第4話 悲しみからの脱却。そして……。
ダンジョンマスター格言その4
鞭を与えるだけなら誰でもできる、飴を与えるだけなら誰でもできる。ダンジョンマスターしかできないことを考えれば、自ずと道は開ける
『 竜
上級風竜・・・10000P
中級竜・・・6000P
下級竜・・・3000P 』
『 竜族
バーストドレイク・・・2000P
ドレイク・・・1800P
ハイワイバーン・・・1700P
・・・・
・・・
・・ 』
そうして、ひとまず竜というキーワードの元、ソート機能を利用してみたわけだが、2種類ヒットしてしまった。
とはいえ、どちらが俺の求める竜かは、一瞥しただけで分かる。
上級竜を含む、絶対強者である竜は竜種のみで、竜族はその他に近い。
ただし、竜族も、竜の名に恥じぬ、最強種ではある。
他の種族を見てみたのだが、どうやら、最大Pでも1000Pに届かない種族が多い。ドレイクやハイワイバーンですら、Pだけで言えば、他種族における最強種の、倍近いP消費をするのだ。
間違いなく、強い。
しかし、やはり、最強は竜種である。
最低でも3000P。
そして、最高が10000P。
他の種族に比べて、10倍以上のP消費だ。
そりゃあ、上級風竜を倒したら8万Pくらいもらえるはずだ。Lvも60ほどと高かった。半端じゃなかったんだろうなあ、恐ろしい。しかし、あの軍隊は、その竜を倒している。半端じゃなかったんだろうなあ。恐ろしい。
そして、俺はその軍隊に狙われるようなことをした。半端じゃなかったんだろうなあ、恐ろしい。
多分どうあがいても勝てない。
けれどもとりあえず、生成するしかない。
「上級竜で、あ、上級風竜か」
『上級風竜を10000P使用し生成します。よろしいですか?』
「おお、ちゃんと確認してくれた」
俺は、先ほどの設定が生きていることに喜ぶ。
「いいえ」
そして、もちろんNOを選んだ。
理由は簡単。
ダンジョンマスターは、ダンジョンモンスターを生成、つまり生み出す際、本来の力よりも、大きく強化して、生成することができるのだ。
先ほどの状態で生成したならば、その強化が成されていない状態で生成される。せっかく上級風竜を生成するのに、そのままではあまりに勿体ない。
記念すべき最初のダンジョンモンスターだ。是非、力を入れて生成したい。
ましてや、この魔物は、我がダンジョンで最強の魔物となる予定だ。
ダンジョンには、守護者、いわゆるボスという役職があるのだが、その中でもこの魔物がつく役職は、最終階層守護者。ダンジョンコアやダンジョンマスターを守る役割を持つ、最奥の階層を守るボスである。
時にはラスボスとまで言われる、その階層の守護者なのだから、最強の力を持つに決まっている。
ゆえに、持てる力の最大限を使って、俺はこの魔物を最強に生成する。
『 上級風竜
マスプロ
性別:--
造形:--
性格:--
特徴:--
適性:--
能力値:指定無し 』
さて、では始めよう。
まずは何の個体かを決める。
ユニークモンスターか、ノーマルモンスターか、マスプロモンスターか。
現在は、マスプロモンスター。
しかしマスプロモンスターは、いわゆる量産で、最もしょぼい個体である。
この設定も、能力値以外は不可能で、変更可能幅すら非常に少ない。
また、命令は不可能で、ダンジョンにおけるルールを遵守するため、干渉することすら不可。制限も最も強く、強さは最弱である。
『 上級風竜
ノーマル
性別:--
造形:指定無し
性格:指定無し
特徴:--
適性:指定無し
能力値:指定無し 』
ノーマルモンスターになると、造形、性格、適性、能力値。それらが設定変更可能になる。
また、種族の生態に沿う命令か、簡単な命令であれば実行が可能で、例えば侵入者の道案内をするだとか、物の売り買いを行うだとかもできる。ただ、ダンジョンにおけるルールは守らなければならず、制限もそれなりにある。
一番良い個体は、言わずもがな、ユニークモンスター。
『 上級風竜
ユニーク
性別:指定無し
造形:指定無し
性格:指定無し
特徴:指定無し
適性:指定無し
能力値:指定無し 』
ユニークモンスターなら性別、造形、性格、特徴、適性、能力値の設定が全て可能で、できる幅も最も多い。
また、命令に対し忠実に行動し、ダンジョンにおけるルールを多少なら破ることができる。強さにかかる制限も甘く、同じ階層で3個体が戦えば、間違いなくユニークモンスターが勝利する。
だが、実はそれ以上に強い個体も存在する。ユニークモンスターにすら間違いなく勝利する、最強の個体がいるのだ。
しかし、それは生成された後になるものなので、生成する際の最強はユニークモンスターであることに間違いはない。
俺も、生成はユニークモンスターで行う。
それじゃあ次は、性別っ。
……は、指定無しで良いだろう。稀に、身の回りに侍らせるダンジョンモンスターを全て異性にしてハーレムを気取る者もいるようだが、俺はそんなのに興味ないし。
次、造形。
造形は、色味などを変えたり、少々特殊な形態にするなどが行える。特別な魔物感を出すためのものだな。
だが、この上級風竜に小細工は必要ない。さらなるカッコよさを追求するだけで十分だ。
というわけで、二足歩行ができる竜であることと、大きな翼であることだけを設定しておこう。
『 上級風竜
ユニーク
性別:指定無し
造形:2足歩行型 大翼有り ・・・0P
性格:指定無し
特徴:指定無し
適性:指定無し
能力値:指定無し 』
検索して出てきた設定を、俺はセットしていく。
なんて強そうなんだ。
次は性格。
性格は、命令する際に、その命令に対してどう思うか、聞きやすいか、など、そんな程度のもの。しかし、ユニークモンスターより上位の個体にするのならば、性格はかなり重要なものになる。命令をあえて拒否することも、十分可能になってしまうのだから。
なので、できるだけ従順な性格に。しかしそれだけだと弱くなってしまう可能性があるため、強さを入れる。
『 上級風竜
ユニーク
性別:指定無し
造形:2足歩行型 大翼有り ・・・0P
性格:嗜虐的でプライド高いが面倒見は良く、認めた者には従順 脳筋なだけでなく工夫もこなし考える ・・・10000P
特徴:指定無し
適性:指定無し
能力値:指定無し 』
っと、そんなことをしたら、Pが大幅にかかるようになってしまった。
このように、設定をいくつも同一項目に入れてしまうと、Pが別途にかかってしまうの。
造形は、上級風竜が持つ無料分の中に収まったようだが、こちらはオーバーしてしまったらしい。本来の1万Pと合わせて、生成には2万Pがかかるということだ。
しかし構いはしない。なぜなら狙うは、最強のダンジョンモンスターなのだから。
次は特徴。
強そうなのを発見したぞ。これは絶対に入れないと。
それから、人間種族のダンジョンマスターを持つ者らしく、学習能力の強化を。それから、魔眼も入れてみよう。
『 上級風竜
ユニーク
性別:指定無し
造形:2足歩行型 大翼有り ・・・0P
性格:嗜虐的でプライド高いが面倒見は良く、認めた者には従順 脳筋なだけでなく工夫もこなし考える ・・・10000P
特徴:竜王の系譜 脅威の学習能力 ランダム魔眼 ランダム魔眼 ・・・10000P
適性:指定無し
能力値:指定無し 』
またも1万Pかかってしまった。
これで生成には3万Pかかる。……大丈夫かなあ。
ダンジョンモンスターは、例え死んでしまっても、元通りに復活できることが、最大の売りである。その復活の際の消費Pは、生成Pと比べると随分安いため、無限に復活できるようなものだ。
だが、それはマスプロモンスターやノーマルモンスターの話で、ユニークモンスターは多少安いくらいで死なれると困るくらいはかかるし、ユニークモンスターの上の個体なんて……。
最強は目指すんだけど……、ちょ、ちょっと節約しようかな?
えーっと、次は適性。
これは、スキルのようなもの。設定したからと言って、そのままスキルが身につくわけではないが、生まれながらにしてそれを使うだけの知識や経験を持つことになる。
だから、あれが欲しい。あれも欲しいな。
回復魔法もいるよなあ。あ、HP吸収とかって強そうだな。MP吸収もあるのか、付けようっ。
『 上級風竜
ユニーク
性別:指定無し
造形:2足歩行型 大翼有り ・・・0P
性格:嗜虐的でプライド高いが面倒見は良く、認めた者には従順 脳筋なだけでなく工夫もこなし考える ・・・10000P
特徴:竜王の系譜 脅威の学習能力 ランダム魔眼 ランダム魔眼 ・・・10000P
適性:体術 空間魔法 回復魔法 指揮 察知 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・10000P
能力値:指定無し 』
あれ、また1万Pかかっちゃった。
……。
……、今、本来の生成分と合計で4万Pか……。
もう、これ以上、消費が大きくなるとな。というか、現時点で既にヤバイことになってるな。
次こそは節約しよう。
最後は能力値。
いわゆるステータスのことで、生成された際の初期値を上げることができる。Pを注ぎ込めば注ぎ込んだだけ、分かり易く強くなる項目である。
ただ、まあ、所詮初期値だからね、成長してったら差は小さくなるし、これに入れる必要はない。
大事なのは成長率とかであって、初期値なんて……、あ、成長率上昇もあるんだ。こっちも、Pを注ぎ込めば注ぎ込んだだけ上昇すると。
……。
『 上級風竜
ユニーク
性別:指定無し
造形:2足歩行型 大翼有り ・・・0P
性格:嗜虐的でプライド高いが面倒見は良く、認めた者には従順 脳筋なだけでなく工夫もこなし考える ・・・10000P
特徴:竜王の系譜 脅威の学習能力 ランダム魔眼 ランダム魔眼 ・・・10000P
適性:体術 空間魔法 回復魔法 指揮 察知 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・10000P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・20000P 』
勲章を授かってたおかげで、凄い突っ込むことができた。悪口の勲章は、凄く役立ってるなあ。
しかし……、6万Pか。
あれー? いつの間にこんな。節約、したんだけどなあ……。
おかしいなあ、俺のメニューなんだか狂ってない?
「ちょっと、もう1回やり直そうかなあ」
俺はそう口にした。
この魔物は、ダンジョンの最終階層守護者、ラスボスを務める予定である。
ダンジョンコアやダンジョンマスターを守る、最後の砦。この魔物は、ダンジョン最強の魔物として、君臨するのだ。死んでしまうと、俺も死んでしまうことが確定するため、誰にも負けて欲しくはない。
だが現在、ダンジョンは全20階層。まだまだダンジョンとしては駆けだし。
そのため、通常配置できる魔物と言えば、10Pや20P程度。20階層に配置する、最終階層守護者ですら、100Pとか200Pとか、その辺りの魔物が務めるのが普通だ。
コストを的にも、そうすることしかできない。
俺は勲章のおかげで、コストを無視できるようになっているが、そうは言ってもあまりにコストを無視したやり方をすると、モヤモヤっと言うか、イガイガっと言うか、キリキリっと言うか、なんか嫌な感じがするんですよね。
秩序に規律、それから誇りの話として。
ほら、僕ってダンジョンマスターだしコアと一心同体じゃないですか。ダンジョン的常識とかマナーとか、普通の人には分からない色々があるんですよ。
テーブルを拭くのに使った布巾を、綺麗に洗ったからと言って皿を拭くのに使われるのは嫌じゃん? どれだけ綺麗にしてあっても嫌じゃん? 場所が違うじゃん? そんな感じ。
……ちょっとよく分かんない例えになっちゃった。
しかしまあそんなわけで、上級竜を生成することにも、多少懐疑的ではあったのに、そのさらに6倍のPを注ぎ込んだ魔物だなんてとても。
「そうだな。ダンジョンマスターとは、何よりも誇りを重んじるんだ。いくら死ぬかもしれないからって、それを無視しちゃいけない。誰かも言っていただろう? 生まれや死に方よりも、生き方こそが大事なんだと。良い言葉じゃないか」
誰が言っていたんだっけ。それはね、俺。
よし、生成をもう一度やり直そう。
それも、上級風竜の設定をではなく、種族の選択から。
200Pの魔物で生成しなおそう。
俺はそいつと、一から頑張――。
「――あああ、魔物もうめっちゃ近いっ。死んでしまうっ、殺されてしまうっ。生成っ、生成ーっ」
生き方が大事って言うんなら、まず生きないとねっ。
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
「生成っ」
するとその瞬間、暴風が吹き荒れた。
目も開けられない程の暴風。その中心の空気の渦。
あまりにも強いその存在、圧倒的な存在感。上級竜。
まさか初めて見る魔物がそれだとは……。いや、まだ目は開けれないけど。
というか砂とか小石とか凄い当たる。めちゃくちゃ当たる、やめ、やめて、やめて下さい、やめて下さいっ。ダンジョンマスターもダンジョンコアもここじゃあ1番大事なものよっ、やめて下さいっ。
あと、せっかく俺が、コアの光を隠そうとかけた砂が、風に飛ばされ消えて行く。
やめて下さいっ。
コアの上にかけている服はダンジョンマスターの持ち物だから、ダンジョンモンスターの影響で飛んだりしないんだけど、でもそれでも怖いよ。服がなくなっちゃったらダンジョンマスターすっぽんぽんよ。
やめてくださいっ。
あと石もやめて下さいっ。
上半身裸なんです。やめ、木の枝は危なぁいっ。
俺の願いが通じたのかなんなのか、風は止み、残ったのは、青みがかった巨大な白い竜。
二本の足で立ち、大きな体を上げ翼を広げ、威風堂々と、自分こそがまさに最強だと言わんばかりの姿。俺が想像した通りの、ダンジョン最終階層守護者に、相応しい竜が生成された。
俺は思わず、ゴクリと喉をならした。
そして――。
「お前の名前はマキナだ」
俺は、上級風竜に、命名した。
その瞬間、その個体はユニークモンスターから、もう1つ上位の個体へ変貌する。
それは、ネームドモンスター。
名を有し、他の全てのダンジョンモンスターと一線を隔す、特別な魔物となったのだ。
ネームドモンスターは、ダンジョンマスターの命令を拒否することもできれば、他のダンジョンのルールに縛られ過ぎることもない。自立した、独自の考えと自我を持つ、究極のダンジョンモンスターである。
その在り方は、別個の生物とも言えるために、扱い辛いと言えば、扱い辛いかもしれない。
しかし、その強さは別格。
また、通常、ダンジョンモンスターのLvは、基本的に階層と同じLvとなる。
1階層にいるのならLv1に、20階層にいるのならLv20に、それぞれなるのだ。その仕様は、ボスも同じで、ボスとしてのプラス補正は受けられるものの、Lvで言えば同一となる。
つまり、20階層しかない現在の我がダンジョンでは、最終階層守護者であっても、Lvが20なのだ。
Lv60の上級風竜を倒した軍隊を相手にするのは、まず無理だろう。
そこで、ネームドモンスターだ。
ネームドモンスターは、命名した瞬間、Lvが0となる。しかし、今後侵入者を倒せば、経験値が得られLvが上昇するようにもなる。
最終的には、階層の数分のLvなど、容易く越えていく。
代わりに、復活には生成時のPと同じPを消費するようになってしまうのだが、それに関しては問題ない。
なぜならマキナは、ダンジョン最終階層守護者。ダンジョン最終階層守護者が死んだ時、それが俺の死ぬ時なのだから。
「最初の命令だ、マキナ」
白と水色の中間の色をした竜。神々しく圧倒的な存在。
そんな全てを破壊できるであろう存在と目が合う。しかしなんの恐れもない、なぜならそいつが、そいつこそが、ダンジョンマスターの右腕。俺の最高の仲間であり相棒であり、盾であり剣であり、心臓であり魂であるっ。
だから俺も自然と、悠然と、自身満々に命じた。
「近寄ってくる愚かで無知蒙昧な魔物共に、本当の強さとは何か、その身に、いや魂に刻んでやるがいい。さあ、全てを迎撃するのだっ」
ふっ、決まった。
「いやだっ、断るっ」
……。
あれ?
……。
「さあ、全てを迎撃するのだっ、マキナっ」
「やだっ」
……。
「……さあお行きなさい、マキナっ」
「いやだっ」
「……、行って下さい、マキナさんっ」
「断るっ」
「そこをなんとかっ」
「うるさいっ」
うるさいって言われた……、あれ、俺達、相棒じゃあ……。
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すみません。
とにかく頑張りますっ。