第63話 エリンとカノンとケナンを。
悪逆非道のダンジョンあるあるその3
成長を目の当たりにしての死をプレゼント。
目立ったこともしていなかった侵入者がある日突然開花したような活躍を見せると、すごく気に入ってしまい、即座に戦闘行動へ移ってしまう現象のこと。
7人のネームドモンスターが28人になって、1ヶ月が経った。
男1人、女28人、という圧倒的な男女比率であるため、肩身が狭い思いは頻繁にしている。
もっとも肩身が狭くなるのは、やはり風呂の時間だろうか。
城には、大きな大きな大浴場を設けてある。
本来、戦いの場所であるダンジョンに、そんな施設は必要ないが、彼女達は心臓を魔石に交換した結果、新陳代謝を行うようになった。風呂は、ネームドモンスターにとって、女性陣にとって、必須の場所。
そして、俺自身も、人間種族であるからか、風呂に浸かれば心地よいと感じ、疲れが癒される気がするため、できる限り入りたい。
なので結構なPをかけて生成したのだ。
もちろん、男風呂、女風呂は別。隣り合ってはいるが、きちんと壁は設けられている。
しかし、以前にも言った通り、男風呂と女風呂の特徴が大きく異なるため、気分によって、女性陣は男風呂を利用するのだ。
俺がいる時でも。
「あら、ラッキー。空いてるわね」
「ナイスだな。日頃の根性のおかげだな」
「ま、朝やから少ないんは当然やろ。入っとんのは王様だけか、ちょっと失礼ー」
こんな風に。
タオルを身体に巻いているものの、男風呂に堂々たる様子で、今日も3人が入ってきた。
エリン、カノン、ケナン。
干支の年長組で、性格は、魔性、根性、性悪。
夜は絶対誰かと被るから、最近朝に入るようにしていたのに、朝でも被ってしまうのか。
なんと肩身が狭いことか。
恐ろしい……、セクハラは、今日はノーセクハラでいきたいっ。
「お隣、失礼しまーす」
ズラリと並ぶ、鏡と椅子とシャワーが設置された洗い場の中で、エリンはわざわざ俺の隣に座ってきた。
32階層の守護者、エリンは、ミラーラビット種族といういわゆるウサギであるが、亜人型で生成されているため、見た目はウサギでなく、色香タップリの24歳の女性である。
ぬばたまとも言える黒髪は長く真直で、髪留めを使ってまとめられており、目の瞳は黒く、おっとりほんわかした形。
顔立ちこそ地味であるのに、体つきは妖艶で、しかし服装はブラウスのロングスカートという清純なものを好む、男を手玉に取る天才、魔性の女である。
身長は、ウサ耳を除けば160cm丁度かないくらいと、決して高くはない。
体重は……、不明だが、別段太い細いと、そういった特徴は見受けられないので、身長に見合った体重なのだろう。
とは言え、大人な体つきをしている。
服を着ていると、そんな体つきであるとは、分からないと思うが、正直かなり。
出るとこは出ているとか、締まるところは締まっているとか、そういう話でもあるのだが、健康的、肉感的、官能的、どちらかと言うと、そっちの話だ。
……なぜそんなことを知っているのかというと、まあ、見たからなのだが、別に、俺が見たくて見たわけではない。
ふとした、本当にふとした時に、見えてしまうのだ。
もちろん本人は、タオルや手、それから髪まで使い、いついかなるタイミングでも見られないようにと、隠しているし、俺自身も見ないように気をつけている。
だが、例えば、エリンが石鹸を落としたりした時などには……。
人造大理石の床に石鹸がぶつかれば、もちろん音が響く。すると俺は石鹸を、つまりは俺はエリン側か少なくともエリンとの間を反射的に見てしまうし、エリンはエリンで石鹸を拾おうとする。洗い場の椅子に座ったまま、体を曲げて。
そうなると、隠していたタオルはハラリと落ちるし、石鹸を拾う手と、体を支える手と、両手を使わなければならないので身体を隠す手がなくなるし、体にペタリとついて隠していた髪の毛もまた、そこからどいてしまうのだ。
だから、見えてしまう。
他にも例えば、俺がシャンプーを洗い流そうと、シャワーノズルを手探りで探している際。
「はい、これ、ノズルですよ。――きゃあっ」
と、差しだしてくれた時に、俺がエリンのタオルを一緒に掴んで、剥ぎ取ってしまったりとか。
頭を流し終わった後。
「洗い残しがありますよ。ほら、ここ。――きゃあっ」
と、ズイっと体を乗り出して教えてくれたりした時に、タオルの結び目が俺の体と擦れて、ほどけてしまったりとか。
シャワーの水量調節を失敗し、俺に冷たい水をかけてしまって。
「ごめんなさい王様、今お拭きしますね。――きゃあっ」
と、慌てたのか、自分のタオルをとって、俺を拭こうとした時とか。
背中を流す、と言って後ろに回ってゴシゴシと洗ってくれていて。
「あら、泡が足りなくなっちゃいましたね。石鹸、は前か、王様失礼しますね。――いやんっ」
と、鏡の下に置いてある石鹸を取りに、俺の背中側から、乗りだして来る時とか。
見えてしまう見えてしまう。
先ほどエリン達が入ってきてから、まだ10分も経っていないだろうが、既に5回は見えている。
なんたるハイペース。混浴で若い女性と偶然遭遇してしまった若者も、きっとそこまでは見ていないだろう。
さすがに、それだけハイペースで見えてしまっていては、いかに素早く顔を背け、父親としての矜持を保とうとも、体型程度ならガッツリ把握できてしまう。
健康的で、肉感的で、官能的な、抜群とは言えないもののとても大人で艶やかな体つきが。
「すまない……」
「良いんですよ、王様。わたしが悪いんです、わたしの不注意で。こんなお見苦しいものを」
「そんなことないさ、エリンは悪くないさ。それに、とても綺麗さ」
「そうですか? 嬉しいです。ところで、最近、首元が寒くって、何か良いの知りません?」
「……」
ちなみに、これだけ見えてしまうのは、もしかするとワザとなんじゃないか、という思いがふつふつとは湧いてくる。しかし、思い返してみても、完全に偶然の、意図しないアクシデントに見えてしまうので、確証はない。
むしろ、直接聞くと、そんなはしたない子だと思われているなんて……、と落ち込んでいたので、違うのだろう。
魔性の女と言えども、さすがにそこまで完璧な偶然を装うことなんてできないだろうからね。誰がなんと疑おうとも、そんな子じゃないってことを、俺だけは信じているよ。
首元だったね、マフラーを生成しよう。
だから、今日のことは、誰にも言っちゃいけないよ。
とまあ、ともかくエリンは、そんな、色気と清純さを内包する、大人な女性。
ドSであり、嫌がらせをさせれば天下一品であるが、お淑やかで気配り上手で、怒ったところなんか見たこともなく、優しさに満ち溢れている。
だからこそ、他の子達なら、セクハラだなんだと騒がれるところを、無罪放免になったのだ。マフラーはそのお礼さ。
そうして俺は、無事、ノーセクハラで、体を洗い終えた。
「よいしょ」
俺は少し年寄り臭いことを言って立ち上がると、風呂場の奥にある浴槽に足を入れた。
暖かい。
ダンジョンマスターは、状態異常を受け付けないため、暖かいからと言って、皮膚が赤くなることもなければ、体の温度が変わることもない。
簡単に言えば、風呂に浸かる意味はまるでない。
しかし、それでも暖かさに包まれているのは心地が良い。普段、心が寒いから、余計だね。
「しっかし……、ここのお湯、なんか凄く熱そうだな。ジャグジーじゃないのに、なんか空気がボコボコしてるし」
俺は、お湯の表面に目を落とす。
大きな空気の塊が、絶えず浮かび上がっては弾けていた。
水がこのようになる現象を、俺は1つしか知らない。……沸騰だ。
「いやあ、やはりお湯はこれくらい熱くないといけませんね。ぬるま湯など根性が足りない、そうは思いませんかっ?」
100℃近いお風呂の中で、気持ち良さそうに入っているのは、カノン。
33階層の守護者、カノンは、ワイバー種族といういわゆるドラゴンであるが、亜人型で生成されているため、見た目はドラゴンではなく、あどけなさを残した24歳の女性である。
快活さと真直ぐさを表すようなポニーテールは、深い緑色で、快活さと真直ぐさを表す瞳は、深い緑と、深い紫のオッドアイ。
年齢に比べ、まだ子供っぽいような顔立ちであるが、体は、普段ブラウスとジャージを着ているせいで分からないが、とても筋肉質、スポーツマンが大好きで弛まぬ努力に日夜励む、根性の女である。
身長は、角を除けば163cmか164cmか、その辺り。
角はかなり長いので、角も含めたら170cm後半にはなるだろう。
体重は、55kg。なぜか公言しているので、知っている。
自慢できるようなモデル体重ではないが、脂肪よりも重い筋肉がたくさんついていることを考えれば、そのくらいあって当然、むしろ軽い方ではあるのだろう。
体型も確かに、太ってもいなければポッチャリでもない。
腹筋はキッカリと6つに分かれ、弓道を嗜むからか、背中周りの筋肉はさらに発達している。ただ、そのせいか、女性特有の凹凸は少なく見受けられる。
腹筋を鍛えれば、くびれはなくなるので、仕方がない。凸の方は知らん。
俺がそれをなぜ知っているのかと言うと……、見えてしまうからだ。
カノンは、真直ぐ過ぎる性格で、性善説を信じているのか、ただ性知識に疎いだけなのか、よくは分からないが隠し方が甘く、むしろ隠さないことも多いため、そちらを向けば、ほぼ確実に見える。
時折、脱衣所にある、大きな鏡の前で、パンツと肩からかけたタオルだけを身に付けた状態で、ポージングをとっているくらいだ。
もちろん、俺が来ても、やめない。あ、王様は今から風呂ですか、みたいなことを言うだけだ。
もっと他に言うべきことがあるだろう。
カノンは、そうやって見てしまっても、セクハラだなんだとは言ってこない。とても良い子だからね。
だが、例えそうであっても、いや、だからこそ、俺は見るわけにはいかないのだ。年頃の娘の裸を見るなんぞ、父親がそんなことをしてはいけない。それも自分に全幅の信頼を置いてくれて、見ても隠す動作を一切しないような子なのだ。俺は日々、自分自身に言い聞かせ、見ないように精一杯の努力をしている。
しかし、幸いにも、今日はそれらが見えない日のようだ。
なぜなら、お湯が沸騰しているから。
「これくらい熱くないと、風呂とは言えませんね。アタシは江戸っ子ですから」
「いや、君は家の子だよ」
「根性っ」
「江戸っ子を自称するんなら、口癖は、てやんでいっ、にしとこう」
カノンは不敵に笑うと、手で水鉄砲を作っては、俺に向かって沸騰したお湯を飛ばしてくる。
が、しかし、あまりにも下手糞なので、前へ飛んだ飛距離は平均すれば5cmもない。まあ……、ボコボコと沸騰している中で、水鉄砲は無理だよ。
「アタシの本気を見せてあげますよ、せえええいっ」
そして、飛ばそうと力んで、思い切り手の中のお湯を圧縮すると、それは全てマイナス方向へと飛び、自分自身の顔に命中。
「中々やりますねっ」
ポタポタと、お湯が顔から落ちる中、カノンはまたしても不敵に笑う。
「あ、何を出ようとしているんですか。ちゃんと1000まで数えないとダメですよ。もう1度やり直しです」
「こら、裸で異性を羽交い絞めにしてはいけませんっ。あと1000は多いよ」
「ちゃんと頭まで浸かって1000まで数えましょう」
「頭までっ? それはただの殺人事件じゃないかっ?」
「根性があれば大丈夫ですっ」
俺は、風呂に沈められた。……沸騰したお湯に1000数えるまでって。ダンジョンマスターだから呼吸できなくても大丈夫だけど、怖いよ。
きっとそうじゃなくても、根性があれば、と沈められただろうし、怖いよ。
とまあ、ともかくカノンは、そんな、根性で全てがなんとかなると思っている、お馬鹿な女性。
素直でひたむきで、人に対して100%の力で関われるが、スポ根で、青春に憧れ、よく夕陽に向かって駆け出している。
だからこそ、他の子達なら、セクハラだなんだと騒がれるところを、無罪放免になったのだ。
俺は1000数え終わり、無事、ノーセクハラで、湯船に入り終えた。
「よいしょ」
俺は少し年寄り臭いことを言って湯船から上がると、今度は電気風呂へと向かう。
最近、電気風呂に凝っているのだ。ビリビリするのもまた状態異常に分類されるため、筋肉がほぐれたりはしないが、肌の表面を電気が走る感覚は分かる。
おお、気持ち良い。
電気風呂は、先ほどの浴槽とは違い、1人1人のスペースが仕切られている、ジャグジー風呂と同じような形。
ただ、仕切りと言っても、水面よりも低い仕切りであるので、視界が仕切られているわけではない。
隣はよく見える。
「ケナンも、電気風呂好きだよなあ」
だから俺は、隣にいるケナンに、至福の表情をしたまま、そう声をかけた。
「このビリビリは、もう気持ちええですわ。控えめにいって最高やわ」
ケナンもまた、同じように至福の表情をしたまま、俺の方を向いて、そう応える。
34階層の守護者、ケナンは、ネイバースネーク種族といういわゆるヘビであるが、亜人型で生成されているため、見た目はヘビではなく、糸目の24歳の女性である。
白いに近い緑色の髪を、全体的に左へ流した髪型で、ハッキリした金と、白いに近い緑のオッドアイ。
糸目であり、うさんくさそうな、おちゃらけていそうな顔立ちであるが、スカートスーツのようなカッチリした服装で、話しているとなぜだか心を許してしまう、内に入るのが上手い24歳の女性である。
身長は、165cmほどと高めで、特に手と指が長い。
体重は……不明だが、あばらが少し浮き出るくらいには、脂肪が少ないので、きっと重くはない。
けれども、胸はそう小さくない。
長く細い指が、そこを隠そうと抑えれば、指が半分ほど埋もれ沈んでしまうくらいには、ある。
俺がそれをなぜ知っているのかと言うと……、見えてしまうからだ。
今現在、ケナンは俺のすぐ隣で電気風呂に浸かっている。
湯船にタオルをつけるのはNGだ、という自称温泉通の勇者からの通達によって、ここでは湯船にタオルをつけて入る者は誰もいない。
であるから、ケナンもまた、一糸纏わぬ姿。
右手で両方の胸を、覆うように隠した状態で、入っていた。
「電気風呂、もっと増やしません? 3人分だけやと、埋まってるときもあって弱りますわ」
ケナンはしかし、自分のそんな格好を、まるでいつものことであるかのように全く気にせず、そんなことを言う。
電気風呂の仕切りは2つ。だから、一度に入れるのは3人だけ。
3つ並んでいるので、今は、俺、ケナン、空き、の状態。それだけであるから、確かにたまに、全部が埋まっていて、交代待ち、ということもある。
「いや、ここ、男風呂だからね。本当は1つで十分なんだよ」
「まあまあ、次は増やしましょ。ここにドーンとあと7つくらい」
「だったら女風呂にも作った方が……」
「なにを言うてはるんやら。美女のなまめかしい体を見るチャンスを、減らすなんて、王様らしくない」
「俺そんなキャラだっけ……」
ケナンはニヤリと笑って、指で隠している胸をチラリと開けるそぶりをする。
……恐ろしい。
「人と話してる時は、顔をみて話す。これが鉄則やで。こっち向きや」
顔を逸らしても、顎を掴まれて力づくで修正される。……恐ろしい。
「ふふふ、まあ冗談冗談。王様がそんなことするはずないもんな」
ケナンは笑う。
……ただ、なんだか、ケナンの顔がいつもより紅潮しているような。そして、なんだかフラフラしているような……。
「……しっかし、なんや、ちょっとのぼせてきたかも分からん」
「え? 大丈夫か?」
それは、どうやら、気のせいではないらしい。
「早く上がりなさい」
「っとと、力、入らへん」
それも、結構重篤な様子だ。
「……王様、ちょっと手伝ってくれへんか? こう、背中から抱きかかえて」
そう言われ、俺の脳裏には一瞬、セクハラ、という言葉が思い浮かぶ。
が、しかし、そんな言葉はすぐに消えてなくなった。目の前のケナンの、苦しそうな顔を見て、そんな逡巡をするほど、俺は墜ちちゃいない。
「行くぞケナン」
「頼むわあ」
体を傾け、背中を見せたケナンの、その細い腰を両手で挟むようにして持ち、俺は持ち上げようと力を入れた。
しかし、持ち上げることができない。
「――く、た、体勢が悪いからかな。上がらない。だ、大丈夫だ、もうちょっと待ってくれ」
俺はもっと力が入りやすい体勢に変えて、再度チャレンジ。しかし、1mm足りとも上がらない。
どうして……、ケナンの体重はそう重くない、俺にだって持ち上げられる重さだ。例え反乱されていようとも、抵抗されていない限りは、上げられる、なのに……。
確かに、確かにケナンが、胸を隠している手の反対側の手は、電気風呂のあの仕切りを掴んで、体を固定しているようには見える。けれども――。
「助けて王様あ……」
弱弱しい声で、助けを求めるケナンが、あえてそんなことをするはずがない。
くそう、どうして上がらないんだっ。俺には、自らのダンジョンモンスターを助ける力1つないってことかっ?
「ケナン、ちょっと持ち方を変えるぞ、こう、お姫さま抱っこの方が力が入ると思うんだっ」
「分かった。でも、王様、苦しい、胸が苦しい、手、どかしてええか? でも見たらセクハラやで? ホンマ見んといてな、恥ずかしい」
「分かっている。決して見ないさっ」
俺はそう言って、目を瞑り、ケナンの背中と膝裏に手を回して持ち上げようと、試みた。しかし、あろうことか、1mm足りとも動かない。
今の俺の姿はまさに、上がらないバーベルに挑む、バーベル上げの選手のように、プルプルして食い縛っているだろう。
するとさらに、あろうことか、俺の瞳にはケナンのあられもない姿が映っていた。
なんと、瞑っているはずの目が、開いているではないか。
どうやら、ケナンが、先ほどまで胸を抑えていた手を、助けを求める為にと俺へ伸ばした結果、俺の目を、あたかも強制的に開くかのような形になったようだ。なんたる偶然、これではセクハラでしかない。けれども――。
「助けて王様あ……」
弱弱しい声で、助けを求めるケナンを、少しでも早く助けるために、今はセクハラを抑えてなどいられないっ。
俺には、俺には、自らの娘にも等しい、自らの命よりも数十倍重い、この子達を、笑顔にする義務があるんだっ。
「うおおおおおおおーっ」
そうして、俺は、ダンジョンマスターとしての責務を果たした。
見事、ケナンを救出することに成功したのだ。
いや、ケナンだけではない。
沸騰したお湯の中でドラゴンの煮物になっていたカノンも、ジェットバスの中で艶っぽく震えていたエリンも、助け出すことに成功したのだ。
俺にも、まだやれることがあるんだ、そんなことを、今日は思った。
とは言え、救出する際、命を優先していたせいもあって、彼女達の大切な、貞淑さを脅かしてしまった。
エリン、カノン、ケナン、3人共の、あられもない姿を見たり、触れてしまったりしたのは、まごうことなき事実である。
贖罪は必要だ。
しかし、彼女達は、セクハラだとかそういう罪状を、救出のためだったからと一切口にすることはなかった。謝らないで下さい、そんなことも言われてしまった。
だが、そう言われて、はいそうですか、俺の気持ちが治まるわけがない。
彼女達は、純粋で清純なのだ。男に裸を見られてしまったことに、傷つかないわけがない。
風呂上りに、コーヒー牛乳やフルーツ牛乳を御馳走したけれど、その程度では癒えることなどないだろう。
汚名を雪ぐ為に、ではなく、俺が思うすまない、という気持ちを伝えるには、やはりこの、なけなしのPで誠意を見せるしかないのだろう。
パーッと使って貰って、今日のことは忘れてくれ、とでも言うような。
「まあ、王様。そんなお気になさらなくても良いのに。ですが、そこまで仰って下さるなら、嬉しいです」
「ナイス根性」
「恥ずかしいから、秘密にしといて下さいね。でも、忘れんとって下さいね、うちも、忘れませんから」
残るPは、0Pとなった。
全く。ダンジョンマスターも大変さ。
ネームドモンスターが、7人から28人に増えた結果、ウッカリ者の数も増えてしまった。しっかり者である俺が、支えてあげなければいけない。
ダンジョンマスターとは、難儀な職業だよ。
……やりがいは、あるがね。
「それじゃあ、王様、今日も1日よろしくお願いします」
「根性、根性、ド根性、カノンです」
「ほな。また」
3人は、笑顔で去っていく。
それを見て、俺は誓う。彼女達の笑顔を守ろうと。
彼女達の貞淑さを脅かしてはしまったが、救いだすことはできた。だから、きっと、そのくらいの力は、俺にだってあるはずさ。
必ず守ろう。
俺は、頭を乾かすため、ドライヤーのスイッチを入れた。
……しかし。
その誓いが、まさか、たった数秒で破られることになるとは、俺はこの時、思いもしなかった。
そう、ここはダンジョン。
彼女達はネームドモンスター。
であれば、必ずあれが行われる。
「おや、主様、もう上がられてしまいましたか。むむ? 少しまだ汚れが残っているようですね、もう1度入りましょう。私と、さあさあ。そうだ、上がった後、よろしければ修行の様子を見にきて下さい。エリン、カノン、ケナンと共に、32階層で行いますので」
地獄のような、猛特訓が。
お読み頂きましてありがとうございます。
ブックマークもありがとうございます、増えていくのを見るととても嬉しい気持ちになります。
感想もお待ちしております。
話作りの上達のため、否定的な意見でも構いません、何か頂けると嬉しく思います。




