第62話 鍛えてニル先生。
悪逆非道のダンジョンあるあるその2
出会わず戦わずの階層攻略ができない。
いつでもどんな時でも低階層にはダンジョンモンスターが1体もいないのに、ダンジョンモンスターに倒されなかったことがないこと。
「チュー兵衛ーっ、チューピカーっ」
「ウシ男ーっ、ウシ子ーっ」
「シマ太郎ーっ、トラ次郎ーっ」
誰かしらの名前を叫ぶ3人の少女、アリス、イーファス、ヴェルティス。
12歳という、まだ小学校に通っていてもおかしくないような子供で、しかも、ダンジョンには年上しかいないからか、歳よりも幾分か幼く見えてしまう3人は、今、その目に大粒の涙を浮かべている。
そして――。
「ごちそうさまーっ。おかわりーっ」
……。
……。
……。
猛特訓が始まった。
笑顔などどこにもない、いや、1人だけ笑顔だが、俺が誓った相手には笑顔など欠片もない、猛特訓。
2期組の21人を生成してから数日が過ぎた今日もまた、訓練が行われている。
戦争まで、残り1年以上もあるのだが、その激しさは既に底なしの激しさ。
最強たる我がダンジョンの、精鋭に相応しいダンジョンモンスターになれるよう、初期組7人の先生が、ビシっと力の限り、特訓を行うのだ。
ちなみに、先生役はどんどんローテーションしていき、それぞれ違ったことを違った角度から教えていくそうだ。
今日のパターンは、ニル先生が、アリスイーファスヴェルティスの3人を教えるパターン。
そこで起きていたのが、この惨状。
「ええーん、召喚ーっ。行けー、チューニャンーっ、グリグラーっ」
「もう食べないで下さーいっ、召喚っ、ウシ夫ーっ、ウシ美-っ」
「あたし達のことも食べないでーっ、召喚っ、ティカーっ、トラマスクーっ」
「わーい追加だーっ、いっただっきまーすっ」
干支年少組の3人は、戦いにおいて数を重要な力とする。
アリスは、数が多ければ多いほど、自らのステータスなどをパワーアップし、ダンジョンの難易度自体も上げることができる。逃げるのだって、容易になるだろう。
イーファスも、数が多ければ多いほど強固な防御陣形を敷ける上に、罠にかけるための突進も、より脅威になる。
ヴェルティスに至っては、戦術を重視する以上、数は絶対に必要であるし、万を越える数を指揮できる実力を持つ以上、多ければ多いほど強いのだろう。
だからこそ、召喚能力だけは、徹底的に鍛える必要があった。
ニル先生は、3人が召喚した魔物を、片っ端から片付けていき、新たな魔物を無理矢理にでも召喚させる、という教育方法をとっている。
もし召喚のタイミングが、瞬き1つでも遅れてしまえば、食われるのは彼女達自身。
必死に、自分達と同じ系等の種族を召喚し続ける彼女達は、この特訓が終わった後、自らの力が飛躍的に伸びていることに気付くだろう。
……でもニルよ、俺は思う。
名前付けてる子を食べちゃいかん。
……そして、アリス、ヴェルティスよ、俺は思う。
名前はもうちょっとオリジナル感を出してくれ。怖い、怖いよ。ニアミスだよ、というかトラマスクってトラのマスクを着けてるの? 人かい?
……あと、イーファスは逆に、もっと凝った名前付けてあげて。ウシ男とかウシ子とか、適当過ぎるだろ。本物の酪農家が付ける名前じゃない、感情移入しないようにって。
ウシ男とウシ夫なんて発音一緒だし、牧場見学にきたお客さんも困るよ。
しかしまあ……、地獄の光景だ。
先ほどまでの笑顔が、まるで嘘のように消えてしまった。
俺の決意だって、まるで嘘のように消えてしまっている。
けれど、どうすることもできない。
俺も、アリスも、イーファスも、ヴェルティスも……。
強くなるために1番手っ取り早い方法は、ステータスを上げること。すなわち、Lvを上げることである。
Lvを上げるためには生物を倒してさえいれば良い。
天空城砦の大地内には、魔素溜まりが多数設置されているので魔物は常に大量発生中。
倒す生物には事欠かない。
もちろん、自身の守護階層から離れたところにいる侵入者を倒すというのは、俺の心が病む危険性を多分にはらんでいるが、魔素溜まり魔物はダンジョン産であり、侵入者とは少々勝手が違う生物。
ダンジョンの大敵でもあるので、平和を愛する俺ですら、倒してくれるならこんなにありがたいことはないと思っているほどだ。
他のダンジョンでも、階層外にいるユニークモンスターを、倒すために転送するなんてことは多々あるからね、何も問題ない。
まあ、自分で、魔素溜まり魔物を出すために魔素溜まりを大量設置して、出てきたら狩る、っていうのが、他のダンジョンマスターから見てどうなのか、ってことについては別ですが。
はい。
そんなわけなので、このダンジョンにおいてLv上げは、そう難しいことじゃない。
600Pの種族のLv100越えなんてざらにいるので、莫大な経験値を毎日のように手に入れることとてできるからだ。
確かに彼女達もまた強力な種族なので、Lvを上げるために必要な経験値は非常に多いが、それでも低Lvの内は、まるで駆け上がるようなLvアップも可能だろう。
しかし、そうやって得た強さは、果たして真の強さ足りうるだろうか。
それを用いれば必ず勝つことができるのだろうか。
彼女達7人は口を揃えてこう言った。
そんなわけがない、と。
彼女達はユキを除き、ダンジョンが20階層しかない頃からのメンバーだ。
ダンジョンには、その階層に見合わない力を持つダンジョンモンスターに対し、力を制限するという仕様がある。
20階層以下だなんていう低階層では、100Pの種族ですら制限を受けてしまうのに、1万P以上を用い生成された、強力過ぎる彼女達7人にかかる制限は一体どれほどのものだっただろうか。
制限を受けた後のステータスを、ダンジョンマスターは自身と同種族のダンジョンモンスターのものしか知ることができないため、一体幾つだったのかを俺は知らない。
だが、見たのならばきっと、申し訳なさで目を覆いたくなるほどのものであったことは間違いない。
聞いてみたことはあるのだが、いじらしい彼女達は、俺にそんな風に思って欲しくなかったのか、セクハラと言われ目潰しを食らったため知れずじまい。
2本指で刺してくるのはギャグ感あるけど、1本指で刺してくるのはギャク感がない、っていうのは知れたんだけどね。全く可愛いやつらだよ。
ともかく、そんな状態で彼女達は戦って来た。
ダンジョン外で数々の魔物や進入してきた人の軍隊と。そして最強の勇者と。
ゆえに彼女達にとってステータスは、必ずしも勝つために必要なものではない。
今の自分の実力をどう扱うか、相手との実力を鑑みてどう戦うのか、それの方がよっぽど重要なのだ。
ユキも同じだ。大神からの加護があったとは言え、今までの戦闘全てで、相手を上回っていた、などということはない。
むしろ、召喚勇者が世界を救うために現れることを思えば、その大半は、当時の自分の手に余るものだっただろう。ステータスが高い程度では、到底成し得られないような厳しい戦いの連続だったに違いない。
だから、彼女達はLvやステータスを全てだと思わない。
固有能力や種族特性、特殊技能などを豊富に持つが、それも実力の一端としてしか利用しない。
彼女達は口を揃えて言う。
鍛えるべきはLvではなく地の力。修練と思考と試行と反復でしか得られない自分自身本来の力だと。
そして彼女達は、口を揃えて後輩達に言う。
私達はこうやってきたんだから、こうやれ、と。
これはうちの伝統だ、うちに来たならこうしろ、と。
運動中に水は飲むな、と。
ウサギ跳びをしろ、と。
え? 君はそういうやり方でやるの? へえ、新しい時代の人なんだねえ。でもそれじゃあ教えられないよ? 知らないもん、そのやり方でやってないもん。君は凄いねえ、1人でやるんだ。教えて欲しいならこっちのやり方に合わせてくれないと。1人で仕事するの? チームワークは? と。
「あるじ様。いただかれたいの?」
「後半はふざけました。すみません」
彼女達7人はとても優しく、多大な愛を持って、21人を鍛えているのだ。前述のことは言っておりません、誇張した、悪意ある表現がありましたことを、謝罪致します。
ともかく、彼女達7人が行っているその指導は、実に正しいものだ。
Lvやステータスを重視するのではなく、血肉に染み込んだ力を重視しろというのは、まさに真理と言える。
とは言え、Lvやステータスを軽視しているわけではない。
彼女達は、その重要さもよく知っている。そのせいで苦い敗北を喫したことも、1度や2度ではないのだから。
ステータスの項目は、生命力、魔力、体力などに加え、筋力、耐久力、知力、機動力など。
基本的に、それらは行動の結果に作用する。
同じことをしてもその結果が大きくなる、とでも言えば良いのか。例えば生命力であれば、大きなダメージを受けても死ななくなる。
筋力であれば物を軽く扱えるようになり、機動力であれば大きく移動できるようになる。
大きなダメージを受けても死ななくなったなら、大胆な行動をと取ることができるだろうし、防御を捨てて攻撃に行っても、相打ち狙いでも勝てるかもしれない。
物を軽く扱えたなら、武器を素早く器用に速く使えるので咄嗟の行動も早くなり、技も上手く出すことも、ダメージを増やすことだって可能だ。
大きく移動できるなら、不用意に突撃しても相手の攻撃範囲外にすぐに出られ、反撃を貰わないなんてこともでき、また追撃や、木に登っての、なんてこともできる。
どれも、どちらが強いかを試す上で、とても重要な要素である。
戦いにおいて、それが勝っていたならば、まさに有利。そう言う他ない。もしも全てが勝っているとすれば、どちらが強いかの論争は、誰でも同じ方を指差すだろう。
だが、勝敗は別の話。
数値で勝っているからと言って、実際に戦ってみて勝つかどうかは、また別なのだ。
なぜなら勝敗とは、どれだけの強さを保有しているか、ではなく、どれだけの強さを発揮できるか、で決まるもの。
相手が100の実力を持ち、自身が10の実力しか持っていなかったとしても、9しか発揮させず、自分が10発揮すれば勝利できる。
もちろん、口で言うほど簡単なことではない。
Lvを上げ、ステータスを上げれば、スキルや固有能力、種族特性だって伸びる。特殊技能だって強いのを持っているかもしれない。
それにLvが高いということは、たくさんの敵対者や強い敵対者を倒してきたということ。
戦い方だって上手くなり、必勝パターンだって確立する。その数だけ強さを発揮してきたのだから。
しかしそれでも、そうやって強くなった者を、強さが発揮できない状況に陥らせることはさほど難しくない。
だから彼女達は口を揃えて後輩達に言う。
大切なのはステータスでも固有能力でもない、ひたすらの修練だ、と。
考えて、試して、直して、繰り返す。Lvを上げるのではなく、1つ1つの行動のレベルを上げることこそが勝利に繋がる、と。
良い事を言う。
……。
でもね、でも……。
「ええーん、ハチュ太郎ーっ、ミキーっ」
「ええーん、ウシ太ーっ、ウシ江ーっ」
「ええーん、トラガースーっ、魔法瓶ーっ」
厳し過ぎる。
超がつくほどスパルタだ。
12歳という幼さをハッキリと残す3人の少女。
特にアリスは3人の中でも1番背が小さく少女らしい。くるくるの髪の毛と愛らしい顔立ち、しかしよく小生意気そうな表情をする小癪なアリスは今、泣きながら力を振るう。
被っていたパーカーのフードもいつの間にか落ち、ネズミの耳が頭からちょこんと出ている。フードは戻せない、その一瞬が文字通りに命取りだ。
3人の中で1番大人びた顔をしているのがイーファス。大人びたと言ってもあくまで3人の中での話。歳相応の顔立ちで、かけている眼鏡が知的さを思わせるだけのこと。
外せばやっぱり可愛らしく、いつも澄ました顔をしているのもまた可愛らしい。しかしそんな大人ぶりたいイーファスも今、泣きながら力を振るう。
ヴェルティスは3人の中で1番背が高く、案外1番大人な性格。アリスとイーファスの喧嘩の仲裁をしたり悩み相談を受けたりしながら、遊びのお誘いなどで取り合われるお姉さん的存在。
しかしその実、1番子供っぽい性格を持つヴェルティスも今、泣きながら力を振るう。子供っぽさを助長するツインテールと八重歯も心なしか必死。
3人共凄く泣いている。
泣きじゃくっている。
我が家の新人研修はこんなにも厳しいのか。
……魔法瓶って名前はどうなの……。
「あー美味しかった。ちょっと休憩ー」
ニルがそう言うと、3人の少女は膝から崩れ落ちへたり込む。そして大の字に寝転がった。
まだ建設中である干支達の階層は、今はただの森や草原。しかしそれゆえに、柔らかな草のベットと、穏やかで優しい風が身を包む。寝転がった時の気持ち良さには、中々のものがあるだろう。
しかし、3人は心地よさなど一切感じていない。抱く思いは、疲弊した体を、ほんの少しでも休ませたいという願いのみ。
荒い息とすすり泣く声だけが、何一つ変わらないままずっと続いていた。
これらの訓練は、ダンジョンの随所で行われている。
耳を澄ませば聞こえてくるだろう、近くで行われている、他の干支達の阿鼻叫喚が。
そして、これらの訓練は終わらない。
いつまで続くのか、と問えば、終わるまで、という答えが返ってくるのだから。
「アリス、イーファス、ヴェルティス、大丈夫か?」
俺は、スポーツドリンクとタオルを持って、3人へと駆け寄っていく。
「……ぜえ、ぜえ」
「……はあ、はあ」
「……ぜえ、はあ」
返事がない、まるでしかば……。
強くなるためとは言え、こんな小さな子供に、ここまで過酷な訓練を行うだなんて、非人道的にもほどがある。
一体誰がこんなひどいことをさせているんだ。
「ニル、もうちょっと訓練を優しくしてあげられないのか?」
「味を変えて甘い物甘い物、ん?」
俺は、スポーツ中にまさかのどら焼きを頬張るニルに、そう言ってみる。
先ほどの俺の誓いはなんだったのか。この子達のために何かできないだろうか。
そんな思いで。
しかし、不可能だ。
それに、そもそもこの訓練は……。
「もぐもぐ。駄目だよあるじ様ー。そんなことしたら、ダンジョンが踏破されてあるじ様が死んじゃうから。わたしは、そんなの悲しいから、一生懸命鍛えるのー。全部、あるじ様のためだよー」
そう、俺のために行われている。
ダンジョンモンスターを鍛えることとは、すなわちダンジョン強化。ダンジョンマスターを、死に難くすることである。
平たく言うなら、この地獄は俺のせいで作られた。
ニルのセリフが、なんだか凄い棒読みだった気はするが、照れ臭いセリフを言う時は、緊張するからそうなってしまうのも当然のこと。
敬愛するダンジョンマスターのためを思うからこそ、先生役の7人にも熱が入るのだろう。厳しい訓練を課してしまうのだろう。
むしろ、俺のせいで嫌われ役をしなければならなくなったニルにも、申し訳が立たない。
「きついようイー……」
「辛いようヴェル……」
「しんどいようアリス……」
そしてもちろんこの3人にも。
言い争う気力もないまま倒れ伏し、最早お互いの存在だけが心を支えているのだと言うように、手と手を触れあわせる。
こんなにも小さく、可愛らしい盛りで、それに喧嘩からせっかく仲直りをして、これから楽しく遊べる、そんな時に……。
……。
……。
……。
俺は目をつむる。
おいダンジョンマスター、良いのかこれで。
すると、そんなことを、内なる俺が語りかけてきた。
ダンジョンマスターとはなんだ、ダンジョンモンスターを1番に愛しているのは誰だ。
こんな状況を許せるのかっ? そんなことを。
……許せるわけがない、でも、でも、俺にはどうすることもできないんだ。
俺は答える。
1つ、あるじゃないか。
そんなものないよっ。あるわけがない。そんな手があるのなら、俺はもうやっている、無いから俺は、こんなに無力感を味わっているんだ。
ある、たった1つだけ。
お前は、それをしたくないから、気付かない振りをしているだけだっ。
なん……だと? 俺が、この俺が、我が身可愛さに、可愛い我が子を見捨てているというのか? そんなことは断じてない。
この状況を解決できる方法なんて、どこにもっ、どこにもな――、はっ。
俺は、否定の言葉を、思わず止めてしまった。
1つ。そう、1つだけ、この地獄を止める術があったからだ。
「気付いたか」
気付いたか。
内なる俺が、さらに語りかけてくる。
ち、違う。これだけは、これだけはやめてくれ。
俺は否定する、しかし。
「さあ、早く言え」
さあ、早く言え。
内なる俺は、止まらない。
くそう、やめろ内なる俺よ。貴様とて、ダンジョンマスターだろう?
「言うんだー」
言うんだー。
この罪の重さが分からないのか。これ以上、悪に染まれと、俺が俺に言うのかっ。
「言わないと食べちゃうぞー」
言わないと食べちゃうぞー。
や、やめてくれー。
……ん? 食べちゃうぞ?
俺は、つむっていた目を開けて、横を見た。
そこには、俺の耳元で囁くニルの姿があった。
「バレたか」
「マインドコントロールっ」
なんて恐ろしい、なんて恐ろしい子っ。
内なる俺の振りをして、実の親たるダンジョンマスターを、マインドコントロールしようとするとはっ。一体これで何度目だっ。え、俺何回もやられてんの?
「バレちゃったらしょうがないね、諦めるよー。諦めて訓練再開するよ」
しかし今回はどうやら乗り切ったようだ。
危ない危ない。
だが、……その代わり、訓練が再開されてしまった。
あの、地獄の訓練が。
「ううう、辛いよう」
「ううう、しんどいよう」
「ううう、きついよう」
……。
……。
……。
「ニルよっ。そしてアリス、イーファス、ヴェルティスよ。お願いがある」
「何ー?」
「なんですか」
「なんでしょう」
「なによ」
「最近、借金の利子が膨らんできてね、そろそろ払いたいと思ってたんだ。だから、ダンジョン内で、訓練じゃなく……、訓練じゃなく……」
「ワクワク」
「ドキドキ」
「ドキドキ」
「は、早く言いなさいよっ」
「訓練じゃなく……、ダンジョン、外で……、稼いできては……くれない、くれないでしょうか……」
「仕方ないなーあるじ様はもー」
「わーいやったー、実戦だーっ」
「これでやっと解放されます……報われます……」
「べ、別にあんたのために行くわけじゃないんだからねっ。今回はホントに」
「ううう、うううう」
涙が止まらない。俺はダンジョンマスターとして、既に極悪に染まっている。
まさに悪逆非道のダンジョンマスター。
でも、これで良いんだ。
可愛いこの子達をあの地獄から救いだせたのなら、俺はそれだけで……。
あと、借金をこれでちょっと返せる。
全体の5%だから、4人で稼いできてくれたら結構な額、俺はそれだけで……。
「じゃあ、行ってくるけどあるじ様、あるじ様の命令で行くんだし、わたし達の人数も増えたから、強化費とかは1%で良いよねー?」
「え?」
「妥当なところと思いますよ、ニル先輩。となると79%が自分の取り分かー、強いの狙おーっと」
「良いと思います。でも私は攻めるの苦手ですからね、ちゃんと稼げるか心配です」
「じゃああたしと協力する? べ、別に一緒に戦いたいわけじゃないけど、イーファスの子達がいれば誘導もして貰えて、攻め重視にできるなーって思っただけだから」
「え、イー、ヴェル……」
「お願いしますっ。総指揮は任せるねっ」
「良いけど。頑張るわよーっ」
「……ワタシ……。……、……、ワ、ワタシも負けないぞー。……」
「ふふっ」
「あはは、アリスーっ」
「え? え?」
「アリスも一緒だよっ」
「決まってんじゃないっ」
「――っ」
「負けないぞー、だって」
「ちょっと涙目だったしっ」
「違うっ。違うっ。も、もう。うぅ……。あ、そだっ。べ、別にワタシも、一緒に戦いたいわけじゃないけど入ってあげる」
「あ、ヴェルだ」
「ちょ、ちょっと何言ってんのよー。全然似てないわよっ」
「ソックリだよーだ」
「そっくりそっくり」
「似てないわよーっ」
「コラ3人共ー、ダンジョン外の戦いは、思ってるより厳しいよー。気を引き締めること、良いー?」
「はいっ」
「はいっ」
「はいっ」
「それじゃあ、行って来まーす」
「行ってきまーす」
「行ってきます」
「行って来るわー」
4人は旅立つ。
このダンジョンではない、どこかへ。
すぐに帰ってくるのだろう。瀕死の、魔物を連れて。
俺は、それを涙ながらに見送った。
なぜ泣いているのかって? 簡単さ。
あの、アホの限りを尽くしていたニルが、あんなにも立派に育ったからさ。
後輩ができたことで、ああまで変わるとは、誰が予想していただろう。俺に交渉をして、後輩を諌めて、あんなことができるようになるだなんて……、俺は感動した。
だから泣いているんだ。
そうだよな? 内なる俺。
ああそうさ。ダンジョンモンスターがダンジョン外で殺戮を行うことや、Pがほぼ入って来ないことについての涙は、ちょっとだけさ。
内なる俺の歯が、キラリと光り、俺の頬の涙も、キラリと光った。
お読み頂きありがとうございます。
そして誤字報告して下さる方、ありがとうございます。とても助かっております。
投稿する際に確認しておりますが、やはり誤字は多いです。お手数かけないよう頑張りますが、これからも時々助けて頂けると幸いです。




