第71話 ティアも、聞いてオルテ先生。
悪逆非道のダンジョンあるあるその11
難しい言い回しの口上はスベる。
カッコ良さ追求のため、言い回しを特殊にしたり含みを持たせると、悪逆非道のくせに何を言っているんだと、逆にことさら酷く見えること。
真白の水晶によって作られた、美しい坑道。
通路は高さも幅も10m以上あり、所々にある部屋はそれ以上に大きく、数百mにも及ぶ大部屋も存在する。
また、半透明の水晶でできているからか、どこかしらから自然光を常に取りいれており、坑道全体はとても明るく、様々なものを乱反射して映しだす。
だから、とてもとても美しい、幻想的な空間である。
けれども、今はそこで、怪獣大決戦とも言えるような、激しい戦いが繰り広げられていた。
もちろん戦っている一方は、我がネームドモンスターであり、そしていつも通りに反乱している。
「いけーそこだーっ」
しかし、俺はその戦いを応援する。
こんなに素直に応援できる戦いなど、このダンジョンの1年を越える歴史の中で、初めてじゃなかろうか。
ここは水晶迷宮。
天空城砦の大地、幅10km、高さ3kmの中に作られた、61階層から70階層。
ダンジョンモンスターの代わりに、魔素溜まりから発生した魔物がうじゃうじゃとおり、防衛要員を強制的に担わされる特殊な階層。
そして、我がネームドモンスター達の、Lv上げの場である。
「ようしそこだー勝ったーっ。凄いぞっ」
俺は飛び上がるように喜んだ。
普段であれば、彼女達が反乱して戦うことなど、到底許容できるはずもなく、心はいつも悲しみに包まれていた。
しかし、今だけは別だ。
なぜなら、戦っている相手が、ダンジョンに発生する害獣のようなものである、魔素溜まり魔物なのだから。
ああ、清々しい気分だ。
とても晴れやかな気分だ。
誇りを守っての勝利とは、こんなにも気分が高揚するものだったのか。齢1年と半年近く、まだまだ知らないことばかりだ。
「ふっ」
俺は、心に満ちていくダンジョンマスターとしての心意気を感じ、ニヒルに笑った。
「お疲れティア。ダンジョンに迷惑をかける魔素溜まり魔物なら、どれだけ反乱して倒しても良いからね、思う存分戦ってくれ。いやあ、それにしても強くなった。俺は嬉しいよ」
そして、それをくれた、愛すべき我が子を、迎え入れる。
「鬱だけど、頑張りました。鬱だけど」
戦いを終えて、俺の元に向かって来るのは、制服姿のティア。
70階層の守護者、ティアは、サキュバスクイーン種族といういわゆるサキュバスであるが、元々人型であるため、見た目はサキュバスそのままだが、人と変わらない、艶美で色気に溢れた17歳の女王様である。
歩く度に揺れ動く、地面に届きそうな長い髪は淡い紫色で、瞳は、左が朱と群青で、右が淡い紫色のオッドアイ。
ハッキリした顔立ちで、ふっくらしたくちびると、高校の制服のような格好が、コスプレにしか見えないほど大人な体つきを持っており、おそらくはどんな格好をしても抑えられないほど、艶やかさに満ち溢れた17歳の女王様である。
身長は158cmと、平均的。
体重は……不明だが、体重測定の時に、羽をパタパタと動かし、不正をしようとしていたらしいので、それからも伺える。
しかし体型は、肉感的で理想的なプロポーションだ。
胸は大きいが大き過ぎず、腰は細いが細過ぎず、お尻は大きいが大き過ぎず、腕やふともももまた、細いがほど良い肉付きで、手足の大きさすら完璧である。
女性の中には、目指す理想の体型は、モデルのようなスリムの体型だ、と言う者も多いだろうが、例えそんな人でも、目にしたならそうなりたい、と思ってしまうくらい、ティアのプロポーションは細部までが理想的。
男性ならば、その一挙手一投足に目が奪われ、心までもが奪われてしまうに違いない。
そのため、ティアと言えば、その抜群のスタイルや色気が個性として挙げられる。
が、しかし、今現在は、戦場のど真ん中。
いくら艶やかさを溢れさせる者でも、そんな緊迫した場にいれば、体つきに女性らしさを感じることはないだろう。しかし、揺れ動く胸とお尻と、時折、制服の上着が浮きあがった拍子に見える引き締まった腰を持つティアからは、一歩歩く度に、女性らしさが零れ落ちるように伝わってくる。
色気、艶美さ、そしてタレ目と淡い眉や睫毛によって印象付けられる艶やかさを滲ませるティアは、例え緊迫した戦闘中においてもなお、男に夢を与えるエロスを持っていた。
「陛下」
淡い紫の長い髪を、周囲の水晶に乱反射させ、世界を紫色に染めながら、ティアは微笑みを浮かべている。
おそらく、嬉しいのだろう。
このダンジョンマスターに、戦いを見て貰えたことが、成長を見て貰えたことが、そして、褒めて貰えることが。
いつもいつも、俺が戦いを褒める時は決まって、苦笑いだが、今回だけは、俺は満面の笑みで褒めてやれる。
さあ、なんて言って褒めようか。一番喜んでくれそうな言葉を、俺は微笑を浮かべるティアが、近づいてくるまでに一生懸命考えた。そして……。
「鬱なので、もう無理です。わらわは死にます」
「ええっ、笑顔の意味はっ?」
「こんな穴倉で、飢えたケダモノ達の相手をさせられて……、わらわは身体も心も限界です」
「誤解を招く表現はやめなさい」
ティアは、真っ白の床に座り込み、膝を抱えて嘆き始めた。
「うううう……。来る日も来る日もこんなところで、ケダモノを相手に。それに、重点的にLv上げしたかったのに、陛下のお守で危ないとこ行けないし、後ろから、陛下がうるさいし……、エロ目線で見てくるし……」
「え、ごめんね? でもエロ目線では見てないよ。確かに見えちゃうは見えちゃうけど」
そして、そんなことを言う。
俺は普段、彼女達のLv上げを、ダンジョンの機能である、マップのモニター越しに見ている。
魔素溜まり魔物に攻撃されれば、死んでしまうので、直接はとてもじゃないが見にいけない。
が、しかし、今朝方、オルテから、当選おめでとう、との連絡が来た。
それは、俺がかねてより申し込んでいた、水晶迷宮で行われるLv上げ見学ツアーの、当選のお知らせ。
直接見て、直接感動を味わいたかった俺は、それに小躍りするように喜んで、今日やって来たのだ。
気分は、そう、娘の運動会を見に行くような、そんな感じ。
けれども、まさかそんなにも邪魔だったとは……。
「もう、鬱。こんな役目を任されるなんて、誰からも嫌われてる、生まれてきてごめんなさい」
「そんなことないよ、俺はティアのことが好きさ。ティアが生まれたのも、俺が望んで生成したからじゃないか」
「ああ、セクハラ……。ケダモノはここにも1体いました。襲われる、でもわらわはダンジョンモンスターだから、ダンジョンマスターには抵抗できない」
「セクハラじゃないよっ。それに、どの口で抵抗できないって言ってるんだっ」
「襲われない。つまりわらわには何の魅力もない。もう鬱です。先立つ不幸をお許し下さい」
「やめるんだティアっ、魅力がないわけがないじゃないか。というかダンジョンモンスターなんだから蘇るし、先立てはしないよっ」
ティアは水晶の床に寝そべるように横たわり、そんなことを言う。
なんという自分を卑下した言葉か。そう思うけれど、ティアの表情は、その言葉に一切の疑問を持っていないような、自分への憂鬱に満ち溢れていた。
とまあ、ともかく、ティアは抜群のプロポーションだが、顔立ちと性格はとても憂鬱で、自分にもの凄く自信のない女王様だ。
だからこそ、ティアの1番の個性と言えば、プロポーションやエロスなどではなく、その憂鬱さである。
憂鬱を司るからか、いつだって鬱なのだ。
「Lv上げのために、わらわの階層を守る魔物が消されていく。そして誰もいなくなる、わらわを守るのが誰もいなくなる」
崩れて倒れ伏せるティアを、俺は起こそうとしたが、全くもって動かない。
さっき抵抗できないって言ってたクセに、ガッツリ抵抗してきている。
「お2人とも御機嫌よう。Lv上げは順調ですこと?」
すると、そんなところへ、ホリィがレイピアを収納しながらやってきた。
Lv上げ見学ツアーにおいて、オルテやティアと共に、Lv上げを実演してくれるメンバーの1人でもあるホリィ。
どうやら、俺のお守を、ティアと交代する時間になったようだ。
ここからは、ティアは自由に動き、ホリィと共に行動しLv上げを見せてくれる。
「ホリィさんっ、助けてっ。襲われるっ」
「なんですってっ? まさか、こんなところで、わたくし達をその毒牙にかけようとは……。抵抗できないところを襲うなどと、なんと下劣な」
だが、何かがおかしい。
立ち上がり駆け寄って行ったティアを抱きしめるように、ホリィは俺とティアの間に立ち、俺に対しては厳しい言葉と厳しい目を投げかけてくる。
そんな……、一方的な証言でどうしてそこまで。
それに俺はダンジョンマスターだぞ。ダンジョンマスターに対し、そんな言葉と目を向けるということが、一体どんな意味か、ホリィよ、分からないわけじゃないだろう?
だと言うのに、どうしてそこまで……。
いや、分かりきっているか。
ホリィにとって、ティアは親友だからだ。
同時期に生成されている2期組は、全体的に仲間意識が強い。何事も協力して乗り越えようとする姿が、よく見受けられる。
それは、初期組からの、激しすぎる訓練に対抗するためかもしれないが、とにもかくにも仲間意識が強く仲が良い。
そしてその中でも特に、同時に生成された者達と仲が良い。
ダンジョン内で遊んだり、ダンジョン外へ観光に出かけたり、殺戮に出かけたりする際には、基本的にそういったメンバーで行っているようだ。
やはり同じ役割を担っているというのは、強い絆を生むのだろう。
そういった意味で、ティアとホリィは、同時に生成されたというわけでこそないものの、2期組の1番手2番手として生成されているため、生成時期はお互いが最も近い。
役割も、守護する場所こそ違うが同じく天空階層内であり、この城に入るための門番である。やはりお互いが最も近い。
2人は、お互いにとってダンジョン内で最も近しい存在であり、強い絆で結ばれた存在。
友達や仲間を越えた、親友と言える存在なのだ。
だからこそホリィは、ティアが危険に晒されたということに対し、そこまで強い態度で望むのだろう。
例え相手が、絶対的な上位者であり、逆らうことなど許されない、ダンジョンマスターであったとしても、全てを賭けて。
きっと、1番大切なものを守るために。
自分がティアと共に生きる為。
ティアを悲しませない為
泣けるじゃないか。
「いやでも、冤罪だよっ」
俺は叫んだ。
「もうだめホリィさん。わらわはもう穢されてしまったの。生きて行く希望なんてどこにも見えない」
ホリィの腕の中で、ティアは崩れ落ち、丁度、抱きかかえられたような形になる。
「そんなティアさん。悲しいことを言わないで。ティアさんはとても美しいわ、穢されてなんていないわ」
「ホリィさん。ごめんなさい……。でも、だから、最後に、あれ、もう1度だけ言って……」
2人は、恋人のように手を合わせて繋ぎ、見つめ合って、その言葉を、前半と後半に分けて、それぞれで口にする。
「今日も今日とて」
「明日が見えない」
ティアは、ガクン、と力を失い、ホリィの腕の中で、息を――。
「コントじゃねーかっ」
引き取らなかった。
そうして、俺のセクハラから身を守るため、ティアとホリィは一緒に行動し、俺はその2人のLv上げを見学することになる。
2人は、仲睦まじそうな様子で笑い合いながら、水晶迷宮を進み、出現する魔素溜まり魔物を倒して行く。
500Pの魔物、600Pの魔物、Lv100を越える魔物を、次々に。
本当に強くなった。強くなったよ、しかし、個性も強くなっている。
なんだよ今のコント。
俺も仲間に入れてくれよ……。
「あ、ホリィさん、防御お願い」
「お任せ下さいっ。今ですわティアさんっ」
「やったー。ありがとーホリィさん」
「いいえ。ティアさん」
「拒否された……鬱」
「あらあらまあ」
ともかく、2人は和気藹々と、Lv上げを続ける。
水晶迷宮には、時折部屋があるのだが、決まってそんな部屋には、そこを根城とする強大な魔素溜まり魔物がいる。基本的には部屋が大きければ大きいほど、強い。
だから、大きな部屋に入った際には、何度か苦戦を強いられていたものの、負ける要素は微塵も感じられなかった。
常に余裕を保っているというか、どんなことでも対処できているというか。
まあ、魔素溜まり魔物に比べれば、余裕を持っているように見えることは間違いない。
魔素溜まり魔物は、負ければ全てを失うが、ネームドモンスターは、負けたとしてもP以外、失うものはない。プライドを失うなどはあるかもしれないが、やはりそれくらいだ。
何ごとにも一段高みから、余裕を持って対処できるのも当然だろう。
彼女達の後ろには、自らの命よりも大切にしなければならない、ダンジョンマスターがいることは、別にして。
……忘れられてるのかなー? きっとそうだよね。
俺は、それでも悲しいけど、そうじゃない方が悲しいので、そう思うことにした。
しかし、なんだろう。
こうやって戦っている2人と、やられていく魔素溜まり魔物を見ていると、奇妙な感覚に襲われる。
なんだか……悪い事をしているのではないか、とでも言うような。
そんなはずなどないのに。
魔素溜まり魔物は、倒して良いのだから。
魔素溜まり魔物と俺が呼ぶのは、魔素から生まれた魔物のこと。
あまりにも濃い魔素からは、魔物が生まれることがある。
だが、魔物とは本来、交配によって誕生する。
ゆえに、魔素溜まり魔物とは、腹から生まれることが叶わなかった欠陥品。両親によって与えられるはずの、愛も知性も、理性や習性すら与えられず、ただただ本能のままに、目の前の餌に食らいつくことしかできない、哀れな怪物である。
だからか、彼等は害獣のような扱いを受ける。
人からは、魔物と同列の。
魔物からは、縄張りを荒らす敵として。
ダンジョンからは、侵入者ではない、ただの邪魔者だと。俺も、そう思っている。
そのため、彼等はどこに生れ落ちようとも、自身が望んで生まれてきたわけではないと言うのに、誰からも邪険に思われながら生まれてきて、そして処分されるのだ。
それから、彼等には、正式な呼び名が存在しない。
魔素溜まり魔物、と俺が呼ぶのは、魔素溜まり、という施設を設置することで生まれ易くなる魔物だからであって、あくまで便宜上あった方が便利だからと使っている呼称。
他の場所では、なんと呼ばれているのか分からないし、そもそも呼ばれているのかすら分からない。
人々は、亜人の一種を魔人と呼ぶように、自ら生きていく中で、新たな名を付ける。
ダンジョンマスターは、全ての亜人を必ず亜人と呼ぶように、神が付けた名を呼称する。
だが人も神も、彼等には、名を1度も与えたことがない。
世界の各地に、昔からずっと生まれ続けているというのに、彼等は未だに名を与えられたことすらないのだ。それは、あたかも、誰からも認識されていないかのように思える。
それを思うと、少々の同情は禁じえない。
名を付けて貰えないというのは、いささか、虚しすぎることである。
ましてや彼等は、このダンジョンでは、彼等は最初、ダンジョンモンスターを生成するPがないから、という理由で、誕生させられた。
わざわざ、生まれ出てしまうほどの濃密な魔素溜まりを作られて。
さらにそこは、Lvが低い内は役に立たないから魔素溜まり魔物同士が殺しあってLv上げをするように、という理由で、密閉された地下空間であり、出番が来るまでは常時殺しあわなければ生き残れず、そして、出番が来れば死ぬまで戦わなければいけなかった。
そして近年の彼等は、このダンジョンでは、ネームドモンスター達がダンジョン外にLv上げに行くのは困るので、代わりにこの子達を倒してLvを上げてくれ、という理由で、誕生させられている。
わざわざ、ひっきりなしに生まれ出てしまうほどの、濃密な魔素溜まりを作られて。
さらにそこは、Lvが低い内はLv上げの役に立たないから魔素溜まり魔物同士が殺しあってLV上げをするように、という理由で、知性がなければ出入りできない水晶迷宮であり、殺されるまで戦い続けなければいけない。
だから確かに彼等は、地獄のような宿命を背負って生まれてきた。
だから確かに彼等は、地獄のような宿命を背負って生きていく。
だから確実に彼等は、地獄のような宿命を背負って、最期には、肉体の一欠片であるドロップアイテムと、石コロのような魔石しか残せず、死んでいく。
それはなんと哀れなことだろうか。
一体、誰だ。彼等に、そんな地獄のような宿命を背負わせたのは。きっと、悪逆非道な誰かに違いない。
全く。
……、俺は、悪い事をしている感覚に襲われながらも、それを気のせいと振り払い、2人を応援し続けた。
そうして、お昼のサインドウィッチ休憩を挟み、午後の部。
しばらく経った頃だろうか、不意に2人の雰囲気が変わった。
何か言い争いがあっとか、そんなことでは全くない。
午前中と同様に、和気藹々としていた次の瞬間、2人は歩みも会話もピタリと止め、ただただ穏やかな雰囲気を一転させたのだ。
見つめるは、真白の通路の向こう側。
緊張と真剣みを帯びた2人の表情は、なぜだか、死の雰囲気すらを持ち合わせる。
一体、なにが?
俺のその問いに誰かが答えてくれる前に、攻撃がやってきた。
1本の矢が、異常とも言える速度と、言い表すことのできない圧倒的なプレッシャーを伴い、俺達に襲いかかってきたのだ。
「ホリィさんっ。お願いっ」
「ええっ分かっておりますわティアさんっ。くっ」
ティアが魔法で、大きな防御を展開すると、ホリィはその防御膜のすぐ後ろに入り、両手を前に突きだし、手の平を重ねて1点集中の防御を行う。それは、2人がかりでの最大防御。
しかし、それでも矢を止めるのが、精一杯で、矢が勢いを失ったすぐ後、2人は膝をついて、肩で息をする。
「まさか、今日とは思わなかった。鬱だけど、頑張る」
「ええ。そうですわね、やれるだけやってやりましょう」
そして、口々にそんなことを言った。
その言葉には、どこか、覚悟を決めたような悲壮感から抜け出した爽快さが漂う。
2人は立ち上がり、先ほど矢が飛んできた通路から目を離さぬまま、武器を構え、戦闘準備を整えた。
俺も釣られるようにして通路を見つめる。
そうして、一体なにが? という問いに対して、今度こそ、正しい答えがやってきた。
その恐るべき矢を放った化け物が、通路の奥から、ゆっくり歩きながら現れたのだ。
「……化け物? オー、……処刑」
「ごめんなさい。雰囲気重視で言いました。本意じゃありません、オルテさんごめんなさい」
それは、オルテ。
「鬱だけど、Lv上げに緊張感を持たせるために、たまに登場する最強の敵と、こんなところで遭遇するなんて。鬱だけど」
「勝てば賞品、引き分けならば良し、負ければ罰ゲームの真剣勝負が、まさか始まるだなんて」
「……ジャジャーン。今日の罰ゲームは……、うーん……、遊べそうなもの、献上。」
「遊べそうなもの……。陛下?」
「遊べそうなもの……。陛下?」
「俺?」
「……それはいらない。チェンジ」
「俺……」
頑張れ、応援するぞ、ティア、ホリィっ。
「でもわらわもいりません。鬱ですので」
「わたくしもいりませんわ。気品に欠けますので」
……頑張れ、応援しているぞ、俺っ。
ともかくも、戦いは始まった。
それはそれは、激しい戦いだった。
けれどもやはり、俺にはその戦いを応援できない。大切なダンジョンモンスター同士が戦うなど、一体どんな気持ちで応援すれば良いのか。
それに、見学ツアーを守ってくれる3人が、全員真剣に戦うということは、俺を守ってくれる人がいなくなったということだ。
魔素溜まり魔物溢れるこの水晶迷宮で、俺は一体どうすれば良いのか。
あと、3人共反乱してるから、3人の攻撃でも俺は死んでしまう。一体どうすれば良いのか。
動かない方が当たる。と思ってずっとジッとしていたら、なぜか3人の攻撃が揃って向かってくるし。
そうして1時間ほど経つと、その場には、戦闘の気配は何もなくなった。
転がっているのは、2つのドロップアイテムと、魔石だけ。
残ったのは、死神が1人。
俺は可愛いと連呼して、ニッコリ笑って、そして飴を差し出したが、残念ながら、息を引き取ることになった。
お読み頂きありがとうございます。
また、感想や評価もありがとうございます。毎度、勝手に励みにさせて頂いております。今後とも頑張ります。
間違いを訂正させて頂いたのですが、先週より、異世界転生、異世界転移、それら2つのタグを外しました。
作中に異世界転生者や異世界転移者が含まれますので、そのジャンルであると思っていましたが、どうやら主人公がそうなのか、が条件だそうで。すっと失敗しておりました。
大変申し訳ございません。
毎度謝っている気がします。あと後書きも長々と書いている気がします。すみません。
以後気をつけます、お読みいただきありがとうございました。




