第73話 チヒロもツバキも
悪逆非道のダンジョンあるあるその13
尽くしすぎると死なれる。
アイテムを多く供給し侵入者に利益をもたらしていると、アイテムを絞っているダンジョンに比べ、個人だけでなく全体の死亡率までもが増加し、生きている者が少なくなること。
2期組を生成してからも、既に1年と少しが過ぎた。
ということはつまり、2期組全員に、誕生日が来た、ということだ。
21回連続で行われた誕生日パーティーは、とてつもなく長かったし、Pも恐ろしいほどになくなってしまったが、随分盛り上がった。
誕生日プレゼントも、3倍を基本に思考錯誤を凝らしたからか、みんなに喜んで貰えたと思う。
前日にこっそり、7人にも誕生日ではないが渡したことも、ファインプレーと言えるだろう。だからこそ、初期組は笑顔で素直に、おめでとうを言うことができ、2期組もホッと胸を撫で下ろして、素直に喜べたのだ。
根回しは大切だよ。
しかし、その時の宴会を見ていて思ったのだが、生成した初日の宴会とは、随分様子が変わった。
宴会の様相も、1人1人を見ても。
彼女達はネームドモンスターであるものの、ダンジョンモンスターなのだから、例え1年経っても、肉体的な変化や精神的な変化はない。
ただ、それは、身長が伸びない、体型が変わらない、シワが増えない、といったことや、達観しない、幼児退行しない、感受性を失わない、といったことであって、全てにおいて、変化がないわけではない。
新たな経験を積むことや、新たな知識を得ることで、彼女達は日々変わっていく。
食べ物の好みは、美味しいと思う基準こそ同じだが、色々食べてみた結果、あれ、これも美味しい、と新たな好みを発見することもあれば、こっちの味付けの方が好きだ、とより好む条件を発見することも結構ある。
飲み物も同様。
また、かかっている映画であったり、すぐ傍で行われる遊びであったりも、コロコロと頻繁にブームが入れ替わる。
面白いと思う基準は変わらない上に、繰り返しに異常なまでに強いダンジョンモンスターなのだから、いつ見てもいつやっても、何度見ても何度やっても、同じように面白いと思える。しかし、他のも他ので、違った面白さがあるのだ。
会話だってそう。
会話とは、お互いが共有した思い出や、関係性によって形作られ、時と共に移り変わって行くもので、同じ会話を1年間ずっとし続けるわけがない。
いや、結構するか。未だに前回の戦争の話とか、生成された頃の話するし、昔はなあ、とそんな話もよくする……。
まあ、それは置いといて。1年一緒に暮らし、彼女達28人は様々なことを行った。
様々な感情を抱いて、様々な思い出を共有して、どんどん関係性を築き上げていった。
会話をしていれば、共通の思い出話は飛び出すし、未来の話は具体的になっているし、趣味が同じ者は趣味の話ができるし、境遇が同じ者はより集まって色々な感情をもっての境遇の話ができる。
例え内容が似通っていたとしても、関係性がどんどん変化しているのだから、受ける印象は全く違う。
それから、彼女達の性格、個性なども、1年前に比べると大きく変わっている。
彼女達には、多数の性格や特徴、適性などなどを設定し生成したが、そもそもノーマルモンスターやユニークモンスターは、それらに何も設定しなくても生成でき、そして性格や個性を持っている。つまり、設定した項目が強く出ることは確かなのだろうが、全てではないのだ。
それらが、開花した、ということかもしれない。
身長の小ささを気にするようになったり、より大胆な嫌がらせをするようになったり、お酒を断ってみたり、派手な演出をしたがったり、ズボラになったり、鬱にしたり。
彼女達は本当に変わった。変わった? まあ変わった。
それらが、タガを外す宴会に、影響しないはずがない。
そうして、宴会の様相は、宴会の度に、変わっていく。
間違い探しのような僅かな変化では決してない、大きな変化が、宴会を重ねるに連れて、どんどんどんどん。
だから、1年前の宴会と比べてみたなら、随分と様相が違うのも当たり前だと思う。
そして、そのせいで、俺も宴会が楽しくて、言われるがままに開催し、言われるがままに生成し、ついついPを使いすぎてしまうのだ。
学習することが強みの人間種族のダンジョンマスターなのだから、Pを使い過ぎてしまうから気をつけようと学べれば良かったのだが、宴会は楽しいと学んでしまったからか、どうにも止められない。
あと、全員おねだりが上手くなった。
ついついねえ? 可愛いもの。
しかし、だからこそ、こうなってしまった。
予測された、恐るべき自体に陥ってしまった。
俺は今、倹約中の身になっているのだ。
もうPがないからね。
宴会やプレゼントで失ったPは、もう取り戻せない。だからこそ、これからは無駄遣いをなくし倹約し、Pを貯めて、来るべき戦争に備えるのだっ。もうそれしかないっ。
「旦那様。こちら本日の昼食のメインになります」
そして、その倹約の一環である、俺の食事がやってきた。
コトン、と俺の前に料理が盛りつけられた皿が置かれる。
持って来てくれたのは、黒を基調としたメイド服に身を包み、頭の上に白い輪っかを浮かべたチヒロ。
それは、チヒロが作ってくれたメイン料理だ。
我がダンジョンにおいて食事は、ネームドモンスターが当番制で作るか、セラを含むメイドが作るか、俺が作るか、Pで生成するか、その辺りになる。
だが、なんにしろ、どれを選んでもPがかかることは間違いない。Pで生成するのは言わずもがな、誰かが作るにしろ材料費がかかる。
ただ食事の費用は、宴会以外であれば俺のお小遣いではなく、ダンジョンの運営費によって賄われるので、本来は節約しても俺のサイフの中身が増えるわけではない。
が、しかし、俺はとある契約を結んだ。
それは、運営費などを節約すればするほど、俺はその分のPを得られる、という、悪魔のような契約。
なぜ悪魔かって?
決まっている。その契約は、俺がPを得られるようにと見せかけて、実際は、彼女達が俺のサイフ以外からでも、借金返済の名目でPを奪い取るために作られたものだ。
その契約があることで、俺は節約をなんとか考え、実行し、Pを運営費からサイフへ移行させるだろう。彼女達は、その瞬間、借金を返せとやってくる。
それに、借金の返済期日を過ぎても、返済できない場合は、今までならただ膨らむだけだったが、その契約があることで、運営費は、簡単に引き落とせないだけの定期預金のような扱いとなった。つまり、その日が期限の返済額分を、そこから事前に回収されてしまうのだ。
節約しても、俺の手元に入ってくる分はない。
それが悪魔の契約でなくて、なんと言う。
だが、俺は結んださ。
運営費という、なくなってしまえば、ダンジョンが立ち行かなくなる、大切なものまで削っても、俺は、手元にPを僅かにでも入れられる可能性にかけた。
なぜかって?
決まっている。宴会を開いて、プレゼントを渡すため。彼女達の笑顔を見るためさっ。
悪魔の笑顔だけどなっ。
という理由で、俺は現在絶賛節約中。
我が家の優秀なるメイド達に、何か言い案はないかい? と聞いたところ、なんとチヒロとツバキは、節約料理が得意だと言う。
そんな設定はしていないので、後天的に身に付けてくれた個性なのだろう。
嬉しいものだ。
だから俺は、今日、こうやって、チヒロにメイン料理を作ってもらった。
「ありがとうチヒロ。これはなんていう料理だい?」
チヒロは、俺の礼に嬉しそうに微笑むと、その質問に張りきって答える。
「はい、本日のメインは、地中海風味カレー味アボカドの醤油煮込みと、嵐の夜に散った桜の花びらの柚子スープを添えて、です。お熱い内にどうぞ」
その声は、聞いているだけで、うっとりと安寧に誘われるような安らぎを持っている。
しかし、この料理を出して、よくそんな声を出せるなっ、という驚愕も同時に生み出している。
一体何だ、このメインはっ。
我が家のメイド、チヒロは、下位天使種族といういわゆる天使であるが、元々人型であるため、見た目は天使そのままだが、人と変わらない、清らかで癒される13歳の双子姉である。
綺麗な金髪を、左右から編みこんで、後ろでポニーテールにしたような髪型で、片方が魔眼であるはずなのに、両目とも碧玉の綺麗な色。
白色の肌で、メイド服に身を包むその姿は、どこまでも人の心を解きほぐすようで、実際にどこまでも解きほぐしてくれる、清らかで癒される双子姉である。
身長は157cmと平均的。しかし顔がかなり小さいため頭身は高い。
体重は……不明だが、見た目からは華奢な感じを受ける。
また、体重測定の際は、伸縮し巨大化させられる翼を、あえて最大にし、そして後々翼本来の重量よりも多めに引いて計算する、という戦法を用いているようなので、体重は平均よりもおそらく、かなり軽い。
体型は、年齢よりも多少大人びていて、丸みを帯びた体つきになっている。
見た目も、触れても、体は柔らかい。
とまあ、ともかくチヒロはそんな、他者を安心させ癒すような外見で、双子の妹よりも凹凸の凸の部分が小さいことに悩む、清らかな双子姉だ。
「どうですか?」
地中海風味カレー味アボカドの醤油煮込みと、嵐の夜に散った桜の花びらの柚子スープを添えて、を一口食べた俺に、すかさずチヒロは聞いて来た。
まだ咀嚼している最中だと言うのに、待ちきれなかったのだろう。
その目は、キラキラと輝いていて、とある一つの言葉を心待ちにしているようだった。
「美味しいよ」
だから俺は、その言葉を言った。
「独創的で」
ささやかな、せめてもの反撃として、その言葉を付け加えて。
「ふふふ、嬉しいです」
けれどもそれは、チヒロにとって褒め言葉だったのか、ただ美味しいよと言った時よりも余計にキラキラ輝いた表情になった。
うん、良かった。
「こちら本日の昼食のデザートになりました。旦那様」
地中海風味カレー味アボカドの醤油煮込みと、嵐の夜に散った桜の花びらの柚子スープを添えて、を食べ終えると、コトン、と、俺の前に料理が盛りつけられた皿が、再び置かれた。
倹約しているとしても、仕えるダンジョンマスターにひもじい思いをさせたくないのか、デザート付き。
嬉しいものだ。
持って来てくれたのは、白を基調としたメイド服に身を包み、頭の上に黒い輪っかを浮かべたツバキ。
これは、ツバキが作ってくれたデザートだ。
「ありがとうツバキ。これはなんていう料理だい?」
ツバキは、俺の礼に嬉しそうに微笑むと、その質問に張りきって答える。
「はい、本日のデザートは、地中海風味インドカレー味クルミの塩麹と、嵐の夜に散ったさくらんぼの種のゼリーペーストを添えて、でした。お冷たい内にどうぞ」
その声は、聞いているだけで、うっとりと安心に誘われるような安らぎを持っている。
しかし、この料理を出して、よくそんな声を出せるなっ、という驚愕も同時に生み出している。
一体何だ、このデザートはっ。
我が家のメイド、ツバキは、下位悪魔種族といういわゆる悪魔であるが、元々人型であるため、見た目は悪魔そのままだが、人と変わらない、清らかで癒される13歳の双子妹である。
綺麗な銀髪を、左右から編みこんで、後ろでポニーテールにしたような髪型で、片方が魔眼であるはずなのに、両目とも碧玉の綺麗な色。
褐色の肌で、メイド服に身を包むその姿は、どこまでも人の心を解きほぐすようで、実際にどこまでも解きほぐしてくれる、清らかで癒される双子妹である。
身長は157cmと平均的。しかし顔がかなり小さいため頭身は高い。
体重は……不明だが、見た目からは華奢な感じを受ける。
また、体重測定の際は、伸縮し巨大化させられる翼を、あえて最大にし、そして後々翼本来の重量よりも多めに引いて計算する、という戦法を用いているようなので、体重は平均よりもおそらく、かなり軽い。
体型は、年齢よりも多少大人びていて、丸みを帯びた体つきになっている。
見た目も、触れても、体は柔らかい。
とまあ、ともかくツバキはそんな、他者を安心させ癒すような外見で、双子の姉よりも凹凸の凸の部分が太いことに悩む、清らかな双子妹だ。
「どうですか?」
地中海風味インドカレー味クルミの塩麹と、嵐の夜に散ったさくらんぼの種のゼリーペーストを添えて、を一口食べた俺に、すかさずツバキは聞いて来た。
まだ咀嚼している最中だと言うのに、待ちきれなかったのだろう。
その目は、キラキラと輝いていて、とある一つの言葉を心待ちにしているようだった。
「美味しいよ」
だから俺は、その言葉を言った。
「独創的で」
ささやかな、せめてもの反撃として、その言葉を付け加えて。
「ふふふ、嬉しいです」
けれどもそれは、ツバキにとって褒め言葉だったのか、ただ美味しいよと言った時よりも余計にキラキラ輝いた表情になった。
うん、良かった。
節約生活1日目。
既に俺の心は折れている。
29脚の椅子が並ぶこの食卓で、チヒロとツバキの節約料理を食べているのは、俺1人だ。
まあ、節約したいと思っているのが、俺だけなのだから、それも当然かもしれないが、しかし俺が、チヒロとツバキの料理をみんなで食べよう、と提案した時のあの反応を思えば、全員知っていたのだろう。
チヒロとツバキの料理は、味を形容するための言葉が、なぜだか料理に対して使う言葉でなくなってしまうということを。
我が家の子達には、そういうのを黙っているところがある。
「ツバキ、それじゃあわたし達も頂きましょう」
「それじゃあわたし達も頂きましょう、チヒロ」
俺に出す料理やデザートなどを、ベストなタイミングで出したいからと、今まで食事を始めなかったため、チヒロとツバキは、何人かが食事を終えた頃、ようやく食べ始めた。
「旦那様に出すお料理も、食べたいですが、あれは1人分しかないので、Pで生成します」
「Pで生成しました。旦那様に出したお料理は、1人分しかなかったので。食べたいですが」
ちなみに食べる食事は、Pで生成した料理。
俺に出す分は、料理の手間もかかれば、仕入れにも手間がかかる。1人分を用意するのが精一杯なのだそうだ。
……どうしてそこまで。
……どうしてそこまで。
どうしてそこまでしているのに、あれが出てくるんだ……。なんてこったい。
この1年と少しで、君達は一体どういう成長を遂げたんだ……。
随分と成長したと思っていたのに、どうして料理だけ……。
ネームドモンスター28人の中で、この1年で最も成長したのも、性格や個性が変化したのも、間違いなくチヒロとツバキである。
生成した直後の2人は、既に他者を安寧と安心に導く安らぎを持っていたというのに、正直かなりのポンコツであった。
仕事ができないだとか、そういう類の話ではなく、無知だったのだ。
それこそ、水が温まることすらも知らなかったくらい。
火にかけられポコポコと泡が立つお湯を、興味津々な目でずーっと眺めていると思ったら、おもむろに指を突っ込んで周囲を驚かせたのは、今でも宴会の度に話にのぼる。
いや、水が温まることを実際に知らなかったわけではない。
様々な勲章を授かり、知識の漏洩が激しくなってしまっている俺が、ダンジョンマスターを務めるこのダンジョンに、様々な適性を付けられ生成された以上、生成された段階でかなりの知識を持つはずだ。
だから、彼女達が興味津々な目で見て、思わず指を突っ込んだのは、水が沸騰すればそうなると知っていても、見たことがなかったからだろう。
不思議で不思議で、仕方がなかったのだ。
外の世界の出来事を、物語の中の出来事を、今まさに自分が体験しているような気分だったに違いない。
2人は、他にも色々と逸話を残しているが、確かにそういう時は、年齢よりも随分幼い子供のようであって、無知で無垢な子供そのものである。
メイドとしての業務も日常生活も、知識としてなら持っている。やるべきことは分かる。
けれども、やったことはないし、それをしたことでどうなるかも分からない。力加減も配分も、成功した状態も失敗した状態すらも、分からない。
そして、すぐに何か別のことに興味津々になってしまい、何もかもがおざなりになる。
結果、生成された直後から、大体数ヶ月か半年ほどまでは、2人はとてもポンコツだった。
食事の際は、お箸も使えず常にグー持ちで、食べたら食べた分だけ口の周りを汚し。
服のボタンは常にかけ違え、いつも髪には寝癖がついていて。
部屋はぐちゃぐちゃ、庭に出れば泥だらけのまま家に入り。
洗濯をすれば、色物も混ぜて洗い、風に飛ばされ、掃除をすれば、花瓶を割り、反対に散らかす。
お風呂に入れば、濡れたまま服を着て、髪を洗えば、いつも髪はビチャビチャのまま。
借金についてもよく分からなければ、セクハラについても、全く分かっていない。
そして、作る料理は、函館風味シチュー味テキサス煮込み、とか。函館風味ピロシキ味南蛮漬けぜんざい、とか。
しかし、今は違う。
1年以上をダンジョンで過ごし、様々な実体験をしていく内、徐々に徐々にだが成長していった。
外の世界の出来事が、自分の世界の出来事に。物語の中の出来事が、自分の世界の出来事に。きっと、なっていったに違いない。
「ごちそうさまです」
「ごちそうさまでした」
食事をするチヒロとツバキの、お箸の持ち方は美しく、その所作もまた美しい。
食べ終えた後も、口周りには食べかす1つついていない。
「旦那様。ボタンが外れていますよ。繕いますので、こちらへ座って下さい」
「御髪が乱れていましたよ、梳きますので座って下さい。旦那様」
食卓から出て、自室に戻ろうとした俺を呼び止めると、そう言って、ボタンを留めて、髪を整えて。
もちろん自分達には、一点の乱れもない。
「旦那様、今日はシーツを洗う日です。わたしは昨日言っていますよ。早く出して下さい」
「わたしはいつも言っていましたよ。庭弄りをした後は、きちんと泥を落としてから入って来て下さい、旦那様」
自室に戻る前に、庭へ出た俺を見かけると、そう言って、シーツを取りに行って、床を掃除して。
もちろん自分達はそんなことには、一切なっていない。
「旦那様、洗濯の邪魔ですので、城の中で遊んで下さい」
「掃除の邪魔になりましたので、城の外で遊んで下さい、旦那様」
何か、先ほどの失態をカバーするためにできることはないか、と後ろを金魚のフンのように歩いていた俺に気付くと、そう言って、別の場所へ追いやって。
居場所がなくなる……。
「旦那様。新しいパジャマです。お着せしますので、こちらへどうぞ」
「髪が乾いていませんでしたよ、乾かしますのでこちらへどうぞ。旦那様」
風呂から上がった俺の体を拭いては、そう言って、頭を拭いてはそう言って。
もちろん自分達は既に完璧。
「旦那様。こちらが、今日の利子分を加えての、現在の借金総額になります。お確かめ下さい」
「こちらが、本日返済しなければいけなかった、借金の督促状でした。お確かめ下さい、旦那様」
自室でゆっくりし、今日の節約でいくらPが入ってくるんだろう、と計算している俺に、そう言って、計算しなおしてくれて。
借金……。
「旦那様。酷いです、セクハラなんてしない人だと思っているのに……」
「酷いです、セクハラなんてしない人だと思っていたのに……。旦那様」
今日1日頑張ったからか、いつの間にか俺の部屋で、ベットによりかかってウトウトしていたので、今日も1日ありがとうとの思いを込めて、頭を撫でた俺に、セクハラの罪状を読み上げて。
セクハラ……。
「明日の朝食も頑張りましょう。そうですね朝の前菜は軽めに……、世界樹の排出する酸素を包みこみホイップを朝の陽気と共に練るヒグラシの餡子あえ、にします」
「そうでしたね朝のメインは軽めに……、世界樹の排出する酸素を包みこんだホイップを朝の陽気と共に練りこんだ白鳥の甘酢ダレあえ、にしました。明日の朝食も頑張りましょう」
本当に、彼女達は、大きく大きく成長したのだ。
……料理もね。
だから、俺はベットに入り眠る準備をしながら、ベットの脇に立っている2人に言ってみた。
「こんなに色々できるようになるだなんて、頑張ったんだね2人共。俺は嬉しいよ。セラも君達の頑張りには、舌を巻いていたよ。そしてとても喜んでいた。だから、だからね、肩肘なんて張らなくて良いんだよ? 朝食なんてのは、白ご飯と味噌汁があれば良いんだ」
「お断りします」
「お断りしました」
断られちゃったよ。凄く気を使って言ったのに……。
「それじゃあ、今日も、お眠りになられやすいように、御本をお読みしますね」
「わたしも、それに決めました」
「あ、ああ。ありがとう」
そして2人は、懐から本を出して、ベットに腰掛けると、読み始める。
2人は、今日も1つ成長した。
ダンジョンで行われる宴会は、また1つ姿を変えるのだろう。
ああ、全くPが貯まらない。
けれど、それもまた、幸せだ。最近、いや、昔からずっと、俺はそう思っている。
目を瞑り、そんな過去をまた、彼女達の安らぐ声で誘われる夢の中で、思い返すことにした。
「ドルルルルル。ドドーン。お前がこの学校の番長か。ババーン。ニヤリ。へっ行くぜっ。ダっ。ドカ、ボコ、バキィ。――っ。グシャアア、ズザアアア」
「目次。はじめに、6ページ。少子高齢化社会とは、9ページ。その中でエロが果たす役割、18ページ。少子高齢化の弊害、315ページ」
……ただ、チヒロ、ツバキよ。
せめて一緒の本を読んでくれ。
こんな長い話をお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
今後とも、面白い、と思っていただけるような話を、作れるよう、努力致します。
ありがとうございました。




