた。

 何かに気付いたように目を見開いて、城の圧倒的な威圧感と、存在感と、ダンジョンとしての強大さに、おののいてしまっていた。


 すると、今もまた1人、21kmの地点で、そのことに気付く者が現れる。

 その者は、同じ部隊の者達と一緒に、29階層の中心部にやってきていた。

 干支階層はそれぞれの守護者の特性に応じ、フィールドの環境からして全く異なるのだが、子、アリスの階層は、その者がいる地上ではなく、地下道で戦いを行うというシステム。


 そのため、広大な地下道があるというフィールドで、魔物達も全て地下に存在しており、地上部分には1匹も存在していない。

 なんだか昼寝でもできそうな平和な空間で、そこにあるのは、地下に下りるための階段がいくつかと、まばらにあるそこまで背が高くない木と草原。

 そして、どの干支階層の中央にもある、台座だ。


 台座は、その者のすぐ傍にあった。階層の中心に設けられているのだから、階層中心近くにいたその者の近くにあるのは当然のこと。

 人の背丈の3倍ほどはある台座は、地面に余程深く埋まっているのだろうか、どれほど攻撃してもピクリともしない頑丈さが、見ただけで伺える代物で、いくつもの赤く発光するラインが入っている。

 丁度、手で触れやすい位置には、明らかに何か重要そうな窪みがあり、その台座がダンジョン攻略に必要だというのはすぐに分かる。


 彼等が天空の城の異様さに気付く理由はしかし、台座、ではなく、そこに繋がっている鎖だった。


 鎖と言っても、よく目にするような代物ではない。形こそ同じだが、その大きさは常識と桁が違う。

 鎖の一欠片が、長さ10mほどもあり、鉄の厚みが1mほどもあるのだ。

 どれほど馬鹿げた物だろうか、作った物は正気でない、と。見た者は誰もがギョッと一様に同じ表情をして、その鎖が一体何に繋がっているのかと、目で追っていく。


 その者も、一体この先に何が、と興味に目を輝かせ鎖を追っていき、他の者達と同じように、その方向が城であり、城に繋がっているのだと分かりながら、鎖を見失ってしまった。

 そう、見失ってしまった。あれほど巨大な物を。


 鎖は、今も浮かび上がろうとし続ける天空の大地を、強力な力で留めているせいか、巨大な分の重量があるはずなのに一切のたわみがない。

 そのため、見失うはずなどない。鎖がある場所は、分かっているのだから。

 しかし、何度追っても、誰が追っても、鎖を見失う。


 それは仕方ない話だ。

 だって、たかだか長さ10m、幅1mが2本の鉄一片一片でできた鎖は、天空の大地の端、侵入者達が立っている場所からおおよそ17km先では、1m先の0.0000000346㎡の大きさの物と同一程度の大きさしかない。

 1mmの物ですら、0.0001㎡なのだから、その小ささなんぞ見えなくて当然だ。


 その者を含め、多くの者が天空の城、正解は天空の大地にだが、鎖が繋がっていることが分かってなお、繋がっている鎖を見ることはできなかった。


 だからこそ、誰も彼もが、おののいている。


 だからこそ、誰も彼もが、認識した。


 もちろんそれは、49階層へ侵入した者達も同じだ。

 鎖の存在を確認したかは不明だが、49階層のボスと戦うためには、1度、50階層の塔に登り、勾玉を入手しなければならない。

 50階層とは、ダンジョン中心半径500mの円。

 天空城砦の真下である。


 半径5km。直径10km。

 そんなものが頭上にある空は、一体どんな風景なのだろうか。


 だからこそ、誰も彼もが、おののいている。


 だからこそ、誰も彼もが、認識した。


 基本的に、物というのは遠ければ小さく見え、近づけば大きく見えるものだ。

 けれども、遠く離れた場所からでも、大体の大きさは把握できるだろう。


 100m離れた位置にある家を、うーんあれは5cmの家だ、なんて誰も言ったりしない。

 そこまでの距離感や、周囲にあるものの大きさを元に、対象がいくら遠くにあったとしても、大体の大きさは分かるものだ。

 人ならばすべからく、そんな感性を持ち合わせている。


 けれども例外がある。

 例えば、空を飛ぶ竜。


 経験の長い騎士や冒険者にとってはあるある話らしいが、竜は、近いと思って、警戒ーっ、と叫んだにも関わらず遠くを飛んでいたり、あれは遠いなと思っていたら、既に攻撃範囲内にいたりするようだ。

 原因は、元々があまりにも規格外な大きさであるため距離感が分からないことと、対比物のない空を飛ぶため比べることができないこと。

 サイズを予想しても、全く当てにならないらしい。


 今回も、その例外と同じだった。

 ダンジョンというそれ以外とは常識が違う場所の建造物であり、規格外の大きさであったこと。

 空気に不純物の混じらないダンジョンだからこそ、遠くまで鮮明に見えてしまい、距離感が分からなかったこと。

 空に浮かんでいて対比物がなく、比べられなかったこと。


 誰もが正しい大きさなど分からなくて当然だ。


 しかし、もう分かる。

 自分達が、どれほど巨大な力と戦おうとしているのかを、目の当たりにしてしまった。


 今回の戦争に参加した者達はとても強い。

 干支階層と四獣階層に最初に派遣されたこの者達は、先遣隊というよりも様子見のような形で送り出された、戦争に参加する者達の中では弱い部類であるが、中には、100階層以降を自身を鍛える場として利用する者もいる。


 平均Lvは軽く130を越え、どこに出ても恥ずかしくないほどの技量を身につけている。


 けれども、気付いた者達の体は、抑えていなければ震えだしそうだった。


 彼等は一様に周囲を見回す。


 29階層から40階層、49階層の4区画。

 全く違う環境のそれら。


 干支階層の勝利条件とは、台座に辿り着くことではなく、守護者であるボスを討ち取り、身につけているキーアイテムを手に入れること。

 そうして手に入れたアイテムを、台座にセットすることで、鍵を手にすることができ、その鍵を12個手に入れ組み合わせると、50階層のエレベーターを動かすことができる。


 四獣階層の勝利条件とは、勾玉を祠にセットすると出現する、守護者であるボスを討ち取ること。

 そうすることで、エレベーターの大元を起動することができる。


 ここで勝たなければ、先へは進めない。

 けれども先へ進んだとしても、待ち受けるのは、地上最終階層のボス。

 そして、空に浮かぶ、とてつもない力の象徴である天空階層。


 侵入者達は、まだ戦いが始まっていないにも関わらず、気が遠くなる思いだったに違いない。

 さあ、戦いは、まだ始まったばかりだ。


「どうか、どうか、鎖を上れば天空城砦に辿り付けると気付かないで下さい。干支階層の方々も四獣階層の方々も、そのまま戦っていただきたいっ」

「もう気づいていると思いますよ。ここはダンジョンコアの波動が強いので、正解のルートが浮き出るほどに見えます。だから鎖を見ているのでしょう」


「ち、違う、違うやい。きっと彼等は――」

「先ほどのご主人様のナレーションにあったように、天空の城の大きさがどうとかで唖然としていると? 私には、まさか本当にここから上れるのか……、と、本当に繋がっているのか……、と、愕然としているように見えますね」


「うぐっ、……、じゃ、じゃあ、どうして彼等は上って来ないんだい? 上って来ないのが俺の言い分の証明さっ」

「……ふむ、確かに、そう言われれば、そうかもしれませんね」


「――っ、な、なにっ? セ、セラさんを、俺が納得させただと?」

「流石でございますご主人様。慧眼でございますね」


「わーい、わーいセラに勝――」

「私はてっきり上って来ない理由を、王国帝国、双方の上層部に、あの鎖を上って死んだ者が多数いる、との情報を流したことと、指示を出す人間を魅了し、上ってはならない、という命令を下させたことだと思っておりました」


「――、え?」

「お礼は?」


「……あ、ありがとうございます」

「恐縮です」

お読み頂きありがとうございます。

Pが1000Pを越えました。全て皆々様のおかげです、ありがとうございました。これからより一層励んでいきたいと思います。


たくさんのブックマーク、評価、またアドバイス頂きまして、本当にありがとうございました。


ただ、計算がよく分かりません。色々と数字を書いていますが、頭にはハテナしかありませんでした。

立体はどういう見え方をするのでしょう。詳しい方いましたら、教えていただけるととてもありがたいです。

不出来ですが、どうぞ宜しくお願いします。

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