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第61話 アリスとイーファスとヴェルティスを。

悪逆非道のダンジョンあるあるその1

高階層の守護者による低階層の蹂躙。

低階層の侵入者は、ただただ命を失い、ダンジョンマスターは胃痛と心労で余分に疲れるというお互いの損のこと。

 ダンジョンモンスターが一気に100体増えることも、なんなら1000体増えることも珍しくはない。

 しかし、ネームドモンスターは、1体増えるだけでも珍しい。

 2体増えるなどは、ほとんどありえないようなことだと言えるだろう。


 ネームドモンスターは、そのダンジョンの勢力図を、そして在り方を、変えてしまうような、強大な存在なのだから。


 しかし、ここに、1日にしてネームドモンスターが21人も増えたダンジョンがある。

 そう、それこそが我がダンジョン。


 ネームドモンスターどころか、ダンジョンモンスターすら7人しかいなかったダンジョンに、突如として21人のネームドモンスターが加わった。

 増えたというにも、あまりにも異常な増え方である。

 ゆえに、当然、毎日のように様々な問題が発生している。


 例えば、アリス、イーファス、ヴェルティス。

 干支年少組の3人では。


「イーの馬鹿っ、デブ」

「デ、デブじゃないですっ。アリスこそ、チビじゃないですかっ」

「ちょっと2人共、やめなさいよ」


「うるさいっヴェルのペチャパイっ」

「そうですよっ、ヴェルのペチャパイっ」

「ペ、ぺちゃ……。アリスのチビスケっ、イーのデブっちょ、もうあんた達のことなんて、知らないんだからねっ」


 喧嘩が。


 アリスは言う。

「絶交っ、もう絶交っ」

 

 イーファスは言う。

「絶交っ、絶交しましょうっ」


 ヴェルティスは言う。

「あんた達なんて大っ嫌いっ」


 ダンジョンマスターは言う。

「ほらほら、そんなことを言ってないで。仲良くしなさい、ちゃんとごめんなさいしよう」


「王様はあっち行って」

「王様は関係ないですっ」

「あんたも大っ嫌いっ」


 些細な言い争いから始まった口論は、瞬く間に激化して、お互いを罵りあうようになってしまった。

 そして、アリスはそっぽを向いて、どこかへ走り去ってき、イーファスは懐から本を取り出し、読みながらどこかへ歩き去り、ヴェルティスは……。


「ひっく、ひっく、大っ嫌いって、言っちゃった……、ひっく」

 と、大粒の涙を流して泣いていた。


 ヴェルティスは、悪口を言われたことが悲しいと泣いているのではなく、嫌いだと言ってしまったことに泣いている。

 嫌われたらどうしよう、そして、傷つけてしまっていたらどうしよう、と。

 それは、誰もが子供の頃には持っていて、しかし時が経つと共に失ってしまった、美しく尊い涙だった。


 アリス、イーファス、ヴェルティスの3人は、ほとんどの時間を一緒に過ごし、確かに仲睦まじく遊ぶのだが、その分、喧嘩も頻発させる。

 時には、そんなどうでもいいようなことでも喧嘩をするのか、と思えるような些細なことでも。


 しかし、先ほども言ったように、これはきっと、俺が急激にネームドモンスターを増やしたことによる弊害なのかもしれない。

 他のダンジョンではおそらく、ネームドモンスター同士ですらも、こんな喧嘩はおきていまい。

 原因は俺。

 ならば、俺が解決しなければいけないことだ。今日のダンジョンマスターの仕事は決まった。


 俺は、アリスが走りだした方向へ向かう。


 29階層の守護者、アリスは、パーティーハイラット種族といういわゆるネズミであるが、亜人型で生成されているため、見た目はネズミでなく、愛くるしい12歳の少女である。


 灰色の髪はくるくるだがサラサラと1本1本が細くて、目はくりんとした、薄い水色と灰色のオッドアイ。

 背が小さく、パーカーのフードを被っていて、おしゃまなところもあるが、年上には甘え上手で同年代にはイタズラ好きな、楽しげに笑う笑顔が似合う少女である。


 身長は138cmと、年齢に対しても中々小柄。

 頭に生えているネズミ耳も勘定に入れたなら、140cmを数cm越えることになるが、我が家では耳や角などを身長として計算できないため、残念ながら140cmには届かない。


 体重は……不明だが、12歳っぽくない痩せ型で、手足もスラッと長いため、軽い部類だろう。

 また、我が家では、耳や角が身長に入らないのに、体重に入るのはおかしいのではないか、という反対運動が起こったため、実際の体重よりも少し軽くなる傾向がある。

 アリスには耳と尻尾しかないので、そう軽くはなっていないはずだが、体重自体がそもそも30kgを切っているかもしれない。

 少なくとも、同年代の友人のことを、デブ、とからかうくらいには、痩せている。


 とまあ、ともかくアリスはそんな、身長が小さいことを気にして、たまに背伸びして歩いていたりする小柄な少女だ。


 しかし、アリスは、イタズラっ子である。

 特に、同年代で仲の良い2人をターゲットにすることが多いため、それが、喧嘩の原因になるのだ。


「はいこれ、イーファスが好きって言ってたお菓子。一緒に食べよ」

 と言って、差し出せば、それには必ず辛子などが塗られていたりする。そうして、イタズラ大成功と言わんばかりに、咳き込んでいるところを指差しては、大笑いする。

 しかし当然怒られる。そして、アリスは不機嫌になって、口論が始まる。


「気付かない方が悪いんじゃんっ。あ、そっか、お菓子だったからだ、だから太るんですよ? 自分で分かりません?」

 そして、そんな風に煽ってしまう。

 今回の喧嘩も、発端はそれであり、そこから発展して起こったものであった。


 俺のような、年上であったり上の立場の者であったりが、普段から都度注意してやれば良いのだろうが、アリスは、そういった者と話す際には、愛想と愛嬌たっぷりの、満面の笑みとキラキラした目で、ネズミなのに猫なで声を出す。

 明らかに、自分が可愛く愛くるしい姿をしていると、分かった上での行動であり、そこからはずる賢さや腹黒さ、それから狡猾さが垣間見えるのだが、本当に可愛いため、みんなついつい甘やかしてしまうのだ。


 叱ってやるべきなんだろう。

 けれども、やっぱり叱れない。

 特に、喧嘩をした後の、アリスの顔を見たことがあれば、なおさら。


 アリスが走り去った方向に向かうと、ほんの10数m行ったところ、先ほどいた位置から、通路の角を曲がって、丁度見えなくなるくらいの辺りで、見つけることができた。

 アリスは、しゃがみ込んで、壁を背にもたれかかって、膝を抱え込むようにしている。


 その顔は、とてもとてもつまらなさそうで、落ち込んでいるようで、目はウルウルしており、眉間にシワを寄せていなければ、涙が零れてしまいそうだった。

 アリスは、1人で遊ぶのが苦手で、しかしその分、誰かと遊ぶのが大好き。

 同年代でもあるイーファスやヴェルティスと遊ぶのは、特に楽しいのか、何よりも楽しみにしていて、3人とニルでスキーに行く、と決まった前日などは、わくわくし過ぎて、眠れなくなってしまうほど。

 深夜に俺の部屋に来ては、眠れないからダンジョンマスター論聞かせて、とねだっていたな。

 どうして眠れないと、ダンジョンマスター論を聞きたがるのかは、よく分からないが。安心できるのかな? 確かに途中で眠っていた。


 俺は、アリスに向かって歩いていく。

「……なんですか」

 アリスは、足音が近づいてくるのを聞いて、パッと嬉しそうに顔を上げたが、俺だと分かった途端に残念そうな顔をして、いつもの猫なで声ではない、ぶっきらぼうな声で言ってきた。

「今話しかけないでっ」

 直後、強い言葉で拒絶してくる。


「まあまあ、そう言わずに。……今日は良い天気だねえ、そうだ、この前スキーに行って来たんだろう? どうだった?」

「……、スキー……」

 しかし俺は隣に座って話しかけ続けた。

 任せておけ、必ず仲直りをさせてみせる。なぜなら俺は、君達のダンジョンマスターであり、そして、唯一の人間種族のダンジョンマスター。交渉事は、何よりも得意なのさっ。


 俺は、事を荒げないよう、そしてアリスを最終的に説得するため、アリスの言葉を否定せず、全て頷き肯定する作戦を取った。

 それが功をそうしたのか、話は進み、アリスの口調はヒートアップ。

 ついに、イーファスのことになる。

「イーが酷いのっ、イーは馬鹿っ、デブっ」

「うんうん、そうだねえ。酷いねえ」

「王様に何が分かるのっ、イーが酷いんじゃないもんっ。ワタシが……、王様の馬鹿っ、最低っ、もう知らないっ」


 結果。大失敗。

 俺まで嫌われる最悪の事態に……。


「いや、まだだ、まだ、イーファスとヴェルティスに仲直りしたいと思って貰えば」

 俺はそう思って、今度はイーファスのいる、図書館へと向かった。


 30階層の守護者、イーファスは、クレバーハイカウ種族といういわゆるウシであるが、亜人型で生成されているため、見た目はウシではなく、知的な12歳の少女である。


 少し硬めの質感の髪は、橙色よりも少し茶に染まっていて、上縁のみの知的な眼鏡をかけた奥の瞳は、両方ともが綺麗な橙色。

 デニム生地のオーバーオールに身を包み、計算高く行動することもあるが、知識欲が高く何ごとにも興味津々に目を光らせる、らんらんとした驚きが似合う少女である。


 身長は149cmちょっとと、年齢に対し平均的な身長。

 角や耳は数字に入れないが、あれば153cmか4cmかそのくらいにはなっただろう。


 体重は……不明だが、年齢に対し平均的な幼児体型なため、軽い部類ではない。


 これは余談であるが、ダンジョンにおいて数ヶ月に1度行われる身体測定では、毎度毎度、耳や角が10kg近くあると主張する者がいる。誰とは言わないが。

 全く嘆かわしい話だ。

 なお、角が10kgであると、主張し過ぎた結果、研究施設に送られ、1gの誤差もなく検出されてしまった者もいるのだとか。


 ……ただ、ダンジョンモンスターだから、身長も体重も、なんなら体型すら一生変わらないと思う。なんのために測っているんだろう……。


 とまあ、ともかくイーファスはそんな、体重が重いことを気にしてか、ヒップホップダンスを初めていたりする眼鏡の少女だ。


 しかしイーファスの本来の趣味は読書で、いつでもどこでも本を読んでいる。

 そうしていないのは、同年代で仲の良い2人と、遊ぶ時など。趣味の読書よりも、2人とお喋りする方が楽しいのだ。


「知ってました? ……男の人って、常にエッチなこと考えてるんですよ」

 と言って、どこで仕入れたか分からない情報を、共有し、ワーワーキャーキャーはしゃぐいで、大笑い。

 けれど時々、自分が知っていて2人が知らないことがあると、馬鹿にするような態度をとることもある。


「ふーん、こんなことも知らないの? もうちょっと勉強した方が良いんじゃないですか? やっぱり本ですよ本、貸してあげましょうか?」

 そして、そこからちょっと仲が険悪になってしまう。

 今回の喧嘩も、それが関わってなかったかと問われれば、おそらく関わっているのだろう。


 俺のような、より知識のある者が、それを諭してやれれば良いのだが、イーファスは、そういった者と話す際には、何ごとにも興味津々な輝いた目で、それって何ですか? と聞いてくる。俺には言ってこないが、ともかく聞いてくるらしい。

 そう、イーファスは、別に知識をひけらかしたいわけではないのだ。自分が知って驚いたことや、楽しかったことを、2人に伝えたいだけ。驚かせようと、楽しませようと。


 それを知って、誰が諭せるだろうか。

 特に、そうして失敗してしまった後の、イーファスの顔を見たことがあれば、なおさら。


 イーファスは、図書館の木の椅子に座って、足は爪先くらいしかつけないのに、ピシーっと綺麗な姿勢で、本を読んでいた。

 しかし、おそらく内容は頭に入っていない。さっきから見ていても、ずっと同じページを開いたままである。


 はあ、と時折ため息をついたその表情は、やるせなさや、自己嫌悪に満ちていて、眼鏡の奥の瞳は、今にも泣きだしてしまいそう。

 すると、その瞳が、俺の方を向く。


 その瞬間、顔はパッと明るくなったが、しかし、俺だと分かると、また悲しそうに本に目を落とした。

「……何ですか?」

 イーファスは淡々とした、いかにも何でもないです、という声で、俺に応対する。

「今、話しかけないでもらえますか。本読んでます」

 そして、パラリと本のページをめくる。

 しかしその目は、やはり文字を追わず、先ほど起こった悲しい出来事だけを思い出していた。


「まあまあ、そう言わずに。……今日は良い天気だねえ、そうだ、この前スキーに行って来たんだろう? どうだった?」

「……、スキー……」

 だから俺は隣に座って話しかける。

 任せておけ、必ず仲直りをさせてみせる。なぜなら俺は、君達のダンジョンマスターであり、そして、唯一の人間種族のダンジョンマスター。交渉事は、何よりも得意なのさっ。


 俺は、ことを荒げないよう、そしてイーファスを最終的に説得するため、イーファスの言葉を否定せず、全て頷き肯定する作戦を取った。

 それが功をそうしたのか、話は進み、イーファスの口調はヒートアップ。

 ついに、ヴェルティスのことになる。

「ヴェルが酷いんですっ、ヴェルは馬鹿ですっ、ペチャパイっ」

「うんうん、そうだねえ。酷いねえ」

「王様に何が分かるんですかっ、ヴェルが酷いんじゃないもんっ。私が……、王様の馬鹿っ、最低っ、もう知りませんっ」


 結果。大失敗。

 俺まで嫌われる最悪の事態に……。


「いや、まだだ、まだ、ヴェルティスに仲直りしたいと思って貰えば」

 俺はそう思って、今度はヴェルティスが泣いていた、先ほど喧嘩をしていた場所へ向かった。


 31階層守護者、ヴェルティスは、タイガージェネラル種族といういわゆるトラであるが、亜人型で生成されているため、見た目はトラではなく、ツリ目の12歳の少女である。


 黄色のツインテールには、ところどころに茶色のメッシュが入っていて、瞳は、左目が黄緑で、右目が黄色のオッドアイ。

 デニム生地のジャケットと、ひらひらのスカートを着こなし、子供盛りな可愛らしさと、子供盛りな素直さと、子供盛りな素直になれなさを持つ、八重歯が似合う少女である。


 身長は161cmないくらいと、年齢に対してかなり高め。体重は……不明だが、スラッとしているため、そう重くはないのだろう。

 体重を気にしているところを見たことがないし、体型から見ても、既に成長期を終えたような、そんなスリムな体であるため、重くはないはずだ。


 ただし、成長期が終わっているにしては、少し、体は平らである。

 そちらを気にしているところは度々見かける。深刻な様子ではないし、普段は忘れているようなのだが、人から言われたり、人のを触ったりすると、一瞬固まっていたりすることがある。


 とまあ、ともかくヴェルティスはそんな、胸が小さなことを気にしているのかいないのか、よく分からないが、素直にはなれないツンデレの少女だ。


 しかしヴェルティスは、3人の中では、まとめ役を担っている。

 1番背が高いからか、ヴェルティスはお姉さんなのだ。


「ちょっとあんた達、やめなさい、やめなさいって。はいっ、仲直りっ。もう喧嘩はだめよっ。良い?」

 と言っては、無理矢理2人を握手させる。それは本当に無理矢理で、不器用で、喧嘩を続けるのが馬鹿らしくなるようなもの。だからか3人は自然と笑ってしまう。

 けれど、だからこそ、ヴェルティスが怒ってしまったら。


「あんた達のことなんて全然好きじゃないっ。楽しいとも思わないっ。大っ嫌いっ」

 喧嘩はもう、止まらなくなる。

 そして、大喧嘩に発達する。


 けれども、それで1番後悔するのは、本人なのだ。

 誰もいなくなったその場所で、大嫌いと言ってしまった、それだけのことに、ずーっと、ポロポロと涙を零し続けるくらいに。


 ヴェルティスは、しゃがんで、目を擦って泣きじゃくっていた。

 少し離れた場所にいる、俺に気付いていない。

 それと、俺よりも近くにいる、アリスとイーファスにも。


 いや、今、ようやく気付いた。

 アリスとイーファスが、ほんの1mくらいの距離にまで近づいたから。


「――、なっ、なによ。べ、別にあんたらのことで、泣いてたんじゃ、ない、から……」

 ヴェルティスは慌てて立ち上がりそう言って、そっぽを向く。

 しかし、向いた後、チラチラと2人を見た。


 アリスとイーファスもまた、顔を伏せていて、時折顔を上げては、チラチラと2人を。目が合えば、急いで逸らして。

 誰も喋れない。

 誰か喋れば、きっと。


 頑張れ、頑張れ……。


 そんな、俺の思いが通じたのか、3人は一斉に顔を上げて、口にする。


「「「ごめんっ」」」


 そこからは、早かった。

 まるで水に、笑顔という名の塗料を落としたかのように、3人の表情はみるみる、泣き顔から変わっていったのだ。

 喧嘩していた空気感もどこへやら。

 3人は、いつも通り、ニコニコの笑顔で喋り、また何でもないようなことで大笑いする。


 ……俺が、何かをするまでもなかったようだ。

 子供っていうのは、いつの間にか成長しているもんだねえ。

 俺は、大きな喜びと、一抹の寂しさを抱えながら、今夜はお酒でも飲もうかと部屋に戻ろうと歩き始めた。


「王様っ」

 すると、後ろから声をかけられる。

「王様っ」

 アリス、イーファス。

「王様。その、……、はい、あげる」

 そしてヴェルティス。

 渡してくれたのは、袋にいくつか入ったクッキー。


「……くれるのかい?」

「べ、別に、頑張ってくれたお礼、ってわけじゃないんだからね、全然関係なくて、そう、いらないからあげたの。はい、早く食べてっ」

 改めて言うが、ヴェルティスはツンデレである。

 感情の言葉が逆になってでてくる、つまり、その言葉を逆に取れば……。子供というのは、いつだって大人を泣かそうとしてくる、俺は、油断すれば涙が出そうな感情に襲われていた。


「ありがとう、いただくよ」

 そして、それをごまかすかのように、袋を開け、俺は、クッキーをパクリと口に放り込む。

 ……苦い。

 ……いや、辛い。辛いな、これ。凄く辛いな。辛っ。


「美味しい?」

「美味しい?」

「美味しい?」

 目をキラキラさせて、3人は前のめりになって聞いてきた。


「……おい、美味しいよ……。でも、あの、水、くれる?」

 その答えを聞いて、3人はまた輝くような笑顔で笑う。

 そして、走って向こうへ行ってしまった。イタズラって楽しいでしょ、またやりましょう、べ、別に楽しく……楽しかったっ、なんて話をしながら。


「あ、王様」

「ん?」

 しかし、ヴェルティスだけ1人戻ってきて、俺を呼ぶ。


「さっきの大嫌いっていうのは……、……、やっぱりなんでもないーい、ばいばーい」

 けれど、また、去って行った。


 俺は、水を生成し、ガブ飲みして。

 また、クッキーを1枚食べて、やっぱり水をガブ飲みする。


 窓を覗けば、天気は快晴。

 庭園の花畑では、3人の子供が、弾けんばかりの笑顔で遊んでいた。


 それを見て、俺は誓う。彼女達の笑顔を守ろうと。

 彼女達を仲直りすることこそできなかったが、そのくらいの力は、俺にだってあるはずさ。

 必ず守ろう。

 クッキーをまた1枚食べた。ああ、辛い。


 ……しかし。

 その誓いが、まさか、たった数秒で破られることになるとは、俺はこの時、思いもしなかった。

 そう、ここはダンジョン。

 彼女達はネームドモンスター。


 であれば、必ずあれが行われる。


「あるじ様1枚ちょうだーい。んー辛いのも美味しいーっ。あ、アリス、イーファス、ヴェルティス、庭に出てるのー、丁度良かったー。じゃあ29階層に行くよー、今からやるからー、修行」


 地獄のような、猛特訓が。

新章に突入致しました。


支えて下さっている方々、本当にありがとうございます。

何か少しでも返せるよう、これからも頑張ります。

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