第76話 さよならダンジョン。
悪逆非道ダンジョンあるあるその16
コレクターによる無限周回。
竜のように、火水木など、様々な属性や色違いがいると、必ず全て揃えたいのか、ダンジョン外とダンジョンを、何度も何度も周回され相当な胃痛になってしまうこと。
天空城内部のとある1室。
窓も入り口もなく、ただただ殺風景なその内観。
作戦室に似ているが、あそこには世界全てを見渡せる地球儀が置かれている。
この部屋にあるのは円卓と8つの椅子のみ。
厳かという言葉だけでは到底言い表すことのできない厳粛さと重厚な雰囲気を纏ったそれらのみ。
ここは、上院議事堂。
初期組、または1期組と呼ばれるメンバーが集い、会議を行う厳粛なる部屋。
そして、ネームドモンスター達の自室や女風呂などと同様、ダンジョンマスターの監視外に指定されている部屋である。
ゆえに当然、ここでの会議の内容は、このダンジョンの未来を決める重要なものばかりだ。
「それではこれより、第42回ダンジョン上院議会を開催致します。司会は順番通りに私が務めさせて頂きます、よろしくお願い致します」
淡々と、しかしハッキリとした口調でそう言ったのは、序列第二位のセラ。
いつもの澄ました顔に加えて真剣且つ神妙な面持ちのセラは、円卓を囲む椅子から立ち上がり、同じく会議へ参加する者達に深々と頭を下げた。
その真摯な姿は、これより行われる会議がいかに真剣なものであるかを物語っているように見える。
「おう。頼むぜ」
「……うむ」
「始めてくれ」
「よしなにの」
「お願いします」
「ああ。やってくれ」
それを受けた者達もまた、やはり会議の重要性を増すような真剣且つ神妙な面持ちで応えた。
参加者は椅子の数より1人少ない7名。
ダンジョンに住まう29名から比べれば、7名とは些か少ない数字に見える。
だが参加している7名とは、それぞれがダンジョンの創設に大きく関わっており、名声実力共にトップに君臨している7名。
司会のセラに加え、序列第一位、マキナ。
序列第三位、オルテ。
序列第四位、ローズ。
序列第五位、キキョウ。
序列第六位、ニル。
序列第七位、ユキ。
会議の人数が少ないのは、その会議の重要性や位が低いのではない。
格式があまりにも高過ぎるゆえに、彼女達しか参加することを許されていないのだ。
彼女達が決めたことに逆らう者など、このダンジョンには存在しない。いや、存在できない。
であるからして、ここで決められたこととはすなわち、何人足りとも破る事が許されない絶対の秩序となり得る。
上院議事堂では今日も今日とて、ダンジョンマスターが知ることのないまま、ダンジョンの未来を決める会議が行われていた。
「では今日の議題、1つ目です」
セラは最初の言葉と同様の淡々とした口調で述べる。ただの句読点や息継ぎが、あたかも緊張感を一気に高めるような重さを持っているよう。
当然、誰しもが次の言葉に耳を傾けた。
「ご主人様の記憶を消し、共に冒険者としてこのダンジョンを攻略する流行の遊びですが、ご主人様から、もうおやめなさいっ人の記憶をそんな簡単に弄っちゃいかんよっ、との言葉がでました。継続するか否かを話し合いたいと思います」
そんな言葉に。
「継続で」
「……同意」
「継続に1票」
「問題ない」
「続けよー」
「賛成だな」
「……。賛成7票。可決です、継続が決定致しました。尚、ご主人様から先ほどの言葉を伺った時点で、既に強い継続の意思をご主人様に伝えております、御安心下さい」
「あれは楽しいからな」
「……中々」
「ダンジョンマスターであるが故に、ダンジョンモンスター達からは敵として見られず常に無視されているが、主様の勇猛果敢な御姿は惚れ惚れする」
「無抵抗の相手を攻撃することなんてできない、と申すから毎度支配して襲わせねばならんのが億劫じゃがの。支配して襲わせていることを伝えた時のなんと惨いことをと言うのは面白いが」
「でもダンジョンモンスターじゃ反乱できないしダメージ与えれないよねー。それでも負けるのがあるじ様だけどー」
「ピンチに陥ったフリをすると急いで助けに来るが、毎度もうダメだ俺を置いて早く逃げるんだー、になるのがワタシは楽しいな。本当に置いていったら絶望的な表情をする」
「つーか最近マスターは記憶消しても取り戻すようになってきたよなー。アタシ達の名前とかだけだけど、顔見てたら結構すぐに思いだすし。へへへ」
「……記憶忘却、記憶封印。……この前は催眠も。……やる」
「しかしあれは正直、良い。クエスチョンマークをつけながらも名を思い出したあの御姿には胸が高鳴る」
「俺には忘れちゃいけない思い出があるんだあー、と、つい最近はそう言いながら思い出しておったぞ暑苦しい」
「この前記憶消してたのに起きた時、おはようニル、あれニル? って言っててなんか嬉しかったからすっごくかじっちゃった。後で聞いたら、見知らぬ化け物に食い殺されると思って怖かったってー、ひどいよねー」
「だがこう毎回思い出されていると、あの最初のトキメキも薄れてこないか? ダンジョンモンスターだから繰り返してても飽きることこそないが、しかし、もっと強力なのはないものか。1年くらい消せるような」
「いずれ可能となるでしょうが、記憶にまつわる武器防具の生成は現在不可能です。今は全員の力を組み合わせ強力にしていくしかありませんね。今後の重点強化項目にもなっております、励むことと致しましょう」
「おうよ」
「……うむ」
「意義なし」
「仕方あるまい」
「やるよー」
「目的を達成するのが勇者だ。任せろ」
「では次の議題に移ります」
彼女達は日夜、とまではいかないが、月に数度、こうやって話し合いの場を設けている。
それは協議であったり意思確認であったり、様々だが、ダンジョンの戦力増強や健全な運営に大きく役立っている。
今の平和があるのも、彼女達の尽力あってのことだ。
「ご主人様から、100歩譲って記憶を消して一緒に冒険者をするのは良いとして、俺の呼び方を変えなさい、との言葉が出ました」
ただ、彼女達の求める平和が、ダンジョンマスターにとっての平和と同じなのかは分からない。
「マスターやご主人様と呼ばれているのに、俺は君のマスターとかご主人様なの? と尋ねると、違う、と返答されるため混乱するそうです。特にダンジョンマスター様と呼ばれるのは非常に混乱するのだとか。変えるか変えないか、決を採りたいと思います」
「却下」
「……却下」
「却下だな」
「却下じゃな」
「却下ー」
「却下に決まっている」
「……。却下7票。否決です、継続が決定致しました。尚、ご主人様から先ほどの言葉を伺った時点で、既に強い継続の意思をご主人様に伝えております、御安心下さい」
少なくとも、ダンジョンマスターの胃と頭は平和ではないだろう。
常日頃から荒れに荒れているとして間違いない。ダンジョンマスターなので本当に痛いわけではないのが唯一の救いだ。
いや、本当に痛ければ彼女達も労わりやめるはず、痛い方が良かったのかもしれない。
少なくとも、この上院議事堂で行われている会議の様子をダンジョンマスターが見たのなら、そう思う。
「では次の議題です。次の議題は戦争について」
とはいえ、ここで行われている会議はなにも、ダンジョンマスターの胃と頭を痛めるようなことばかりではない。
その逆。
胸を撫で下ろすことができるような会議とて行われている。
今から行われるのは、来月の3月に開戦が決まった、王国帝国との戦争、そしてその20日後に決まった魔王国との戦争を乗り切るための会議。
その会議の様子をダンジョンマスターが見ることができたなら、胃痛も頭痛も消え、きっと安心するはずだ。
「後輩の台頭により、戦う者を分けあった為少々変更となっておりますが、それでよろしいですか?」
「おう」
「……いえす」
「構わん」
「よいよい」
「大丈夫ー」
「まあ良いさ」
「そうですか。では次の議題です」
少しくらいは。
「では次の議題です。ご主人様の睡眠学習について、ユキから追加の要望が出ました」
アッサリと終わった戦争の議題の次は、先ほどまでとはまた少し違う形態の議題。
「追加は背中の洗い方です。ユキ、理由を」
セラに促される形で、ユキは立ち上がる。
そして、言う。
「この間、魔王に背中を流せと言ったんだがその最中になんか、こんなに立派な背中に育って……って言って涙ぐんでるんだ。あいつ本当にワタシ達のこと娘かなんかだと思ってるだろ」
こんなことを。
「ムカツクな」
「……アウト」
「記憶を失っている時もそのきらいはあるな」
「特にユキは生成されているわけでもないのにの」
「うーん」
「控えめに言って侮辱ですね。それでは内容をどうするか、皆さんの意見をどうぞ」
「やっぱりアタシはな――」
「……違う、もっとこう――」
「まずは娘だとか盟友だとかの意識改革からだ――」
「一度ぶん殴ってみた方が早いかもしれんのう、例えば――」
「大体の問題は食べたら解決だよーだから――」
「ワタシはもういっそのこと――」
途端に紛糾し始めた上院議事堂。
やはり、彼女達にとってもそちらの議題の方が重要らしい。
先ほどの戦争の議題とはうって変わって、全員の意見が飛び交っている。
もちろんこのダンジョンを良くするために。
ダンジョンマスターはこの光景を見れば喜んでくれるだろうか。
「見ないんならいっそ殺しちまえっ」
「そうだ……、殺せっ」
「いいやそれはいかん。殺してくれと頼むまでだっ」
「同じことよ。なあに準備はとうにできておるっ」
「調教だー調教だーっ」
「踏まれて悦ぶ男にしてやれーっ」
喜んでくれるだろうか。
「はいはい。皆さん、少し熱くなりすぎですよ。しかし良い意見がたくさんでましたね、まとめますと――」
ダンジョンマスターが一番喜ぶのはきっと、ネームドモンスター達が外で虐殺をしなくなり、侵入者を自らの階層で待ち受ける、という一般的なダンジョンモンスターとして活動してくれることだろう。
そうしたなら泣いて喜ぶに違いない。
そこへ借金の清算が入ればさらにだ。
それらはダンジョンマスターの心からの願い、望み、夢。そんなようなものだと言っていい。
「――という睡眠学習を行うことと致しました。効果は先ほど説明した通りのことが期待できます。それでは賛成か反対かの決を採りたいと思います」
「良いじゃねえか」
「ナイス」
「残念ながら文句のつけようもない」
「納得じゃ」
「頑張ろー」
「よーし」
「賛成7票。早速今晩からこれを行いたいと思います」
残念ながらこのダンジョンではダンジョンマスターの望みは叶わない。
例えもし、ダンジョンの周囲に魔物が少なくなってきたとしても。
侵入者が戦争で自分の階層に来ることが決まっていたとしても。
どれほどの願いを込めて、徳政令をと言ったとしても。
1mm足りとも。
「では次の議題です。……これが、今回のメインの議題と言って良いでしょう」
しかし、下院議事堂でも上院議事堂でも、一番数多く議題に上がるのはダンジョンマスターのこと。
一番意見が一致するのもダンジョンマスターのこと。
一番意見が食い違うのもダンジョンマスターのこと。
一番盛り上がるのもダンジョンマスターのこと。
だからきっと、結果はどうあれダンジョンマスターは喜ぶのだろう。
今の彼女達の姿を見れば、どんな議論をしていたとしても喜ぶのだろう。
その姿が愛に溢れていることなど、たった一目で分かるのだから。
「例の問題です。……例の」
……いや、少し違うかもしれない。
今現在、彼女達にとって、一番盛り上がる議題は、ダンジョンマスターのことではない。
厳密に言えばダンジョンマスターによってもたらされた事ではあるが、現在は……。
「第27回ダンジョン最強決定戦、優勝はミロク、2位はエリン、3位は私」
セラは手元の資料を淡々と読みあげる。
「第28回ダンジョン最強決定戦、優勝はシェリー、2位はユキ、3位はタキノ」
大した間を置かないまま、セラは淡々と読みあげ続ける。
しかしどこか、淡々とした声の中にも何かがあるように聞こえる。
「第29回ダンジョン最強決定戦、優勝はホリィ、2位はククリ、3位はイーファス」
熱のような、怒りのような……。
「3大会連続して我々は優勝を逃しております。ましてや29回に至っては3位までにも入れない始末。辛うじてマキナが撃墜数2位に入りましたが、これは体たらくと言っても良い結果でしょう」
紙を静かに置き、他の6名に言ったセラの表情は、先ほど同様に澄ましているように……。
「最強交代か? などと言われても致し方ないのかもしれませんねえ? あのお馬鹿様に」
全く見えない。
「そうだなあ、ホントによ」
「……」
「致し方ないなあ」
「負けておるんじゃからの」
「ほんとだねー」
「全くだ。はっはっは」
全員のコメカミに怒りのマークが浮かんでいる。
彼女達が今一番盛り上がる議題とは、そう、ダンジョン最強決定戦のこと。
2期組の優勝が続いているダンジョン最強決定戦のこと。
ダンジョンマスターに、最強交代かな? などとほざかれたダンジョン最強決定戦のこと。
「確かに力押しは反省点だ。アタシら同士で序盤に潰しあうことも多かったもんな」
「……展開を考えなければ不利になる」
「強い奴から潰す、それが今までの戦いだった」
「勝ちを目指しつつも自分の力を最大限発揮するのが目的じゃったからの」
「不利な時の方が身になったしそれで良いと思ってたけど」
「ネームドモンスターに敗北は許されない。第1回上院会議で決めたことを思い出したよ」
2期組は、厳しい鍛錬によって各々が強くなってきている。
それに加え、弱い頃から初期組を相手にしていたためか、たった1人の優勝を争う最強決定戦においても、協力することや連携することを躊躇しない。むしろ重視しているほど。
その成果が出てきたのか、まだ格上であると言える初期組に対し、勝利を掴むようになってきたのだ。
もちろん3大会連続優勝は出来すぎの結果で、偶然の要素も強いのだろう。
だから初期組は誰もそのことに関して、思うところはなかった。
だが、弱い、などという文言は、彼女達にとって禁句である。
「どうやら今、ミロクから全員に通達がいったようです。第30回大会は私達対自分達だと。さあ、決を採りましょう、もう始めてしまうかどうかを」
「始めちゃうかあー、だって真剣勝負には始まりの合図なんてないもんなあ。マスターもきっと分かってんだろ」
「……敵はいつ来るか分からない。……ダンジョンがいつ壊れるのかも分からない」
「今回はヴェルティスとサハリーが司会か。いや、今回は司会なんていらんな。元々はヒートアップした我等の流れ弾から守るための役目だものな」
「簡単には殺さないでおこうか、簡単に殺してしまおうか。悩むのう。存分に自らの発言を後悔して貰わねばの」
「どっちが強いのか。どれだけお馬鹿だったのか。分かって貰わないとねーあるじ様には」
「奴等にはなんの罪もない。負けたワタシ達と言った魔王の罪だ。だから、あがなおう、今すぐに」
「賛成7票。では、さっさとご主人様の処刑のために、終わらせてしまいましょう」
彼女達はゆっくりとだが、一斉に椅子から立ち上がった。
彼女達にとって、弱い、などという文言は禁句である。
特にダンジョンマスターからは。
彼女達は、ダンジョンマスターからだけは絶対に、弱いと思われるわけにいかない。
最強だと、どんな時でも余裕で勝つのだと思われていなければいけない。
4ヶ月後に行われる戦争でも、彼女達は余裕タップリに勝利する。
圧倒的に、相手が勝つなどと一瞬足りとも思わせることなく。
苦悩するのは侵攻してきた軍や国と、ダンジョンマスターのみ。
「カタストロフ――」
「ケイオス――」
マキナは手の平に恐ろしいほどの風の力を込めた球体を作り、セラは肩から指先にかけ光と闇のオーラを内包する力をゆっくりと貯め込む。
「カラミティ――」
「ディザスター――」
オルテは手にした弓を何もつがえないまま引き絞り、ローズは槍に渾身の力と炎を注ぎ込む。
「アトミック――」
「パニッシュ――」
「ラグナロク――」
キキョウは周囲を幻惑するほどの魔力を術式に込め、ニルは全身に力を入れながらお腹をグーッと鳴らし、ユキはゆっくりと腰に差した刀の柄に手を添えた。
彼女達は各々の必殺技の照準を、他のネームドモンスター達へと合わせる。
間にはいくつもの壁や部屋がある。しかしなんら問題ない。
彼女達の必殺技は、破壊不能の設定がされたダンジョンの壁なんぞ軽々貫く。
7対21の戦いである。しかしなんら問題ない。
彼女達は何度も何度も戦い合い協力しあった、ダンジョンの仕様による弱体化で、2期組が生成されたばかりの頃より弱い時から。
苦戦すら許されない、圧倒しなければならない戦いである。しかしなんら問題ない。
彼女達は、最強だ。
もちろん現実には最強を名乗ることなど到底不可能だが、最強でなければいけない。
少なくとも、ダンジョンマスターから見たなら。
少なくとも、彼女達を無償の愛で包むダンジョンマスターが考え及ぶ中では。
なぜなら、彼女達のダンジョンマスターは馬鹿だ。
おおよそダンジョンマスターとして相応しくない。
彼女達のダンジョンマスターは、例えば今度の戦争で、負けてしまうのではないかと少しでも思ったなら、あの行動を取る。
彼女達だけは死なせないようにと、逃がす行動を。
既にネームドモンスターは数々の勲章により、ダンジョンマスターの死亡やダンジョンコア破壊によるダンジョン消滅が起こっても、生き延びることができるようになっている。
しかし、その際に死亡状態となり、復活待ちをしていたならばその限りではない。
ダンジョンが消滅すれば、復活させることも叶わないからだ。
そして、彼女達が生きているのに、敵をそこへ辿り着かせるはずなどない。
ダンジョンマスターやダンジョンコアに敵の手が届くということは、全てのネームドモンスターがやられてしまっていることを示す。
それでは全てのネームドモンスターを巻き込む死に方しかできない。
助けるためには、彼女達がそうなる前に決断する必要がある。
ならばダンジョンマスターは、いつその決断を下すのだろうか。
半分がやられてからか、10人目がやられてからか。それとも1人目がやられてからか。
違う。
きっとほんの少しでも、誰かが復活できないまま消滅してしまうかもしれないと思ったなら、その時に決断を下すのだ。
誰1人死んでいなかったというのに、自らが死ぬという決断を下した、あの時のように。
あの時のことを、彼女達は忘れたことがない。
ダンジョンの住人はどんなことでも覚えている。
ありとあらゆる感情を乗せても何一つできなかったあの時のことを、彼女達は一瞬足りとも忘れたことはない。
だからピンチに陥った際でもどこかへ転移させられることなどないよう、ダンジョンマスターのPは、借金で大半を徴収している。
竜因魔法や神威魔法に対し、プロテクトをかけ防がれないように、天空城やダンジョンを破壊して、なけなしのPも全て使わせている。
全員が既にダンジョンの権能を有しているとはいえ、ダンジョンマスターの権限は圧倒的に上だ。
各員に配布したPを無理矢理に回収することもできる。
だから彼女達もまた、全員Pを無駄遣いするように何にでも使う。
趣味に、お洒落に、武器に、食費に。手元にPは一切残さない。
ダンジョンマスターの権限により、彼女達のP使用が禁止される可能性もあるだろう。
万が一、戦争の最中にそれが行われれば、大量のPをダンジョンマスターが保有することとなり、転移やプロテクトの可能性も出てくる。
だから、それぞれが力を身に付けた。
竜因魔法や神威魔法などと同じ、ダンジョンの法則を破ることができる力を、全員が身につけたのだ。
それはどれほどの苦労だったのか。
竜因魔法や神威魔法はそもそも強力なものだが、特にダンジョンを破壊することに特化した力である。
ダンジョンの権能はそれらをも無効化できるが、大量のPが必要である。
多数の種類を同時に無効化するならば、さらにだ。
きっと一度の戦争では手に入らないPが必要になるだろう。
Pが足りずにほんの少しでも手抜かりをしてしまえば、あれからずっと鍛え続けた彼女達の力を防ぐことなどできない。いや、させない。
彼女達は最強だ。
生成の瞬間から何をしても、何を言っても、言いつけを守らなくても、殴っても、反乱しても、一切変わることなく恥ずかしいくらいに愛を注いでくる、多分かなりお馬鹿なダンジョンマスターを死なせないために、彼女達は最強になったのだ。
残念ながらこのダンジョンではダンジョンマスターの望みは叶わない。
例えもし、それが乗り越えられない絶対の窮地だったとしても。
最初から結果が分かっている負け戦だったとしても。
どれほどの願いを込めて、逃げてくれと言ったとしても。
1mm足りとも。
「――ブラストーっ」
「――フェイズっ」
「――バジュラっ」
「――ボルカニックっ」
「――バーストっ」
「――フードっ」
「――イマージュっ」
だから、そんな彼女達の必殺技が勝利を掴むのは、当然のことなのだろう。
ダンジョンの破壊不能の防壁を多数消失させながら、7つの必殺技は城を別方向に突き破る。
彼女達と同じ理由で最強になった21人との戦いが、今始まった。
「俺の城がーっ」
爆発したように崩れる城で、お馬鹿なダンジョンマスターは今日も嘆く。
「これは何壊なんですかねっ。全ですかこれは全なんですかっ? 修繕に一体いくら……、借金が、俺の、どうして、どうしてええーっ」
彼女達から言わせれば自業自得だ。
「どうしてこんなに無茶苦茶してくるのっ。見てごらん、俺の部屋の出入り口側が吹き飛んじゃったからもうここから出れないよ。部屋の出口が奈落の入り口だよっ。どうしてえええーっ」
絶対に言わないだろうが。
「どうして枕だけ高いだけなのーっ、やるならもっとリアクションしやすいやつをくれよっ、どうしてえーっ」
始まった28人による戦いを見て、ダンジョンマスターは今日も呟いた。
「ああ、今日も今日とて明日が見えない」
お読み頂きありがとうございます。
更新、ちょっと遅れましたが、ブックマークして頂きまして、どうもありがとうございます。
これにて、第5章終了となります。お付き合いいただきありがとうございました。
面白いと思って頂けたら幸いです。応援よろしくお願い致します。
面白いお話がかけるよう、頑張ります。




