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第60話 宴もたけなわ。

ダンジョンあるあるその23

100年間、誰も入ってこない。

実際は小さな虫魔物程度なら入ってくるため侵入者がいないわけではないが、天変地異やそれに類するものにより一気に過疎化現象が起こり、侵入者が極端に減ること。

 上級風竜、マキナ。

 吸血鬼公爵、セラ。

 ハイダークエルフ、オルテ。

 ワーフェンリル、ローズ。

 金華妖狐、キキョウ。

 ハイピュイア、ニル。

 召喚勇者、ユキ。


 サキュバスクイーン、ティア。

 ダイヤモンドガーゴイル、ホリィ。


 麒麟、ミロク。

 玄武、ククリ。

 白虎、リリト。

 朱雀、トトナ。

 青龍、ナナミ。


 子、アリス。

 丑、イーファス。

 寅、ヴェルティス。

 卯、エリン。

 辰、カノン。

 巳、ケナン。

 午、コーリー。

 未、サハリー。

 申、シェリー。

 酉、スノ。

 戌、ソヴレーノ。

 亥、タキノ。


 下位天使、チヒロ。

 下位悪魔、ツバキ。


 元いた7人と合わせ、28名となった我がダンジョン。

 以前と比べれば4倍の人員と、一気に随分大所帯になった。


 ただしダンジョンモンスターの総数がそれだけであると考えた場合、相当に少ないと言う他ない。

 100階層規模の自然型ダンジョンであれば、ダンジョンモンスターの平均数は1万体をゆうに越えているだろうから。


 多いところでは10万体に近いところとてきっとある。28体なんてのは、5階層もない駆け出しダンジョンの数だ。

 100階層あるのにそれだけしかいないダンジョンなんて他に、間違いなく存在しない。


 その言い訳として1体にかけるPが多いんですよと言いたいが、実はダンジョンモンスター生成にかけた総Pでもハッキリ劣っている。


 マキナ生成に使用した6万Pを筆頭にユキの登用の4万Pも含め、今回の21人分も入れたなら、合計は45万2000P。

 それで1万体を生成しようと思えば1体辺り45P程度の魔物しか生成できない。


 1階層から20階層辺りは、倒される役割のダンジョンモンスター、いわゆる弱コモン魔物の生成Pが1Pから10P、一際強く倒されない役割のダンジョンモンスター、いわゆる強コモン魔物の生成Pが20Pから40P。階層ボスは20Pから80P。

 1体45Pしかかけなくても十分に生成できる。


 21階層から30階層は、弱コモンが10Pから40P程度、強コモンが50Pから80P程度、エリアボスが100P近辺で、階層ボスは200Pいくかいかないか。

 この辺りも1体45Pで十分生成可能。しかし余分はもう少ない。


 31階層から40階層は、弱コモンが30Pから80P程度、強コモンが100Pから150P程度、エリアボスが200P程度で、階層ボスは300Pから400P辺り。

 そしてこの辺りから1体45Pでは足が出始める。


 41階層から60階層は、弱コモンが70Pから150P程度、強コモンが180Pから280P程度、エリアボスが400P程度で、階層ボスは600Pも有り得る。


 61階層から80階層は、弱コモンが130Pから230P程度、強コモンが260Pから400P程度、エリアボスが500P程度で、階層ボスは600Pから800P。最終階層守護者なら1000P以上。

 ダンジョンモンスターの総数は多ければもちろん5万体を越えたりもするが、平均は80階層で6000体から7000体くらい。


 そして81階層から100階層は、弱コモンが200Pから330P程度、強コモンが350Pから500P程度、エリアボスが600Pクラスで、階層ボスが800Pから1000P。最終階層守護者が1200Pから1500P辺り。


 45万Pでは到底賄えない。

 賄えても70階層か80階層までか、その辺りだろう。

 特に81階層から100階層は、計算上1階層揃えるだけでも3、4万Pもかかるので、そこだけに照準を絞っても足りない。


 だが、逆に言えば45万Pを使用すれば70階層80階層辺りまでダンジョンモンスターを生成できるのだ。

 6000体から7000体の、800Pほどのボスを含むダンジョンモンスターの軍勢を揃えられるのだ。


 45万Pとはそんな莫大な数字である。


 それをたった28人に集約させたのが、我がダンジョン。


 ……良い響きだな、それをたった28人に集約させたのが、我がダンジョン。


 くくく、そうさ、それをたった28人に集約させたのが、我がダンジョンなのだっ。


 なんたる強者感溢れるセリフだろうか。

 いつかは言ってみたい。


 しかし、だからだろうか。

 だからなのだろうか。

 だからこそなのだろうか。


「おいお前ら、ちょっと戦おうぜ。ダンジョン最強のアタシの力、見せてやるぜ」

「良いですか、このダンジョンには100の掟があります。存じているでしょうが破れば死あるのみ、骨身に染みるまで死と蘇生を繰り返して頂きます」

「飴は噛む物じゃないって言ってるだろっ、分からないのか? 殺すぞ」


 ちょっとね、ちょっと扱い辛い。


「貴様等は主様への敬意が足りんっ。良いか主様はなー」

「わっちはもう部屋に帰るからの」

「ご飯足りなーい」


 別に悪い意味じゃあないんだ。でもなんだかなあ、うん、性格かなあ、個性かなあ、ぶっ飛んでるよね。

 決して悪い意味じゃあないんだ。良い意味でもないんだけど。いやまあ良い子達なんだけど。ともかくぶっ飛んでるんだ。


「ワタシは神だ、崇めろーっ」

 ぶっ飛んでる。


「ええいもう後輩達に絡むんじゃありません。君達は君達だけで飲んでなさい」


 宴会場と呼ぶ他なくなってしまった玉座の間の一角に、俺はさらなるスペースを設け7人を誘導する。

 2,3度絡まれたが、程なく隔離に成功。彼女達は彼女達だけでわいわいと飲み始める。


 何を話しているのかは分からないが笑顔も垣間見えている、扱いづらいし強過ぎるが、彼女達は女の子なのだ。

 3人寄ればかしましいと言われる女の子、しばらくはきっとああやって話し続けることだろう。


 ふう、世界に平和が訪れた。


 パワハラ等々から解放された後輩達は、飲み直すために役目を同じくする者同士で再び集まる。

 彼女達は今日生成されたばかりの我が配下。

 暴走する7人を止めるため、そして優しさと安らぎをこのダンジョンにもたらすため生成された21人だ。


 暴走する7人の暴走度合いが俺の予想を遥かに越えていたためそちらの役割は果たせそうにないが、もう1つの役割に関しては大丈夫そう。

 かしましく会話している彼女達はきっと、俺の心を癒してくれるに違いない。


 俺はまず天空城砦に配備された2人、ティアとホリィに目をやった。


「このお皿とグラスが空になったら死のう、そうしよう」

「ごきげんようティアさん。あらもうお皿が空になりそうですわね、とってきますわ。はい、お酒も注ぎますわね」

 ……。


「ううう減らない、何一つ減らせない。わらわのすることは全部無駄になるの、生きてる意味なんてない」

「気分が良くなって参りましたわ、演奏でもしようかしら。ティアさん歌って下さる?」

 ……。


「ああ、死にたい。でも死んでも生き返る。どうしようもない八方塞、どこにも光なんて見えない。守護する場所にも光はささない」

「楽器楽器、あら? この料理はなんでしょう、とても美味しそう。ティアさんはご存知? どうぞ」

 ……。


「増え続ける料理、減り続けるわらわの価値。ちゃんとしないと、わらわは一番最後の階層だからちゃんとしないと駄目なのに……」

「まあとても美味しいですわ。ここにある料理はどれもとても素敵です、まさしくわたくしが守護する城に相応しい。そうは思いませんことティアさん」

 ……。


「……死にたい」

「楽器楽器、マラカスしかありませんわ。でも構いません、鳴らしてると盛り上がりますわね。そうだ、ドレスに着替えましょう」

 ダメだ、ここの会話を聞いていたら頭がおかしくなる。


 何なんだあれは。なぜ成り立つ。酒のせいか? いや酒のせいでもあの会話はおかしいよ、嫌だよ。

 癒されないどころかむしろ心が穢された思いだ。


 だがしかし、あの2人がおかしいということは既に分かっていた。悲しいかな、あの2人も初期の7人に負けず劣らず個性がぶっ飛んでいるのだ。

 なんなら俺に迷惑をかけないことを除けばあの2人の方がぶっ飛んでいるかもしれない。


 俺がティアとホリィを最初に見たのは、消化しておこうと思っただけ。

 嫌いなものは最後に食べるよりも最初に食べた方が、後味残らないし、それからの食事も楽しめる。完璧な計算である。


 さあ、口直しを始めよう。


 きっと五獣を見れば、この痛んだ心も癒される。

 ミロクの優しさが俺を癒してくれるのさ。


「4人共……、ほら、さっき言ってた事。もう1回聞かせて欲しいなあ、なんて言ったの?」

 ……。裏目に出でいるっ。

 こいつはヤバイ方のミロクだっ。いやどっちも同じミロクなんですがね、表裏一体とはまさにこのことっ。どうなる四獣、どうする四獣っ。


「姉さん、その、大好きだ」

「ミー姉、まあ、大好きだよ」

「ミー姉、大好き……」

「ミー姉、大好きさ」

 ……?


「嬉しいっ。お姉ちゃんも皆の事大好きだよーっ」

 ……、裏目じゃなかったっ。


 4人を抱きしめるため精一杯手を広げるミロクと、自分から抱きつく4人。

 美しい姉妹愛がそこにはあった。

 俺の痛んだ心はみるみる内に癒される。


 これだよこれ。いや俺の求めるのは俺の方に向いてる優しさだからちょっと違うけど、でもこういうので良いんだよ。

 俺の胃を痛める光景が多過ぎるんだから、見てて安心させてくれる光景、これが一番なんだ。


 ああ、良かった。さすがミロク。

 我がダンジョンの良心。

 キレてるタイミングじゃなくて本当に良かった。


「……でも、さっき言ったことは取り消せないからね? 長い方のキリンってどこが長いの? 言ってごらん? ほら」

 ……。


 ……。


 ……干支はどうなってるんだろう。


 干支の方はミロクのようなまとめ役がいるわけじゃない。

 年長者か最終階層がまとめれば収まりが良いのだろうが、年長組はドS卯、スポ根辰、悪巧巳の3人なわけだからまとめ役になられると困るし、ドM亥がまとめ役になるのはさらに困る。


 若女将スノとツッコミのコーリーに期待するしかないが、果たして。


 俺は干支の集団を発見したのでそちらを見る。


「やめてーっ、来ないでーっ」

 怯えるアリス。


「これ以上近づいたらっ、いやーこれ以上近づかないでーっ」

 追い詰められているイーファス。


「やだっ、このクズっ、変態っ」

 涙ながらに叫ぶヴェルティス。


「えっへっへ、可愛い、かわゆいねえ。もっと罵って、もっと殴って、蹴って踏んでぇーっ」

 迫るタキノ。


 何が起こってるのかと思ったらお前がやってるんかいっ。どんな未曾有の危機かと思ったらただの変態の嬉々じゃねえか。

 舌を出し目をひんむいてタキノは3人の少女達へと駆けて行き、3人の少女達は逃げ惑っている。誰か助けておやりよ。


「まあまあタキノ、それくらいにしてこれ飲みなよ」

 そう思っていた矢先、颯爽と現れたスノ。さすが若女将、期待通りだ。

 ソヴレーノがユキに絡まれていた時は少々力不足だったが、干支達相手ならばきっちりまとめられている。


「しょうがないにゃー。あ、これ美味し――グフゥッ」

 ……?

「あーゴメンこれサハリーちゃんから貰ったやつだった」


「ぐぅぐぅ。……大丈夫、ただの麻痺。心臓の。……ぐぅぐぅ」

「ゴバァ……」

 ダメじゃん。


「ふふふ、タキノ、そこで諦めたら試合終了ですよ」

 カノンはなんなんだ。

「カノンさんそれなんですかっ」

 シェリーはどこにでも食いつくな。


「先ほど序列7位のユキ先輩が仰っていた言葉です。アタシはこの言葉を聞いた瞬間涙が出ました、なんと素晴らしい言葉なのかと」

「凄いっ、凄いです流石神っ」

 いやパクリだよそれ。


「うーん悩むわねえ、辛子と山葵って鼻に詰めるのどっちが良いのかなあ」

 急に怖いことを言い出すエリン。

「それ気になりますっ」

 乗っかるシェリー。

「そういうのは試してなんぼや。なーに間違っとったらそこで反省したらええねん」

 煽るケナン。


「じゃあシェリーちゃんそこに」

「はい、注入っ」

「ぬはあああああああーんんん気持ち良いいいぃーっ、ガクッ」

 そして犠牲になったタキノ。いや気持ち良いって言ってるし良いか。


「だからね、ボクは男じゃないんだよ。ねえ、分かるだろう?」

「聞いた、もう聞いた。何度も聞いた、お前酔ってるだろ、わたしの水をやる、飲め」

 違う場所で行われているコーリーとソヴレーノの会話。


「男扱いするなっ」

「してないだろっ」

「君だって胸が小さいんだから分かるだろ?」

「余計なお世話だ。揉むな」

 なぜか膝で泣いている。まあ、害はない、放っておこう。


「はぁ、はぁ、この、カスっ」

「やっとこの気持ち悪いクズは寝たのですね」

「バカっ、アホっ、ホントきもいっ」

 タキノが去ったことで年少組の3人はほっとしたのか、倒れ伏しているタキノを遠巻きから罵倒していた。


「……ま……、だ……」

 だが。


「ま……だ……、まだ……」

 タキノは立ち上がる。


「まだ、諦めるわけにはいかないっ」

 タキノ、何がお前をそこまで……。


「踏んで貰うまでは諦めるわけにはいかにゃーいっ」

 こいつはアホだ。いや変態だ。


「ふっ、中々泣かせること言うやないかい。協力すんで、タキノっ」

 そしてそこにケナン参戦。何でだよ、何でちょっと泣いてるんだよ。情に脆いってそういう感じなの?


「根性ですか、ふふ、アタシ達は大切な何かを見失っていたのかもしれませんね」

 カノン参戦。いやだから何でだよ。どうしてカノンまで泣いている、号泣じゃねえか。


「ふふふー、アリスちゃんつーかまーえたー」

 エリン既に参戦済み。年長3人組ぃ……。


「いやあっ、助け、助けてーっ」

 捕まったアリスは本気で暴れている。涙目になりながら助けを求めていた。


「ア、アリスっ。ア、アリスを離してーっ、離さないとっ、離さないとーっ」

「アリスを離しなさいよーっ。バカバカアリスーっ」

 それを助けようと必死な年少組。あんなに言い争って喧嘩していたのにピンチではこうも団結して助け合う。なんて厚い友情だ。


「ぐふう、うちはもうダメや。あんなもん見せられたらっ」

 ケナン脱落。情に脆すぎるだろ。

「なんて根性だ、ナイス根性っ」

 カノン脱落。意味が分からない。


「さあてどこ触っちゃおうかなー? ここかなー? それともここかなー?」

 しかしエリンはぐっと捕まえて離さない。こいつが1番の悪やでえ。


「いやあっ助けてえーっ」

 暴れるアリス、誰か助けておやりよ。俺は誰かいないかと干支達を見ていく。


「そうだりょー、男じゃないことを証明しろーっ」

 コーリーはもう酔いすぎだし。

「そう、弱い者は死ぬだけだ。死にたくなければ強くなれ、乾杯」

 ソヴレーノもまた酔ってんな。

「ぐぅぐぅ」

 サハリーは起きろ。


「はいはい、そこまでそこまで。おいでアリス。もうみんなからかい過ぎ」

「スノーっ」

 どうなると思った矢先、救世主スノ登場。エリンの手から逃れたアリスはスノへと飛び込む。


「えー、これからが良いところだったのにい」

「ごめんごめん、エリン、これ代わりにあげるから我慢して」

「代わりのタキノちゃんでございまーす。ぐっへっへ」

「これ嫌なんだけどなー」

 そしてどうやら円満に収まったようだ。


「うえーん怖かったよー」

「アリスーっ」

「良かったアリスーっ」


「イー、ヴェルー。えええーん」

「ごめんねーごめんねアリスー、えええーん」

「ホントに無事で良かった。スノありがとうー」

「いいえ」

 年少組が母のような女性に抱きつく光景、なんて美しい愛だ。


 干支を生成して本当に良かった。

 いつまでもいつまでも、この子達は俺の心を癒してくれる。


「ああコイツの髪の毛めっちゃ気持ちええー」

「これはずっと触っていられる。もう試合終了だーっ」

「ぐぅぐぅ……」


「何っ、君っ、意外と大きいじゃないか、裏切り者ー裏切られたー」

「フフフ、小さければ死ぬ、それだけだ。乾杯」

「なんですかそれっ、教えて下さい、教えて教えてーっ」


「このワサビ全部入れてやるっ」

「タバスコも持ってきました」

「鼻はマスタードで、目がタバスコね。変態はここでおしまいにしてやる、いくわよーっ」


「良かったねタキノちゃん、小さい子達が虐めてくれるってー」

「わーい、嬉しいなあああああああびゃああっんんん気持ち良いいいいぃ」

「空いたグラス下げるわよー」


 ……いやそんなことねえよ。


 拝啓他のダンジョン様。1万P以上つぎ込んで生成した魔物の個性ってさ、こんなに強いの? 是非教えて下さい。そして助けて下さい。


 俺に残されたのはもう天使と悪魔のチヒロとツバキだけじゃないか。この子達がダメだったら俺はもう終わりだ。胃も心も、もう終わりだ。

 が、しかし。チヒロとツバキは俺の願いを、安らぎを得たいという願いを受け、その通りに生成されている。

 きっと俺のダンジョンマスター生で1番の安らぎを――。


「アタシが一番強いに決まってんだろーっ」

 ん?


「なんてったって最強決定戦の第1回大会で勝ってるんだしな。第4回大会も優勝してるし」

「おいおい、聞き捨てならないな。第2回大会と第8回大会を制したワタシが最強に決まってるだろ。マキナと違って2位も1回取っている」

 あれあれ?


「複数回優勝している方々はやはり言うことが違いますね。しかしお2人とも忘れているのでは? 第6回大会では2人がかりで私に倒されていることを」

「……総撃墜数、11。……2人は9。……キキョウ8、……ローズ7、セラ6……ニル5。ダントツ1位」

 おやおや?


「最強談議をするのであれば第3回大会を制し、新たに設けられた戦況コントロール部門で9大会中7度入賞している私抜きでできるはずないと思うが?」

「どいつもこいつも第5回でわっちが5人倒して優勝したことから目を逸らしておるようじゃの。パーフェクトまであと少し、1大会中の最多撃墜が最強の証じゃろ?」

「んー、今までの良いところかー、うーん、最新の第9回大会で優勝して、2位も4回取ってることかなあ」

 ……。


「ああん?」

「なんだと?」

「何です?」

「……何?」

「聞き捨てならんな」

「舐められとるようじゃの」

「食べちゃおっかなー、みーんな」

 ……。


「……なるほどね。逃げるんだー、みんな逃げるんだーっ。総員退避ーっ」


「カタストロフブラストーっ」

「ラグナロクイマージュっ」


 突如、竜因魔法を込められた砲撃と神威魔法を込められた斬撃が放たれた。


 7000体近いダンジョンモンスターを生成できるPが集約された、最強たる彼女達の力を侮るなかれ。各々が放った必殺技は文字通りに必殺であり、これまでいくつもの命を葬ってきた。

 ましてや今回はダンジョンの弱体化という仕様から解放される、反乱状態で放たれているのだ。


 その力はそう――、限りなく硬固である天空城をも破壊する。


「マイ城ーっ」

 2人の間で激突した砲撃と斬撃は、まるでお互いに一歩も譲らないという2人の意思が乗り移ったかのように、衝撃をほんの少しも後ろへ通さず、上へ下へ横へと拡散させた。


 その結果、玉座の間の壁も床もそして天井も、ガラガラと音をたてて崩壊、崩落。


「うわああああーっ」

 そしてそれはダンジョンマスターの死を意味する。幸い逃走し距離をとったことで床の崩落には巻き込まれなかったものの、天井の崩落からは逃れられなかった。


 落ちてきたやつだから1個でも当たると死んじゃうよ。頑張れダンジョンマスター、見切るんだっ。

 今こそ進化の時っ。あ、無理無理、これ無理です。


「バニッシュフード」

 しかし再び放たれる必殺技によって、その瓦礫は消え去った。

 必ず殺す技に命を救われるとは、世の中分からないこともあるものだ。


「た、助かった、ありがとう、ニ――って他の部分もめっちゃ食われてるやんけーっ」

 だが俺が生き延びた代わりに死んでしまった者が1城。


 最早廃墟となってしまった我が居城。

 上を見上げたら屋根なんぞどこにもなく、赤く光るダンジョンコアがただただ浮いている。


「みなさーん、反乱中にあれに当たったら死にますからねー。みんなは大丈夫だけど俺が死にますからねーっ」


 7人の戦いはもう止まらない。もう止められない。


「はっ、そうだ、他のみんなは、みんな大丈夫かーっ」


「さあ、始まりました第10回ダンジョン最強決定戦、司会はわたくしチヒロでお送り致します。解説は」

「わたくしツバキが承りました。よろしくお願いします」


 ……。

 ……。

 ……?


「ああ、次からこれに参加だなんて……。優勝しちゃったらなんて言われるんだろう、鬱に、鬱になっちゃうーっ」

「わたくしの絶対防御の力、見せてやりますわっ。でもまずは応援です、行けーそこですオルテ姉さーん、今ですわーっ」


「目指すは優勝、頑張ろうねみんな」

「ミー姉もライバルだからな。あ、姉さんも」

「乱戦上等。けど素のまま戦ったんじゃまず勝てねえからなあ」

「だったら、協力プレイしちゃう?」

「ふむ。5人がかりなら、確かに行けるかもしれんな」


「やめてー来ないでー」

「来ないで下さいっ」

「やめなさいってばーっ」

「あ、このお茶美味しい」

「大福持ってきたぞー」

「サンキューなー。落ち着くわぁ」

「お酒……今度から気をつけよう」

「ぐぅぐぅ」

「今のどうやったんですかねー、どうやったんですかーっ」

「これが終わったらもう1回宴会するだろうから準備しないと」

「ユキ先輩、いえ師匠ー、ファイトですっ。そして訓練を楽にーっ」

「殴ってー踏んでー、えっへっへっへーっ」


「おおっと現在ダンジョンコア周辺で激闘が繰り広げられています。逃げ場のないほどキキョウさんの魔法弾が周囲を埋め尽くします」

「ダンジョンコア周辺で逃げ場のない攻撃はやめてくれーっ」


「それに対抗するようにオルテさんの矢が数千に分裂、相殺し合います」

「対抗しないでくれー。死ぬのはダンジョンコアだけよー」


「見事な応酬です。この局面はどう見ますかツバキ」

「2人共素晴らしい技術でした。しかしお互いにだけ集中しているとさらに高高度から――、来ましたね、マキナさんの全てを破壊する一撃が」

「マキナァアアアアーっ」


 ああ、今日も今日とて明日が見えない。

お読み頂きありがとうございます。


第4章もこれにて完結致しました。

ダンジョンが大きくなり、登場人物が増えただけのこの章ですが、なぜだかとても長くなってしまいました。どうにも短くまとめるのが苦手です。


今後とも1話1話が長く中々話が進まないと思います、それでもよろしければお付き合い下さい。

ありがとうございました。

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